13話・WE LATER
―――side空志
「・・・・・・マジで?」
「おっしゃぁぁぁぁああああああ!!!」
「いぇ~い!」
ボクは雄たけびを上げてリカとハイタッチする。
周りの生徒も最初、何が起きたのか理解できてないけど徐々に理解し始めたようだ。
急に競技場にいる全員が歓声を上げる。
そして、競技場に二つのクラスが光と共に転移された。
転移してきたDのみんなはいまだに歓声をあげ、逆に敗れたSは茫然自失。
でも、それはすぐに破られた。
「こんなの卑怯だ!!」
その言葉に競技場がしんと静まり返る。
みんなの注意がその声を発した生徒、Sの生徒に向く。
「向こうはS相当の実力、いや、それを遥かに上回る三谷がいたんだぞ!?どうせ向こうは三谷が何か特別な訓練かなんかしてDの戦闘能力の底上げしたに違いねぇ!!」
その言葉にそういえばそうかもとか周りがざわめき始める。
ある程度予想はしてたけど・・・。
「・・・シバく」
「いやいやいや!?ダメ!絶対!!全力で!!」
ボクはキレたリカを必死に押しとどめる。
だが、競技場のほうでも一触即発の空気になっていた。
「負け惜しみ!?自分たちが負けたからって言いがかりをつけないで!!それに三谷君はわたし達の魔法の実験台にはなってくれたけどそれ以上のことはしてない!!」
「だが、それを誰が証明できる!?」
「そ、それは・・・」
「なんだかんだでお前等は三谷がいないと何にもできないんだろ!?それに最後のほうで魔法陣の魔法が使われたらしいな!?」
「・・・あぁ。俺がした。アレは俺の家で使う設置型の魔法陣。主にエモノを捕獲するときに使う罠系の魔法を改変して作った」
「ハッ!んなもん、正直に三谷に教えてもらったって言えよ!!」
「違う!」
「・・・レクト!人形を!!」
「いやいやいや!?みんな落ち着いて~!」
やばい・・・ホントに殺気立ってる。
先生たちは急いで事態の収拾に取り掛かろうとする。
「いい加減にしろ!!」
そんなときだった。
意外な人物によってその場は静まり返って、みんなの動作が止まった。
「だ、いひょう?」
Sの代表、ジグ・フロルドだった。
ボロボロの体を上半身を起こして周りの人間を一喝していた。
「・・・風葉・シルファリオン、だったか?」
「あぁ。そうだ」
二人は毅然と互いを見る。
「俺達の完敗だ」
「な!?代表!!こいつらは!!」
「こいつらはできること全てをやった。俺達はこいつらを舐めすぎて負けた。それだけだ」
「・・・だが、ひょっとすると、そっちが言うように俺達はソラに特別な訓練を受けてたかもしれないぞ?あいつは確かに詠唱がカスだがふざけすぎた魔法を使う」
そういうとジグはボクのほうを向く。
「だが、アレは紛れも無くお前の魔法だろ?」
「・・・いや、アレは俺達の魔法だ」
「そうだったな・・・俺も少しばかり魔力が高いだけで調子に乗ってたようだ。ロイさんのように・・・」
「はっはっは。耳が痛い・・・」
ボクは本当のことだと思ったから何もフォローしない。
実際そうだしね!!
「散々貶してすまなかった。この通りだ」
そういうと頭を下げるジグ。
Dのみんなはその光景に目を見開いて驚いてる。
いや、ここにいる全員が驚いてる。
「で、でも・・・!」
「ハァ・・・いい加減に気づいたらどうだ?アレは三谷が放った魔法じゃない。俺達はDの魔法でやられたんだ」
「ッ・・・!」
「だが、俺達がルールが細かく決められていないことを理由にいろいろな手を考えたのも事実だぞ?」
「そんなものは些事だ。確かに数人特殊な武器を使っていたが、ただそれだけだ。武器ごときで勝敗は決まらない。コレは俺達の慢心、そして、お前達、全員の力がぶつかった結果だ・・・・・・だが」
そういうとジグは体を起こしてボロボロの体でカザハの前に行く。
そして、歯をむき出しにして獰猛な笑みを浮かべる。
「俺は・・・いや、俺達は負けず嫌いでな・・・今度はこっちから戦争を申し込みに行くかも知れん」
「死刑宣告!?絶対に勝てねぇよ!?」
Dはある意味宣戦布告とも取れるジグの言葉にムリだ!!死ぬ!!とか悲鳴を上げ、逆にSはそうだ!!今度こそ!!みたいなコトを言ってる。
「おい、また戦争しそうだぞ?」
「いや、コレは違うでしょ」
ボクは目の前で繰り広げられる舌戦、というかただのケンカの売り合いを見て言う。
「雨降って地、固まる?」
「まぁ、そんなトコだろうね」
ボクはどこか楽しそうに言い合う二つのクラスを微笑を浮かべながら見ていた。
―――side風葉
~数日後~
「・・・お前、バカだな」
「・・・何かごめんなさい」
「な~な~、俺さ~これ作ってみたいんだけどここんとこの機構がわかんないんだよな」
「ん?オレッチに見せてみ・・・あぁ・・・コレはこうすんだ~」
「いや、そこはこうしたほうがいいと思う少なくともログさんはこうしてた」
「ソラ、お腹すいた」
「・・・やりますね」
「・・・そっちこそ・・・王手だぜぃ?」
「お菓子焼いたよ~」
「クッキーですの?」
「どうしたらこんなに速く作れるの?」
「う~ん・・・気合?」
「クマ五郎、ジョン、タマ、ぽち!・・・コレ上げる」
「・・・鳥にその名前は無いと思う」
「って、何でここにSの連中がいる!?」
「「「自習中だから?」」」
いや、待て、いろいろとおかしすぎる。
今日は週があけての初日。つまりは月曜。金曜の戦争から三日経った。
ここで確認しよう。俺達は先週まで関わることが無いもの同士だったはずだ。
それが何で俺達に魔法を教えてくれたり逆に魔法工学聞きに来たり、将棋さしたり、坂崎のクッキー食いに来てんだ?
「いや、Dもなかなかにやると思ってな。・・・そこはこうしたほうが無駄が無い。発動時間も少なくなる」
「お~なるほど。」
「何で詠唱の魔法構成を教えながら答えてんだよ!?つか、ソラ!!お前は教えてもらうか魔導工学教えるかどっちかにしろ!!」
「まぁまぁ。そんなに怒りなさんな」
「・・・王手です」
「おい!?忍とランドは何で将棋してる!?」
「・・・ランド殿と私は戦闘スタイルが似ている」
「そうそう。んで、まぁ、拳で語り合う関係ぃ?」
「・・・好敵手です」
「まぁ、そんなにツンケンしなくていいじゃん。お、コレうま!?」
「・・・アスカ、お前はマッタリしすぎだろ?」
何故かものすごく仲良くなってしまった。
いや、別に悪いことじゃない。むしろかなりいいだろう。
それに、俺達はSに勝ったことで一目置かれるようになった。更には俺達に触発されて下位ランクのクラスが下克上したりしようという空気が地味に広まりつつある。
俺達は初めてにもかかわらずSを倒したってコトで先輩たちからいろいろとアドバイスをお願いされたりと時の人になりつつある。
「まぁ、ここも中々に面白いことをしてるな。俺達はひたすら魔法の練習だがお前たちはそれ以外のことにも力を注いでるんだな」
そう言いつつレクトがなんかの設計図を描いてるところを見たり、リオネが暇をもてあましたのか筆記用具で簡易的な人形を作って操ったり、変な名前を付けられた動物達と戯れる杏奈を見て言う。
だが、こいつらは別に勉教熱心だからやってるわけじゃない。
むしろ勉強がイヤだから自分の趣味に走りまくってるだけだ。わき目もふらず・・・。
「それは買いかぶりだ」
「そうか?だが、俺はこの空気が結構好きだぞ?」
周りを見ると、そこにはぐーたらなDの生徒共。
・・・・・・コレのどこがいい?
「Sは結構ピリピリしてるからな。こう、のんびりした空気で、だが、やるときにはやる。そんなのがいいんだろうな」
「なるほど。・・・そして、お前はどこから沸いてきた?」
俺は突然出現したロイにそういう。
「別にいいじゃねぇか」
「あ、ロイ君だ~。クッキー食べる?」
「イタダキマス!!」
ロイは坂崎のクッキーに突撃していった。
・・・ホントに何しに来た?
「・・・つか、ホントにこんなところにいて得られるものがあるのか?」
「あるぞ」
即答かよ。
だが、何がある?
「・・・わからん。ヘイ!そこの女子!!ボクにここの詠唱を教えて!!」
「はい?いいですけど・・・?」
「ソラが浮気したぁぁぁぁああああああ!!」
「突然何!?キレる十代!?ちょぉぉぉぉおおおおおお!?≪月守≫!!」
「やはり紅茶はダージリンに「リオちゃ~ん、オレッチ暇~」・・・いい加減にそう呼ばないで下さる!?」
「おぉ~今日も夫婦漫才絶好調だね~」
「プリンも作ったよ~」
絶対無い。
ありえない。
「目を覚ませ。ここはアホの集まりだ」
「バカザハも含めて」
「黙れ!!」
俺は杏奈に魔法を放つ。
だが、向こうも避ける。
「わたしに魔法を当てようなんて10分早い!!」
「短っ!?もはや差がねねぇよ!?」
「どっちが勝つと思う?」
「「「副代表の杏奈」」」
「この野郎・・・お前等もやる!!」
「さて、始まりましたクラスVSカザハのデスマッチ。解説はボク、三谷空志と・・・」
「ソラの未来のお嫁さんのアンジェリカ・シェルスと・・・」
「料理長の坂崎鈴音でやるよ~」
「では、わたくしは代表のほうに入りますわ!!レクト!!」
「え~オレッチも~?」
「おおっと!?ここでいきなりリオネ&レクトの夫婦が乱入だ!!」
「夫婦ではありませんわ!?」
「・・・じゃ、夫婦で」
「根本的なところを変えてくださる!?」
「わたしの後ろに立つな!!」
「アスカちゃんの後ろには誰もいないよ~?」
「ううん。一度でいいから言ってみたかっただけ」
既にこのDの教室は混沌と化していた。
何故か俺と杏奈の戦いがクラスで勃発。
Sの生徒は珍しそうにこのアホな光景を見ている。
ま、実際アホだしな。
「お前のようにクラスのヤツ全員から慕われるように俺はなりたいな・・・」
俺の耳にそんな声が聞こえた気がした。
「バカザハ!!下克上というものを教えてあげる!!」
「いい加減に俺をバカバカ言うのはやめろ!!」
いつもと変わらないDの教室。
ただ、そこにSの生徒がいるだけ。
俺達はただ、やればできるってことを証明したかっただけだ。
「よし。俺も参戦する!!」
「おお!?ここでジグ選手が乱入!!杏奈チームに入ったぞ!?」
「敵かよ!?」
「≪重≫!!」
「勝てるわけがねぇ!?」
「ぎゃぁぁぁぁああああああ!!??」
「ここでカザハチームが大打撃だ!!!」
ソラがいなけりゃ俺達はこんな風にふざけていなかっただろう。
まぁ、あいつなら別にそんなことは無いとか言いそうだけどな。
だが、あいつのおかげでいろいろなことが変わった。
「なら、こっちは最終兵器を投入する!!ソラ!!」
「・・・え?ボク?」
「昨日、またシェルスが首筋にキ「サー・イエッサー!!」よし」
「おい!?卑怯だぞ!?」
「ボクは命が惜しい!!≪焔鳥≫!!≪雷燕≫!!」
「負けるか!!≪重圧≫!!」
「その魔法を叩ッ斬る!!≪月夜≫!!」
「「「それは卑怯すぎる!?」」」
だが、別にSをやったからそこらへんを威張り腐って歩いてない。
すげぇことができるからって周りをバカにしていない。
「形勢逆転だな!!ふははははははははははは!!!!!」
「ッチ!・・・≪黒の衝撃≫!!」
「ソラ!!もう一度だ!!」
「あ、スットク切れた。ゴメン!!」
「え?な!?ぎゃぁぁぁぁああああああ!!??」
俺達は結局は毎日バカして過ごしてる。
だが、それにお堅いと思っていた上のランクのやつ等が混じり始めた。
他のところもこんなだったらいいと俺は思う。
だって、こんなにも楽しいんだ・・・。
「カザハを討ち取ったぞ!!」
「「「おぉぉおおおおおお!!!」」」
「っく・・・俺の負けだ・・・ガク」
「・・・おい。お前等何してる?」
「「「デスマッチ」」」
「・・・まぁいい。授業だ。さっさと戻れ」
俺達は机を元に戻すと席につく。
そして、いつものような授業を受ける。
だが、前みたいにどこか投げやりに授業を受けてる感じはない。
むしろ、積極的にやっている。
先生は少し驚いた表情をするがそのまま進めていく。
「今日もいい日だな」
変わらない・・・だが、ほんの少しだけ変わったこの日々がこれから始まって、俺達にいろいろなものを与えてくれる予感がした。