12話・OUR EVERY EFFORT DUNCE
―――side空志
ついにDとSが交戦した。
リオネは何故か哄笑をあげながらレクトと一緒に屍を築いてる。
魔力の感じから死んではいない・・・はず。
「てか、人形って人型以外にもあるんだね。」
「いや、普通の人間には使えないからな。」
「え?そうなの?」
「あぁ。人形の操作は簡単に言うと意識することで動く。たとえば、俺達は右手を上げようと思えばこうする。」
そういうと右手をロイは上げる。
まあ、要するに中学校の理科だね。脳がどうたらこうたら言うヤツ。
「だが、人形遣いはその過程を自分じゃなく、別の媒介、つまりは人形で行う。」
「・・・要するに、ボクが今、考えたこと、したい動作を自分の代わりに人形にさせるんだね?」
「そういうことだ。だから、かなり特殊な訓練をつむ必要がある。」
「でも、人型以外はムリって意味がよくわからない。」
ボクは疑問をロイに聞くけどリカが先に気づいた。
「・・・あ、自分がしたい動きを人形にさせる。つまり、人の形をして方が動かしやすい。それで、どんなにスゴイ人形遣いでも2、3体しか動かせないのは自分は一人しかいないから?」
「・・・まぁ、そういうことだろうな。」
要するにこうかな?
まず、人形遣いは、自分がしたい動作を別の人形にさせる魔法。
それなら、自分は人間なんだから、人間の形をしていたほうがいいのは道理。てか、ボクは鳥になったことが無いから今から鳥のような体になっても急にはできない。たぶん、そういうことだろう。
そして、人形が数体しか使役できないのは同じ理由。
ボクは三人も四人もいるわけじゃない。それに、自分がやりたい動きは基本的に一つだけだからそんなに動かせない。
まぁ、よくわかんないけどわかったことが一つだけある。
「リオネはチートだったんだね。」
「だからお前が言うな・・・と、言いたいが・・・・・・。」
ボクとロイは画面を見る。
そこには、大暴れしてるドラゴンのような人形が写っていた。
「・・・あれって人形の一族なら全員できるの?」
「・・・さぁ?」
―――sideリオネ
「はははははははははははははは!!まるで人がゴミのようですわ!!」
「お~い。そろそろ戻ってきてくれるとうれしいな~。」
横からヘタレな声が聞こえる気がしますが無視ですわ!!
わたくしはレクトの作成した全長5メートルはある四足歩行型のドラゴンの人形を操っていますわ。
丸太のような腕を振って敵を殴り、後ろから攻めてこようとする人間は尻尾で凪ぐ。
魔法が放たれてもこちらの龍で口から魔力砲弾を撃つ。
コレがわたくしの切り札!!
普通、人形師は人型の人形しか操れません。大きさも自分とほぼ同等。それが基本。
ですが、わたくし達の家は人形師の家系。どんな人形でも操れる。それがマーティスの強み!!
早い段階でレクトと言う最高の機術士に出会ってわたくしにあった人形を作ってくれる。と、言うものもありますが。
ですから、わたくしはまだまだ若輩の身でありながらそれなりの人形を操れます。
そして、わたくしが龍の人形、『レローネ』で敵を蹂躙してるときにレクトは話しかけてきました。
「・・・リオちゃ~ん。前に行き過ぎってアスカさんから来たよ~。」
「むぅ・・・そうですの?」
こんな風に全力で人形を振るえる機会はそうそうないですわ。
ですが、しょうがないですわ。
わたくし達に与えられた内容は敵の霍乱。
特に、両代表を切り離してからはそちらに近づけないようにとのコト。
「まぁまぁ。・・・どうせなら他のもいっとく?」
そういうとレクトはいつも腰に下げているポーチのようなカバンからいくつかの人形を取り出します。
コレがわたくし達の使う人形。普段はこのようにフィギアのような形ですが、わたくしが魔力を流して使用するときに大きくなります。
「整備は完了してますの?」
「もちろん。じゃ、『レローネ』戻す?」
まぁ、この際ですし。
「頼みますわ。では・・・コレにしますわ。」
わたくしはオオカミの人形を五つほど取り出します。
そして、それを地面に置くと使用するために魔力を流します。
すると、オオカミの人形は3メートルほどの大きさまでになります。
「では、お行きなさい!!」
そういうと狼達は音も無く森の中を駆け抜けていきました。
「珍しいね。リオちゃんが『フェーン』を選ぶとか。いつもは『派手に行きますわ!!』とか言って『レローネ』とか『リザット』選ぶのに。」
「いえ。最近、人形の数をそれほど動かしてなかったので。」
要するにサボタージュですわ。
「・・・集団戦法もがんばろうよ。」
「『フェーン』は結構、操作が大変のですわっ・・・ぶつかりそうでしたわ。」
狼型人形『フェーン』は高い機動力、そして連携攻撃を重視したタイプの人形。
そのため、コントロールが地味に難しい。
高速で動く人形を何体も動かさなくてはなりませんからね。
ですが、この疾走感もいいとこの頃思いましたわ。
そのうち盗んだ盤で走り出したくなりそうな気がしますわ。
「普通に犯罪だから。それに盤じゃなくてバイクだし。」
「レクトはいつからわたくしに口答えができるようになったのかしら?」
「・・・すみません。だから『フェーン』をこっちに寄こさないで!!」
「謝って済むのなら警さ・・・あ。」
・・・やってしまいましたわ。
「・・・リオちゃん?どうしたの?」
「・・・・・・数人が『フェーン』と自動制御中の人形達の包囲網を潜り抜けましたわ。」
―――sideアスカ
「あ~・・・敵数人がこっちに接近。やっぱ二人で前線維持はムリでショ~。」
「まぁ、バカザハの考えだしね。」
なら、しょうがない。
まぁ、そのために撃ち漏らしをこっちで適当にさばいとくんだけどね~。
「でも、地味に数が多い。たぶん・・・4、5人。しかも全員こっちに。」
「・・・こっちは?」
わたしは黙って自分をさしてから杏奈をさす。
そう、ここには残念なことに二人しかいない。
理由としては撃ち漏らしなんてあの二人なら一人二人だろうし、それにここは一番どうでもいい場所。代表達からはかなり離れたところにあるから誰も狙わないだろうと思って少なくしたんだけど・・・。
「裏目に出たわけだ」
「ドンマイ」
わたしは杏奈の肩をバシバシ叩く。
「いやいやいや!?アンタの立案だよね!?」
「・・・そんな過去のことは忘れた」
「ニヒルに言っても誤魔化されないよ!?」
「まぁ、そんなわけで敵は後、数分でここに到達」
「ちょっと!?」
杏奈が慌てる。
でも、慌てない慌てない。
わたしは背負っていたギターのケースのような袋から銃身の長い魔法の銃、所詮は魔法式の狙撃銃を取り出して構える。
この銃にには遠くの敵を狙うためのスコープがついていない。
理由は簡単。
「―――我、全てを射抜く目を持って汝を倒す。
≪鷹の目の照準≫」
わたしの目が遠くを見つめる。
そこには人形の目を掻い潜ってきたSの生徒が数人。わたしはその一人に狙いをつける。
今のわたしには相手との距離、銃の向ける方向がわかる。
そして、引き金を引く。
魔法弾の特徴は発射音が出にくいこと。
その変わり、魔力を弾丸にするため一日に撃てる数が少なく、狙撃銃は弾丸が安定しないと途中で霧散してしまうとメリットの割りにデメリットが結構ある。
でも、そんなものはわたしにとっては些細なもの。
そして、敵一人の後頭部に魔力の弾丸が当たって気絶させる。
何が起きたのかわかってないところにもう一発。
いつの間にかパニックに陥っている敵に容赦なく弾丸を撃ち込む。
でも、さすがに三回目は当たらなかった。
敵は落ち着いたのか今度はジグザグに動いてこっちに向かってきた。
「あちゃ~。もうムリ。五人中二人はやっつけたよ」
「へ~さすが」
感心した顔で杏奈が言う。
でも、後、三人もいるんですケド?
「ん~・・・こりゃ、わたしもガチでやらないとね」
そういうと杏奈は一振りのナイフを取り出す。
柄尻に鈴が付いてるヤツ。
そして、それを振る。
シャン・・・シャン・・・シャン・・・。
心地よい涼しげな音が響く。
すると、変化が起きた。
「・・・ありがとう。じゃ、行って!!」
―――side空志
「おい!?あれは!?」
「おぉ~。これは面白い。『友好』、ね」
ボクは目の前の光景に結構驚いている。
スクリーンには杏奈さんの近くをいろいろな動物が走り歩いてる。リスに鳥に猫、狼、イタチ、狐。
そして、杏奈さんが二言三言言葉を交わすと動物たちは蜘蛛の子を散らすように散っていった。
ここに来てからいろいろと知ったことがあるけど・・・。
「まさかの人間以外の動物と心を通わせる属性だね」
「・・・でも、動物がみんな言うことを聞くの?」
「違うよ。アレはどっちかって言うと相手の言うことを理解する魔法だね。逆にこっちのことも理解させることができる。さすがはフレンドリーな副代表を目指してるだけはある」
そして、動物たちは敵のところに行くといろいろと妨害を始めた。
木の実を落とすとか噛み付くとか・・・狼とか狐は怖い。
またまたSの方々はパニック。
そして、そこを狙ってアスカがまた狙撃。
戦闘はすぐに終了し、動物たちは杏奈さんとアスカのところに戻っていった。
「この組み合わせは凶悪だね」
「・・・かなりワンサイドゲームだったぞ?」
―――sideアスカ
「杏奈すごい!こんなことができたんだ!?」
わたしは近くに寄ってきたリスの頭をなでつつそういう。
「うん。全員、わたしのトモダチ。さっき適当に歩き回って協力してくれるって子を探してたの」
そう言いつつ杏奈はポケットから動物用の餌を取り出しては周りの動物たちに配っている。
何だか絵になるね~。
「でも、何でこんなにスゴイ特技を持ってるのにDなの?」
コレは普通にBぐらいは確実だ。
ましてやこんなに動物を使役するのとかすごすぎる。
「ん~・・・わたしはランクに興味ないし。まぁ、ここに入ったのは競争率高いところなら何かすっごい魔法の文献とかあるかな~って思っただけだから」
・・・なんかカッコイイ!?
「姐御と呼ばせてください!!」
「・・・取り合えず普通にトモダチで」
まぁ、ボケはここまでにして。
わたしはこのことをクラスの全員に伝えて、引き続き警戒するように指示を出しておいた。
―――sideジグ
「ランド!!今だ!!」
完璧な不意打ち。
Dの代表はまったく気づいてない。
だが、意外な人物がここで声を上げた。
「カザハ君!!後ろ!!」
「え?おう?」
そして、ヤツは坂崎に言われたとおりに後ろにナイフを切りつける。
そして、そこには影から急に飛び出てきたランドがモロにナイフの一撃を腹にくらった。
「がっ!?」
腹を押さえてうずくまるランド。
だが、何故坂崎は気づいた?
「風葉殿!?大丈夫か!?」
姿は見えないが声が聞こえる。
・・・まだ護衛のやつがいたのか・・・・・・。
「・・・何故、気づいた?」
そういうと坂崎は近くの木陰から出てきた。
「え?だって、この子、リュウ君と同じ『闇』の属性でしょ?リュウ君がよく影から影を移動して後ろから攻撃するときにね、びみょ~に影が・・・こう・・・ぐにゅってなるの。」
坂崎はワケのわからんジェスチャーを交えながら説明する。
「でも、リュウ君よりわかりやすかったよ~。」
「な、ぜだ?俺は『影』の属性だ。俺はこれでも学年一の影の魔法使いだぞ!?」
そう。俺もこいつが奇襲をかけて失敗したところを見たことが無い。
だが、坂崎は些細な変化を察知してそれを伝えた。
・・・・・・こいつはただのアホの天然だと思っていたが・・・相当に危険なヤツだ。少なくともかなり戦闘慣れしてる。
こいつから潰すべきか?
いや、代表を狙って一気にかたをつけるか?
俺が一瞬の迷いを見せたそのとき、Dの代表が動いた。
だが、それはそれのほうじゃなく、ランドのほうだった。
ランドはさっきのダメージから立ち直っていないのかそこから動かない。
「チッ!
―――その力もって重圧の盾となれ!
≪重力の障壁≫!!」
ランドの周りを細い線が円を描くようにボコッとへこむ。
異変を察知したDの代表は無理矢理にバックステップを踏んで思い切り後ろに跳ぶ。
「・・・コレって触れたらヤバイ系か?」
「あぁ。当たった瞬間にその部分が地面に叩きつけられるようにして落ちる。・・・たまにコレにモロに突っ込んで腕の骨を折ったやつもいる」
「死ぬ!?この防御魔法、エグ過ぎだろ!?むしろ攻撃魔法!!」
「まぁな。そして、お前等は俺を倒さない限りこの壁を破壊することはできない!!」
そういうと俺は再び剣を敵に叩きつける。
重力の魔力が掛かった剣は-ヤツに避けられて地面をえぐるだけに終わる。
「何だよ、そのふざけた威力は!?」
ヤツは両手に持ったナイフを俺に投げつけると更に懐から一本のナイフを全て微妙に異なるタイミングで投擲。
「それは、魔法の前では何の意味もない!!」
剣に掛かっている魔力を発散させ、一時的に俺の周囲を重力で重くする。
すると、ナイフは地面にぼとぼとと落ちていく。
「―――風よ!!集いて彼の者にその力を見せ付けろ!!
≪渦巻く風≫!!」
風が渦を巻きながら一本の槍のように俺に迫ってくる。
俺はその魔法を避け、剣で攻撃する。
ヤツは避け、魔法を放つ。
そんな単調な動き、だが、気を抜けば一撃でやられてしまう。
決戦はまだまだ始まったばかりだ。
―――side空志
「・・・地味。つまんない」
「いや、そんなストレートに言っちゃダメでしょ」
「・・・お前もそう思ってるんだな?」
ロイがボクに白し視線を投げてくるけどボクは全力でスルー。
まぁ、リカが言うとおり目の前のスクリーンに映し出されてる代表VS代表の頂上決戦はものすごく地味だ。カザハはナイフを投げて、あるいは魔法で攻撃。ジグは適当に叩き落す。そして、魔法。カザハも魔法orナイフ・・・って感じで見飽きてきた。
「まぁ、そういう余裕が向こうにはないんだけどね。」
「どういうことだ?」
「うん。まず、S代表のジグはかなり消耗してる。」
「は?どこかだよ?」
目の前ではごく普通に戦ってる二人の姿。
「あの、防御魔法は、常に魔力の供給をしなきゃいけない型。つまり、少しづつだけど確実に消耗してるよ。たぶん、他にもあったんだろうけどカザハの急な動きに展開が速いほうを選んだんだろうね。」
ボクは≪月詠≫の解析結果をそのまま言う。
そして、今の状況はカザハは特に何の制約もない。あるとすれば負ければその瞬間にDの負けが確定する。
でも、それは向こうも同じ。ジグがやられればランドは怪我をしていて武器がダメ。魔法なら何とかなるかもしれないけど彼の周囲にはDの生徒が何人かいる。
いつの間にかみんなはカザハとジグだけを戦線から離して暴れさせていたらしい。
「でも、普通に考えてこんな持久戦でもカザハが不利だ・・・みんなは何を考えてるんだ?」
ボクは目の前での戦いを見ながら言う。
リカとロイもただ、首を傾げるだけだった。
―――side風葉
「はっ!」
「うぉぉおおおお!!!」
二つの声が響き、そのたびに周りで木や地面からすさまじい轟音を響かせる。
「≪吹き抜ける風≫!!」
「≪重圧の弾丸≫!!」
二つの魔法が激突。一瞬だけ拮抗したかと思うと空間を歪ませる重力の弾丸が風を貫いて俺に迫ってくる。
俺はずっと発動させたままの≪風の舞≫で高速移動して避ける。
この魔法は完全に避けないとかすっただけで体勢を著しく崩される。
その隙に魔法が付与されたあの大剣で叩き斬られたらそれだけで俺達の敗北が決まる。
向こうはどうも重力操作系の属性だが、射出系統の魔法しかできないらしい。いや、空間系の魔法を放つ暇が無いんだろう。
もしもここで空間系の魔法で術者以外の重力を増加なんてされたら俺は確実に負ける。
だから、俺はそんな暇を与えない。
こっちは向こうが対処できないような攻撃をやり続ければいい。
俺はナイフを何本も投擲する。
だが、それは簡単に避けられる。
「そんな攻撃が当たるか!!」
だろうな!!
「≪風による斬撃≫!!」
ジグの周囲の風が吹き荒れる。
その風は小さな竜巻のようになり、空を切るだけのはずのナイフは軌道を変更してジグに再び襲い掛かる。
全方位のナイフ+魔法の攻撃なら何とかできるはず!!
「!?・・・はっ!!」
一瞬だけ驚いた表情をするとヤツは剣に纏わせた魔力を周囲に広げ、ナイフを地面に叩きつけた。
風のほうもやんでしまった。
だが、ジグのほうも何かに耐えるように歯を食いしばっている。
「・・・ぐっ・・・重い・・・」
「・・・何つーヤツだ」
こいつは自分に重力が掛かるにもかかわらず剣に込めた重力の魔法を自分の周囲に展開して俺の魔法を回避しやがった!!
「・・・は!・・・お前の魔法は俺には効かない」
「・・・かもしれねぇ。」
それはそうだ。
俺は自然元素操作系の魔法使い。
ジグは空間操作系の魔法使い。
どっちが強い魔法使いなんかなんて比べるまでもない。
『風』の属性は『火』『水』『土』の中でも地味に強い。
簡単に言うと攻撃が見えないからだ。
不可視の攻撃は強いに決まってる。
だが、空間はそれを遥かに超えている。
見えない上にこの世界の法則に近いものを操っている。
こっちはただの自然現象を操る程度。
法則なんかに勝てるわけが無い。
「でもな・・・俺は負けたくないんだよ。ここで負けたらあいつを殴れない。それに・・・」
『ランクが低いからSに何かされても文句を言えない。やられても勝てない。そう思ってたんですけど・・・』
『ん~・・・アレ?なんかボクみたいな詠唱の知識がカスでも別のことに秀でている。それを伸ばせばSにも勝てる?』
『いや、そこまでは言いませんけど・・・』
「・・・『勝てるよ』あいつはそう言ってくれた」
だから、俺達はそれに応えなきゃいけない。
いや、応えたい!
「だから、それを現実にする!!」
「・・・なら、俺の全力でお前を潰す!!俺の前にひれ伏させてやる!!
―――それは絶対の力を操る術!!」
向こうは突然攻撃をやめて詠唱を始めた。
おそらく、本当に上級の魔法で俺達をボコボコにする気なんだろう。
「その勝負に乗ってやる!!
―――風よ吹け!」
あいつは俺に始めてあったときにこうも言ってくれた。
『風にもいろんな種類があるよね。吹き抜ける風とか渦巻く風、鋭い風、ボクがぱっと思い浮かぶのはコレだけどさ、他にもあるよね?』
『ここからは受け売りになるんだけどさ。負ける風を吹かせるより、勝てる風を巻き起こせばいいって』
『勝てる、風?』
『うん。ボクもよくわかんないけどね。まぁ、『風の戦女神』の異名を持つ人に教えてもらったんだ』
『風の戦女神』。
風の魔法を使う最強の前衛系の魔法使い。
その手に持つ刀で無双の力を発揮する最強の剣士。
一人でどこぞの国を滅ぼしたとか魔物軍勢に相手に一人で立ち向かって無傷で帰ってくるとかさまざまな逸話を持つ。
そんな人と何故知り合いなのかは知らないがソラはその教えを俺に教えてくれた。
俺にもコレの意味はよくわからない。
でも、なんとなく何をすればいいのかはわかる気がする。
「―――それは何者にも犯すことのできぬ領域!!」
「―――それは吹き荒れる風・・・」
風にはいろいろある。
「―――優しい風、舞う風、轟く風、猛り狂う風・・・」
「―――汝、その力の前に立ちはだかるもの!!」
そして、俺が今必要な風は・・・。
「―――愚かなる者にその報いをうけさせたまえ!!」
「―――我、望む風は『絆の風』!!」
全員で勝つための嵐のような風!!
「≪重圧の鎌≫!!」
「≪貫き穿つ風≫!!」
魔法が同時に放たれる。
向こうは重力という不可視の大鎌で切り裂こうとし、こっちは相手の魔法を貫こうと風の刃が周りをも抉りつつ突き進もうとする。
そして、拮抗。だが、次の瞬間には俺の魔法が押され始める。
「はっ!!俺の魔法に勝てるわけが無いだろう!!俺の属性は『加重』!!お前のような汎用魔法じゃなくて空間系の中でもかなりのレア属性だ!!坂崎は近くにいるのに何もしない。おそらくは魔力切れだろ!?」
「んなことわかってんだよ!俺のほうはごく普通の『風』だ!!俺は確かに弱い!!絶対に勝てないだろう!!・・・だがな・・・」
俺は更に手に持った最後のナイフに魔力を込めて地面に突き刺す。
「俺達ならどうだ!!??」
その言葉と同時に周りに散らばった俺のナイフが呼応するかのように光りだす。
そして、ナイフの柄から魔力の線が伸びて一つの魔法陣を作り出す。
「な!?いつの間に!?お前はナイフを適当に投げていただけのはずだ!!」
「・・・私を忘れてます」
「!?」
忍が俺の横から気配も無く突然現れる。
「俺は確かに適当にナイフを投げていただけだ。だが、それを忍に頼んでお前を囲むように、俺ん家でよく使う魔法陣を描くように配置してもらったんだよ!!」
「な!?だが、コレのひとつひとつにそれなりの魔力が必要なはずだ!!お前の魔法力でそんなことができるわけが無い!!」
そう、何かを媒介にして任意のタイミングで魔法陣を展開させるにはその媒介にそれなりの魔力がある。
俺がばら撒いたのはざっと見て百本近い数十のナイフ。
もちろん、俺がこのナイフ全てに魔力を込めてたら今の魔法を放つ分の魔力なんて無い。
「・・・・・・本来、魔法陣は数人で戦術系の魔法を放つものだ。ソラが使うのは確実に例外中の例外」
「何が言いたい!?」
「俺は、Dの全員に頼んで魔力を込めてもらったんだ。」
「!?」
「確かに一人ひとりなら消費が激しい。だが、全員で負担することによって極微量の魔力で込めた」
それなら全員に何の影響も無い。
「簡単に言うと、お前の負けだ!!・・・派生魔法起動!!」
俺は魔法陣を起動させる。
すると、魔法陣が輝きを強くする。
派生魔法。コレは俗にコンボの魔法とも言われる。
類似した魔法を詠唱の中にところどころ組み込んで時間差で多段攻撃を行う技術。ホントにスゴイヤツは最高で20ほど。
だが、俺たち学生ではそんなにできない。いいトコ5つほど。
そこで、俺達は二段階にとどめて今の上級下位魔法を一気に真言級の魔法にまで持ってくことにした。
「≪万の風の如く≫!!」
急に風の動きが変わる。
シャレにならない暴風が周りの木をなぎ倒しつつその猛威を発揮する。
「く・・・だが、大きくなろうとこっちが負けるわけが無い!!」
「・・・貴殿の魔法の制約は複数の物体に重力をかけられない、ですね?」
「!?」
「・・・私は貴殿のクラスに潜入してたんですよ?それを知らないとでも思ってたのですか?」
そう。コレが俺達の全力。
忍には本当に助かっている。こいつがいなきゃこっちはすぐに負けてた。
俺は更に魔力を込める。
「うぉぉぉぉおおおおおお!!!」
そして、周りの木が音を立てて地面から抜けて空を飛ぶ。近くの石や岩が宙を舞う。
俺はこの魔法の制御に死ぬほど膨大な魔力を使っている。
俺達をふっ飛ばさないように。そして、それをジグに向かって落下するようにする。
「な!?」
「いくつかならできるらしいがこんだけありゃムリだろ!!」
そして、地響き。
俺はついに魔力で維持することが難しくなってきたために魔法を解除する。
そこには倒木の山。
だが、死んではいないはずだ。
微かだが魔力を感じ取れる。
「っへ・・・俺の勝ちだ・・・」
「まだだぜぃ!」
急に後ろのほうから声が聞こえた。
そこには敵指揮官のランド・スリザンがいた。
だが、敵はまだダメージから回復してないのか足元がおぼつかない。
「ヒヒヒ・・・代表がやられたところで俺が倒されなきゃ、まだ、この戦いは続いてるんですぜ!!まぁ、今のアンタは魔力がほぼゼロどころか使いすぎで倒れる寸前。」
そういうと影がうごめきだす。
おそらく、魔法で逃げようとしてるんだろう。
「あぁ、よ~く知ってる。お前が逃げればそれで俺達のクラスが負ける。そんな状況でお前を逃がすとでも思ったのか?」
「≪相殺殻≫!!」
すると、ランドの周囲に六角形の盾が展開される。
「≪相殺結界≫!!」
そして、その盾を媒介に魔法を無効化する結界が張られる。
コレでランドは逃げれない。
「ふっふふ~。わたしも忘れてるよ~。」
「・・・そして王手詰みです」
いつの間にか結界の中にいた忍によってモロに首筋へ手刀が放たれる。
うっとうめいたかと思うと体が力なく地面に横たわる。
そして、入れ違いにブザーのような音が響く。
『戦闘終了!!各自武器を収め、戦闘を中止!!・・・ランド・スリザンが戦闘不能に陥ったため、この戦争はDの勝ちとする!!』
「「「・・・・・・・・・・っしゃぁぁぁぁああああああ!!!」」」
一瞬の沈黙、そして大きな歓声が聞こえる。
「・・・夢みたいだな」
「でも、コレはほんとだよ~」
「・・・代表、大丈夫ですか?」
「まぁ、な」
そして、ここにDの全員が集まってくる。
俺はもみくちゃにされながらも笑って、Dの全員とバカ騒ぎした。
『ま、そんなわけでこっちに戻すよ~』
そういうと俺達の周りが光り輝く。
俺達が次に見たのは歓声に包まれる競技場だった。