8話・UPSET
―――sideジグ
「オイ。来たか?」
「あぁ。」
その先には複数の人影がいた。先頭は・・・・・・坂崎だ。
「やはりな。裏をかいて俺達を動揺させたところをやるつもりだろうが知ってれば何の意味もない。」
俺はわざと数人に魔力を垂れ流しさせ、ここにいることを向こうに教えた。
いくらカスでもコレぐらいならわかるだろう。
そして、俺達はDの連中らしき魔力を感じ、進路に回った。
「でも、コレはルール違反じゃねぇのか?」
「バカか?コレは向こうがうっかり漏らしただけだ。」
別に俺達にはやましいところなんてない。
ただ、相手にツキがなかっただけだ。
「射程内に入った。」
「よし。チームAからCは詠唱しろ。俺の合図と同時にDは詠唱を済ませておくだけにしろ。」
そして、全員が詠唱をする。
Dの連中は安全の確認をしながらなのか慎重にこちらに向かってくる。
そして、全員の詠唱が終わる。
「撃て!!」
その言葉にさまざまな魔法が放たれる。
そして、Dの連中がいたところには土煙がもうもうと舞う。
手ごたえがあったのか多くのやつらが緊張を解く。
「・・・・・・ハッ!ちょろい、ちょろい。」
「あぁ、やっと茶番が終わったか。」
「はぁ、だから身の程を知れと。」
「お~コレはすごいね~。」
だが、俺達の余裕はその一言に潰された。
俺が驚いて振り返ると、そこには誰もいなかった。
いや、少しはなれたところに坂崎が誰かに担がれている。だが、それだけだ。坂崎とそいつ以外誰もいない。
「おい!?Dの連中がいないぞ!?」
「はぁ!?」
「ちょっと!?どういうこと!?」
「こういうことよ。」
俺はまた別のほうから聞こえた声に反応する。
だが、そこには誰もいない。
いや、Sの生徒しかいない。
「・・・気づかないの?」
その言葉でSの生徒の一人がぐにゃりと歪む。
そこには、黒の紋章を付けた生徒、つまりはDの生徒がいた。
そいつは中性的な顔をしていて、女子といわれれば女子。男子といわれれば男子というような容姿をした生徒だった。
「な!?」
「いつからいた!?」
「・・・ずいぶん余裕だね。」
そういうとそいつは手を振る。
すると、何人かの生徒が突然、うめき声を上げる。
「魔法か!?だが詠唱が・・・。」
「僕の役目はここまです。じゃ。」
そういうとヤツはいきなり消えた。
何だ!?三谷以外にも未知の魔法を使うヤツがいたのか!?
「人形よ!!踊れ!!」
今度は無数の人形が俺達の周りに現れた。
「何だよコレ!?」
「落ち着け!魔法を放て!!そして一旦撤退しろ!!」
そして、俺は指揮をしつつ魔法を放ち撤退という屈辱を味わった。
―――side空志
「お~やってるね~。」
ここは実況席。
ここの学生のみんなのためにボクは解説中。
いや、まだ始まったばかりだから特にないんだけどね。
「ね~ね~。ソラ~。あの人・・・忍だっけ?どんな魔法を使ったの?」
「いや、魔法は使ってない。」
「え?三谷君、それはどういうことだい?」
「まぁ、無知なレイ先生のために教えますけど・・・。」
「・・・。」
「フルネームは影崎忍。まぁ、あの子は言っちゃえば家系が暗殺者なんだ。」
「・・・何でこの学校にそんな子が?」
「いや、別にあの子自信が暗殺者なワケじゃない。ただ、その訓練の端をかじっただけって本人が言ってた。あ、ちなみに忍君は男子です。」
「じゃ、アレはその訓練の賜物?」
「うん。まぁ、あの変身は魔法を使ってるけど。でも、服の構造まで変えれる人はいないみたいだね。」
「・・・何でそんな子がDに?」
「いや、どうもボクみたいに詠唱が極端にダメ。魔法も暗殺系のものしかできないって偏りすぎててDに落とされたらしい。」
「「・・・。」」
まぁ、何気に不憫な子だね。
「まぁ、Dが次の作戦に移行しますよ~。」
―――sideジグ
「何故だ!?」
何故、こちらの作戦がばれた?
向こうはこちらのさらに裏をかいただと?
「・・・いや、まさか。」
先ほどの光景が頭によぎる。
変身の魔法。
それでSのクラスのヤツに扮し、俺に偽の情報を流した?
「バカな!?ありえない!!」
だが、それしか考えられない。
なら、俺達は既に敵の術中にはまっている。
「おい。どうする?」
いや、よく考えればやつらはそれほど強くない。
ただ、先ほどは急な事態に対応できなかっただけだ。
「チームAからDは別行動をとれ。そして、敵を見つけ次第攻撃だ。」
「で、でも、さっきので何人か倒れちゃったよ?」
「あれは偶然だ。だが、次にきても冷静に対処すれば勝てないわけが無い。」
そういうと周りのやつらが気を取り直したのかそうだなといいながらしきりにうなずいてる。
「・・・敵は急に来るものですよ。」
その言葉と同時に無数のマネキン人形のような物が周囲から現れる。
「!?さっきのか!!」
「ええ。貴方達がDのクラスの方々だと勘違いした私の僕です。」
声は聞こえる。
だが、姿が見えない。
そんなことを考えてると、人形が一斉に襲い掛かってきた。
「チッ!!人形師か!?」
「ご名答。」
人形師。コレは人形と呼ばれる魔道具を操作して敵に攻撃をする方法だ。
しかし、コレには繊細な魔力コントロールを必要とし、大人でも3、4体が限度だといわれている。
だが、目の前には何体もの人形。
規格外すぎる。
「私はリオネ・マーティス。以後、お見知りおきを。」
「な!?嘘だろ!?」
「どうした?どういうことだ?」
俺はヤツの名を聞いて驚いた生徒に聞いてみる。
「いや、マーティスは人形師の家系なんだ。それで、ヤツはマーティス家から来たお嬢様で周りから期待されていた。だが、魔力量がかなり低くてDに行った。それで俺等は所詮いいとこの家のヤツかと言ってたんだが・・・。」
「・・・こんな実力を隠していたと。」
「元々、我々の家系は魔力が先天的に少ないんです。代わりに自分の魔力の操作に優れていたため、祖先は人形を作り、それを私達は使っているだけです。」
・・・だが、いくらなんでもこんなに超級の魔法使いはもういないはず、だ。
俺はそう考えると近くにいたヤツに声をかける。
「おい。俺が上級の魔法を使う。俺を少しの間だけ守ってくれ。」
「わかった!」
そういうと俺の周りに何人かの生徒が壁になる。
「―――力よ・・・。」
―――side空志
「お?なんかジグっちが詠唱を始めたね。」
「・・・『っち』って・・・・・・。」
「まぁ、ちょうど通りかかったロイに彼の属性の説明を貰いましょう。」
「・・・おい。お前が解析するから問題ないとか聞いてたんだが?」
「いや、ボクはすでにわかってる。属性は重力系。でも、コレって空間系の魔法だよね?空間系の魔法のほうが君より強いように思えるのに何で次席だったのかなぁ~って思ったからさ。」
「いや、お前は『重力』と勘違いをしてる。アレは『加重』だ。」
え?そうなの?
でも、ボクの解析結果だともはやアレは重力だと思うんだけど?
「アレは相手、魔法、物体に重さをつける力だ。」
「・・・要するに、空間の重さじゃなくて、固体に重さを与える魔法?」
「あぁ。そういうことだ。お前の言う『重力』の下位属性でもあるがな。」
「へぇ~・・・。」
「でも、ロイと・・・あの人と比べたらあの人の属性のほうが強そうだよ?」
「ジグね。でも、ボクもそう思うよ。」
「まぁ、普通、魔法の行使には何らかの制約があることは知ってるな?」
「え?そうなの?」
「・・・生き字引だと消滅させるには消滅対象について詳しく知ってること。ソラの月はアタシと添い寝するっていうのがあるよね?」
「ちょっと、待とうか。観客席からものすごい殺気が来てるから。ボクは自分の属性を使いすぎると確かにぶっ倒れるよ?」
「アタシの腕に。」
「・・・少し黙ってよ。リカはボクが殺されてもいいの?」
「ソラを殺した人間を死ぬよりつらい目に合わせた後にアタシもソラの後を追う。」
「ロイ!?この子とボクの会話がかみ合ってないよ!?」
「アホか、お前等は?・・・・・・まぁ、それが制約だ。自然系四属性は制約というか、周りの環境によって変わる。火系統は近くに火があるとその分魔法の展開が速くなるとかだな。それで、ヤツの場合は一回の魔法につきどんなに大きかろうが小さかろうが魔法対象にできるのは5つだけ。少なくとも普段の魔法の実技を見てる限りはそうだった。そして、目に見えるものだけだ。風の魔法はヤツにとっての弱点なんだよ。」
「へ~。・・・でも、今のジグさんとやらには面白いことが発生してる。」
「え?何~?」
「属性の進化。」
「な!?バカな!?アレは十年以上かけても起きるかどうかの現象だぞ!?」
「え?・・・そうなの?ボクの知り合いには『影』から『闇』に進化した人がいるけど?」
まぁ、正確には竜だけど。
その言葉を聞いてロイはかなり驚いた顔をしてる。
「・・・お前の周りはチートだな。」
「・・・まぁ、否定はしないよ。確かにボクの周りには怪力少女に格闘薬剤師、たぶん魔法抜きならボク等の中で最強。と、凄腕の数法術式使う成金少女に魔法双剣使い。そして『逆』持ちの少女。これはスズだね。・・・まぁ、オブザーバー?って、言うんだけ?魔術符使う人工精霊魔法使いに情報魔の少女。双子の格闘士もいる。片方は気孔士。・・・・・・あ、そういえば魔法無効化体質の魔導宝具持ちもいたね。」
「いや、お前がかなり一番チートだ!!つか、お前の周りにはドンだけチートがいるんだよ!?そんだけ人材がいたら軽くどこかの国の軍部の精鋭になれる!!」
「ワタシヘーワシュギ。・・・まぁ、詠唱が終わりそうだね。」
画面に目をやるとそこにはかなりの量の魔力がジグさんに集まっている。
・・・規模的には中級の中位、範囲系の魔法。
「そういや、ヤツの属性はどうなる!?」
「あ、言ってなかったね。アレは・・・見た方が早いかもね。」
画面からバギバギっと木が折れるような音が響く。
てか、彼を中心にして半径50メートルほどの木が全て折れて・・・というかひしゃげていた。
そして、木だけを狙ったのか生徒には何の被害もない。
でも、Sの生徒以外にもDで奇襲をかけようとしていた魔法銃を構えた生徒も丸見えになってしまった。
「お~。すごいね~。属性は『重圧』。ここ風にランクをつけると魔法精度はA。展開速度はC。威力はSオーバー。まぁ、ロイとジグさんが真正面からぶつかったら・・・ロイの最強魔法がアレで全部なら向こうが上級出したらソッコーでロイが負ける。」
「・・・・・・マジか?」
「ソラの言うことはホント。彼が完全に『重力』になったらソラでもてこずる。・・・でも、ソラが絶対に勝つけどね~。」
「ちょ!?だから抱きつくな!!・・・まぁ、とにかくだよ。コレでSも持ち直す。ボクは基本的に魔法の実験台と戦争の相談事をたまに聞いてた程度だからDが次に何をしようとしてるのかわからない。」
画面にはSに補足されたDの面々が逃げ惑っている姿がある。
「・・・お前、自分のクラスなのに何もしなかったのか?」
「?・・・いや、ちゃんとしたよ。魔法の実験台。」
「いや、お前直々に訓練すれば確実に強くなれただろう?」
「いや、それだとボクがいたからDは勝てたって認識になるでしょ?」
だから、ボクは基本的にDのみんなに魔法の技術を教えるとかはしてない。
そして、ロイはとても重要なことを忘れてる。
「・・・それに、ボクは詠唱の授業の点数はなんとゼロだったりする!!」
「「「・・・おい!?」」」
「え?まさかの全校生徒の突っ込み!?」
「アレだけ変な魔法を連発して詠唱の点がカスだと!?」
・・・酷いいわれようだが事実だから仕方が無い。
でも、隣からジャキっと音がする。
横を向くとそこには白い髪に薄い赤目の阿修羅様が・・・。
「ダメ!?何で鎌出すの!?」
「ソラをバカにしたやつらを殺す!」
「・・・まぁ、こいつのチートは今に始まったことじゃないしな。」
なんか言ってるけどボクはリカを止めるのにものすごく必死だった。
―――side風葉
「あ~・・・やられたよ。Sの代表がガチで魔法使った。」
俺の近くにいる女子生徒が言う。
彼女はアスカ・ホークレス。
Dの魔銃狙撃手だ。
彼女曰く特殊属性、『照準』の持ち主らしい。
何故、『らしい』と言うのかはこの属性は彼女自身にもよくわからないらしい。
ここの先生にもよくわからない属性で、魔法力はそんなにないためにDに来た生徒だ。
この属性はいわゆる魔法で千里眼的なものをするようだ。
彼女のおかげですぐに敵の位置を把握し、奇襲をかけることに成功した。
そして、彼女はその属性で俺に戦況を逐一報告してくれていた。
「・・・被害は?」
「次の魔法銃士部隊の攻撃がバレちゃった。それで反撃にあってる。」
・・・ぴ~んち。
「カザハ。どうするのですか?」
「・・・どうする?」
「・・・馬鹿ですの?」
このお嬢様言葉はリオネ。金髪の波打つ髪を腰まで伸ばした見た目からお嬢様なヤツだ。
人形を使って俺たちが坂崎を先頭にD全員で行軍してるように見せてくれたのもこいつだ。
「ここは普通に撤退でしょう?Sと正面からぶつかってもわたくし達Dには勝ち目がありませんわ。」
「・・・ごもっともです。」
「ははははは~。まぁまぁ、リオちゃんもそんなツンケンすんなって~。カザハも指揮とか初めてなんだしさ~。」
「わかってますわ!!それにわたくしを『リオちゃん』などと呼ぶのはやめていただきたいのですが!?」
「え~・・・。だって、リオちゃんはリオちゃんだろ~?リオちゃんもオレッチのことをいつもみたいに「黙りなさい!!」メキョッ!?」
「・・・リオちゃん。戦力減らしてどーすんの?」
「アスカさん!?貴女まで!?」
・・・ついさっきリオネのパンチによって沈められたのは器術士のレクト・ニルメイカ。リオネの幼馴染でこいつがリオネの人形のメンテを全て任されているらしい。ちなみに彼女の護衛。・・・こんなヤツに護衛が勤まるのか?
「・・・ッフ・・・いい突きだったぜリオ、ちゃん・・・ガク。」
「・・・1秒以内に起きないと人形でシバきますわよ?」
「短ッ!?しかもお嬢様が『シバく』とか言っちゃダメだ~。オレッチがダンナ様たちに殺される。」
「おい。夫婦漫才はそこまでにしておけ。」
「夫婦じゃありませんわ!」
「え~。即答されると地味にショックを受ける。」
俺はこの二人を無視して近くにいるヤツに連絡を取るように指示を出そうと周りを見る。
「・・・よし、だいひょー。副代表に頼んで撤退出してもらったよ~。」
「お?ありがとう。」
俺はアスカにそういう。
だが、彼女は少し顔を曇らせていた。
「どうした?」
「・・・坂崎ちゃんが逃げ遅れたっぽい。」
「なっ!?」
「・・・それはマズいですわね。」
「実質、オレッチ達の中で戦闘慣れしてるのは坂崎だけだしな~。それにあの娘の魔法もかなり強力だしな~。」
そうだ。こいつ等の言うとおり。坂崎は俺達の主戦力だ。
だが、この状況で助けになんか行けば確実にかなりの人数がやられる。
・・・・・・どうする?
「どうすればいい!?」
「バカ代表。」
「・・・ここでバカ言うか?副代表?」
そこにはいつの間にか副代表、杏奈がいた。
「杏奈よ。あ・ん・な。わたしはフレンドリーな副代表を目指してるんだから名前で呼びなさい。」
「・・・俺をバカ呼ばわりする時点でフレンドリーなのか?」
「友情がなせる技よ。」
そんな技はいらない。
「とにかく、カザハは好きなようにやればいい。どうせ最初から無謀なことをしてるんだから今更無謀な命令をされても全員従うよ。」
そして、俺の周りにはいつの間にかSの生徒から逃げてきたDのやつ等がいた。
「点呼~・・・全員無事帰還。あ、坂崎さんだけいない。」
「・・・そのあからさまな独り言は?」
「さぁ?何のことかしら?」
しらじらしく言う杏奈。
「どうするよ?どうせなら全員で勝ちたいよな?坂崎さんがいないけど。」
「そうだな。・・・坂崎さんがいないが。」
「あたしも同じね。坂崎さんがいないけど・・・。」
全員が『坂崎さんがいないけど』で俺をチラ見する。
・・・最初から言えよ。
「はぁ、お前らがそんなバカだとは思わなかった。」
「は?俺達はDでバカの集まりだよな?」
「「「そうそう。」」」
こいつら開き直りやがった・・・。
「わかった。なら、全員で地獄に行くぞ?役割は決めた通りだ。隊列を組んで行くぞ!!」
「「「おう!!」」」