1話・LONELY VAMPIRE
―――side隆介
「・・・ねぇ、間君」
「無理だ。オレには」
「でも・・・こんなこと頼めるのは間君しか・・・じゃ、あたしが」
「慣れてないと死ぬほど痛いんだぞ?」
「・・・何とかする」
「いくら多湖でも無理だろ」
「で、でも・・・」
「・・・しゃぁねぇ。オレがやる」
「間君・・・ありがとう!!愛してるよ~!!」
はぁ、オレはため息をつく。
そして・・・。
「リカ、オレの血を飲め」
窓際で机に突っ伏してる白髪で薄い赤い目の美少女に言う。
「・・・・・・いやぁ~・・・・・・リュウがよく知ってるくせに」
「・・・スマン。やっぱオレには無理だって」
「・・・田中君はイヤだし、シュウ君も厳密には人間じゃないからダメ。平地さんは痛がってやらせてくれない。・・・八方ふさがりだね。やっぱあたしの血を飲んでよ」
「・・・でも、痛いかもよ?」
「それがどうした!!ばっちこ~い!!」
今は放課後。
リカはここのところソラの血を飲めなくて既にダウン寸前。
吸血するにも冬香にしようとしたところ、人間恐怖症のリカは緊張のためにかミスって冬香に激痛を与えたようだ。それに、オレとシュウは人間じゃねぇから吸血はできない。
できるけど栄養にはならないらしい。
まぁ、田中は知っての通り・・・そこで、多湖が勇気を振り絞って吸血させようとしてるわけだ。
・・・あ?
何でソラがいない?それに坂崎の名前が出てない?
あいつらは今、この学校にいねぇんだな。コレが。
あの二人は向こうの魔法学校に短期留学している。
まぁ、そんなことになったのは三日ほど前のことだ。
~数日前~
「今日も生き延びれた・・・」
「お前のチート性能が上がったにも関わらずお袋にボコボコにされるっつーのはどういうことだよ」
「・・・私達が足手まといなんでしょうか?」
「いえ、ただ単にわたしが強いだけです」
「「「・・・」」」
納得できるな。
さすがはお袋だ。
オレは本当にこの人の息子なんだろうか?
「終わったかの?」
「あ、龍造さん。・・・てか、みんなも?」
そこにいたのはオレのジジイ。
後ろから女子もついてくる。
・・・珍しいな。
「なんか用か?」
「まぁの。して、優子さん。男子はどうじゃ?」
「私と比べると本当に弱いです」
「・・・比べる対象が違う気がするんじゃが?」
あぁ、ジジイ。その通りだ。
オレ達は今日も死線を何回もさまよったぞ?
「まぁ、よい。実はの少し困ったことになったのじゃ」
「困ったこと、ですか?」
「そうじゃ。コレを見てくれんかの?」
そういうとジジイは一枚の紙をオレ達に見せる。
オレ達はそれを輪になって囲んで見る。
「・・・コレは向こうの魔法学校のパンフよね?」
「そうだな」
「で、コレがどうしたの~?」
「・・・リカ、近い」
「気にしない気にしない」
「まぁ、なんじゃ、魔法使い教育のために各地の魔法学校で他からたまに短期留学せんか?というのがあるんじゃ」
「どこにボク等に関係するところがあるの?」
「十五年前まではここには魔法使いがおったんじゃ。もちろん。魔物が多いがな」
「・・・まさかとは思うが、向こうが勘違いしてこっちの魔法使いを何人か寄こせってきたのか?ここには魔法使いはオレ達だけだぞ?」
「てか、ここの学校にも魔法使いがいたの?」
「あぁ、ジジイは人間の間でも凄腕の魔法使いとして知られていてな。もちろん、魔王だってコトは伏せてあるが。もっぱら来るのは亜人種どまりだ。人間はいなかった」
「まぁ、それで、わしが十五年間の間、何も連絡を寄こさんかったから怒っとるようじゃ」
「・・・それって、ボクの封印のせいだよね」
「いや、しょうがないだろ?」
「で、要するに、向こうはこっちの魔法使いを何人かよこせって言ってきてるわけね」
「断ればいいんじゃないの~?」
「それがの、わしがいろいろと世話になった人での・・・しかもわしが魔王と知っておるしの。あやつの性格を考えるとわしの素性をバラすと脅してくるのが目に見えておる」
「・・・・・・魔王を脅すとか・・・・・・」
「まぁ、そんなわけで行って欲しいんじゃ」
「・・・メンドイ」
「隆介、後で訓練よ?」
「ジジイ、オレが行く」
「お、そうじゃ、今回は人間のみじゃそうじゃ」
「残念だ」
「・・・なら、その笑顔を引っ込めなさい」
オレは内心でガッツポーズをしつつ話を適当に聞く。
「・・・じゃ、ボクが行くよ。それに十五年も連絡が取れなかったのはボクのせいだしね」
「じゃ、アタシも行く~」
「いや、お前は魔物だから。それにソラもやめとけ」
「わしはまだ最後まで話とらんのじゃが?」
「まだ、何かあるんですか?」
「今回はスマンがわしが勝手に決めた。ソラと鈴音ちゃんが行って欲しい」
「何で!?」
「・・・・・・リカ、アンタは少し落ち着きなさい」
「いや~アタシも行く~!!」
「理由は簡単じゃ。この二人は魔法使いになって日が浅い。というかヒヨっこじゃ」
「「・・・確かに」」
「・・・お前等素直だな」
「いや、事実だし」
「わたしも使える魔法が全然だからね~」
まぁ、ジジイの言うことはわかる。
こいつらは両方ともかなりチート、というかバランスブレイカーだ。
だが、それだけだ。
ありえない魔法を使いまくるが別に最強じゃない。
事実、このメンバーの中で最強はシュウかリカだとオレは思っている。
「まぁ、妥当だろうな」
「私も別にそれほど行きたいと思いませんのでいいです」
「わたしも問題ないわ」
「行~き~た~い~~~~~!!!」
若干一名ほどどうしても行きたいらしい。
「スマンの。じゃが、いらん混乱防止のためじゃ。わかってくれんかの?」
「・・・無理!」
こいつはソラが絡むと本当に積極的だな。
普段の教室で小動物みたいにソラの影に隠れてるリカが嘘じゃねぇかと思うぐらいに。
「・・・最終手段じゃな」
そういうとジジイはリカとこそこそ話し合う。
ところどころで秘蔵だの盗撮だの聞こえる。
・・・・・・宇佐野の力だな。
そして、なんらかの協定が結ばれたのかリカとジジイがガシッと握手する。
「・・・ガマンする」
「そうじゃ、それに、ソラもリカちゃんと距離をとってしばらくしてから会えば前よりも深い絆で結ばれるじゃろう」
「うん!」
「・・・何だかボクがよくわからない取引材料にされてるのは気のせい?」
「気のせいだろ?」
そして、この日は解散になった。
「で、わずか数日でこの有様」
「・・・・・・痛かった」
「・・・・・・ゴメン」
まぁ、前よりいくらか顔色はよくなってるから大丈夫だろう。
逆に多湖がヤバそうだがな。
「・・・ソラはいつ帰ってくるのかな~」
「あ?・・・あいつらは夏休みの数日前に帰ってくるらしいぞ?」
オレは何気なくそんな返事をした。
だが、リカは石像のように固まる。
そして、油の切れたロボットのようにギギ~とこっちを向く。
「・・・それ、本当?」
「あ、あぁ、そうだが?」
「・・・そう」
そういうとリカは教室を出て行く。
・・・ちなみに今は六月の下旬。
梅雨に入って少し経ってる。
まぁ、ソラは控えめに見ても一ヶ月ほど帰らない。だから、ジジイはよくリカを説得できたなとオレは思っていたんだが・・・。
「・・・理事長室で血の雨が降ってそうな気がするのはあたしだけ?」
「奇遇だな。オレもだ」
そして、校舎のどこかから老人の断末魔の悲鳴が聞こえた。
―――side空志
「とーちゃくっ!!」
「無駄にハイテンションだね」
ボクとスズはローブのようなこの学校の制服を着ていた・
そして、でっかい門を持つ・・・てか、見た目が既にお城な建物の前に立っている。
ここがボク等の短期留学際の『エレオール魔法学院』。
「・・・無駄に何でお城?」
「お姫様な気分になれそうだね~」
まぁいい。
ボクは龍造さんに教えてもらったとおりに、門の横の詰め所に行く。
「すみませ~ん。間学園から短期留学に来たもので~す」
ボクは書類を出しつつ詰め所の奥に向かって言う。
すると、大柄な人がのっしのっしとやってきボクの手から書類を受け取ってざっと読む。
「・・・確認した。ここにサインを」
「はい。ほら。スズも!」
「え?ゴメン。お花に気をとられてて聞いてなかった~」
「・・・既に頭の中がお花畑だと思うのはボクだけ?」
「・・・武器は?」
「はい?武器ですか?」
「・・・持ってるのなら申請しろ」
「あ、は~い。スズは・・・・・『ユグドラシル』だっけ?」
「うん、そだよ~コレ」
そういうとスズはあらかじめ背中に背負った自分の身長ほどもある杖を見せる。
警備員さんはおもむろに杖に触る。
「登録完了だ」
「じゃ、コレ、『ナイト』に『ナハト』です。」
ボクは自分の拳銃を見せる。
そして、登録完了。
「・・・これで完了だ。係りのものが来るまで中に入って待っていろ」
「「どうも~」」
ボクとスズは中に入っていった。
「あ、そういえば何であの人は魔法で姿を変えてたのかな?」
「え?あの人、魔法使ってたの?」
「うん。まぁ。でも、龍造さんに『月』は極力使っちゃダメって言われてるしな~」
「でも、魔法陣と魔道具がオッケーならソラ君は大丈夫だよ~」
「まぁ、そうだね。いろいろと初めてなことばっかだし、がんばりますか」
ボクとスズが話してると事務の人が来て、ボク等は学校の中を歩いていった。
―――side??
「・・・アレが龍造君の生徒ね~」
先ほどの警備員がそういうといきなり姿が変化した。
初級の魔法、変身の魔法だ。
「てか、いい加減にしてください。仕事してください」
突然誰もいないはずの空間から人の声が発せられる。
「いいじゃない。コレがささやかなわたしの楽しみなんだから」
そういうと変身が完全に解けた。
そこには若い女性。
黒い髪を腰まで伸ばした綺麗な人だ。
「はぁ・・・で、今回はどんなです?」
「面白そうな子ね。二人で漫才できるんじゃない?」
「・・・ここは魔法学園ですよ?聞いたのは魔法に決まってるでしょ」
声が呆れている。
そんな声を無視して女性が話す。
「でも、武器は一級品なんてものじゃなかったわ。下手したら近い将来、魔導宝具って呼ばれるわ」
「・・・なら、魔法は相当なのでは?」
「それはそれ、これはこれ。武器が優れていてもそれを扱う人が優れてなきゃ意味が無い。案外二人ともいいトコのボンボンで、あれも権力にモノを言わせて買ったものかもよ?」
「まぁ、どっちにせよすぐわかることです。ですが、龍造さんからはランクAかSが妥当って言われてるんでしょう?」
「わかんないよ~あのおじいちゃんも、耄碌してるかもしれないし」
「・・・ホントにあなたは読めませんね。じゃ、そろそろ測定室に着くんで着てくださいよ学園長」
そういうと声は途絶えた。
そして、そこには黒髪の女性のみになる。
サリナ・G・エレオノール。
それが彼女の名前でここの最高責任者だ。