5話・IN THE DREAM
―――side鈴音
「おっは~。・・・・・あれ?三谷君は~?」
いつの間にか寝てしまったわたしは客間のベッドに寝かされていた。
おきてみると時刻はすでに夕方。
とりあえず、リビングに下りてみると間君と颯太さん、優子さんがいた。
カレーの香りがしてるところから夕飯みたい。
でも、三谷君の姿が見えない。
「ちょっと、私がはしゃぎすぎちゃって・・・。それに付き合ってくれたヒロシ君は、今客間で寝てるわ。たぶん、もうすぐおきてくると思うわ」
「すみません。寝てしまったようです」
うわさをすれば・・・、なんだっけ?
とにかく、三谷君がおきてきた。
・・・頬に絆創膏がはってあるけど、怪我でもしたのかな?
「・・・ヒロシ君。大丈夫ですか?」
「・・・何がですか?」
「・・・お前、あんなことがあったんだぞ!?」
何があったんだろう?
ちょっと気になるね~。
「・・・そういえば、坂崎さんが気絶したあたりから記憶がないんだけど?」
「あれ、わたしって気絶したの?」
「ええ、魔力の使いすぎです。次は魔力操作を覚えましょう」
そうなんだ~。
がんばらなきゃ!
そういえば・・・。
「三谷君はどーして寝てたの~?」
「いや、何で寝てたのか記憶にないんだ」
「・・・恐ろしさのあまりに記憶を封印したな・・・」
「・・・隆介。あれでは仕方がない」
何かわけを知ってそうな感じだね~。
「何かあったんですか~?」
間君と颯太さんに尋ねてみる。
二人は顔を見合わせると、
「「世の中知らないほうがいいこともあるんだ」」
・・・深いお言葉をいただきました。
「あ、ヒロシ君。明日も今日と同じメニュー、題して『主人公作戦』をしましょう」
「ぎやぁぁぁあああああ!!!!!」
「三谷君!?どうしたの~!?」
突然、断末魔の悲鳴を上げる三谷君。
ホントにどうしたの!?
「お袋!!あんたは鬼か!?」
「優子!これではヒロシ君が廃人になってしまうぞ!?」
「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ・・・」
・・・聞くと元の世界に戻れなくなる気がした。
うん。世の中、知らなくてもいいことってあるんだね~。
―――side空志
思い出してしまった。
今、ボクがいるのは間家の客間。
夕飯のトラウマを呼び起こす事件の後である。
風呂やなんかを借り、一息ついて明日の対策を考えているところ。
まだ、ボクは死にたくないからね!!
「でも、あの優子さん相手にどうしろと?」
あんなでも、手加減をしてくれていたらしい。
魔王でも裸足で逃げ出しそうなレベルだ。
勇者が倒すべきなのは魔王ではなく優子さんだと思う。
「・・・とりあえず、今日は寝るか」
ちゃんと怪我を治してくれたとはいえ、疲労だけはどうにもならない。
目を閉じると、すぐに眠ってしまった。
って、ここはドコだ?
おかしい。
ボクは間家の客間で眠ったはずだ。
地面はリノリウムのような殺風景な床。
地平線が広がっていて、まるで途轍もなく大きな部屋の中にいるようだった。
「よくここへ来たのう」
「あ、夢か」
なるほど。
それなら説明がつく。
たとえ、知らないおじいさんに話しかけられたとしても説明がつく。
夢だから!!
さてと、じゃぁ、この夢から覚めるにはどうすればいいんだろう?
「寝るか」
「ちょ、待たんか!?」
夢の中で寝るとか変な感じだけど、まぁ、いいでしょ。
「・・・無視せんといてくれ。いくら魔王でもそれは寂しい」
「ちょっと待ったぁぁぁぁあああああ!!!」
今、この爺さんなんていった!?
「突然なんじゃ!?」
「あんたは魔王なのか!?」
ボクは爺さんの言葉を無視して疑問をぶつける。
「そうじゃが?」
「なるほど」
そういうことか。
この爺さんのせいで・・・。
ボクは魔法が使えずに。
あの地獄のような目に・・・。
つまり・・・・・・。
「優子さんの餌食になったんだぁぁぁああああああ!!!!」
「!?ちょ、待っ、ゴブファ!?」
ボクの怒りのこもった一撃は自称魔王と名乗る爺さんを打ち抜いた。
「それは、すまんかった」
少し落ち着きました。
この魔王。つまりは間龍造さんをフルボッコにした後に事情を説明。とてもすまなさそうな目でこちらに対して謝罪をしてくれた。
「もう、過ぎたことですししょうがないです」
これがオトナな対応。
「で、さっきの説明だと、ここはボクの夢の世界のようなものなんですね」
そう、ここはボクの夢の世界のようだった。
そして、さらに重要なことは、
「そうじゃ。そしてわしはおぬしの持っておる、魔導書に記録された仮想体じゃ。自立型擬似思考装置、つまりは人工知能のようなものじゃ」
「へぇ~。・・・じゃぁ、内容を教えてくれれば、ボクの属性の方向性がわかるんじゃ?」
「それは無理じゃ」
ボクの儚い希望は一瞬で打ち砕かれた。
「何で!?だって、あそこの禁書は持ち主にあった本が選ばれるんでしょ!?」
「残念じゃが、あの魔導書は魔王の属性、『結界』を効率よく行使するために考え出された本。未完成の魔導書じゃ」
そうなのか。よりによって微妙な本を・・・!
「じゃが、あの魔法の展開方式は使い手を選ぶ。使いこなせればかなりのアドバンテージを得ることも可能なはずじゃ」
「使い手を、選ぶ?」
使い手を選ぶ魔法?
どういうこと?
「うむ。その本に書かれている魔法展開方式は『魔法陣』。昔に、わしととある人間によって編み出された魔法じゃ。元々は古代魔法と言って、失われた魔法の一つ。それをわしらは生涯をかけて復元させたのじゃ」
「えっと・・・古代魔法と、失われた魔法って?」
「簡単に言えば、大昔に使われていたんじゃが、今では廃れてしまった魔法。そして失われた魔法も使い勝手が悪すぎる、あるいは使い手を選ぶ魔法等の理由で徐々に使えるものがいなくなってしまった魔法のことじゃ」
「じゃぁ、そんなのをボクが使えるわけが・・・」
「あくまで、その展開方式じゃ。それを現代魔法に照らし合わせさえすれば誰でも使用可能じゃ。それゆえに、わしはあの魔導書を厳重に保管してあったはずなのじゃが・・・」
「・・・え?普通にこの家の図書室っぽいところにありましたよね?」
まぁ、いろいろな本に埋もれていたけど。
確かに、隠すのにはもってこいなのかもしれない。
「・・・わしはのぅ、その本を図書室の奥深くに本を隠した、そして魔導書には封印の魔法に加え、認識阻害の術式、持ち出されたとしても魔導書に込められた魔力を持って図書室の奥にアトランダムで転移。そして常に魔力はマナを変換して使うようにしておいた」
「・・・ようするに、何重ものセキュリティが設けてあったんですね?」
「うむ。じゃが、どういうわけかうまくそれらが作動しておらん」
「それは、貴方が寝ているせいじゃ?」
「確かにわし自身の魔力を使えば完全な封印ができる。じゃが、逆を言えばわしが死ねば魔導書の封印が完全に解ける。じゃから、そんなことがないように魔力はマナから供給するように魔法を構成しておいたのじゃ」
「・・・ようするに、そんな理由で破られるほどやわなセキュリティじゃないと」
「うむ」
「なら、どうして?」
「わからん。考えられるとすれば、その魔導書は未完成にもかかわらず何らかの魔力が宿り、お主を選んだということになる。・・・わしは知らんから、おそらくはあ奴が何かしよったの」
「奴?」
「こっちの話じゃ。とにかく、主人格はそれをお主に託すべきか否か迷っておる。汝は旧友の三谷隼人の孫。信頼はできる。しかし、その力だけは別じゃ」
「・・・あの、何の話で?」
「何度も言うが、その魔導書は使いこなせれば普通の魔法などとは比べ物にならない力を得ることも可能。主人格は真言よりも強い魔法を生みだすことに成功している」
「真言より、強い魔法?」
真言はリュウの話が確かなら、その人限定で使える最強の魔法。
けど、この魔王様は真言を超える魔法を作ることに成功している?そんなことがあり得るのか?最強の上にある最強、確かにそんなものをバンバン使われれば世界はいろいろと終わるよね。
「・・・じゃ、いいです。て言うか、ボクは力が欲しいわけじゃない。壊れかかっている封印に頼らなくても、自分の力で、この力を制御したいだけですから。それに、なんかよくわからないけど、暴走すると大変だって聞きましたし」
うん。これが今のボクができる精一杯の返答だ。
すると、魔王様の仮想体さんとやらはいきなり笑い始めた。
「いらんか!わしの属性では、簡単な世界を作ることさえ可能なこの力だぞ?魔王の力をゴリ押しで破ることの可能なお前ならば、新たな法則ですら生み出すことが可能かもしれんのに、いらんのか?」
え?そんなにすごいの?
でもなぁ・・・・・・・・・。
「いや、正直な話、そんな力持ってても意味ないでしょ?まぁ、世界征服するんならあった方が便利でしょうけど。けど、ボクはこの力の制御ができたら元の生活に戻るつもりなんで、邪魔じゃないですか?そんなモノもってたら」
魔王様仮想体はひとしきり笑うと、ぼそりとつぶやいた。
「隼人も、そんなことを言っておった」
「・・・え?」
「・・・・・・許可が出た。お前の封印を解こう」
唐突にそんなことを言われ、魔王様仮想体はボクの胸の真ん中に触れる。
すると、ボクの中にあった何かを感じ取れるようになった。それは、心地よい夜風のようにボクの中を駆け巡った。
「これが、ボクの魔力?」
「・・・・・・うむ。じゃが、その力は?・・・いや、それにしては魔力が・・・」
魔王様仮想体は何かをしきりにぶつぶつと呟く。
ボクはどうしたものかとその姿を見る。
そして魔王様仮想体はボクを見据え、一言だけ言う。
「・・・お主用にこの魔導書を初期化しておいた。わしの感が正しければ、この魔導書にある『魔法陣』を使えるじゃろう。じゃが、それでもおかしい部分がありすぎる。このことは、わしが目覚めてからの続きとしておこう。・・・よいな?」
「あ、はい」
ボクは半ば条件反射のような感じで返事をする。
すると、魔王様仮想体が徐々にその姿を消していった。そして、ボクの目が覚めた。
飛び起きてみても、そこは間家の客間のベッド。
夢だったのかと思いたくなるけど、気になって魔導書を見てみる。そこには、何も書かれていないはずなのに、最初の数ページに申し訳程度に描かれていた。
「夢じゃ、ない・・・」
薄暗い、月の浮かぶ夜の出来事だった。
作 「というわけで『夢の中で』をお送りします!」
優子 「あら、こんな所にお義父様が?」
作 「はい。なんか出しゃばってきました!」
優 「・・・そろそろ、矯正しないといけません」
作 「・・・怖ぇ。なんで僕はこんなキャラを生み出したのか!?」
優 「何かいいました?」
作 「イエス、マム!何も言ってません!」
優 「そう?」
作 「というわけで次回!魔王様とのファーストコンタクト翌日!」
優 「明日の訓練も楽しみですね」