1話・SCREAM
―――sideリカ
時刻はちょうど深夜。
アタシは基本的に夜遅くまで起きてる。
理由?吸血鬼だから!!・・・ってわけじゃない。
ただ、ソラの部屋に侵入・・・もとい、お邪魔させてもらって、寝顔を拝ませてもらうために!!そのために起きている。
さて、今日も鍵を閉めてるけどここはアタシの能力で霧になってササーっと行こう!
「あ、あぁぁぁぁ・・・うぁぁぁぁああああああ!!!???」
突然、誰かの悲鳴のような叫びが聞こえる。
それは、アタシの前の部屋から聞こえてきた。
「ッ!?」
アタシはまずソラの部屋に入ると、鍵を開ける。そして、別の部屋の前に来ると扉をたたく。
ダンダンダン!
「シュウ!!」
「どうぞ、あいています」
寝起きのはずなのにいつもと変わらない口調で言う。
アタシが部屋に入ると、シュウは薬ビンをアタシに渡す。
「とりあえず、コレを飲ませてください」
「わかった!!ありがとう!!」
そういうと、アタシはすぐに走っていく。
ソラのところへ。
ソラの元へたどり着くとすぐに薬を飲ませようとする。
「ソラ、飲んで」
「みゃぁ・・・」
レオも心配そうに鳴いている。
「あ、あぁ・・・ご、め、ん」
「わかったから、今はコレを飲んで」
「いや・・・だ、みんな!・・・傷!・・・ッ!?」
焦点のあってない目で虚空を見るソラ。
「・・・しょうがないですね。リカさん。ソラさんに無理やりでも飲ませてください」
ついてきてくれてたのかシュウが扉のところに立っていた。
「・・・うん」
アタシはシュウが渡してくれた急須のようなものでソラに薬をゆっくりと飲ませる。
全部飲ませると、数分ほどでソラは次第に落ち着き、安らかな寝息を立て始めた。
さっきのは精神安定剤の魔法薬。
それを使わなきゃダメなぐらいにソラは精神的にまいってる。
「・・・どうだ?」
「リュウさんですか」
いつの間にかリュウもいた。
「もう、大丈夫。アタシが見てる。だから二人は休んで」
「・・・そうか」
アタシがそういうと二人は部屋に戻っていった。
・・・ホントに何でこんなことになったんだろう?
ただ、ソラはアタシ達を傷つけたくないと思っただけなのに。
・・・もう、今日で一週間。ソラがこんな風になってしまってから。
~一週間ほど前~
「親父!!ここだ!早くしろよ!!」
「大丈夫!僕がなんとかする」
いきなりソラが倒れた。顔色も青白く、だいぶ悪い。
ソラは一週間ほど、つまり、行方不明の間、飲まず食わず、さらには寝ないという人間の限界を超えたことをしてたみたい。
リュウの報告を受けてリュウの父である颯太さんが来た。
颯太さんはアタシに抱きかかえられた状態のソラに魔法を使いました。
「≪診察≫」
「大丈夫・・・?」
「大丈夫だ。親父は数少ない『治癒』の属性。そこらのヤツより確実だ」
「本当でしょうね!」
みんなも不安を隠せないようだ。
「・・・過度の疲労、ですね。ソラ君はおそらく何も口せず、さらには寝ていない。そこで、敵と戦った。・・・最悪ですね」
「ソラは!?どうなるの!?」
「・・・魔法を使いましょう。≪癒≫」
ソラが柔らかな優しい光に包まれる。
颯太さんも精神を集中させて治癒に専念している。
「・・・コレでひとまず大丈夫」
颯太さんがそういうと光が収まる。
そこには幾分顔色がよくなったように見えるソラ。
「・・・よかった」
アタシは心のそこから安心した。
「ですが、コレは応急措置です。シュウ君」
「はい」
「薬を頼みます・・・」
颯太さんはシュウに薬の調合を頼んでいるみたい。
でも、ホントによかった。
そして、アタシ達は寮へと帰った。
そして、二日後、ソラは目を覚ます。
そこでみんなはソラにバカバカ言いながらやっと全員がそろったことに安堵した。
夜が来るまで。
「・・・ふふふふふ」
「リカ、お前何をしてるんだ?」
「はぅ!?」
アタシはソラの部屋の前にいて、いつものように布団にもぐりこもうとしていた。
そこをリュウに見つかってしまった。
「てか、どうせいつものことだろうがな」
「・・・」
事実だから言い返せない。
でも!しょうがないよね!!だって・・・その・・・好きな人と一つ屋根の下で暮らしてるんだよ!!
「いや、ダメだろ」
「・・・」
事実だから言い返せない。
「お願い!!今日だ「それにオレはいわばこの寮の寮長だぞ?そんなものを無視できるわけが無い」・・・」
ごもっとも。
そして、アタシがまた口を開こうとしたけどできなかった。
・・・ソラの悲鳴で。
ソラ!!
アタシは霧になるとソラの部屋に入る。
そこには、目を開いた状態で叫びを上げながらベッドの上で暴れるソラがいた。
レオは突然のことに戸惑っているみたい。
「リカ!!すぐにここを開けろ!!」
アタシはいわれたとおりにすぐに部屋のドアを開ける。
そこには寝ぼけ眼の鈴音と冬香もいた。
「何よ~うっさいわよ」
「・・・ZZZ」
「坂崎はそんな立ったまま器用に寝るな!つか、寝るなら来んな!!シュウを呼んでこい!!」
「は?何でよ?」
「・・・!?冬香ちゃん!!ソラ君が!!」
「え・・・!?わかったわ!!」
二人はソラの様子を見るとすぐにシュウのところに行く。
「あ・・・・・・あぁ・・・うぁぁぁぁぁ・・・。いや、だ。・・・傷・・・ない」
うめき声を上げるソラ。
アタシはいてもたってもいられなくなってソラの手を両手で握る。
ソラはその手を痛いぐらいに握ってくる。
「ソラ!しっかりして!!」
「ソラさんは大丈夫ですか!?」
「シュウ!ソラが!!」
「コレを。精神安定剤です。魔法薬で副作用などはありません」
それと一緒にガラスの急須のようなものを渡してくれる。
アタシはそれを受け取るとソラにゆっくりと飲ませる。
すると、次第に静かになり、落ち着く。
そして、規則正しい寝息が聞こえた。
「・・・コレはどういうことなのよ?」
「急にこんなことになってて眠気がとんじゃったよ~」
「わからん。オレとリカがここで言い合いしてたら突然中からソラの悲鳴が聞こえてきた」
・・・さっき、ソラが言った単語。
『いやだ』、『傷』、『ない』。
絶対にそうだ。それしか考えられない。
「ソラはまだあのことを気にしてるんだと思う」
「・・・精神的なものですか」
それしか考えられない。
「では、またいつこのようなことになるのかわかりません。とりあえず、今夜は皆さん交代でソラさんをみましょう」
「アタシだけで大丈夫。もともと夜行性だし」
アタシは吸血鬼だから大丈夫。
「そうですか?・・・では、何かあれば呼んでください」
そして、みんなは眠りにつき、アタシは朝までソラを見ていた。
朝になると、そこにはいつものソラがいて、まるで夜のことなんかなかったみたいに思った。
でも、それは毎晩一回は必ず起こっていた。
―――side空志
・・・朝か。
ボクは自分に当たる日の光で目が覚めた。
今日もいい天気だ。
六月になってもまだまだ梅雨の気配は感じない。
さて、起きますか。
でも、その前にやることがある。
「・・・何でまたボクの布団に入ってるんだ!?」
ボクは赤い目で白い髪の吸血少女に突っ込んだ。
もちろんリカのことだ。レオは床で体を丸めて寝てる。
・・・でも、よく見るとリカの目って薄い赤だね。
いや、それはどうでもいい!!
とりあえず、ここはリカにやってもらうべきことが・・・。
「うぅん。あ、ソラ?おはよ」
「じゃねぇぇぇぇええええええ!!!!!反省してよ!!」
いい加減にして欲しい!
二週間ぐらいずっとこの調子だ!
いや、ボクも健全な男子だよ!?
ホントにコレはいろいろと倫理とか道徳とか校則とかボクの命あたりでものすごくまずいよ!?
「反省はしてない。でも、後悔もしてない」
「それって最悪だよね!」
「でも、今更だよね」
「・・・とにかくダメ。着替えるから出てって」
「え~「よ。よし、じゃ、外に行って」・・・・・ケチ」
そういうとリカは部屋から出て行った。その後ろにレオもついていく。
はぁ、制服に着替えよう。
今日も放課後は補習だ。
―――side隆介
「・・・」
「もうすぐゴハンだから新聞はダメだよ~。子供がマネしちゃうよ?」
「・・・どこに子供がいるん・・・お前か」
「リュウ君はゴハン抜「ハハハハハ。冗談ニ決マッテルダロ?」・・・ま、今日は勘弁してあげるよ~」
そういうと坂崎は食卓に朝メシを並べていく。
・・・いつもみたいにうまそうだな。
「おはよ~」
「リカか・・・ソラはどうだ?」
「やっぱり自分が夜にうなされていること知らないみたい」
「・・・そうか。親父もどうしようもないらしいしな」
そして、ソラがきた。
「おはよ・・・ん?みんなそんな難しい顔してどうしたの?」
「いや、なんでもない。ソラ、他のヤツらも呼んで来てくれ」
「別にいいけど?」
そういうとソラはシュウと冬香を呼びに行った。
オレ達はしばらく無言になる。
「・・・コレばかりはオレ達にはどうしようもねぇのか?」
「ソラ君に言っても絶対にそんなことはないっていうもんね」
「・・・」
オレ達は無力だと思った。
―――side空志
「・・・」
なんだろう。最近、みんなが暗い気がする。レオまでもこのごろはリカのほうと一緒にいる。
理由はわからない。
でも、ボク以外は全員知ってるようだ。
・・・なんだろう?
「ソラさん?こんなところで何をしてるんですか?」
あ。考え事をしてたらいつの間にかシュウの部屋の前にいた。
シュウは部屋から出てくるところだった。
「いや、ちょっと考え事を。それと、朝ごはんだって」
「そうですか。わざわざありがとうございます」
「いや、それぐらい。あ、冬香も起こすから先に行ってて」
そういうとボクは冬香の部屋に。
扉の前に立つとボクはノックする。
トントン。
「冬香~。朝ごはんだよ~。起きないとみんなに食べられるよ~」
・・・。
返事が無い。まるでタダの屍のようだ。
ここは必殺技だ。
「今から冬香の部屋に入って寝顔の写真を撮って、それを冬香のファンクラブに売るよ?」
ドタン、バタン!
・・・ガチャ。
「おはよう。今日もいい天気だね」
出てきたのは髪の毛ボサボサの普段のような凛々しさがかけらもない少女。
「・・・いつかアンタを殺すわ」
「夜遅くまで機械をいじってるのが悪い。じゃ、早く降りてきてね」
そういうとボクはリビングに行く。
そこには冬香を除くみんなが六人がけのテーブルの席についていた。
ボクも自分の席につく。
どこかって?ボクは一番隅で隣はリカ。目の前にリュウ。そして斜め前にはシュウで、そのシュウの隣がスズ、スズは一番台所に近い位置だ。そして、残った席に冬香。
「・・・おはよう」
「お前、その朝なんか消えろ的な雰囲気の挨拶はどうにかならないのか?」
「しょうがないじゃない。そう思ってるんだから」
「・・・アタシより吸血鬼らしいよ?」
「じゃ、みんなもそろったし~・・・イタダキマス!」
「「「「「いただきます」」」」」
そういうとボク等はゴハンを食べ始めた。
「って、もう、お前はお代わりかよ!?太るぞ」
「大丈夫だよ~!」
・・・うん。いつもと同じだ。
じゃ、何でボクは違和感を感じたんだろう?
「・・・ソラ?どうかした?」
「いや、何でもないよ」
「ふ~ん。じゃ、ソラ。あ~ん」
「何だこのギャルゲ的展開!?」
「・・・食べてくれないの?」
・・・ちくしょう!!
アリアさんが上目遣いなんてものを教えるから!!
見てよ!リュウたちがお前、サイテーって目で見てくるよ!!
「・・・ゴメン」
「そんな・・・」
リカがもはや涙目だ。
てかやめて!!
みんなそんな目で見ないで!!
ボクはこの重圧に絶えるほどの精神力は残念ながらもっていない。
おとなしく口をあける。
とたんにリカの顔が明るくなる。
・・・全員ニヤニヤするな。
後で全員シバく!!
「はい!」
口に食べ物を入れられる。
カシャ!
・・・嫌な予感だね。
ボクは音のしたほうを向くと、そこにはケータイを構えた冬香の姿。
「後で宇佐野さんに売るわ」
「殺す気か!?」
「ええ、そうよ?」
即答された!?
「まさかマジでするとは思わなかった」
「どの口で言う!?」
「ですがコレではホントにタダのバカップルですよ」
「ひゅーひゅー。見せ付けてくれますね~」
「・・・リカ。何とかして」
「え?・・・・・・ありがとう?」
「どこに礼を言うところがあったの!?」
ギャーギャー騒ぐいつもどおりの朝。
でも、何かがおかしい。
ボクはそう思った。