4話・TRAINING
―――side空志
昨晩はいろいろと驚いた。
魔物の都市だから、なんかヤバいものが出てくるんだろうなと、期待と不安の入り混じった思いで御馳走になると、出てきたものはごく普通の料理だった。
まぁ、確かに大きな肉とか、テレビでしか見たことないような料理が出てきたことがビックリした。
そして、ずっと気になっていた学校はどうするのか聞いてみると、
「大丈夫だ」
リュウが一言だけそう言う。
ドコが大丈夫かまったくわからない。でも、帰る手段がわからないので言うことを聞くしかない。
「ま、ドンマイだな」
リュウ、お前が言うか。
そして今現在、ボク達のいるところはこの家の地下にある訓練場にいる。
メンバーはリュウに颯太さん、優子さん、坂崎さん、そしてボク。ちなみにレオはどっかへ散歩へ行ったらしい。
「では、訓練を始めましょう」
颯太さんの声によって訓練第一日目が始まった。
~数時間後~
もう、既にゴールが近い気がする。
そうか、これが明鏡止水の境地・・・!
「親父、ソラが変な悟りを啓きそうだ」
「まぁ、腐っても魔王の封印術ですからね・・・」
そう、現在ボクは魔王の封印術によって魔力の認識ができない。
坂崎さんもうまくいってないようだ。
「ちなみに、魔王さんの封印術ってどのレベル?」
「神がこの封印術を見たら裸足で逃げ出します」
神様を凌駕すんの!?
ドンだけすごいんだよ!?
「・・・・・ハッ!?」
突然に坂崎さんが目を見開いた。
・・・・・悟りでも啓いたのかな?
「わたし、悟りを啓いたよ~!」
啓いたらしい・・・・・。
「ドコの修行僧だ!?」
「いや、おそらくは魔力の認識ができたのかと・・・」
そーゆーことですか・・・。
てか、魔力の認識って結構適当なんですね。
「いや、そうでもないですよ。スズネさんはかなり筋がいいです。とりあえず、使ってみましょう。隆介。案山子を」
「うぃ。・・・お袋。案山子ってドコだっけ?」
「こっちよ」
頭の中を勝手に読まれた。
ボクのプライバシーは何処に!?
そして、準備ができた。
「どうすればいいんですか~?」
「まず、魔力を手に集めるような感じで」
「うんうん」
目を閉じて手に集中する坂崎さん。
その手が光りだす。
「そして、一気にあの案山子に向かって力を解き放ってください」
「どうやってですか~?」
「そうですね。ボールを投げる感じでしょうか?」
そんなんでいいのか。
ま、難しいことはおいおい教えてくんだろう。
「てい!」
いや、他に掛け声とかあるだろう。
なかなかにツッコミどころのある掛け声をかけながら投げるモーションをとる。
光球が手から離れ、案山子に着弾。
ポンッ!
軽い音が鳴るけど、何も起こらない。
「やっぱ、見本がいるんじゃね?」
「そうね。じゃ、隆介。見本を見せてあげなさい」
「え~。メンド」
「ご飯抜き」
「しゃぁー!やるぜ!」
優子さん強し。
「まず、手に集中」
リュウの手に高密度の黒い光が。
「そして、打ち出す」
モーションなしで手から黒い玉が飛び出す。
そして黒い玉が案山子に当たる。
「・・・え?」
と、思ったその時、ありえないことが起こった。
案山子に当たったはずの黒い弾丸が跳ね返った。
「ぎやぁぁぁああああ!!!」
そして、お約束。
リュウに直撃。
「リュウ、そんな器用なことしなくても・・・」
「しとらんわ!跳ね返ったんだよ!しかも反射でもされたかのように!」
「・・・颯太さん、優子さん。そんな加工みたいなのをあの案山子にしたんですか?」
「いや、ぜんぜん」
何かを考え込む優子さん。
「・・・鈴音ちゃん」
「なんですか?」
「さっきみたいに魔力を手に集中して、手をこっちに向けて」
「・・・?こうですか?」
「ていっ☆」
かわいらしい掛け声とともに、風の大津波とでもいえそうな、風の奔流が優子さんから放たれた。・・・って、オイ!?しゃれにならないレベルですけど!?
「優子!?何を!?」
焦る颯太さん。
リュウもビックリして目を見開いてる。
「きゃぁぁぁあああ!!」
悲鳴を上げる坂崎さん。
そして着弾。
すかさず優子さんが手を払うと、風が起こり、反射された爆風が相殺された。そして、手を前に突き出したまま呆然とする坂崎さんとボク達。
「・・・何が起きた?」
驚くリュウ。
そして颯太さんが言う。
「・・・・・優子。まさかとは思うがこれは・・・」
「そうね。私もビックリしたけど属性は『逆』としか言いようがないわね」
そういってやわらかく微笑む優子さん。
・・・って、オイ!
「あなたは何やってんですか!?」
思わずキレてしまった。
いや、友人に危害を加えられてキレない人っているの!?
「大丈夫よ。手加減したし。最悪、一週間ほど気絶するだけだから」
「どのあたりが大丈夫!?」
なんだか、この性格の悪さをどこかで見た気がする。
「まぁ、お袋はこういうやつだから。ま、おそらく、お前の好きなやつのピンチになんか都合よく魔力を認識できればいいな。とか考えてたんだろ」
「!?・・・・・友人としてはそうかもしれないけど、そこまで考えて」
「ないだろうな」
「・・・・・・」
・・・なるほど、さすがは親子。
このリュウを数倍ほど黒くすれば優子さんができるのか・・・。
「だが、坂崎の属性のほうが今のお前よりヤバすぎる。唯一属性とでも言えばいいのか?」
またまた新しい単語。
唯一属性?要するに、一人しか使えない属性?じゃぁ、何で坂崎さんは使えるの?
「簡単に言うと、過去にこの属性を使った人たちが数人いたんだ。文献に寄ると基本がさっきのように『反射』、あるいは『相殺』。他にもあるようですがまだ解明されてません。一つだけ言えることは魔法に対して最強の切り札となりえます」
要するにチートなんですね。わかります。
そして、あれだね・・・。キメゼリフは「その幻○をブチ殺す!」的な。
てか、相殺とか完全に『幻○殺し』だよな・・・・・。
「では、スズネさんは次のステップへ、ヒロシ君は引き続きここで同じことを。では、スズネさん、行きましょう」
「・・・・・・」
返事がない。まるで屍のようだ。
って、ンなわけないか。ボクは何気なく坂崎さんのいたところに視線を向けた。
「どうしたの坂崎さぁぁぁああああん!?」
倒れてました。
失神してます。
「あ~。魔力の使いすぎね。魔力=生命力に近いものがあるから。ま、気絶してるだけだから大丈夫よ。」
「なるほど。」
・・・・・・って、優子さん。
「あなたが原因でしょうがぁぁぁぁああああ!?」
「てへっ☆」
『てへっ☆』じゃねぇぇぇえええ!!!
ボクは思い切り突っ込んだ。
颯太さんは気絶した坂崎さんを見ると、一言だけ言う。
「これでは、スズネさんはもう無理でしょうね。」
まぁ、でしょうね。
さっきの話だと、魔力はイコールで生命力に近いものがある。そして魔力を使いすぎた坂崎さんは、魔力のセーフティが働いて気絶。休ませるのが妥当な判断だと素人のボクでもわかる。
「では、とりあえず客間に運んでおきますか」
そういうと、颯太さんは手を坂崎さんに向ける。
すると、忽然と坂崎さんの姿が消える。おそらくはリュウが使った瞬間移動の魔法を使ったんだと思う。
「では、ヒロシ君の訓練の続きといきましょう」
「でも、自分での認識は効率が悪いわね」
確かに、優子さんの言うとおり魔王の封印をかけられた状態のボクでは自分でやるのには効率が悪そうだ。
「やっぱ、どの属性かを知る機械とかがあるんですか?」
「んな都合のいいもんはない」
ばっさりとリュウが切り捨てる。
じゃ、どうしろと?
「と、言うわけで、ここは主人公のように自分の危機が迫って、突然に力が覚醒!という感じでやればどうかしら?」
・・・・・そんな都合よくできんの?
「まぁ、だめもとでもやってみましょう」
「じゃ、私が相手をしましょう」
「!?待て!お袋!ここはオレが」
「ご飯抜き」
「サーセン!!」
あわてるリュウ。
しかし、優子さん強し。
優子さんの隣で、そういうことか・・・。とつぶやく颯太さん。
ものすごくやな予感がする。
「ま、ヒロシ君。がんばってくれ」
「・・・骨は拾っといてやる」
・・・すみません。
死ぬことが前提になってますけど?
「では、はじめましょう」
ドコからか一振りの日本刀を取り出す優子さん。
「貴様を血祭りに上げてやる!!」
「・・・あの人、誰?」
「オレのお袋。名を間優子」
「もはや別人だろ!?」
「さっさとはじめるぞ!!オレ様が相手して殺るんだから感謝しな!!」
突然、人が変わったかのように大声で叫ぶ優子さん。
「優子はね。巷では『死を呼ぶ風の戦女神』と呼ばれ恐れられてるらしい」
何、その物騒な通り名!?
「まぁ、見ての通り、武器を持つと人が変わる。いわゆる戦闘狂だ」
いつの間にか安全なところへ移動した颯太さんが教えてくれる。
「ま、がんばれ、そして逝ってこい」
「絶対、字が違うよな!?」
「こっちから行くぜ!!」
「まだ、死にたくない!」
「ヒィハー!」
目の前に死神がいます。
やさしさを含んだ笑顔がいま、ものすごく恐ろしいです。
「だ、誰か助」
「ゴチャゴチャうるせー」
「ぎやぁぁぁぁあああああ!!!!!」
優子さんの攻撃を紙一重でかわし続ける。
―――side隆介
「・・・スゲーな。お袋相手に素人がかわしてるよ」
「確かに手加減をしてるとはいえ・・・ヒロシ君は何か武術をしてたのかな?」
目の前の戦闘を見て両者がつぶやく。
「ぜんぜん。ただ、あいつは無駄に防御スキルだけがレベルMAXなだけ」
「・・・それにしてもすごいね」
確かに、普通ならお袋の一撃をかわすとか素人には無理だが、それを目の前の人間が行っている。
だが、問題が一つある。
「あ~。イライラする」
・・・・・攻撃があたらないことにイライラしたお袋が手加減を忘れ、全力を出そうとすること。
「お袋~。さすがに素人相手に魔法は使うなよ~」
「誰が使うかっ!」
ソラから「助けて!」とか聞こえるような気がするが聞こえないフリをする。
自分の命のほうが大切だからな。
むしろ魔法を使わないように釘を刺しただけ感謝してほしい。
一歩的な戦闘は続く・・・・・。
―――side空志
日本刀がボクの頬を掠る。
血が出てきたのを感じ取った。
もう、何回目だろうか・・・・・。
ボクには守る術はある。
でも、攻める術がない。
そして何より、
「避けてるだけじゃ勝てねぇぞ~」
獰猛な笑みを浮かべる優子さんがものすごく怖いです!!!
でも、自分も体力がなくなってきた。
もうそろそろヤバい。
日本刀がボクに「逝け」とばかりに振り下ろされる。
回避!
そのときだった。ボクの足が滑ったのは。
「しまっ!?」
「そこっ!!!」
背中から地面に倒れていく。
がら空きになったわき腹に容赦ない一撃が放たれる。
「死んでたまるかぁぁぁぁあああ!!!」
ここでボクは最後の力を振り絞って覚せ・・・・・。
「ふんっ!」
「あべし!?」
「・・・ギャグか?」
できませんでした。
峰打ちされたわき腹に痛みが走る。
息ができない。
のた打ち回っているボクに優子さんは、
「オラ、覚醒すんまでやっぞ。立て!!」
「ひっ!!!」
思わず悲鳴が漏れる。
そして、刀が振り下ろされる。
「ぎやぁぁぁああああ!!!」
戦闘はボクが気絶するまで続いた。
気絶する瞬間に颯太さんとリュウがボクに合掌していたのは見間違いではないと思った。
作 「というわけで『拷問』をお送りしました!」
空 「違うよね!?訓練だよね!?」
作 「優子さんのアレを脳内でご想像ください」
空 「ぎゃぁぁぁぁああああああ!?」
作 「というわけで拷問を受けた空志君でした!」
空 「・・・」
作 「ちなみにこの空志君は作者自身がモデルです。そして物語には作者の日常も多分に含まれていて、かなり書き易い仕様になっております」
空 「作者も、こんな目に・・・」
作 「いや、これは面白そうだなと思って」
空 「・・・」
作 「次回!魔法が使えないへっぽこ空志君の運命は!?そしてあでゅー!」
空 「待てぇぇぇええええ!!」