14話・OVER DRIVE
―――side冬香
いきなりリカが叫びだした。
わたしとソラはそれを呆然と見ることしかできなかった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
壊れたテープのように言葉を繰り返す。
「リカ!!」
ソラがリカの肩をつかんで揺する。すると、リカはソラを虚ろな目で見る。
「・・・いや!!」
「リカ!!ボクだ!!ソラ!!」
リカは吸血鬼の力でソラを振りほどこうとする。
でも、ソラは決してリカを離そうとしない。
「≪大地の弾丸≫!!」
「チッ、≪発射≫!!ソラ!!」
わたしは敵に対処しつつソラに声をかける。
「アンタがリカをどうにかしなさい!!」
「わかってる!!」
さて、わたしは敵を倒す。そして、王子様にはお姫様を救ってもらおうかしらね。
―――sideリカ
アタシは吸血鬼だ。
闇の象徴。
でも、アタシは何もしていない。
ただ、生きるために人の血を吸った。
何人も、何人も。
それだけだ。
別に殺したりとかはしていない。
アタシは友達が欲しかった。
だから、人里に下りた。そこで仲良くしてくれる人に出会った。
毎日、日が暮れるまで遊んだ。
でも、ある日、アタシが吸血鬼であることがばれた。
「バケモノ!!騙してたの!?」
違う!!そう答えたかった。
でも、できなかった。どこかでわかってたんだと思う。アタシは、ウソをついていた。
・・・人間じゃなかった。
アタシはすぐにその里を離れた。
吸血鬼の掟を破ったことがバレたら大変なことになる。
いや、バレるだろう。その前に自分から出て行こう。そう思った。
その後、吸血鬼専門の殺し屋が来た。
アタシは怖くなって必死に逃げた。
そして、町を転々とした。
そこで、明るく笑う人間達を見た。
アタシは、ダメだと思いつつ、また仲良くなりたいと思ってしまった。
ただ、友達が欲しかった。
そして、また、友達となれた。
でも、またバレた。
「バケモノ!!」
みんなそう言う。
何回も。
アタシはついに人を信じられなくなった。
でも、心のどこかでは欲しかった・・・トモダチが。
コレを最後にしようと何回も思い。そして、何回も罵られ、殺されかけた。
・・・本当にコレを最後にしよう。
ある町で三人の子達に出会った。
楽しく会話して、買い物をして、いろいろ食べて・・・。
最高の時間だった。
「そいつの秘密を知ってるの!!」
バレた。
アタシはそう思った。
まただ。アタシは人を傷つけることしかできない。
もう、いっそのことここで死んでしまおうとも思った。
「リカが吸血鬼でしかも始祖の血族かもしれないってコト以外でなんかすごい秘密があるの!?」
アタシはこの言葉を聞いて驚いた。
そして、アタシは仲間になった。
一人の少年はアタシを身を挺してまで守ろうとしてくれた。そして、好きになった。
初めての友達だった。そして、好きな人。
毎日が楽しくなると思った。
でも、もし・・・。
「・・・・・・・・・・カ・・・・・。」
イヤだ!!
もう、イヤ!!
やっと・・・居場所ができたのに・・・また、無くしたくない・・・。
―――side空志
「イヤァァァァアアアアアア!!!」
「リカ!落ち着いて!!リカ!!」
ボクは暴れるリカを必死になだめようとする。
でも、吸血鬼の力で暴れるため、ボクは振り回されている。
「早くなんとかしなさい!この際方法は何でもいい!」
「たとえば!?できれば傷つけたくなぁぁぁああああ!?げふ!?」
「ここはアンタが王子様よろしく何とかしなさい!」
無茶苦茶な注文をありがとう。
そんなことをしたら、ボクは逃げる方法が思いつかないよ。全校生徒からの嫉妬攻撃からね。
でも、ここは背に腹を変えられないか?
どうすればいいんだ!?
「・・・最終手段よ」
「いい方法があるの!?」
「あるわ。わたしの後に続いて言って」
「わかった」
「ボクは・・・」
「ボクは」
「リカのことを・・・」
「リカのことを」
「愛している!!」
「愛している!!」
・・・ちょっと待てや!こら!
「アンタ人に何を言わせてるの!?」
「・・・ソラ?」
・・・・・・うそ~。
マジで正気に戻ったよ。なんで?
ボクは言ったとおりでしょという顔でムカつく笑みを浮かべる冬香から意識をリカにシフトチェンジ。
―――sideリカ
「そうだよ。落ち着いて」
アタシに優しい声をかけるソラ。
手をソラに包まれている。この手を放したくない。
『バケモノが人間と仲良くなれるわけが無い』
さっきの言葉が頭の中でリフレインする。
「もうイヤ!!みんなと離れたくない!!お願い!!ウソつかないから!!何でもするから!!」
「大丈夫。みんなリカの味方だよ」
「・・・違う。世界はアタシの敵・・・。アタシは闇の象徴だから。絶対的な悪だから、バケモノだから・・・イヤ、イヤァァァァアアアアアア!!!」
フラッシュバックする過去の光景。
もう、こんなこと思い出したくない!!
人間が怖い!!
そんなアタシを優しく抱きとめる誰か。
「大丈夫だから!!世界中が敵に回ってもボク等が・・・ボクが守るから。だから、大丈夫。リカは一人じゃないよ」
「う、うわぁぁぁぁああああああ!!!」
アタシは泣いた。
どのくらい泣いたのだろうか。
いつの間にかアタシは気を失った。
―――side冬香
「・・・≪水流の連弾≫!」
「≪発射≫!!」
金属の槍の次は水かい!!
ホントにこの人の属性がわからないわ。
・・・今は時間を稼いで王子様にお姫様の目を覚ましてもらわないとね。
そしたら、こっちの相手をしてもらえるし。
でも、ホントに大丈夫かしら?
わたしには、リカのものらしき魔力が今にも暴れだそうとしているのが感じられる。
だが、そう思った瞬簡にその魔力が鎮まる。
「やっとか。ソラ!さっさとコイツ・・・!?」
また、強大な魔力を感じる。さっきのリカの魔力なんか比じゃない。
その発生源がソラだった。
「何だ!!この魔力は!?」
「・・・冬香。リカを連れてみんなのところに行け」
「ハァ!?ちょっと、アンタ何言って「早く行け」・・・」
その声はやたらと静かだった。
でも、この言葉に逆らうとヤバい雰囲気がする。
わたしはソラの近くのリカを背負い、みんなのところへ急いだ。
この、尋常じゃないソラのことを伝えるために。
―――side??
「・・・いいのか?お前一人だぞ?」
俺は目の前のヤツに聞く。
だが、これは虚勢だ。
相手がこんな魔力を持ってるなんてまったく知らない。
いや、ここまで出したのが今日が初めてだ。
「関係ない。」
そういうとヤツは俺を見据える。
「・・・あいつは、リカはやっと、ボク等、五人以外の人と話せるようになったんだ」
ヤツは言う。
そう言いつつ、魔法陣を展開している。
それは、見たことが無い、黄色と緑の魔法陣。
それが右手の銃に吸い込まれるようにして消えると、銃には似たような紋様が現れた。
「でも、お前があいつを傷つけた。また、人を信じられなくするところだった!!」
魔法陣が光を増す。
「ボクは、お前を許さない!!」
「それがどうした?バケモノは所詮バケモノだ!!」
俺は魔法を展開させる。
さっきできなかった魔法だ。
足元には正五角形の魔法陣。
「・・・やれよ。そんなチンケな魔法、ボクが壊してやる」
「やってみろ!!五行魔法≪五芒星の一撃≫!!」
五箇所から光が迸る。
それは相手の周りを囲み、結界で逃げれないようにする。
そして、純粋な五つの魔力の奔流がヤツを襲う。
勝った!!
俺はそう思った。
「・・・核を解析。≪雷閃疾空砲≫!」
ヤツは見当違いのところを銃で撃った。
ありえなかった。
ヤツは魔法をたった一撃の魔法で俺の最強の、それこそ真言クラスの魔法をたかだか上級で打ち破った。
俺の魔法が強制的に破壊され、魔法が途切れた。
「・・・この程度か?コレなら≪月夜≫を出すまでもない」
「お前はなんなんだ!?」
俺には恐ろしかった。
目の前のヤツが。
オッドアイの、そして、蛇のような縦の瞳孔を持つヤツが。
ここは魔物の巣窟。バケモノの住処。そして、目の前にいるやつはおそらく人間。
だが、俺はヤツこそが真のバケモノだと思った。
―――side隆介
「・・・メンドイ」
「まぁまぁ、よかったじゃないですか。全生徒の無事を確認してください」
「みんな大丈夫~?」
「「「坂崎さんに看護してもらいたいです!!!」」」
ま、アホはほっとこう。
敵は瞬殺できた。
全校生徒への被害はゼロ。
説明しゅーりょー。
「でも、さっきやたら強い魔力を体育館から感じたよ?」
そういうのは多湖。
どうせ、誰かがでかい魔法を使ったんだろうとオレは思うぞ。
だが、そのときだった。普通では考えられないような魔力を感じた。
「・・・さすがにこれは・・・なんだろうな?」
「リューーーーーーウ!!!!!」
オレが声したの方向を向くとそこには冬香と冬香に背負われたリカ。
「どうしたんですか!?」
「リカちゃん怪我したの!?」
「違うけど違わないわね」
オレ達は冬香から事情を聞く。
それを聞いて、オレは血の気が引いた。
「お前ら!!すぐに行くぞ!!」
「どうしたの~!?」
「・・・危険なんですか?」
「そうだな」
できればそんなことになる前について欲しい。
「敵がソラに殺されるかもしれない」
―――side空志
「≪風火車輪≫」
ボクのスピードが飛躍的に上昇する。
ボクはそのまま銃についてる刃で切りつけようとする。
「なッ!?」
敵はそれをかろうじて避ける。
「何だその魔法は!?」
ボクが使ったのは風と火の魔法の組み合わせ。
この魔法は簡単に言うと足に帯のような魔法陣を展開し、ブーストダッシュをするというもの。何回でも使える。
ボクは再度ダッシュをする。
「≪火の壁≫!!」
敵は魔法でガードする。
ボクは次の魔法を解析。
そして魔法陣を展開。
「≪雷閃疾空砲≫!」
「≪大地の巨壁≫!」
ボクより先に敵の魔法が展開。
そりゃそうだ。ボクは展開が遅いのをわざと選んだんだ。
ボクの魔法が発動。すると、風を纏う雷の巨大な砲弾が高速で敵の壁に着弾。
その壁を貫通し、敵に当たる。
「がぁぁぁああああああ!!!!?」
「・・・」
ボクは敵を冷めた目で見る。
そして、魔法陣を展開させる。
「・・・・・や、やめろ・・・」
「・・・」
ボクは魔法を放つために声を出そうとする。
「ソラ!!」
そこで声が聞こえた。
誰だ?
そこにはリカを除いたみんながいた。
「・・・何?」
「何?っじゃねぇよ!!やめろ!!」
「そうだよ!!」
「ソラさん、やめてください」
「殺しちゃだめよ」
「・・・こんなやつ、死んで当然だ。≪雷迅≫」
「ヒッ!?」
「≪逆刺突剣≫!!」
ボクの魔法が当たる寸前に魔法が相殺される。
スズが消したのか。
「・・・邪魔をするな」
「ねぇ!いくらなんでもソラ君おかしいよ!!それに目だって・・・」
「・・・暴走ですか」
「それしかないな。感情の昂り。異常な魔力。決定的だな」
「よりによってアンタの!?最悪」
「・・・ゴチャゴチャうるさい」
ボクはみんなを攻撃し始めた。
―――sideリカ
目が覚めた。
・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ガバッ!
「キャ!?アンジェリカさん!!」
茜が驚いた声を出す。
・・・なんだかすごくやな予感がする。
あたりに異常なほど魔力が満ちている。
この感じは・・・ソラだ。
「ソラは!?」
「・・・・・それが・・・・・」
アタシは走り出した。
本能が告げている。
後ろから何か声を掛けられるがそれを無視する。
目的地にはすぐに着いた。
体育館。でも、すでに原形をとどめていない。
そこにアタシは飛び込んだ。
「ソラ!!」
そこにはおそらく暴走状態であろうソラがいた。
―――side隆介
『暴走』
それは簡単に言うと普段は適度に閉まっている魔力の栓が何かのきっかけによって壊れてしまうこと。そして、際限なく自分の魔力を放出し続ける。普段と違い、そいつのリミッターが外れた状態で魔法を使うため魔法が桁違いの威力になる。もちろん、魔力は無限じゃない。暴走が続くとそいつの魔力が切れ、命にも危険が出てくる。
そのために一番良い方法は、とにかく相手を気絶、あるいは正気に戻すこと。
だが、コレは時によってはとても難しい。特に怒りに我を忘れたときなんかだ。
今回のソラのケースを考えてみる。
まず、魔力に関しては問題が無い。ソラにとっては、だ。オレ達にとっては最悪としかいいようが無い。ソラは魔力じゃなくて外部魔力を暴走させている。原理はわからない。だが、ソラの命は保障されている。その反面、コイツは誰かが止めない限り辺り構わず破壊する兵器のようなものだ。それも核兵器に匹敵するレベル。
さらに、コイツがブチギレた時に一番危険なのがある程度の理性を保っていること。
つまりは冷静な判断をしつつキレる。そのため、周りの状況判断から何からすべて普段どおりの動き。だが、守りと攻撃の割合が9対1から4対6になる。
つまり、状況はこうなる。
「・・・正直、オレ達はこいつをなめてたようだな」
「・・・そうですね」
「・・・もう無理。魔力がない」
「・・・精神的に無理よ」
敵はいつの間にか逃げたのかもういない。
立っているのはオレだけ。後は息も絶え絶えに地面に膝をついたりしている。
ソラは強かった。
てか、チートだった。
こっちの攻撃は全てスキルで避けられる、あるいは障壁でガード。
だが、向こうの攻撃は新魔法ばっかり使ってきて、とっさの防御が間に合わない。
それにこの魔力量だ。勝てるわけがない。
今ならお袋を一方的にやれるだろうと思う。
それに、目がいつもと違った。オッドアイに加え、蛇のような縦の瞳孔だった。
・・・いったい、ソラに何が起こってるんだ?
「・・・終わりか?」
「いや、無理だな。まだお前を止めてない」
だが、正直もう体にダメージが蓄積しすぎてオレ以外にまともに戦えるやつがいない。
オレも限界が近い。
・・・奇跡でも起きねぇかなぁ。
「ソラ!!」
・・・奇跡か!?
いや、さすがに無理だろ。
「・・・≪雷閃疾空砲≫」
「リカ!!よけろ!!そしてお前はまだ戦うな!!逃げろ!!」
「・・・ッ」
リカはかがんでソラの魔法をやり過ごすと
そのままソラとの間合いを詰める。
「無理だ!!やめろ!!」
リカはオレの言葉を一切無視し、ソラに飛びついた。ソラが地面に頭を打つ。
・・・え?
なんでできたんだ?
「落ち着いて!!アタシ達は敵じゃない!!ソラの味方だから!!」
「・・・リカ?」
え~。
何このベタな展開。
・・・そういや、ソラは敵の攻撃は自分から受けにいかない限り傷を負ったことすらないよな。でも、それ以外。つまり、敵意のない攻撃に対してはほぼ皆無。
さて、今回を振り返ってみよう。
オレ等にも最初は敵意とかはそんなになかった。と、思う。
だが、あまりにヤバい魔法を使うから、そのうち全員殺す気で掛っていった。
リカ、敵意ゼロ。むしろ敵意を持てたらすごい。それで押し倒す。
正気に戻ったのはおそらく初めてこっちの攻撃(?)が通ったから。
・・・・・そういうことか・・・・・。
「ボクは?何を?」
「やっと、起きたか」
「リュウ?なん・・・」
「どうした?」
ソラはあたりを見回す。
・・・そうか!!ヤバい!!
オレはソラの肩をつかむ。
「ソラ!!これは「ボクのせいだね」・・・ッ」
遅かったか!?
こいつはあたりの魔法の痕跡をを見て自分が発したものだと確認をとったみたいだな。
「違う!!しょうがなかったんだ」
「・・・ゴメン。一人にしてくれない?≪風門≫」
ソラはオレ達の返事も聞かずに転移らしき魔法を使った。
だが、周囲にいるはずのオレとリカだけがそこに残された。
オレ達は呆然とするしかなかった。