3話・NISANCE PEOPLE
―――side空志
「準備はいいか?」
「大丈夫よ」
「私もです」
「アタシもオッケー」
「おやつは300円!」
「にゃ」
「小学校の遠足か!?」
GW初日。
ボク達(主に男子)は優子さんの戦闘訓練を乗り越えた。
で、今日は≪魔窟≫へ。
ホントはボクだけが行くつもりだったんだけどなんか気づいたらみんなで行くことになった。
「じゃ、魔法陣に魔力流すぞ~」
ちなみにここは寮の部屋の一角。
この部屋には魔法陣と台座のようなものがぽつんとあるだけ。
リュウはその台座の前にいる。何かの操作をしてるようだ。
リュウが魔力を台座に流す。
すると、魔法陣が光りだす。
目がくらむような光があふれたかと思うとそれはすぐに収まる。
気づくと、目の前には久しぶりに見る≪魔窟≫の南門だった。
「じゃ、ようこそ、我らが魔窟へ」
「んじゃ、ボクはログさんとこに行くから」
「オレは散歩でもしてるわ」
「わたしは探検(食べ歩き)してる~」
「わたしは本屋を回ってるわ」
「私は薬の材料を」
「アタシは・・・」
「ソラとデートしてろ」
「いや、で「わかった」・・・ログさんとこに行くんだけど?」
ボクの言葉を無視してみんなは思い思いの方向へ。
通りにはボクとレオ、リカ、通行人の方々。
「あ~、ボクは用事があるからその後で買い物だろうとデートだろうと付き合うよ」
「ホント!?」
うぉい!?
何故に必死な形相!?
「あ、うん、まぁ」
「約束だからね!!言うことなんでも一つ聞いてよ!」
・・・まさかの死亡フラグか!?
いや、リカに限って・・・いや、ひょっとして血を死ぬほどくれとか!!待て待て。リカには今朝もあげた気がするぞ!?てか、鍵掛けたのに部屋にいたよな。あれか?能力を使ってか。いや、そうじゃなくて!!!
「どうしたの?」
「・・・いや、何でもない」
考えてもしょうがない。
まずはログさんトコに行こう。
「じゃ、行きますか」
「オッケー」
むにゅん。
うん、肘の辺りに何かやらかい物が・・・・・・って!!!!!
「腕!胸!!」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
いえ、減ります。
主にボクの精神力が。
そして寿命が。
見てよ。周りの魔物の男性の方々の視線がヤバい。
「あぁ~。都市の英雄が吸血鬼の女の子とデートしてる~」
誰だ!!こんなことを言うやつは!!
声の主を探すとそこには衣服作成バカのエルフが。
「おっす。元気してたかい、少年」
「すみません。消し炭かミンチ、どっちがいいですか?」
厄介者の塊だった。
「テレんなって~」
ちょっかいを出すことに生きがいを感じるのよ!!という空気全快でボクに絡んでくるアリアさん。
何割か周りの目線が強さを増してる気が?
「ソラ。この女性は?」
「・・・リカサン、その怒気を収めてください。」
ボクはアリアさんのことを簡単に説明する。
すると、リカの怒気が収まる。
「で、ヒーロークン。前の彼女は?」
「食べ歩き」
「スズネのことか」
一瞬、またリカから何か殺気のようなものを感じた気がする。
「で、さっきからヒーローって何ですか?」
「知らないの?」
アリアさんの説明はこうだった。
前回の都市攻防戦で一騎当千の働きをしたヤツがいる。
という噂が流れているらしい。
でも、リュウが面倒なことになりそうだから優子さんの活躍って事にしたはず。
実際にあの人なら当千どころか万を越えそうだし。
で、一番の問題は。
「何でボクがそうだと思うんですか?」
「あれは優子さんが一撃でやったんですよ」
「ふふふふふ、おねーさんを甘く見ちゃいけないわ!」
・・・この人はホントになんなんだろう。
「一つ、優子さん。実は1対1なら無双だけど1対多だと結構苦戦するの」
「いや、苦戦は誰だってするでしょ」
「甘いわ!」
「・・・ソラ」
無理です。ゴメン。むしろ誰か止めてください。
「情報では敵を一瞬で殲滅したって事。二つ、ありえない魔法を使いまくってた。三つ、そのありえない魔法が間家周辺でも使われてたこと」
・・・この人の情報網は何!?
フ○ッツ光にでも入ってるのか!?
「そして、キミは一時期間家に住んでる。さらに・・・」
まさか、決定的な証拠があるのか!?
「キミはものすごい不幸体質よ」
「黙れよ!!」
「でも、その通りかも」
・・・泣いてもいいですか?
「で、答えは?」
「ノーです」
「ウソはやめなさい。シェルターにいなかったくせに」
「言ってみただけです」
「じゃ、あってるのね」
「・・・」
「ソラ、しょうがないよ」
「・・・はぁ、そうですよ」
「「「ちくしょぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」」」
「あんたら誰だよ!?」
いつの間にか周りにはすごい人だかり。いや、魔物だかり。
さっきの声は男性の方々のようだ。
「コレが主人公補正か!?」
「俺だって!!」
「種族は何だ!!」
「結構好みのタイプかも・・・」
「あんた!うちでメシ食ってきな」
「おれのヨメ!!」
場が混沌と化している。
ここは、逃げるか。
「リカ、逃げるよ」
「え~、わたしは~」
「黙れ諸悪の根源」
「でも、どうやって?」
こうする。
ボクは掌に魔法陣を展開。
その手を上に向ける。
「≪焔鳥≫!≪雷燕≫!」
ボクは雷と炎の鳥を放ち、空中パフォーマンスをさせる。
すると、感嘆の声を上げてその魔法に見入る通行人の方々。
「じゃ、行きますか」
ボクとリカはこっそりとその場を離れた。
ちなみに腕は組んだままだった。
「酷い目に遭いましたよ」
「そりゃ災難だったな」
ここはログさんの鍛冶屋、というか魔法道具店。
奥のほうの部屋でレオはいつものベスポジ。ボクとリカの前にログさんがいる。
「で、ボクはここでタダ働きをしろと」
「そういうことだ」
「でも、魔法具の作成は難しいって」
「いや、どうせ雑用でしょ」
「バカか。お前の才能でできる」
・・・あれか。
冬香の魔術機械直したときのやつ。
「ま、ものは試しだ。コレに俺の言うとおり魔法を組み込め」
そう言ってわたすのは一枚のカード。
何の変哲も無い金属でできたものだ。
「ここに四○元ポケット的な魔術を組め」
「いきなりご都合主義なアイテムかよ!?」
隣でリカは首をひねってるがとにかくやってみよう。
・・・メンドイな。
アレでいいや。空間を切り裂いてその裂け目に入れる的な。
いや、その門を召喚でいいか。
魔力の付与は冬香のときでわかってるし。
「・・・魔法陣展開」
現れたのは二重円の魔法陣。
とてもシンプル。
「魔術導入」
すると、魔法陣が端からほどけていって、カードに吸い込まれていく。
それは数分で終わり、カードを見てみると表面にはボクが出したのと同じ魔法陣が描かれていた。
「起動」
ボクがそういうと魔法陣が光り大きくなる。
とりあえずボクは財布の中にあった有効期限切れのクーポンをカードに近づける。
すると、カードにクーポンが吸い込まれる。
そして、ボクは魔法陣の中に手を突っ込み中に入れたクーポンを取り出す。
「できたよ」
「・・・本当か?」
・・・なんで驚いてるの?
「やっぱり、そんな魔法具は無いよね」
・・・。
「無いものを作らせたと?」
「ああ。少なくともコレが初めてだ」
「ソラはすごいね!」
いや、人外度がさらに上がっただけだ。
「いやぁ、ミスリルとオリハルコンと鉄の混合カードでここまでできるとはな」
「・・・何気にすごい単語が出たよね」
「ちなみにコレは結構安い。子供の小遣いで買える」
説明によると鉄が97%をしめ、残りでミスリル2%、オリハルコン1%で割りと作るのも簡単らしい。魔法具職人なら最初にコレの作り方を覚えるようだ。用途はボクがやったような魔法のカード、つまりは魔術符的な魔法使い以外の人も使える道具らしい。
「要するに一般的な道具って事ですね」
「そうだな、コレができなきゃ道具職人にはなれん」
「へぇ~」
「と、言うわけで作れ」
来ると思ってたよ。
「だが断る!!」
「現金にして「ごめんなさい」・・・わかればいい」
リカが同情の視線を送ってくる。
でも、ボクみたいな素人にできるわけが無い。
「とりあえず、コレとコレと・・・それだな」
ログさんは金属の塊をいくつか持ってくる。
一つは鉄らしきもの。そして銀のような塊。鉄に似た金属等々。
「作れ」
「説明無しかよ!!」
「お前なら適当にすればできるだろ」
無理です。
ログさんの説明によると魔法でカードを作ることができるらしい。
ログさんに教えてもらいつつ必死にカードを作ろうとする。
「・・・才能無いな」
「いや、造形は無理でしょ」
「ソラにもできないことがあるんだね」
ボクの目の前にはログさんに渡されたときのままの金属塊。
ログさんの言うとおりに詠唱したけどできなかった。
「いっそ魔法陣でやれ」
「・・・さっきの詠唱と同じ魔術構成を?でもどうやって・・・?」
「ソラが真言使うときみたいにすればいいんじゃない?」
そうか、その手があったか。
でも、アレは真言じゃないかもしれないんだよな。
ま、別にいいか。
「じゃ、やってみますか。・・・魔法陣展開」
現れるのは丸い円だけの何も描かれていない魔法陣。
「―――其は造形。
土より出でしもの達へ我は命令す。
我は土を司しもの」
・・・今、気づいた。
そういえばこの人はドワーフ。
コレってまさか。
「ドワーフ専用の魔法?」
「・・・」
「・・・うっかりしてたな」
「できるわけがねぇーーーー!!!」
テイク2。
今度はボクが一から作る。
つまり、さっきのを参考に魔法陣を人用に最適化する。
「・・・魔法陣展開。」
そこには複雑でいつもボクが展開する魔法よりもわけのわからない記号や文字、図形で構成された造形用の魔法陣がボクの体の前に。
そして、金属塊を囲むように別の魔法陣が自動的に展開される。
・・・ここからどうすればいいんだろう?
「操作方法とかあんまり考えてなかった・・・」
「お前アホだな」
「・・・ガンバ」
・・・なんか、こう・・・パソコンのウィンドウ的なもので操作できたらいいな。
ブウン!
目の前には青い光を放つウィンドウが。
いろいろなことが書かれていて、作りたいもの、大きさ、材料などを設定するとできるようだ。
「・・・お前は間抜けか?」
「ちゃんと考えてるじゃん」
いや、勝手に機能が拡張されました。
自分でもわけがわかりません。
・・・いや、まさかコレが『召喚』?
「・・・イメージの具現化?」
「どうした?」
「いや、なんでもないです」
ま、今は作業をするか。
とりあえず右手でウィンドウを操作。
形状、寸法、材料。
てか、ほぼボクの脳内イメージですべてできる。ボクが想像したことを勝手に反映してくれた。
なにこの便利ツール。
「こんなもんでいいですか?」
「とりあえずやってみろ」
設計図的なものを見せたらめんどくさがってログさんは見ようともしない。
いや、教えんでもお前はできるだろうと目が語っている。
「職務怠慢」
「請求するぞ?」
「起動!」
ボクはすぐに魔法陣を起動させる。
ウィンドウには『材料分解』の文字。そして、どの工程にいるのかを教えてくれる。
金属塊を囲む魔法陣から金属塊に帯のような物がまとわり付いて金属塊がどんどん分解されていく。
金属塊が消えるとウィンドウの文字が『合金製造』の文字に変化。
徐々に一つの大きな金属の塊が形を形成する。
また文字が変わる。今度は『造形』。
大きな金属塊が粘土のようにぐにゃりとゆがんだかと思うとカードが十数枚ほど出来上がる。最後に『完了』の文字が出てウィンドウと魔法陣が消えた。
「よし、お前明日からここで適当に作れ。コレは相当いい出来だ」
「もう決定事項なんですね」
「でも、ソラみたいに一日でできるようになる人なんてそうそういないよ」
へぇ~。
でも、コレってタダ働きのバイトになれって事だよね。
ログさんの店にすごく利益がありまくりな気がする。
「その魔法を使えば武器やその他の道具にも応用できるしな」
・・・武器か。
そういえば武器を使ってるのって今んトコボク一人だよね。
「・・・ログさん、みんなの武器も作っていいですか?」
「お前がか?みんなって言うとそこの彼女を含めた5人か?」
「まぁ。後、リカは彼女「です。」・・・違うだろ」
「・・・頼むから最終兵器だけは作るなよ」
「どんな心配だよ!?」
「ソラ」
リカが真剣な表情でボクを見る。
「犯罪者になってもアタシは見捨てないからね」
何でボクが最終兵器作ることが前提になってるんだよ!!
ボクはその後も少し講義を受けると、昼時にログさんから解放された。
「じゃ、約束の番ね」
「・・・ボクにできることで」
まだまだ続きそう。
作 「よし、主人公チート化計画絶賛進行中。」
空 「もうやめろよ!!」
リ 「約束はどーしっよかな~♪」
空 「果てしなく死亡フラグな予感!!」
作 「安心しろ。それなりに大丈夫。」
空 「え?珍しいね。」
作 「なハズ。」
空 「ボクの未来ぁぁぁぁあああああ!!!」
作 「そんなことより次回予告!!」
リ 「次回はアタシ達のデート!!」
? 「わたしが黒幕だ!!」
リ 「突然何!?」
作 「次回をお楽しみに。」