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DARK・MAGIC ~闇夜の奇術師達~  作者: 夜猫
7章 ≪魔法学園文化祭編≫
167/170

31話・UNSOLICITED

―――side隆介

 もう、意味がわかんねぇ。

 オレの役はソラとチェンジ。そして元のオレの所には影崎忍とかいうやつが出るはずだ。だが、目の前にいるのはどっからどう見てもオレの悪友の三谷空志、つまりはソラだ。


 「・・・何、で?」


 「・・・この私が相手です。卿の真の力で、この私を打ち破って見せよ!」


 何故か、ものすごくノリノリでオレに挑発のセリフを吐く。そして、心底楽しいといった表情で満面の笑みを浮かべている。

 ・・・もう、何がどうなっている?


 「お前は、保健室で・・・」


 「それとも何か?貴方はこの私に恐れをなして逃げるのですか?」


 そう言うとソラの姿がかき消えた。

 すると、オレの後ろにいるスズがきゃっと小さく悲鳴を上げた。

 そこを見ると、そこにはキザな仕草でスズに触れ、さらにセリフを続けるソラがいた。


 「では、姫は私のものと言うことで、よろしいのですね?」


 どうも、ソラはあくまでこの芝居を続けるらしい。

 なら、オレもそれに乗るしかない。オレもソラにならってアドリブでセリフを言う。


 「・・・何を言うのかと思えば。逃げる?そんなことはあり得ません。私はこの決闘の勝利を姫にささげ、この私の生涯を姫の為に捧げると誓いを立てたのですから」


 ソラがオレの言葉ににやりと笑う。

 ・・・・・・お前がそんな笑いをするとき、大抵はろくなことがない。


 「では、ここではいささか狭すぎる。我々の決闘の舞台にふさわしい場所を作りましょう」


 「・・・は?」


 オレは一瞬だけ意味がわからなかった。

 ソラがさっと指を振るう。すると、客席の椅子の下、一個一個に魔法陣が展開。次の瞬間には椅子に座っていた客が消え、闘技場の観覧席に移らされた。

 そしてアナウンスが入る。


 『大変申し訳ございませんが、魔法による怪我防止のため、ここからは観覧席からの観劇をよろしくお願いします。安全のためですので、なにとぞ、ご理解の方をよろしくお願いします』


 まるで図っていたかのようなタイミング。

 だが、オレは聞いていない。スズも同じなのか、その表情は驚きしか写していない。


 「これで、準備は整った。・・・さぁ、愛しの姫をかけた決闘を始めよう!」


 ソラは右手を前に出す。そこに現れたのは騎士剣。ただし、これは学園で借りる剣じゃない。オレはこんな剣を今まで見たことはない。しかも、明らかにポケットの腕輪から出している。

 オレは腰にさした刃引きのされている騎士剣を抜き、構える。

 その瞬間、ソラはオレに肉薄。キンと言う涼しげな音が響いたかともうと、次の瞬間にはオレの刃引きされた剣が半ばから斬られていた。


 「・・・おい、どういうことだ?」


 「さぁ、どういうことでしょう?」


 ソラはおどけてそう言う。

 オレ達の声は客席に届かないのか、小さな声で話したオレに対しソラは普通に話している。

 まぁ普通に考えると、だ。いくら刃引きがされているとはいえ、こんなに奇麗に斬ることなんか不可能なはず。そこから考えられること、そしてソラがポケットの腕輪から剣を出したという理由。


 「・・・まさか、ログのおっさんのか?」


 「ご名答」


 ソラは一言だけそう言うと、オレに剣を振る。

 オレはそれを紙一重で避ける。ただ、少しだけかすったのか、衣裳の一部に切れ込みが入った。


 「・・・マジ、かよ」


 「さぁ、卿が真の剣を取り出してみよ!そうしなければ、この私には勝てない!」


 ソラはまたも大きな声でアドリブのセリフを放つ。

 ソラは何かの移動魔法を使っているのか、異常なスピードでオレに肉薄してくる。オレは何とかして躱し、ソラに文句を言う。


 「お前、芝居の内容が間違ってるぞ!?」


 「・・・卿の、二つの牙をもってこの私を倒して見せろ!」


 再度の突撃。オレは何を言っても無理だと判断し、魔法を使うことを決意。


 「―――闇よ、彼の者を刺し貫け。

     ≪暗黒の刺剣ダークネス・スピア≫!」


 ソラの周囲の影がうごめき、そこから無数の黒い針が放たれる。一応全部ソラの体を傷つけないように、服を縫いとめる程度に抑えた。

 オレの狙い通りにソラはオレの黒い針に縫いとめられる。だが、そこからソラの姿がふっと消えた。

 さっきの変な魔法か・・・!


 「遅い!」


 気づけば、オレはソラに後ろを取られていた。

 ソラはその剣を普通にオレに振りおろそうとしている・・・!


 「っく、来い!」


 オレの言葉に双剣が応える。ソラは『二つの牙』って言ってた。たぶん、オレの双剣を使えってことなんだろう。そして腰に剣の重みを感じ取ったオレは、すぐに剣を抜き放ってソラの剣を双剣で防いだ。


 「・・・ふーん、リュウの剣がまた変化したね」


 「・・・」


 オレも今気付いたが、またオレの双剣が変化していた。

 片方が黒い刀身を持ち、もう片方がそれと対をなすかのように白い刀身を持つ剣。


 「『陰陽爪牙』、とでも命名しとく?」


 「・・・別にそれでいいけどな、お前は何がしたい?つか、さっきのはマジだっただろ?」


 「アレぐらい、いつものリュウなら余裕で防げたでしょ」


 ソラはこともなげにそんなことを言う。

 まぁ、確かにこいつの言う通りだ。こいつはいつもいやらしい攻撃しかしてこない。と言うかせざるを得ない。前衛系の戦闘方法を使うオレ達の中ではこいつの力が一番弱い。そのせいでオレ達よりも速く、かつ奇襲をすることがこいつの基本戦闘方法だ。

 さっきのように一直線にオレに向かってくるような攻撃は意味がない。むしろ、愚直なまでに攻撃が丸わかりな攻撃を防ぐことなんか簡単だ。


 「まぁ、これで第一段階は完了」


 ソラはそう言うと、≪風火車輪フウカシャリン≫以上のスピードでオレから大きく距離をとり、騎士剣を仕舞った。

 オレが何をするつもりだといぶかしんで防御の姿勢を取った。そして、それが命取りだった。


 「―――魔に属す力に命ずる。

     集いて力となせ。

     ≪真月シンゲツ≫」


 ソラの手元に魔法陣で構成された立方体が出現。そこに手を突っ込むと、そこから一振りの刀が現れる。

 だが、おかしい。この魔法には致命的な欠点がある。この魔法を使うときは、それ以外の魔法が使えない。正確にはこの魔法を使うために『魔法妨害ジャミング』の文字スペルを手に描いた瞬間に普通の魔法が使えなくなる。それこそ、ソラが自力でマナを完全操作でもできない限り。


 「不思議そうな顔してるね。まぁ種明かしをすると、ボクの目が第三段階に入った。これは始る三十分前にルーミアさんに確認したから確実だよ。まぁ、カレンさん達と合成獣キメラをやっつけたときにほぼ第三段階に入りかけてたらしいからね」


 「マジかよ・・・」


 ソラの≪月詠ツクヨミ≫には習熟段階があるらしい。そしてこれを成長させるには『月』の魔法を扱い続けることが前提条件。そして、ソラが本来使うマナの操作。これは本来なら第三段階からのスキルらしい。だが、こいつはマナを自分を通して使うことでそれを無理やりにクリアしていた。だが、第三段階に入ったってことは・・・!?



 「これで、ボクもマナの扱いが前より格段に上がった。術式≪断月ダンゲツ≫!」


 ソラが刀を素振りする。そこから白銀の斬撃が放たれ、オレに向かって飛んでくる

 本当、お前は何を考えている!?

 オレは剣を構え、魔法剣を起動。魔法剣≪黒刃≫。オレは二つを交差させ、剣に魔力を込める。


 「っく!」


 オレは真正面から受けずに、下から掬いあげるようにしてソラの白銀の斬撃を逸らす。闘技場に上を飛んでいくが、ここの結界に阻まれて客には被害はない。


 「さすが。けど、これなら?」


 ソラの武器が変化する。

 あの魔法の特徴で、使用者の意思に従って武器を換装することができるらしい。そしてソラが換装させた武器は『弓』。オレはそれを見た瞬間に嫌な予感がした。


 「術式≪五月雨サミダレ≫!」


 ソラは弓に何も番えずに弦を引く。すると、光が集まって矢の形になり、ソラはそれを放つ。貫通力に優れた白銀の矢がオレに放たれるが、途中で矢が幾重にも別れ、それ全てがオレを補足。捌くのは無理だと判断して避けようとするが、矢は当たり前のようにオレを追尾してきた。


 「っち!魔法剣≪闇矢≫!」


 オレは闇の魔力をその身にまとい、こっちからソラの白銀の矢の雨に突撃する。どうにかオレの魔法はソラの矢をはじき、ソラへと反撃を行う。


 「やっぱ、それぐらいはね!」


 ソラはまたもや武器を換装し、刀にする。

 そしてオレの剣を真正面から受ける。普段のソラの力なら受け止めることができないが、極端に≪身体強化フィジカル・ブースト≫の効果も得ている≪真月シンゲツ≫の発動中はリカやシュウに勝るとも劣らない膂力を発揮できる。


 「魔法剣≪闇十字≫」


 オレはさらに魔法を重ねる。

 闇の魔力を纏って突撃した勢いのまま、オレは十字に構えた剣を振りぬく。振りぬいた剣から黒い十字の斬撃が放たれ、ソラの刀がそれを受け止める。

 本来なら魔法には魔法でしか干渉できないが、ソラの刀はそれ自体が魔法陣で、魔法。そのせいで物理、魔法のどちらにも対応できるチートな魔法だ。

 ソラは剣に魔力を込め、そのまま黒い斬撃を斬り捨てる。そして返す刀の逆袈裟斬りで術式を起動し、オレに白銀の斬撃を見舞う。


 「この、やろう!魔法剣≪黒葬強襲≫!」


 オレの影がうごめき、オレとソラを包み込む。周りからはオレ達が黒いドームにでも閉じ込められているようにしか見えないだろう。

 そしてその中に閉じ込められたオレ達の視界は真っ黒。まるでこの空間が無限に続いているかのように感じられるだろう。

 まぁ、オレには関係ないけどな。オレは魔力で造り出した闇を操作。ソラの居場所を突き止める。そしてオレはソラに向かって攻撃する。


 「残念だけど、ボクも『視えてる』、よ!」


 ソラはその宣言通り、オレの攻撃を普通に受け止める。まさか≪月詠ツクヨミ≫がここまでできるとは・・・!


 「でも、これじゃ流石に観客の人達も納得いかないから壊させてもらうよ」


 そう言うと、ソラはオレが魔法剣で造り出した闇の空間を内側から術式≪断月ダンゲツ≫で破壊。たぶん、魔法の脆弱な部分を狙い撃ちにされたな・・・。

 オレ達の周囲の闇が消え、夕暮れの茜色がオレ達を包む。


 「まぁ、ちょっと夜には早いね」


 「・・・」


 こいつはいつものようにへらへらとしている。

 ・・・本当に、何を考えている?

 だが、考えても仕方がない。オレはそう判断して本気でソラに攻撃を仕掛けに行った。このままじゃ、確実に、それも一方的にソラからボコられて終わる。そんな理不尽は認められない。オレは剣を振りかぶり、それをソラに叩きつけようとした。だが、ソラの刀によって受け止められ、そこから激しいスパークが発生した。たぶん、オレの魔法剣≪黒刃≫と≪真月シンゲツ≫が魔法のせいだろう。互いに反発しあっているんだと思う。

 そしてソラはそんなオレの心情を読み取ったのか、オレの剣を受け止めてにやりと笑う。


 「・・・よしよし、やっとだね。そう来なくっちゃ」


 「お前、本当に何が目的だ!?」


 「まぁ、いきなりすぎるのも自覚しているし・・・・・・いいよ、教えてあげる」


 意外にも、ソラはオレとつばぜり合いをしたままそんなことを言う。オレはもっとじらされるものだと思っていたんだがな。


 「リュウ、よくドラマだと文化祭の最後で告白とかするよね?」


 「・・・」


 いきなり何でドラマの話をすると突っ込みたくなったが、それ以上にイやな予感がオレの第六感を刺激する。


 「まぁそう言うわけだから、リュウもそれと同じ経験をしてもらおうと・・・」


 「誰がするか!?オレは負けるぞ!?この劇の物語の根本を変えてでも無理やりに負けるぞ!?」


 何でオレがそんな恥ずかしいことをしなけりゃならん!?

 おそらく、ソラの目的はこれだ。オレがソラに勝つ。そしてお姫様と結ばれる。ついでにオレとスズも結ばれようぜ、みたいな感じだ。今までスズの気持ちことを適当にかわしてきたが、ソラはそれを無意味に理解したんだろう。自分のことはとてつもなく鈍感なくせに。とても鈍感なくせにな。

 そして、ソラは煮え切らないオレ達の関係に迷惑にも首を突っ込んで、しかも衆人観衆の目の前で逃げられないようにするつもりなんだろう。

 だが、これには穴がある。オレがこの内容を理解した時点で終わった。わざと負ければいい。そうすれば、劇の内容が根本から変わる。おそらく、周りの人間はこれを別な悲劇の物語にでも変えるんだろう。


 「大丈夫だよ。負けてもリュウはスズと結ばれるね。劇的にも現実的でも」


 「・・・」


 オレはこいつの戯言だと判断して力を抜く。

 正直、この攻撃は地味にかなり痛いと言う噂だが・・・・・・大丈夫なんだろうな?


 「リュウが負ければ、Dクラスの適当な男子がスズに告白するから」


 「死ねぇぇぇぇええええええ!」


 オレは逆に思い切り力を込めて、ソラを刀ごと吹き飛ばす。

 だが、ソラはにやにや笑いを続けるだけだ。


 「まぁスズは結構一途だし、その申し出を受けることは百パーセントない。けど、その男子が『何故、ボクじゃダメなの?』って聞いたらスズはどう答えるかな?」


 「おまっ、それが目的かよ!?」


 「まぁそう言うわけで、かませ犬になってあげるから頑張れ」


 「お前かよ!?Dクラスのとある男子ってお前かよ!?つか、リカに殺されるぞ!?」


 「・・・何で急にリカの話を?まぁ、準備期間中にリカにこの話をしたら、何故か血の涙でも流してそうな顔にはなっていたけど・・・」


 天然なSだった。と言うか、鬼畜すぎる。

 つか、準備期間中からの壮大な作戦だったのかよ!?Dクラスのやつもグルかよ!?つか、お前等ノリいいなオイ!?


 「まぁ、そう言うわけだからさっさと選ぼうか。カッコよく主人公な告白するか、情けないヘタレた告白をするか!」


 どっちにしろ、オレにはその二択しか用意されていなかったらしい。

 どうすればいい?このままやれば、確実に告白することになるぞ?いや、でも問題ってあったか?むしろありまくりだ。オレとスズは魔物と人間だぞ?けど、ジジイはそれで結ばれたよな?いやいやいや、だがオレは魔獣化見せてる。あの邪竜的な姿みて、怖がらないやつは、それこそ死ぬほど一途でもない限り無理だろう。待て、そういやスズって意外に一途って言ってるけどどうなんだ?つか、魔獣化と暴走を解いたのってスズだよな?明らかに自分死ぬかもしれないのにわざわざオレの顔に飛びついて・・・。


 「・・・」


 「・・・リュウ、どうしたの?」


 もう、わけがわからん。

 こうなりゃ、自棄ヤケだ。とりあえず、オレ達の問題にまで突っ込んできて、さらにはオレを殺す気でやってきた目の前のバカが気に入らない。

 強制排除の方向で問題ないな。あっても蹴散らす。

 オレは全身の魔力を高め、自分の体にその魔力を巡らせる。≪身体強化フィジカル・ブースト≫、オレは普段これを使わない。それこそ、お袋が相手でもない限り。へたすりゃ、殺すからな。

 オレの体からは、体から漏れた黒い余剰魔力があふれてきた。


 「・・・そう来なくっちゃね」


 ソラはそう言うと、≪真月シンゲツ≫を解除した。

 オレはその状況をいぶかしげに思って見つつ、警戒は怠らない。そしてソラは早口に詠唱を行うと、魔法を発動。


 「≪韋駄天イダテン≫!」


 ソラの体に弾けた緑の魔法陣の粒子がまとわりつく。

 それはすぐに消えるが、おそらく魔法はちゃんと発動している。韋駄天ってのは日本の神様の一柱で、ものすごく足の速い神様だ。だから、おそらくは≪風火車輪フウカシャリン≫の上位互換の魔法だ。さっき消えたようにしてスズの所に移動していたが、それも多分あの魔法のせいか。


 「まだまだ行くよ、≪武御雷タケミカヅチ≫!」


 ソラが展開した黄色い魔法陣を握る。するとそこから紫電が迸り、剣を形作る。

 現れたのは、紫電を纏った両刃の太刀。アレはカレンと『星』の女が乱入してきたときに使った魔法だな。術式は≪鳴神ナルカミ≫、突きの行動を行うことで雷の光線を放つことができる技。

 なら、要するにあいつのスピードと突きのモーションにさえ気を付けていれば・・・。


 「混成術式≪疾風迅雷シップウジンライ≫!」


 ソラがいきなり自分の武器であろう雷の太刀を、思い切り振りかぶって投げた。

 一瞬だけ何がしたいのかよくわからなかった。ただ、次の瞬間には雷の太刀がオレの視界から消えた。ますます不可解な現象にオレはついていけない。

 だが、そこで何故かものすごく嫌な予感。オレはなりふり構わずに魔法剣≪影討ち≫で、自分の影からソラの背後の影に移動。すると、そこにはオレの死角から紫電の槍がついさっきまでオレのいたところを通過して行った。


 「お前、殺す気・・・!」


 「リュウ、余所見は危ないよ」


 あんまりな魔法にオレはソラに文句を言おうとした。だが、ソラはオレに背を向けたまま言葉を遮った。そしてその意味を尋ねようとすると、今度はオレの真横から何かが迫ってくる気配。

 まさかと思いつつもオレは再び影から影に移動。

 今度は日の傾きによってできた影、闘技場の壁近くだ。ソラの方を見れば、そこにはまたも雷の槍が通った後。オレは確信した。

 この魔法、オレに当たるまで追尾してくる・・・!?

 そのオレの考えを裏付けるかのように再び迫ってくる雷の槍。どこから現れるのかわからず、今も上昇した身体能力にモノを言わせて何とか回避している程度。だが、何回も雷の槍がオレを掠る。

 そして、何十発もの不意打ちの魔法を何とかよけきると、オレはすでに息も絶え絶えな状況だった。


 「流石、これはあのフェイクも不意打ち喰らって全部当たってたのに」


 「これ、でも・・・『結界の魔王』の・・・孫、なんで・・・な・・・・・・・」


 だが、正直つらい。

 身体強化してなおこのザマだ。奇襲性、威力、どれも魔王クラスじゃないやつに使えば確実に死ぬレベルだ。いや、魔王ならばこの魔法に当たらないのかもしれないけどな。


 「さて、これで主役ヒーローは崖っぷち。敵役をやっつけるためにどうする?」


 ソラはどこか酷薄な笑みを浮かべてオレを見る。

 つか、こいつってこんなにドSだったか?・・・いや、ひょっとするといろいろとストレスがたまっていたのかもしれない。オレの脳裏にはソラがオレ達にさんざんいじられまくっている光景がよぎる。

 ・・・・・・よし、今度からはほどほどにしておこう。


 「どうする、騎士様?」


 そう言うと、ソラはボロボロなオレに向かって駆け出す。

 ≪建御雷タケミカヅチ≫の方は消えてなくなったが、≪韋駄天イダテン≫の方は発動し続けているみたいだ。疾風の如くを地で行くスピードでオレに肉薄。そして掌をオレの前につきつける。


 「≪風玉カゼダマ≫」


 ソラの掌に風が一瞬で圧縮される。そしてそれが解き放たれる。ソラの掌を中心に暴風が発生し、オレはその衝撃に吹き飛ばされる。


 「けどなぁ、舐めるなよ!」


 オレはすぐさま魔法剣≪影討ち≫を使う。そしてソラの背後に出現。

 だがこれは幾度となくソラ達に使ってきた技。たとえ不意を突く形で背後に現れても、生半可な攻撃では簡単に防がれることがわかりきっている。


 「でも、今回の件でオレの封印の一部が壊れてんだよ!」


 オレは双剣に魔力を込め、構える。


 「魔法剣≪竜爪裂牙≫」


 今までに使ったことのない魔法剣。そりゃそうだ。くどいようだがオレの属性は『闇』、特性は『浸食』。それはどんな色をも黒くしてしまう魔法。そのせいか、オレの魔力はオレ自身に浸食する。そして魔法とはイコールで生命力と言う限りなく等式に近いものが出来上がる。だが、魔法を使うことにはもう一つの要素がある。

 『感情』だ。

 魔法の威力は魔力のほかにも、感情が昂ぶっている時の方が強いことが証明されている。

 魔法も怯えの感情で使えば発動しないと言うことが多い。ここからは心理学的な要素が大きくなるから詳しくはわからないが、たとえば喧嘩をしたときでも相手に恐怖しているよりも、怒りに身を任せていた方が強い力が出ることがある。それと似たようなものだ。

 そして、暴走は魔力と共に感情を暴走させてしまう。言ってしまえば暴走は自分の魔力に乗っ取られてしまったと言い換えてもいいのかもしれない。そのせいか、オレ達『闇』の属性持ちは感情に身を任せてしまうと魔力が活性化し、特性である『浸食』で簡単に乗っ取られる。

 だから、魔物で普通の人間よりを遥かに超えた魔力を保有するオレが暴走なんてすれば、どうなるかなんて火を見るより明らかだ。だから、ジジイはオレに魔力を制限する封印をかけた。だが今回はあまりの出来事にオレの理性も崩壊し、感情のままに暴れた。そのせいかオレの胸に描かれたジジイの魔法陣がうまく起動していない。だから、今のオレは普段よりも魔力があふれている。だから、普段は使えない魔法剣も使える。

 オレの魔力の黒い刃が更に黒く染まる。今まではかろうじて刀身が見えていたが、それすらも見ることができなくなる。だが、変化はオレの予想を超えた。

 普通なら黒くなるはずの魔力の刃の片方が白くなった。それは、オレの剣の刀身が白い方だ。どういうわけか、剣と同じ色になってしまったらしい。

 まぁ、これは今度検証するとして、今はあのクソむかつく悪友バカをぶっ飛ばす。


 「魔法剣≪竜刃裂衝≫」


 オレは双つの剣を軽く振る。

 すると、その斬線に沿っていくつもの黒い槍が現れ、放たれる。


 「うぉっ!?術式≪颯天ハヤテ≫!」


 ソラは若干驚いたのか、変な声を上げつつも避ける。と言うか消えた。

 たぶん、さっきの術式≪颯天ハヤテ≫でいきなり消えたり、現れたりしていたんだろう。

 そしてソラはまた唐突に現れる。だが、位置がさっきの場所から数メートル程度の距離だ。

 ・・・・・・どういうつもりだ?


 「なるほどね。力をセーブしてるとは聞いてたけど、まさか龍造さんの封印魔法使われていたんだ。≪月詠ツクヨミ≫でも全然わからなかったよ・・・・・・所でリュウ、ボクが何で風系の攻撃魔法をあんまり使わないか知ってる?」


 ソラが突然そんなことを言いだした。

 ソラは普段から見てわかるよう、風系の攻撃魔法をほぼ使わない。つーか、オレが知っている風の攻撃魔法は≪鎌鼬カマイタチ≫、≪千刃嵐センジンラン≫だけだ。いや、≪雷閃疾空砲ライセンシックウホウ≫を加えれば三つ。だがさっきの≪風玉カゼダマ≫なんて魔法は初めて見た。

 後は雷系の魔法しかない。まぁ、雷の方がスタンガン的な感じで気絶させられるからこれを多用しているとオレは思っていたんだが、まさか別に理由があるのか?

 ・・・そういや、こいつが最初に魔法を教わったのはお袋だったなと思いだす。

 ・・・・・・・・・・・・・・・ヤバい。何故か本能的にそう思った。


 「・・・おい、オレはいまものすごく嫌な予感がしてるぞ?」


 「まぁ、あってるんじゃないかな?リュウも知ってのとおり、ボクはまず優子さんから魔法を教わった。しかも、優子さんは『風』のプロフェッショナルな魔法使い。その上位属性を持つボクが優子さんから風系統の攻撃魔法を教えてもらってないっていうのは変じゃない?」


 「だ、だけどな、お袋はアレだぞ!?だから、まずは魔法より先に体を・・・!」


 「本当にそう思ってる?」


 「・・・」


 残念だが思えない。

 お袋は確かに無茶苦茶だが、やることはきちんとする。それに、あの時のソラの目的は魔力のコントロール。それを覚えるには魔法を使うのが手っ取り早い。お袋がそれをしないはずはない。


 「まぁ、優子さん驚いてたよ。『風』の適性が異常に強いって言ってたから」


 「・・・は?」


 オレはソラの言ってることの意味がわからなかった。

 だが、聞きようによっちゃ、ソラの『天空』の『風』部分の属性がお袋よりも適性がある?

 まず、多重属性デュアル持ちや、上位属性には適正と呼ばれるものがある。簡単に言えば自分の得意な属性がどれかってことだ。でだ、あいつが言うには魔法だけならお袋を・・・。


 「魔法陣展開」


 ソラは完全にオレを無視して魔法陣を展開。

 緑色の、とても複雑な魔法陣だ。ただ、オレはこれに似たようなものを見た気が・・・。


 「まぁ、流石に優子さんを超えるっていうのは無理だけど、ごく普通の一般人ならわりと楽に切り刻めるって判定を喰らったよ」


 「お前、まさか今までは危険すぎて使わなかったのか!?」


 「そ。だから、この魔法を使うのはちょうど召喚魔法を覚えてから、一度優子さんに見てもらったきり使ってないね。・・・≪風魔鼬霊カマイタチ≫」


 ソラが魔法名を言い、魔法が発動。魔法陣を中心に一陣の風が通り過ぎる。すると、魔法陣から三つの影が飛び出してきた。

 そいつらは見た目はイタチだった。尻尾に鎌が生えていることを除いて。


 「よー。あんちゃん」「久しぶりじゃねーか」「かー!」


 しかも、しゃべった。

 いや、最後はどうなのか微妙だけどな。


 「はいはい。久しぶりだね」


 「おう!呼んでくれないから」「退屈しちまったぜー」「ぜー!」


 「いや、呼んでも相手の人が危険だから」


 何故かものすごく和やかな会話をし始める。

 そして、三匹のイタチはそのつぶらな瞳をオレにロックオン。


 「あんちゃん」「やるのはアレか?」「かー?」


 「うん。まぁ、殺さない程度にしてくれたら何しても大丈夫だよ」


 さらりと恐ろしいことを言うバカ。

 だが、イタチ達はその言葉を聞くと、何故かソラの周りをぐるぐると走り始めた。


 「やっほーぅ!」「出番だ出番だ!」「だー!」


 超喜んでいた。


 「まぁ見てわかるとり、この子たちはカマイタチ」


 「俺がいちろー」「俺がじろー、これがさぶろー」「いぇーい!」


 「この子たちは常に同じ順番で話してるから、すぐにわかるよ」


 「へへっ、甘いな。さっき最初に」「話したのはさぶろーだ」「だー!」


 「・・・本当?」


 「嘘だ」「嘘だな」「なー」


 「・・・まぁ、本物のカマイタチよろしく悪戯も大好きみたいだから」


 「そんなのもちろん」「大好きに決まってる」「るー」


 ソラははぁとため息をつくと、オレを見据えてカマイタチ達に言った。


 「じゃぁ、適度によろしく」


 「がってん」「承知」「だー!」


 そう言うと、カマイタチ達がオレに向かって飛び出してきた。

 オレはとりあえず剣を構えるが、カマイタチ達はオレの周りをぐるぐる回り始めた。


 「斬り裂け」「颶風」「すぱーん!」


 そう言うと、カマイタチ達はぴょんと地面からジャンプ。そして体を丸めてぐるぐると縦回転し始める。そして一瞬だけ宙で制止すると、その小さな体でオレに突進してきた。

 オレはとっさにその一つを剣で斬りつける。あんな毛玉はこの剣でも十分に斬れる。そう判断して一匹を斬り捨てんばかりに振るった一撃だったが、キンと硬質な音を響かせてあらぬ方向へと弾き飛ばされた。


 「余所見は」「命取りだぜ」「ぜー!」


 オレの背後と右側面から攻撃。オレは一匹を剣で払い、もう一匹を蹴る。

 だが、蹴った方の足から何かが裂ける音が聞こえた。見てみれば、衣裳の一部が切り裂かれていた。


 「あれ?」「変だな?」「な?」


 カマイタチ達は何故か疑問の声を上げる。

 そしてオレは気づいた。そういや、こいつ等の尻尾には鎌がついてる。≪身体強化フィジカル・ブースト≫のおかげでか、オレの足は切り裂かれなかったみたいだけどな。


 「まぁ、いい」「ちょっと強くすればいいだけだもんな」「なー」


 そう言うと、カマイタチ達がうんと頷き、その場で三匹で輪を作るようにぐるぐると回り始めた。


 「踊れ、舞え」「三匹で」「でー」


 さっきから思っていたんだが、こいつらが言いながら何かしているのって魔法の詠唱か?いや、だってこいつ等自身が魔法なのに、魔法が魔法を使うってのはあり得るのか?


 「くるくるくるくる」「ひゅーひゅーひゅーひゅー」「どっかーん!」


 いや、最後のが絶対におかしい。

 少なくとも、このノリで爆発するような魔法が発生するわけが・・・。そう思ったその時、カマイタチ達の周囲の風が突然暴風の如く吹き荒れた。

 そしてその暴風は竜巻になり、オレを飲み込まんと迫ってくる。オレはとっさに自分の影に魔法剣≪影縫い≫を使い、吹き飛ばされないようにする。

 すると、竜巻はオレを竜巻の目に捉えるとそこで止まった。これ以上動く気配がないと判断するとオレは≪影抜けシャドウ・パス≫で剣をオレの影で包みこんで抜く。魔法剣≪影縫い≫を解除できたオレは周りを見渡す。

 さながら風の牢獄とでも言うべきか、風の向こう側が見えない。それに出て行こうにも、オレの体がミンチにもされそうで嫌な予感がする。

 そこでオレは周囲の何かがキラーンと目を光らせた気がした。


 「突撃ー!」「行くぞー!」「おー!」


 まぁ案の定、カマイタチ達だった。無駄に気合いの入った声と共にオレに何かが放たれる。

 毛玉が見える。オレは剣を交差させてガードするが、毛玉はそのオレの剣を躱し、あらぬ方向から攻撃を仕掛けてくる。

 オレは転がるようにして避けるが、毛玉が次々にオレに襲いかかってくる。


 「いい加減に、しやがれ!」


 オレは剣を構える。

 そしてオレは剣に魔力を込めて一回転。


 「魔法剣≪竜葬乱舞≫!」


 オレが剣を振るった所からいくつもの黒い斬撃が不規則に放たれる。


 「ぷぎゃ」「あば」「いたー!?」


 オレは別に狙ったわけじゃないが、カマイタチ達にも当たったみたいだ。

 毛玉が竜巻の外に吹き飛んでいき、黒い斬撃は竜巻をも切り裂く。そしてオレはやっとソラと再び対峙した。


 「てめぇ・・・!」


 「ギリギリ、間に合わなかったね」


 ソラがオレの言葉をさえぎるようにして言う。オレが何がだよと聞き返そうとしたとき、ソラはその手を空に向けた。

 オレもつられてみると、そこにはヤバいものが広がっていた。そこにあったのは魔法陣。それは空を埋め尽くすように展開されていた。


 「これで、ちゃんとした『天空』の真言が使える」


 そう言うと、天に浮かぶ魔法陣が突然色をつける。それは、夕焼けの茜色にはっきりと浮かび上がった。


 「≪裂空天衝破レックウテンショウハ≫」


 空色の魔法陣が弾けた。


作 「というわけで『お節介』をお送りしました!」

リ 「・・・ずるい」

作 「まぁ、安心しろ。君は当分ないから」

リ 「・・・」

作 「さぁ、リカちゃんが殺気を帯びてきたところで次回!」

リ 「リュウはかっこよく告白できるの?」

作 「さぁ?それに勝ってもかっこよくできるのか疑問・・・。次回もよろしく」

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