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DARK・MAGIC ~闇夜の奇術師達~  作者: 夜猫
7章 ≪魔法学園文化祭編≫
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28話・DEAMON ARRIVES

―――side空志

 相手が使ったのは邪法。

 呪力を使って行使する魔法。あまりに危険な魔法なため、禁忌扱いの魔法だ。さっきまでの魔法なら何とか解析できていたけど、この魔法はどういうわけかできない。対抗するための魔法も思いつかない。


 「―――邪なるものを退けよ。

     ≪精霊の絶対盾スピリット・ガード≫!」


 ルーミアさんが魔法を使う。

 それと同時に自動的に複雑な魔法陣が展開され、ボク等を守るための盾になる。

 フェイクが指をボク等に向けた途端、黒い雨が降った。

 魔法陣から次々に黒い槍が放たれ、それら全部が必殺の威力を持っているのが安易にわかる。

 それでも、ルーミアさんの魔法はフェイクの攻撃を防ぎ切った。ただ、その代償はひどいものだった。ルーミアさんは地面に片膝をつき、体が半透明になりつつあった。


 「ルーミアさん!?」


 「問題ない、少し自分のマナを使いすぎた」


 「ダメじゃないですか!?」


 精霊は、要するに意思を持ったマナだ。

 精霊が死ぬっていうことは、その身に宿したマナをなくすということ。ルーミアさんは文字通り死力を尽くして戦っていたんだろうと思う。


 「本当なら、周りの精霊の力を借りるのだが、あれでは頼んだ精霊達を殺してしまうと直感した。それに、これは一時的なものだから大丈夫ぢゃ」


 「そんなことを言ってるんじゃないです!」


 本当は、もっと決定的なダメージを与えるときに使いたかったけど・・・。

 ボクはそう思いつつ魔法陣を展開する。それと、昨日使った時点で判明した短所を埋めるべく、ボクはポケットからゴーグルを取り出して装備。

 これで準備は整った。


 「―――その身に風を纏え。

     ≪韋駄天イダテン≫!」


 緑色の魔法陣が弾け、ボクの体に緑の魔法陣が纏わりつく。それはすぐに見えなくなる。けど、これでもちゃんと魔法は発動している。

 ボクはこの魔法を使ったまま移動。≪風火車輪フウカシャリン≫に勝るとも劣らないスピードで回り込み、相手の背後から不意打ちを食らわせる。


 「≪鎌鼬カマイタチ≫!」


 風の刃が魔法陣から放たれ、フェイクを襲う。

 フェイクはボクに背中を見せたまま、何かをつぶやく。すると黒い壁がフェイクを守った。ボクはさらに魔法を重ね続ける。


 「≪風円刃フウエンジン≫!」


 風が渦巻き、いくつもの風のチャクラムを作り出す。それを操作し、ボクは相手の側面にこの魔法をぶつけようとする。

 フェイクはその攻撃に対して黒い槍のようなものを発射する魔法を持って迎撃。しかも威力が高いのか、ボクの魔法を破壊しつつもボクに向かって黒い槍達は殺到する。


 「術式≪颯天ハヤテ≫!」


 ≪韋駄天イダテン≫の術式を起動する。

 相手からしてみれば、ボクの姿はいきなり消えたようにしか見えない。まぁ、それもそのはずで、この魔法は≪風火車輪フウカシャリン≫の上位互換魔法で、≪風火車輪フウカシャリン≫のスピード、さらには空中に立つ、と言うか空中歩行が可能。

 そしてこれの術式がある意味最速の移動術、『転移』だ。制約としてはボクの視界の範囲内で、転移可能距離はおよそ十メートル。何回でも即座に発動できるため、かなり使い勝手はいい。これを使ってボクはカレンさんのあの攻撃も避けた。

 ボクはその術式を使いつつ、別の魔法を起動する。


 「―――神鳴カミナリの太刀。

     ≪建御雷タケミカヅチ≫!」


 手に現れた巨大な雷の太刀をフェイクに叩きつける。

 フェイクはそれに対しても黒い光の剣を取り出してボクの雷の太刀を防ぎ、ボク等はつばぜり合いをすることになる。


 「・・・なるほど、≪韋駄天イダテン≫とやらであの時は移動したのか」


 「あの時見ていたの、魔王のくせに!」


 「魔王とて、祭り好きなバカもいる!」


 フェイクが力任せに剣を振る。ボクはその力に逆らわず、わざと吹き飛ばされる。そして≪韋駄天イダテン≫と≪建御雷タケミカヅチ≫が発動している、この状態限定で使える術式を起動。


 「混成術式≪疾風迅雷シップウジンライ≫!」


 ≪韋駄天イダテン≫の術式を≪建御雷タケミカヅチ≫に使う。それに構わずボクは雷の太刀を槍投げのように投げる。

 すると雷の太刀は紫電を迸らせながらフェイクに向かう。その瞬間に雷の太刀が消え、代わりにフェイクの後ろから現れて強襲する。

 すんでの所で避けられなかったフェイクは紫電をモロに受け、その身を焦がす。でも、術式はまだ終わらない。雷の太刀に込められた魔力が尽きるまで、突然現れては地面をえぐりつつフェイクを四方八方から襲う。

 ・・・・・・まさか、ここまでえげつないものだとは思わなかった。これも人間と魔物相手には使えない。

 フェイクの周りには土煙りがもうもうと舞っている。すると、後ろから声が聞こえた。


 「ソラ!」


 「三谷殿!」


 いつの間にいたのか、カザハと忍がいた。

 二人はやったな!とか言いながらボクに駆け寄ってくる。


 「来ちゃダメだ!」


 この程度で、あの自称魔王がやられるわけがない。

 そして、それを裏付けるかのように魔力が高まるのを感じる。


 「・・・邪魔な人間どもだな」


 本能的に二人がヤバいと感じた。

 ボクは≪韋駄天イダテン≫で周囲の景色を置き去りにするようなスピードを出す。そして二人の前に立つと魔法陣を展開。


 「≪月守ツキモリ≫!」


 それと同時に土煙りの中から黒く、細い光線が放たれる。

 ボクはあえて魔法陣の盾を斜めに構え、黒い光線を受け流そうとする。ただ、相手の魔法は貫通力に優れていたのか、簡単にボクの盾を貫通させた。

 一瞬だけ訪れる静寂、そして脇腹あたりに違和感を感じて見てみる。そこには小さいながらも、穴を開けた自分の腹が見えた。

 どうも、人間はあまりに痛すぎると痛覚がマヒしてしまうらしい。そしてそれを認識したとたんに、徐々に痛みを感じた。


 「っ・・・あぁ・・・!」


 「・・・逸らしたか」


 片膝を地面につくボクに対し、土煙りの中から悠々と出てくるフェイク。

 多少のダメージを与えられたのか、体からはぱちぱちと静電気が発生している。ただ、それも大したダメージではなさそうだ。


 「二人とも、逃げて・・・」


 「お前、何言ってんだよ!?」


 「私達のせいで怪我を・・・」


 「≪風門フウモン≫」


 ボクは風の転移魔法を使う。

 ボクは問答無用で二つの魔法陣を二人の足元に展開。そして二人は次の瞬間には消えていた。

 闘技場に送ったから、大丈夫なはず。


 「もう、おしまいか?」


 痛みで頭がもうろうとしてくる。尋常じゃないくらいに痛い。フェイクはボクに何を聞いても無駄だと思ったのか、掌を上に向ける。


 「―――、―――、――――。

 これぐらいは、何とかしろ。そうじゃなければ、面白くない」


 ボクの頭上に、毒々しい黒の魔法陣が展開される。

 どうも、この人がさっきから使ってるのは、上位の中でも自動で魔法陣が展開される部類の魔法らしいと、この期に及んでどうでもいいことを考えた。


 「≪―――≫」


 未知の言語を言うと、魔法陣が黒い輝きを放つ。

 そして、今にも発動しようとしたその時だった。フェイクに向かって何かの閃光が走る。魔法の発動に集中していたフェイクは不意を打たれつつも回避。けど、魔法の発動は止まらない。そこで、ボクの周りに六角形の盾のようなものが展開される。それと同時にフェイクの魔法が発動するけど、六角形の盾がその魔法を無効化する。


 「ソラ!」


 「ソラ君!」


 聞き覚えのある声が二つも聞こえた。しかも女子。このタイミングなら、おのずと答えは決まってくる。


 「リカとスズ・・・よかった」


 「そっちはよくない!」


 「ソラ君、無茶しすぎだよ!」


 二人の女子から説教を喰らった。

 心なしかレオも『お前はまた・・・』と言う目で見られている気がする。


 「ソラ、大丈夫なの!?」


 「大丈夫、ちょっと激しいダイナミック脂肪吸引だと思えば・・・」


 「優子さんの訓練でソラのお腹には余分なお肉がついないことぐらいわかるよ!?」


 まるで見たことがあるかのように言うリカに小一時間ほど問いただしたい気が起きないでもないけど、今はどうしようもない。


 「とにかく、スズが平気でよかった」


 「ソラ君が大変だよ!?しかも、それはレオ君だよ!?」


 ・・・おかしい。ボクはまっすぐスズを見ているはず。


 「汝も、無茶をしすぎぢゃ」


 そう言いながらボクの近くにルーミアさんが現れる。

 まだ向こうが透けて見えるけど、さっきよりかはマシになっている。


 「ルーミアさんも大丈夫なの!?」


 「それよりも、汝が利用されなんでよかった」


 ルーミアさんはスズの姿を見てほっとした表情になる。

 けど、戦況的にはいろいろと絶望的すぎる。足手まといが二人に・・・。


 「リカ、魔力がないよね?」


 「・・・うん」


 リカの魔力がどういうわけかゼロ。魔力は全快っぽいけど攻撃手段を持たないスズ。そして、疲労困憊のレオ。今にもライオンへの変身魔法が解けてしまいそうだ。


 「ふむ、邪魔が入ったがその程度。俺にとっては造作もない」


 実際にその通りなんだろう、フェイクからは余裕しか感じ取れない。

 魔王は、こうもチートしかいないのだろうか?


 「ならば、この俺ならどうだ?」


 聞きなれない声がしたかと思うと、フェイクはいきなりバックステップを踏む。

 いきなり現れたのは、かなり年のいってそうな老人。普通じゃないのはすぐにわかった。しかもボクの目で見てみると、魔力の量がそこらの人とはケタ違いだ。と言うか化け物と表現するほかにない。

 そんな人物であるにもかかわらず、ボク等の全員が老人の乱入を察知できなかった。


 「貴様は・・・」


 フェイクが何かを言おうとした瞬間、老人の姿がかき消える。

 すると、フェイクも目にもとまらないスピードで踊るような動きをし始める。一体、何が起きてるの?


 「よかった、間に合ったかのぅ!?」


 「へいへいへーい!この舞さんが来たからにはもー大丈夫!」


 ややもうろうとした意識の中、ボクは二人の声を聞いた。


 「龍造さん、舞さん?」


 「ワシもおるぞ」


 ・・・幻聴が聞こえる。

 だって、昔に勇者だったじいちゃんこと三谷隼人が魔王と一緒とか考えられない。


 「龍造、あの小生意気そうな小僧を殴ればいいのか?」


 「どうやら、そのようじゃのう」


 「てか、ヴァッ君いるよね?ヴァッくーん!」


 舞さんがものすごく呼びづらい名前を呼ぶ。

 すると、その言葉に応えるかのようにして一陣の風が吹き、それと共に老人が現れる。


 「誰がヴァッ君だ」


 そう言うと、ボク等を睨む。


 「ヴァネルか。結局は来たんじゃのう」


 「・・・こいつらがお前の言ってた人間どもか」


 「ついでにワシの孫だ。わざわざすまんな」


 「面白いガキ共だと思って、偶然助けただけだ」


 「とか言っちゃって、困った人がいたらすぐに助けるくせにー」


 「黙れ、魚臭いぞ」


 「なにょ~!?この、ピッチピッチの肌のどこからそんな匂いがするの!?くんくん・・・してないよね?」


 さっきの会話でわかった。

 現在、魔王の中で一人だけ代行でやっている人がいる。通り名は『閃光の魔王』、ライネルさん。そして何故ライネルさんが代わって魔王をしているのかというと、父に当たる『神速の魔王』が放浪癖を持っていて、領地内にほとんどいないからだ。そして、放浪癖の魔王の名前は、確か・・・ヴァネル。


 「まぁ、そんなわけで仲良し魔王トリオ+αがそろったね!いぇーい!」


 「・・・相変わらずうるさいババアだ」


 「ふーん!でも、人間換算ではまだ二十歳直前だもんね!」


 「うるさいわ、ロリババア」


 「ヴァッ君はツンデレなんだから。・・・というわけでソラ君、怪我が大変そうだから治してあげるね」


 何の脈絡もなく舞さんがボクに向き直る。

 そしてボクが怪我をした脇腹あたりに手を当てる。そして魔法を・・・。


 「痛いの痛いの、飛んでけ~!」


 ただの子供だましだった。

 流石にいろいろと抗議しようと思うと、傷口当たりがズキッと痛む。舞さんのせいでおかしくなったかと思ったら、傷口がひとりでにふさがり始めているところだった。見る見るうちに怪我は治り、体からさっきまでの痛みが消える。


 「ほい、応急処置だからね。うさぎ跳びでフルマラソンするぐらい動きまくると開いちゃうよ。後は颯太君にでも治してもらってね」


 要するにそれってよほどのことがない限り開かないんじゃ?けど、確かに体には倦怠感が漂っている。と言うか、なにあれ?いろいろと魔王って職種の方達はふざけている。


 「この自称魔王はわしらが引き受ける。お主らは隆介を頼む」


 ボクは龍造さんの言葉の意味を測りかねて尋ねようとすると、学園の外の森から、耳をつんざく雄叫びが聞こえた。

 何だと思いつつそっちを見ると、そこからはもうもうと土煙りが舞っていた。

 そして、その煙の中から一頭の黒いドラゴンが現れる。


 「まさか、リュウ!?」


 「隆介は今、≪魔獣化≫と暴走を併発しておる。死ぬことはないが、周りへの被害が甚大なものになるのじゃ。頼むぞ!」


 そう言うと、魔王+αはそれぞれが動き出す。

 ヴァネルさんは神速のスピードでフェイクを翻弄し、攻撃。じいちゃんの拳が振るわれるたびに地面の地形がおかしくなり、その攻撃すべてが一撃必殺の威力を持つことが分かる。龍造さんは補助に徹し、舞さんは水系統の魔法で援護をする。

 それぞれが慣れた動きでフェイクを追い詰めていく。


 「・・・ここは、大丈夫みたいだから、リュウの所に行こう」


 ボクが立ち上がると、レオはボクがまたがりやすいように腹ばいになる。


 「待って、アタシも行く」


 「わたしも!」


 ボクも正直な話かなり限界まで来ている。

 もしもボクが倒れた時の為に二人は連れていくべきだろう。

 ・・・それに、スズはリュウの彼女(予定)だ。ひょっとすると、ボクなんかよりもうまくリュウの怒りを鎮められると思う。さらに、リュウが暴走するほど怒ったのは、スズが何かしらされていたからの可能性が高い。そのスズが無事だとわかれば、幾分かはマシになると思う。


 「わかった。二人はレオに乗って」


 ボクはボードを取り出す。そしてそれに乗ってリュウの所にむかった。

 リュウ・・・約束通り、ボクは殴ってでも止める。




―――side春樹

 「何で、いっこうに魔獣が減らないんですか!?」


 「わかんないわよ!」


 「私も疲れてきたですぅ・・・」


 皆さんがそんなことを言い始めました。

 かく言う僕もすでに疲労困憊です。普通の魔獣よりもタフで、倒すのにものすごく時間がかかる。こんなのいちいち相手にしてられないとも思うけど、避難があまり進んでいないみたい。


 「何で、避難が進んでいないんだろう?」


 「・・・たぶん、全員が低ランクの魔獣だと思ってるからですぅ」


 「だから、自分で対処できると判断して駆逐しようとしているように思います」


 それなら、僕達も避難の誘導に向かった方がいいと思うんですけど、闘技場近くの魔獣が中の人たちを襲わないとも限らない。

 ・・・どうすればいい?


 「「春樹君!」」


 「ハル!」


 声が聞こえたと思うと、後ろに何かの気配。

 はっとして振り返ると、そこには魔獣の姿が。不意打ち・・・!


 「どわぁ!?」


 「・・・!?」


 かと思ったら、魔獣の上空から誰かが落ちてきた。

 魔獣は完全に不意を打たれて前につんのめる。落ちてきた二人はいててと言いながら自分が何に落ちてきたのか理解すると魔法を行使。


 「≪加速する世界アクセル・ワールド≫!」


 「≪風の舞フェザー・ステップ≫!」


 何故かものすごく使い勝手の悪い、周囲のスピードを上昇させる魔法を使う人。そしてもう一人の人はそれがわかっていたのか、さらにスピードを上昇させる風の魔法で、相方の人の襟首をつかんで回避。≪加速する世界アクセル・ワールド≫を使った人は加速しているそこにナイフを投げる。

 すると、ナイフが加速領域に入った瞬間、光のような速さで魔獣の額に突き刺さる。完全な致命傷に魔獣はどうと地面に倒れた。

 ・・・これって、こういう魔法じゃないですよね?


 「やっば、死ぬかと思った!?」


 「三谷殿も、もっと安全な所に落してほしかったです」


 二人はやれやれと言いながら立ち上がります。


 「・・・あ、ソラの仲間」


 「・・・どうも、お初にお目にかかります。影崎忍と申します」


 一人の緑髪の人は確かカザハ・シルファリオンと言う、Dクラスの代表さんだった気がします。そして影崎忍さんはソラ先輩から話だけは聞いた覚えが?


 「そ、そうだ!さっきソラのやつが黒い変な魔法を使うやつから俺等をかばって怪我したんだ!」


 「皆さん、ここは三谷殿の応援に・・・!それに、ルーミア殿も様子がおかしいようでした!」


 「その必要はないわ」


 女性の声が聞こえたかと思うと、周囲の魔獣が風の魔法で切り刻まれます。

 これは・・・!


 「優子さんですぅ!」


 「本当に良かったです」


 シャオさんとシャンさんそう言うと、僕達の目の前に、小太刀を二つ持った優子さんが現れた。


 「みんな、大丈夫だったかしら?」


 「はい!あ、けどソラ先輩が・・・!」


 「さっき、父が舞さんと一緒に行ったから大丈夫だよ」


 僕の言葉に男の人の声が割り込んでくる。

 颯太さんだった。


 「優子、魔獣達を頼む。僕は中の怪我人達を」


 「わかったわ。お願い」


 二人はそれぞれのやるべきことを確認すると別れた。

 そして優子さんは僕達に向かって言う。


 「みんなは、避難に遅れた人たちを。ここは私が守るわ」


 「やっぱ、守るのは難しいのよね。コード≪巨人ギガンテス≫!」


 姉さんが数法術を起動する。氷の人形が次々に生み出され、攻撃に出る。

 シャンさんとシャオさんもいつもの息のあった動きで魔獣を蹴散らし始めます。


 「僕も負けていられない!」


 僕も覚えている魔法陣をフルに使って攻撃を始める。

 そして僕達は急造チームとして校舎に向おうとしたその時だった。耳をつんざく咆哮、何事かと思ってみれば、そこには黒い竜が・・・。それを見た優子さんがつぶやく。


 「・・・隆介」


 「え?あれが!?」


 驚きに目を見開く。いつものリュウさんは、もっと冷静な人だ。それが、あんなになって暴れるような人じゃない。


 「まさか、スズに何かあったわけ!?」


 「だ、大丈夫ですぅ!」


 「そうです、ソラさんが何とかします!」


 リュウさんは黒い皮の翼を広げ、地面から飛び立ちます。その大風が僕達にまで届き、魔獣もたたらを踏む。そして聞こえるのは学園の中にいる人達の叫び声。

 もうダメだ、とかこんな所にいられるかと叫び始め、混乱が生まれています。


 「リュウよりも、避難の優先しましょう!どうせ、ソラあたりが向かってるわ!」


 「・・・わかった、姉さん」


 そして僕達が魔獣を蹴散らして学園の中に行こうとしたとき、突然魔獣が後退し始めた。

 優子さんも含め、僕達は呆気にとられます。さっきまで暴れるだけ暴れていたのに、何で急に?そんなことを考えていると、ガシャガシャと言う場違いな音が聞こえた。

 すると、遠くの方から人影のようなものを確認。

 ただ、近づいていくるにつれて、それが人間じゃないのが嫌でもわかった。

 どす黒いオーラを撒き散らしながらこちらに向かってくるのは、白い甲冑に身を固めた何か。顔のあたりをフルフェイスの兜で多い、両手両足に長い爪があった。その爪はどんな鉄でも切り裂きそうだ。しかも、腕と足の筋肉が異常に発達しているのがわかる。それに、足が何故か逆間接だ。まるで、四足歩行の動物が無理やりに立ち上がったかのように。そんな観察をしていると、白い甲冑を着たやつらが何体か現れた。


 「まさか、これも魔獣!?」


 「・・・しかも、他の魔獣を従えてるわね」


 「要するに、指揮官ですぅ?」


 「しかも、強い」


 白い甲冑に身を固めた魔獣が雄叫びをあげると、周囲の魔獣がそれに合わせて飛び出してくる。


 「みんな!」


 優子さんは両手に持った小太刀で魔獣を切り裂き、僕達を守る。

 そこを狙って別の魔獣が優子さんに攻撃を仕掛けてきた。


 「組織的な動きになってる!?」


 「驚く前に、ぶっ飛ばしなさい!コード≪槍衾ファランクス≫!」


 姉さんが優子さんの援護に入り、魔獣達を寄せ付けない。

 それを見た指揮官の魔獣は、顔を前のめりに突き出す。すると、顔の前に黒い塊が生成される。そして咆哮と共に黒い塊が放たれた。それは黒い光線のようになって、僕達に襲いかかってくる。まるで、レオさんの咆哮覇だ。

 僕達は防ぐのはダメだと判断し、避ける。けど、後ろの闘技場の結界にぶち当たると、結界が嫌な軋み音を響かせている。


 「結界が・・・!」


 「防ぐのもダメ、避けるのもダメ。どうすればいいのよ!?」


 僕達は窮地に立たされた。




―――side樹

 私の横を四条さんは駆け抜け、魔獣を次々に斬り倒していきます。

 今の四条さんは緑色を基調とした踊子のような格好で、四条さんのことを知る私から見れば、それは風の精霊をイメージして作られているように感じます。

 そんな風の精霊を模した四条さんが舞うと、次々に魔獣達が倒れていく姿は圧巻です。


 「四条さん、大丈夫ですか?」


 「は、はい。精霊さん達のおかげで」


 どうやら、精霊達が四条さんの身体能力の上昇、そして剣の扱い、体の使い方等を教え、四条さんにこのような戦闘力を与えているのでしょう。

 いやはや、すごいですね。

 私達、樹族も樹木の精霊ドリアードの血を引くと言われて、年を重ねればその声を聞くことができるとか言われていますが、それでも目を見張るものがあります。


 「シュウ君!」


 聞きなれた声が聞こえ、そちらの方を向くと、そこには医療薬品等についてよく話す颯太さんがいました。


 「颯太さん!」


 「は、間先生!?ど、どうしてここに!?」


 「それよりも、この魔獣は!?」


 「結界を張る前に侵入されました!しかし、何故か数が減りません!」


 今現在、来場者の方達を一か所に集め、そこに生徒さんがたが結界を張ることで何とか被害を防いでいます。そして四条さんと戦っていた女子生徒の方も今はそちらにいるようです。


 「さっき、穴があいてるのを見つけたよ。僕が塞いでおいた」


 華奢な体つきですが、こう見えて颯太さんもドラゴンです。その膂力は人間をはるかに上回り、しかも≪治癒≫の属性の身体強化は全属性の中でもトップクラスを誇ります。おそらく、人を運んだり、瓦礫等から助け出すためでしょう。


 「ありがとうございます。それなら、ここにいるので全部でしょうか!?」


 「あぁ、少なくとも目についたものはやっつけておいた。僕は怪我人の治療に行くよ」


 そう言うと颯太さんは結界の中に入り、怪我人の治療に当たり始めました。


 「これで、一安心です」


 「で、では、やっつけます!」


 そう言うと、四条さんは光の剣を片手に再び魔獣に突っ込みます。そして四条さんが剣を一振りするたびに魔獣が断末魔の叫びをあげて絶命し、背後から奇襲をかけようとしているものを私が捌きます。

 しかし、そんな好転した状況に影がさしました。

 まず、最初に見えたのは黒い影。闘技場からはちらりとしか見えませんでしたが、あの影は・・・。


 「ど、ドラゴンだ!?」


 「な、何で、こんな所に!?」


 怒りに満ちた咆哮が聞こえ、それがさらに来場者をパニックに陥れます。周りの一部の人たちは懸命に声をかけますが、さらに追い打ちがかかります。突然闘技場の外から魔獣の咆哮が聞こえたかと思いますと、四条さんの張った結界が嫌な音を立て始めます。

 そして、急に魔獣達が統率のとれた動きを開始。私と四条さんを取り囲み始めました。


 「せ、精霊さん達、どど、どうなっているんですか!?」


 四条さんが軽いパニックになりますが、来場者はそれ以上にヒステリックな叫び声を上げ始め、闘技場の外に逃げようとする人たちが出てきます。


 「いけません!危険です!」


 颯太さんも懸命に止めようとしますが、その声は届きません。

 私が最終手段で殴ってでも止めようかと思った時、闘技場の上空から何かが降ってきました。人型のそれは・・・。


 「ゴーレム!?」


 先ほどのゴーレムでした。

 四条さんは何故か顔を真っ青にしています。


 「あ、ああ、何で、あれが・・・!?」


 「知っているんですか?」


 「は、はい。た、確か、流星騎士メテオ・ナイトと言うゴーレムです。神殿の中をま、守るゴーレム、です」


 ゴーレム、改め流星騎士メテオ・ナイトの出現、どんどん状況が悪くなります。魔獣も急に現れたゴーレムを警戒し始めます。

 そしてその時、のほほんとした声が響き渡りました。


 「おーい、リーオちゃーん。なんか強そうな人形見つけたー」


 観客席からひょっこりと顔を出したのは、確かソラさんと同じDクラスの人形技師の方です。観客席から降りてくると、一直線にリオネと呼ばれた女性の方の下に行きます


 「いやぁ、魔獣がいっぱいいっぱいでさー。撒いてたら時間かかっちったー。ごめんなー」


 あまりに空気を読まないこの展開に全員が唖然とします。

 ただ、一人だけ反応の違う方がいましたが。


 「・・・レクト、いい加減に、わたくしを、『リオちゃん』などと、呼ばないでくださる!?」


 見るからに金髪のお嬢様という感じの方のキレる方向がおかしいです。他にも囚人観衆の前でどうこうなどと説教をしています。

 ただいつものことなのか、レクトと呼ばれた方はそのままニコニコと笑みを浮かべているだけです。


 「まーまー。軽くだけどメンテしたから、リオちゃんが触れたらそれで完了だぞー」


 「・・・まぁ、それは認めてあげますわ」


 そう言うと、リオネさんはゴーレムに触れます。特に変化は感じられませんが、リオネさんは手を離します。


 「では、肩慣らしと行きますわ」


 「そうこなくっちゃなー」


 リオネさんが手をさっと振ると、ゴーレムがくるぶしの車輪を使い、魔獣の一体に急接近。そして両手の剣をふるって、足を蹴り上げるようにして動いて魔獣を切り裂きます。

 そして遠くの魔獣達が口に例の黒い咆哮覇をしようとしているのを私は発見し、それを伝えようとすると、ゴーレムは剣を射出。その剣は魔獣の一体を貫きます。そしてゴーレムが腕を振ることで、剣に貫かれた魔獣は咆哮覇をしようとしている魔獣の前に。黒い咆哮覇は魔獣を壁にして防がれ、さらにはもう片方の剣を射出され、貫かれて即死。


 「これは、面白いですわね」


 「いぇーい!これで、最終兵器『リオちゃん』はまだまだいけるなー」


 「いい加減にそれもやめてくださる!?」


 一方的な蹂躙をしている当の本人は何とも和やかな会話をしていました。

 それに、先ほど私が戦ったゴーレムとは別なものではないかと疑いたくなるぐらいに強さが違います。


 「・・・コホン、では次は誰がお相手をしてくださるのかしら?」


 「オレッチ達が相手だー」


作 「というわけで我らがヒーロー龍造さん、『魔王見参』をお送りします!」

春 「本当に、色々とよかったですけど、リュウさんが・・・」

作 「ほんとにやばいね。怒りに我を忘れて暴走しています」

春 「けど、その半面で急激に成長し始めた人がいますね」

作 「人って、割と窮地に立つと頑張れるもんだしね」

春 「・・・あなた、本当に作者さんですか?」

作 「失敬な。正真正銘作者夜猫です。ただ、人生がちょっと波乱の連続だけどね!」

春 「・・・」

作 「というわけで次回予告いってみよう!」

春 「ソラ先輩たちはリュウさんを止められるのでしょうか?」

作 「そういうわけで次回もよろしく!」

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