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DARK・MAGIC ~闇夜の奇術師達~  作者: 夜猫
7章 ≪魔法学園文化祭編≫
163/170

27話・INFINITE BOOSTER

―――side空志

 ボクは≪真月シンゲツ≫を発動し、相手に肉薄する。

 けど、フェイクも魔物としての身体能力か、≪身体強化フィジカル・ブースト≫をしているのか、よくわからないけど、ボクの刀の斬撃を紙一重で避ける。


 「術式≪断月ダンゲツ≫!」


 白銀の斬撃が放たれ、フェイクに向かって飛んでいく。

 フェイクは手をかざすと、何かしらの魔法の障壁を作り出し、それでガードする。


 「≪月光の衝撃ルナティック・インパクト≫!」


 ルーミアさんの手から光の奔流が放たれ、それがフェイクを飲み込む。

 この魔法は手加減してあの凶暴化した悪霊の右腕を吹き飛ばすことのできる威力だ。その証拠に、フェイクの障壁がガラスの割れるような音を響かせて壊れる。


 「≪黒の魔槍デモンズ・ランス≫」


 フェイクは魔法を放つ。

 漆黒の槍が生み出され、黒い光の尾を引きながらルーミアさんの魔法を正面から撃ちぬく。ルーミアさんはそれを何とか回避して、詠唱を続ける。


 「―――月の光をもって彼の者を射抜け。

     ≪月の如く輝く神矢アルテミス・アロー≫!」


 ルーミアさんが魔法を発動すると、銀色の光の矢が何十本も生成される。高密度のマナで造られた光の矢は、その一本一本が強力な威力を持つことがボクの目でわかる。

 ルーミアさんがさっと指を振ると、光の矢が燐光を放ちながら放たれ、フェイクに殺到する。フェイクもこれはマズいと感じたのか、魔法で防御するのではなく、回避することを選択する。

 その行動に対し、ルーミアさんは獰猛な笑みを浮かべる。

 一見外したかのように見えた魔法、けどそれはフェイクの通った道をなぞるようにして追尾。数十の光の矢はフェイクを追い詰めんとばかりにしつこく狙う。


 「≪黒の魔刺デモンズ・ソーン≫!」


 フェイクは黒い球体を放つ。それに光の矢が当たると、黒い球体がはじけ、中から黒い棘が雨のように降る。それはボク等にも降り注いだ。

 ボクはとっさに術式≪断月ダンゲツ≫で黒い棘を薙ぎ払い、返す刀でフェイクに攻撃を仕掛ける。でも、これじゃぁダメだ。

 フェイクはボクの思った通りに魔法を防ぐ。やっぱり、もっと強い魔法じゃないと勝てない。・・・しょうがない、実験段階でまだまだ使えたものじゃないけど、やるしかない。


 「ルーミアさん、時間をお願いします!」


 「無茶を言うな、汝も!」


 そう言いつつもルーミアさんは時間を稼ぐ。

 ボクはすぐに『サルでもわかる魔導書』を取り出す。ボクはこの魔導書に実験中の魔法陣や何かを書いている。まぁ、龍造さんにそうしろって言われただからだけど。ボクはその中の一つを選び、魔法陣を媒介展開して発動。

 すると魔法陣がバッと光の粒子になってはじけ、ボクに纏わりつく。これが使えるのは一回だけだ。ボクは自分の意思で魔力を右腕に収束させる。


 「ルーミアさん!」


 「うむ・・・って、汝それは!?」


 ルーミアさんが何故か焦ったような表情を浮かべる。

 ボクは≪真月シンゲツ≫以上に強化された身体能力でフェイクに急接近。フェイクも突然ボクが前に現れたのに驚愕の表情を浮かべる。ボクはこれ幸いとばかりにアッパーのような形でフェイクの腹にパンチを決めた。

 そして魔法が発動する。ボクの拳から魔力の塊が砲弾の如く発射され、フェイクを天井に叩きつける。しかし、光の弾丸はそれでも勢いが止まらず、フェイクもろとも天井を崩しながら天へと昇って行った。

 そして盛大な爆発音を響かせ、ボク等の周りは土煙りで覆われる。

 ボクとルーミアさんはフェイクを追って天井に向かう。かなりの威力があったのか、地面の奥深くにあったにもかかわらず、ボクの魔法は地上まで大穴を貫通させていた。・・・うん、これは人間にも魔物にも使えない。

 土煙りで見えないけど、ここはたぶん学園の中だ。ボクの目が一か所に多くの魔力が集まっているのが見えている。


 「・・・また汝はふざけた魔法を作りおって」


 「フェイクに一泡吹かせられたからいいでしょ?」


 「・・・しかし、その程度だからな」


 ルーミアさんは険しい目で前を見据える。

 すると、不気味な笑い声と共に黒い影が現れる。というか、あの魔法を受けてダメージらしいダメージを受けていない。


 「くはははは、いいぞ、いいぞその力。面白いな、あぁ、面白い!!」


 「ヤバいね、なんか変なスイッチが入ったみたいです」


 「わらわ、変態とはかかわりあいになりたくないのぉ」


 ボクとルーミアさんは軽口を叩きあうけど、内心では冷や汗でいっぱいだ。だって、相手が放つ魔力の量が、さっきとはケタ違いなんだから。

 フェイクは心底うれしいと言った表情でボクに言う。


 「すまないな、どうも俺はお前を見くびっていたようだ。脆弱な人間ゆえに、この短期間で強くなるわけがないだろうと、な」


 「何、遠まわしに褒めてくれるの?」


 「あぁ、素直に賞賛しよう。だから、俺も少しだけ本気を出そう」


 そう言うと、フェイクは詠唱を始めた。


 「―――、―――、―――!

 ≪―――≫!」


 よくわからない言語だった。

 魔法が発動したのか、ボク等の周囲に大小さまざまな黒い魔法陣が展開される。それを見た瞬間に、ボクの目が少しだけ痛くなった。

 もしかしなくても、これって・・・!


 「邪法・・・!?」




―――side隆介

 オレは小さなガキの頃、ジジイにこう聞いたことがある。


 『なぜ、ジジイは平和派ピースなのか。そして人間が好きなのか?』


 ジジイは魔王の中でもその序列は一位。つまり最強の魔王。そのジジイが本気になれば人間なんか簡単に滅ぼし、自分の世界を創造することだってできると思っている。それに、人間なんか脆弱な種族だ。

 その時にジジイはこう答えた。


 『人間は自分達に持っていないモノを持っている。それを知っているから』


 当時のオレはよくわからなかった。

 そしてオレはしばらくして、親父たちにあることを頼まれた。曰く、ジジイの友人にオレと同い年の子供がいるらしい。だが、その力がかなりやばいからオレを使って見守れってことらしい。

 まぁ、この機会に人間のことを知るかということでオレは二つ返事で承諾。そしてソラと出会った。

 オレのソラの第一印象と言えば、それは極度のお人好し。何か頼まれればノーと言えず、無意味なまでに仕事をきっちりこなすクソ真面目な奴だった。

 頼まれたことに関しては本人が幸せ方向に向くように行動する、超絶なおせっかい野郎だ。それは今現在もそうだけどな。

 もちろん、そのおせっかいのせいで理不尽な目に遭ったことも多い。頼んできた奴が内容が気に入らなくて逆ギレされたりとかは日常茶飯事、いい道具のように扱われることも当たり前な時期もあった。

 流石に哀れに思ってオレはソラに言ったことがある。


 『不毛だ。やめとけ』


 そしたら、あのバカは苦笑いしながらこう言う。


 『でも、これがボクなんだ。それに、どんなことがあっても、後で笑ってたらハッピーエンドだしね』


 本当にお気楽と言うか、頭の中が花畑でできているんじゃないかと思うぐらいにアホだった。こいつは、他人の幸福で動くことのできる人間らしかった。そのうちにオレはこいつに巻き込まれるようになって、アホなことを一緒に企て、怒られ、笑いあった。

 この時オレは思った。これが、オレ達にないものなのかと。

 オレ達魔物はその種族で優劣が決まると言っても過言ではない。だから、魔物たちは自分にできることしかしない。それ以上を望まない。だが、人間は違った。かたくなに上を向き、さまざまな方法で高みを目指す。なんとなくわかってきた気がした。

 そしてオレはもう一人の人間に出会った。

 ショートカットで、いつも優しい笑顔を浮かべている女子。アホだが、どこか憎めないやつ。吸血鬼ヴァンパイアであるリカを当時敵だった冬香達から救おうとし、敗れた。だが、それでも諦めず、再びあいつらの前に行く。

 ゆるゆるの頭に平和ボケしたやつだったが、オレはソラに通ずるものを見た気がし、いつの間にか惹かれていった。

 そして、坂崎鈴音こと、スズは―――。


 「≪リバース≫」


 最後の魔法名を答え、魔法が発動する。

 スズの体から尋常じゃない魔力が蛇口の壊れた水道のように出てくる。


 「やめろ!んなことすれば、スズが死ぬぞ!?」


 「大丈夫よ。この子は死なない。だって、『リバース』ですもの」


 「わけわかんないこと、言わないでよ!」


 リカもついに我慢の糸が切れたのか、大鎌を取り出して女に叩きつけよとする。だが、女はただ突っ立っているにも関わらず、魔法の障壁が発生して身を守る。

 オレはすぐさま魔法剣を使う。


 「魔法剣≪影討ち≫!」


 構えをとる。だが、何も起こらない。

 それを見たレオが大きくなり、『咆哮覇』を使う。光線は女を確実にとらえた。だが、ある所まで行くと、光線は勝手に霧散してしまった。

 オレの魔法剣は詠唱の代わりに構えをとることで魔法を発動させることに成功した特殊な魔法だ。初見では相手に気取られることなく発動することが特徴。オレは相手の背後の影に転移する魔法剣を使った。だが、何故か発動しない。しかも、レオの咆哮覇は、普通に上位魔法並みの威力を持つ。それを何もせずに防ぐというのはあり得ない。これじゃ、まるでスズの発動した≪相殺結界アンチ・エリア≫に入った時みたいじゃ・・・。


 「まさか、スズの魔法を・・・?」


 「あら、それぐらいはわかるのね」


 そう言うと、女は何かの機械を取り出す。

 数法術に使う魔法機器デバイスのようだが、違和感を感じる。


 「これはね、数法術の魔法機器デバイスを利用した、魔法の操作機コントローラーのようなものなの。ちょっとお姫様の力、借りたわよ」


 そうやっておどけて言う。

 今この瞬間もスズの入った培養槽からは魔力が湯水のようにあふれてくる。だが、一定以上の魔力量しか感じられない。

 たぶん、あの機械が何かに繋がれている。それはあの操作機コントローラー何だろう。そして擬似的にスズの魔法を使ってオレ達の魔法と攻撃を封じたんだろう。


 「なら、リカ!」


 「わかった!」


 オレとリカが一斉に攻撃を仕掛ける。


 「吸血呪ヴァンパイア・スペル血濡れの大鎌デスサイス≫!」


 「魔法剣≪斬黒≫」


 リカが大鎌をふるうと、そこから無数の衝撃波が放たれる。オレも剣を何回も振って黒い斬撃を飛ばし、レオもオレ達に合わせて咆哮覇を放つ。そして相手の視界を塗りつぶす。


 「効かないわよ、そんな攻撃」


 オレ達はそれに構わずに撃ち続ける。

 女はそれに嫌気がさしてきたのか、機械を操作する。周囲がみしみしときしみ始め、神殿の石造りの壁が襲いかかってきた。

 オレとリカはそれをさばきつつ、相手にも攻撃を加え続ける。


 「・・・はぁ。もう、うっとうしい」


 だろうな。相手はオレ達を追い詰めようと少しずつ前に進んでくる。そして、タイミングを見計らってリカが吸血鬼の身体能力にモノを言わせて回り込む。だが、狙いは女じゃない。


 「鈴音!」


 リカが大鎌を振るう。

 結界の範囲外から出た培養槽にリカが大鎌を振り下ろす。培養槽のガラスにひびが入り、そこからスズが投げ出される。

 リカがスズを抱き寄せ、オレの所に戻ってくる。


 「大丈夫か!?」


 「・・・うん、気絶してるだけみたい」


 オレはそれを聞いてひとまず安心した。

 だが、まだ魔力がどんどんあふれてきている。これを何とかしないと・・・。


 「コマンド・1」


 女が何かを言う。その瞬間、さっきまで閉じていたスズの目がぱちっと開く。


 「コマンド・2」


 「『世界樹の杖ユグドラシル』」


 スズは恐ろしいまでに表情の抜けおちた声で、自分の身長ほどもある杖を呼び出し、リカを押しのけて立ち上がる。

 オレは女が何か言うたびにスズが動くのにただ困惑することしかできない。


 「コマンド・4」


 女がそう言うと、スズは掌をオレ達に向ける。


 「―――負の理。

     ≪虚無の法則ルール・ゼロ≫」


 スズがそう言うが、何も起きていないように思える。

 だが、これ以上何かされる前に女を黙らせようと、魔法を放った。そして気付いた。オレの双剣に黒い魔法の刃が展開されていない。解除した覚えはないが、もう一回発動しておく。


 「魔法剣≪黒刃≫」


 構える。だが、どんなに待っても剣に黒い刃が展開されない。おかしい。まだ、魔力は・・・!?


 「何でだよ、魔力が・・・ない!?」


 「あ、アタシもない!?」


 「その様子だと、本当に知らなかったみたいね。こちらに来なさい」


 女は心底おかしそうにそう言う。

 すると、スズは夢遊病者のようなふわふわした足取りで女のもとに行こうとする。


 「ま、待て!」


 「邪魔よ。≪石の弾丸ストーン・バレット≫」


 女がとがった石を生成。それをオレ達に向けて放つ。魔力を持たないオレ達が魔法で回避できるわけがない。

 オレとリカは転がるようにして回避し、立ち上がる。


 「ふふふ、おかえりなさい」


 そう言ってスズを抱きしめる。


 「お前、スズから離れろ!」


 「奪い返せばいいじゃない。≪岩の拳撃ロック・スタンプ≫!」


 神殿の天井がきしむ音を聞かせたかと思うと、オレ達に向かって岩の拳が振り下ろされる。リカは身体能力ゆえに楽に買わせたが、オレはかろうじてという状況だ。

 オレはそれでも前に進み、女に剣を突き出す。

 だが、そこでスズが間に入ってきた。


 「っ!?」


 オレはそのまま攻撃するわけにもいかず、バックステップを踏む。

 それと入れ替わるようにしてリカが死角から大鎌を振り下ろすのが見えた。だが、それも見慣れた六角形の盾に阻まれる。


 「何で、鈴音!」


 「・・・」


 スズは何も言わない。ただ、淡々と女をオレ達から守る。

 女はこの状況が面白いのか、自分から説明を始めた。


 「まず、これでわかってもらったと思うけど、彼女の属性は魔法を消す属性じゃない。有を無に変え、無を有にする魔法。法則系属性の中でも、絶大な力を持つ。彼女は魔法を消すんじゃないの、魔力を消すのよ」


 「魔力を、消すだと?」


 そんなことが、可能なのか?

 だが、オレとリカの魔力がなくなったことを理由づけるのには、それ以外に方法がない。それに、魔力がなくなれば魔法がなくなるのも道理だ。魔法を無効化させたことになる。


 「えぇ。そして、逆もしかり」


 「逆もしかりって・・・。それじゃ、鈴音は魔力を生みだすこともできるっていうの!?」


 「その通りよ。この子は、無限魔力増幅装置インフィニット・ブースターなのよ」


 女はリカの言葉に肯定の意を示す。

 しかも、スズが無限魔力増幅装置インフィニット・ブースター?ありえねぇ、そんなのは、御伽噺だ・・・!


 「事実よ。そして、彼女が私を守るわけだけど・・・」


 そう言いながら女は自分の頭の横ををトントンと叩く。


 「私達はこの子の精神に接続アクセスして、魔法を導入インストールさせたわ。他にもあるけど。まぁ、そう言うわけで私がこっそりと彼女を操作しただけね」


 オレとリカのはその返答に表情が凍る。

 精神に、接続して、魔法を導入。しかも、何かしらのキーワードで相手を意のままに操る?それじゃぁ・・・。


 「まさか、精神干渉魔法マインド・ハックかよ!?」


 「えぇ」


 こともなげに、女は言い放った。

 精神干渉魔法マインド・ハック、それは誰もが知る禁忌魔法タブー。これを使えば相手の感情を意のままに操れ、記憶も操作できる。そして、今回のケースのように特定のキーワードや条件が重なった時に、記録させた行動をさせることもできる。

 そして最も重要なのは、この魔法は人の意識、自我を消滅させることができる。つまり、精神的な死だ。

 それを聞いた瞬間、オレの中で何かがはじけた。


 「・・・リカ、スズを連れて逃げろ」


 「え、でも・・・」


 「レオ!」


 オレはレオの名前を叫ぶ。

 今まで隠れていたレオが女の死角から強襲。スズがかばうが、レオはそのままスズの襟を咥え、離脱。レオがここに来た瞬間、オレはスズの首筋に手刀を叩きこみ、気絶させる。たぶん、これなら大丈夫だろう。


 「すまん、もう我慢できねぇ」


 まさか、これを使うことになるとは。ジジイ達には使うなって言われてた。けど、無理だ。あいつには、これぐらいの恐怖を味わってもらわなきゃ、割に合わない。

 これが無意味なこともわかってる。けどなぁ・・・。


 「やらずに、いられるか。・・・≪魔獣化≫」


 胸に刻まれたジジイの封印魔法が弾ける。

 なくなったはずのオレの体から魔力があふれる。闇よりもなお黒い魔力がオレの周囲に纏わりつく。

 そして、オレの口からは耳をつんざく雄叫びが発せられた。




―――sideリカ

 リュウが何かを言った瞬間、なくなったはずの魔力がリュウから放たれた。

 あまりにも濃密な魔力に、アタシとレオが吹き飛ばされる。アタシは気絶した鈴音を気づ付けないように何とか抱きかかえることに成功した。

 壁に叩きつけられて、意識が一瞬だけ飛びそうになる。それを我慢してリュウの方を見る。そこには、黒い魔力を身にまとわせたリュウがいた。

 リュウの口からは耳をつんざく、悲鳴のような叫びが聞こえる。そして変化が訪れた。

 ・・・リュウの姿が徐々に大きくなっている。背中しか見えないけど、背中から羽と尻尾が生え、首が長くなり、両手と両足が太くなる。まだまだ大きくなるのか、部屋いっぱいにもかかわらず、部屋を壊しながら大きくなる。

 そして、今や蜥蜴のような顔になってしまったその口を上に向ける。

 すると、口から漆黒の炎が放たれ、天井を、壁を破壊し始める。岩の壁にもかかわらず、黒い炎は壁を焼きつくし、溶かし、爆散させる。

 龍の息吹ドラゴン・ブレス、龍種がもつ、最強の攻撃だ。

 ここにいちゃいけない。アタシはともかく、スズがもたない。アタシは一緒に吹き飛ばされたレオを見つけてお願いする。


 「レオ、スズを運んで!」


 「がう」


 レオは一言だけそう吠えると、スズを背中に乗せやすいように腹ばいになる。

 そこへスズを乗せ、アタシもスズが落ちないようにしっかりと押さえる。レオはそれを確認すると、大きな翼で羽ばたいた。

 既に神殿の中のいろいろな所が崩壊を起こしている。下手をすれば、アタシ達も生き埋めになっちゃう。

 ・・・・・・けど。


 「何で、こんなことになっちゃったの?」


 いつもアタシ達の為にご飯を作ってくれて、アタシがソラが気づいてくれないって愚痴を言うと、鈴音はリュウ君は気づいているのに好きっていってくれないんだよーと言う。

 そんな何気ない会話が、もうできない。

 坂崎鈴音と言う人格が消えた。それは死んじゃったのと同じ。アタシにはソラがいればいいと何回も思ったことがある。けど、それはウソだった。


 「・・・アタシ、悲しいよ」


 ポロポロと涙がこぼれる。

 もう、話せない。いつか、リュウと鈴音が付き合って、そこにカップルのアタシとソラも一緒にダブルデートしようねと冗談交じりに言ってた。

 脳裏に、怒りに我を忘れてドラゴンに変貌したリュウの姿がかすめる。鈴音の今状態がアタシの中でソラに変わって、怒りに我を忘れたリュウの姿がアタシとダブる。

 ダメ、こんなの・・・。

 その時、ケータイが音を鳴らした。ここじゃできないはずなのにと思いつつケータイに出る。


 『やっと通じた!アンジェリカか!?お前の愛しいパパだ!大丈夫か!?』


 「・・・」


 思わずケータイの電源を切った。

 空気を読んでほしいと、心の底からそう思った。しかも、今さっき鈴音が精神干渉の魔法でやられたこのタイミングで・・・。


 「・・・あ、そうか。アタシなら、できる」


 アタシは、災厄にして最悪の魔物、吸血鬼ヴァンパイア。人間からも、魔物からも嫌われた、世界の敵。

 アタシには、鈴音を救うための最悪・・の方法がある。たぶん、これを使えばみんなは怖がると思う。みんなが何も言わないのは、この力を一度も使わなかったから。


 「けど、アタシは・・・!」


 助ける、絶対に。

 それこそ、みんなに嫌われようとも。アタシはみんなの、鈴音の仲間だから。アタシは、なけなしの魔力を練り、無理やりに魔法を発動させた。




―――side鈴音

 温かい。

 さっきまで冷たくて、暗い所にいたと思ったのに・・・。

 誰かが呼んでいる気がする。

 目を開けると、そこは薄暗い場所。

 そして、目の前には・・・。


 「・・・リカ、ちゃん?」


 「鈴音!?よかった、目が、覚めて・・・」


 わたしはリカちゃんに抱きしめられる。

 リカちゃんが声を出して泣いている。けど、何でだろう?

 わたしはレオ君に乗ったままリカちゃんに尋ねた。


 「ねぇ、何でリカちゃんは泣いてるの?」


 「・・・鈴音はね、精神干渉魔法マインド・ハックを使われたの」


 ・・・難しい言葉でわかんない。

 何だろう?『はっく』だから、くしゃみかな?


 「何で、くしゃみの魔法で泣いちゃうの?」


 「・・・違うの」


 リカちゃんの説明によると、精神干渉魔法マインド・ハック禁忌魔法タブーって言う、使っちゃいけない魔法の一種で、これを使うとわたしは死んじゃうらしい。


 「・・・あれ?じゃぁ、ここって天国?それとも地獄!?リカちゃんも死んじゃったの~!?」


 「違うの。鈴音は死んでるけど、死んでない状態になったの。・・・ずっと意識不明の状態って言えばいいのかな?」


 むう。なるほど。

 要するに、ずっと寝ちゃうのか!


 「でも、わたし起きてるよ~?」


 「・・・うん。そのことで、言わなくちゃいけないことがあるの」


 そして、リカちゃんはわたしに使った魔法のことを教えてくれた。


作 「というわけで『無限魔力増幅装置』をお送りしました!」

鈴 「ねー、わたしってどうなっちゃったの!?」

作 「どうなっちゃったんでしょう。なんか最後の鈴音ちゃんが地味に賢くなってしまったのが心の残り」

鈴 「ふっふっふ。わたしはやればできるんだよ~!」

作 「まぁ、そんなわけで鈴音ちゃん復活」

鈴 「・・・でも、どうやって復活したの~?」

作 「さぁ?実はこの伏線もかなり前に張ってあったりします。暇な人は考えてみてね!」

鈴 「・・・でも、それって次の話じゃ教えてくれないの~?」

作 「いいところに気付いたね!その通り!」

鈴 「ガーン!」

作 「じゃ、次回!久しぶりに主人公視点!あの人も登場?」

鈴 「次回もよろしくね~!」

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