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DARK・MAGIC ~闇夜の奇術師達~  作者: 夜猫
7章 ≪魔法学園文化祭編≫
159/170

23話・DEAMON AGAIN

―――side鈴音


 ―――ここはどこだろう?


 ―――なんだか、体がふわふわしてる気がする。


 ―――思考がまとまらない。


 『まさか、本当にいるとはね・・・『リバース』の使い手』


 ―――『リバース』。わたしの魔法。


 『貴方には感謝してるわ』


 ―――誰に?何で?


 『これで、我らの悲願も達成できるわ。魔物を根絶やしにできる』


 ―――ひ、がん?


 ―――魔物・・・?根絶やし?


 『けど、これじゃあ面白くないわ』


 『勝手にしてろ。舐めていると、痛い目に遭うぞ』


 『そう、勝手にするわ。・・・じゃぁ、最後の仕上げは頼んだわ』


 ―――仕上げ?


 ―――誰かが見てる?


 ―――貴方は誰?


 ―――何でだろう?眠くなってきちゃった・・・。


 ―――その時、何故か頭の中に言葉が浮かんできた。


 『・・・・・・リュウ・・・く・・・・・・・・・ん・・・・・・』




―――side空志

 状況を理解しなくちゃダメだ。

 今、学園の人たち全員が人質に限りなく近い状態になっている。そして、犯人はすでに準備が完了している。いつでもボク等を消す・・ことができるらしい。そしてボク等は正義の名のもとに魔物に与するものとしてその鉄槌を甘んじて受けろ。相手はそう言いたいらしい。

 ふざけないでほしい。


 「犯人に関する情報はこれだけ。爆弾についてはゼロだ」


 リュウがそう言う。

 そう、ボク等は犯人についてほとんど何も知らない。


 「この状況を、どうしろって言うのよ」


 「「「・・・」」」


 冬香が吐き捨てるように言った言葉に、誰も返すことができなかった。

 状況は最悪の一言、それに尽きる。

 すると、突然ノイズ交じりの音が聞こえる。音の発生源はスピーカーからだ。


 『学園にいるものすべてに告げる。闘技場上空を見ろ』


 それだけ言うとブツンと音を立てて放送が切れる。


 「いきなり、なんでしょうか?」


 「イベントですぅ?」


 「・・・でも、こんなイベント」


 シュウ達がそう言っていると、闘技場の上空に投影魔法の映像ヴィジョンが現れる。そこには、よくわけのわからない機械が映し出される。その中心にはカプセルのようなものに緑色の液体が入っている。けど、よく見るとそこの中に何か・・・・・・。


 『奇術師団の諸君、この学園が狙われている。この学園を守るためには、この機械を見つけ出し、中から姫を助け出さなくてはならない。そして私を倒せ、倒せるのならな・・・。さて、今からゲームを始めよう!』


 耳障りな機械音声が一方的にそう伝えると、映像が消える。

 そして突然、バキッと何かを割る音が聞こえる。その音が聞こえた原因は・・・。


 「・・・リュウ」


 「どういうこと、だよ。・・・『奇術師団』?・・・『機械』?・・・『姫』?」


 最初の『奇術師団』。たぶん、相手が言いたいのは『闇夜の奇術師団』こと、ボク等だ。そして機械は、この学園を爆破するための爆弾か何か。そして、『姫』は・・・。


 「・・・そう言えば、鈴音さんは?」


 春樹君の言葉に、リュウは思い切り睨みつける。


 「決まってんだろ、攫われたんだよ。あの、わけわかんねぇ機械に繋がれてんだよ!」


 リュウが怒りに身を任せて怒鳴る。

 そんなリュウの態度に、みんなはびくっと体を震わせる。


 「リュウ。ここでキレても意味はない」


 「落ち着いてられるか!?仲間が、スズが・・・!」


 ボクは問答無用でリュウにアッパーカットを喰らわせる。

 完全に不意を打たれたリュウは、ボクの弱い一撃でも簡単に吹き飛んでいく。

 でも、この状況にみんな顔はどんどん怯えの表情になっていく。


 「てめぇ・・・!」


 リュウはボクに掴みかかろうと起き上がる。

 そこでボクは言葉を重ねた。


 「落ち着けなんて言わない!こんな時に、しかも爆弾の材料かなんかの一つみたいにスズが使われてて、落ち着け?無理に決まってる!確かに、ボク等はリュウほどパニックになって、死ぬ気で助けようと思ってはいないかもしれない。けど!ボク等だって、スズを助けたいんだよ!」


 ボクは立ち上がってボクに掴みかかろうとして、途中でやめたリュウの襟首をつかんで無理やり立たせる。


 「いいか、リュウ。その怒りを収めろなんてボクは一言も言わない。それで暴走しても、ボクが止める。けど、その矛先を向ける相手を間違えるなよ!」


 ボクがそう言うとボクは手を離す。するとリュウは力なく崩れ落ちる。

 それと同時に今日の文化祭終了の放送がかかり、周囲が騒がしくなってくる。


 「・・・もうすぐに暗くなる。捜索は無理だ。だから明日の早朝から探す。それまではボクと四条さんがスズの魔力の痕跡をたどる。・・・できるよね?」


 「はは、はい・・・」


 「じゃぁ、ボク等は先に帰ろう」


 「ちょっと、本当にいいの?この瞬間にもスズは・・・」


 冬香がそんなことを言ってくる。

 けど・・・。


 「・・・今のボク等には、どうしようもないんだ」


 本当に、どうしようもなく・・・。

 何で、ボクはこんなに弱いんだろう。これを今ほど感じたことはなかった。今のボク等にできることなんて、リュウを一人にするぐらいだ。


 「・・・本当は、いつもこうだったな」


 リュウが誰に言うでもなくつぶやく。


 「・・・確かにそうだったね。高校に入ってからは逆転したけど」


 その言葉を最後に、ボク等は自分たちが一時的に借りている寮に戻った。




―――side隆介

 本当は、いつもこうだった。オレは理事長室を出てそんなことを考えた。

 今でこそソラが無茶苦茶しまくって、オレがそのフォローに回っているが、昔は逆だった。

 オレはバカで、ソラと一緒にいるときは、いつも熱血漢なことをしていた。絵にかいたような主人公だったと自分でも思う。

 そんなオレが暴走しすぎたときにブレーキをかけるのがソラの役目。いつもあんな風に思い切りぶん殴ってでも止めてくれた。

 本当に、あの時のソラはガキっぽくないガキだった。無理に大人ぶって、客観的に物事を見る。あの年でそんなことができるのは相当だと思う。けど、高校に入って変な方向にひねくれた。

 そして、オレは・・・。


 「・・・はぁ、まじダッセェ」


 振り返って後悔した。

 ソラの言うとおりだ。つか、あいつも無茶苦茶なことを言う。普通、あんな場面で落ち着けって言わないなんて言うか?落ち着いて物事を考えなきゃいけないときに?だが、それがあいつの優しさだ。どんなにパニクっていようが、理不尽を受けようが、絶対に見捨てない。まさに親友トモダチの鑑だ。


 「・・・だから、オレはお前に背中を預けられんだけどな」


 お前が無茶をするならオレが止める。

 オレが無茶をするならお前が止める。

 そして何故か痛くないはずなのに、胸が痛くなってくる。意味がないのに胸の中心をつかむ。

 ・・・・・・これ、使っちまうかもな。あんまりこの力は好きじゃない。『闇』なんて、暗いだけだ。孤独しか感じられない。


 「でも、やっるきゃねぇよな・・・」


 オレは夜空に浮かぶ月を見て、何とはなしにそうつぶやいた。




―――side空志

 翌朝早朝。ボク等は静寂で包まれた学園にいた。みんなは各々が動きやすい恰好で集合している。ボクもアリアさんから貰った空色のローブっぽいのを身にまとい、フードにはレオがいる。

 そしてそのボク等の中には黒い服を着たリュウもいた。


 「リュウ・・・」


 「大丈夫だ。昨日は悪かった。お前は正しい」


 「・・・わかった。なら、今日はちゃっちゃと済ませて、リュウ達にデートでもプレゼントしてあげようか」


 「やっぱ黙れ。つか、いい加減にしろよこの鈍感バカ!」


 いつものボクとリュウのやり取りにみんなから自然と笑みが漏れる。

 気合いは十分。情報は不十分。けど、やるしかない。


 「じゃぁ、やるよ。いつものように別れよう。リュウはボク等と来る?」


 「頼む」


 チーム編成はいつものように。四条さんはいつものようにボク等のバックアップを頼んだ。誰か一人は情報をまとめて整理する人が必要だし。


 「じゃぁ、みんな行くよ!」


 そしてボク等は朝もやの中、捜索を始めた。






 「でも、どこを探す?」


 「学園の中はDクラスのみんなで捜索しつくしたはずだよね?」


 リュウとリカがボクに疑問の声を上げる。

 そう、そこが問題。それに普通に考えればあのでっかい映像ヴィジョンいっぱいに機械が映っていた。それなりに大きい場所じゃないとダメなはず・・・。


 「あぁ~、どうすればいいんだよ!?大きくて、隠れるのに適してて、しかも投影魔法のハッキングまがいのことができる場所って、そうそうないのに!しかも、学園を爆破じゃなくて、消すって言ってるんだよ!?しかも、魔法の探知が効かないし!」


 そんなご都合主義な場所があったらむしろ教えてほしい。


 「・・・ちょっと待て、オレは聞いたことがある気がするぞ?」


 意外なことに、リュウがそんなことを言いだした。

 余計にわからなくなってきた。リュウがここにきてからたったの一週間だ。ボクとリカみたいに一カ月近くいたこともないのに何でわかるの?


 「リュウでも知ってる場所で?」


 リカも頭をひねっているけど、まったく思い浮かばないみたいだ。

 ・・・まず、もっと簡単にまとめよう。

 一つ、広い場所。

 二つ、みんなが知らない。

 三つ、投影魔法のハッキング、放送ジャックができる。

 四つ、魔法の探知ができない。


 「おい、三つ目は関係ねぇんじゃねのか?」


 「大ありだよ」


 まず、昨日の犯人からのふざけたゲームのお誘いの時。その時は、おそらく爆弾の映像を、投影魔法をハッキング的なものでボク等にその映像ヴィジョンを見せることができている。けど、ボクと四条さんが魔法探知を行った結果、怪しいところがない。ボクはともかく、四条さんの精霊達の包囲網をかいくぐるのは不可能に近い。そこから予想できるのは、魔法妨害ジャミングか何かで邪魔されていること。でも、それをすれば外部から内部への魔法的干渉はもちろん、内部から外部への魔法的な干渉もできないはず。できるにしても、何かしらの特殊な方法が必要なはずだ。あの時の祓魔術師エクソシストみたいに。


 「だから魔法妨害ジャミングされてて、かつ、自分は魔法が使えるような場所じゃないとあんなことはできないはず」


 「なるほどな。・・・けど、この学園にそんな場所が存在すんのか?」


 「・・・アタシも知らない」


 ボクも知らない。あのSクラスとの教室間戦争クラス・ウォーでいろいろな所を回ったけど、そんな場所には心当たりがない。


 「・・・やっぱ、カザハ達に聞くか?」


 ボクがそう思った時、目の前を誰かが通過。金髪な、狩人を思わせるツリ目のお姉さん。


 「お?汝等、そんなに急いでどうした?」


 てか、ルーミアさんだった。


 「今は忙しいんです!暇つぶしはまた今度か、永遠にしないでください」


 この人が神出鬼没なことは今に始まったことではないので、絡まれる前に釘を刺す。


 「む。わらわとて今回は忙しい。どこの輩かは知らんが、神殿に勝手に変な機械を設置したらしい。今すぐに撤去してくる必要があるからのう、それじゃぁの」


 「「ちょっと待て」」


 ボクとリュウがルーミアさんの肩をつかむ。

 今、ものすごく無視しづらい単語が聞こえたんですけど?


 「逢引きか?間に合っておる。・・・というか、天然娘がおらん気が?」


 「その件でお話があります」


 ボク等はルーミアさんに昨日あったことをかいつまんで話した。

 ルーミアさんの表情がどんどん険しくなっていく。すると何を思ったのか、急に走り出した。

 ボク等はそんなルーミアさんの奇行に一瞬だけ呆気にとられるけど、すぐにルーミアさんを追いかけた。


 「いきなりどうしたんですか!?」


 「説明する暇はない。ついて来い!」


 ルーミアさんはこれまでにないぐらいに焦っている。

 ボク等にはどこへ行くとも言わずに学園の中を爆走する。けど、神殿に行くなら外に行かなきゃダメなんじゃ?


 「外に行かなきゃダメなんじゃねぇのか!?」


 「大丈夫ぢゃ!こやつがおるからのう、近道する!」


 そう言うと一つの扉を蹴破るようにして開け、中に入って行った。

 立ち入り禁止ってあったけどいいのか?


 「サリナから聞いていたんだがのう、ここには開かずの間と呼ばれるものがある」


 「何で七不思議の話をするの?」


 リカが疑問の声を上げる。ボクも何でこんな話をするのかよくわからない。

 そんなありきたりの話をしてどうしたんだろう?


 「実際に見てみてわかったが、あれは神殿の入り口であった!」


 「なるほど。でも、開かないんじゃ意味がないじゃないですか」


 「あれは特殊な魔法が掛かっておる。『月』の属性を持つ者が扉内部に込められたマナを操作しなければ開かない」


 確かに、それなら唯一マナ操作を可能とする『月』の属性持ちじゃないと開かない。


 「けど、ルーミアさんが開ければいいんじゃ?」


 「扉には神殿以上の魔法を無効化する加工がしてある。魔法拒絶リジェクトと呼ばれる技術ぢゃ。これにわらわ達、マナで構成された精霊が振れれば消滅してしまう。むろん、物理的な破壊も不可能になるような魔法金属マナメタルを使用しておる。それに、正しい手順で開けなければ守護岩石騎士ガーディアン流星騎士メテオ・ナイトが何体も出張ってくる」


 なるほど、ボクもログさんからそんな金属がどうのこうのと聞いたことがある。おもな使用目的が金庫とかの作成で、表面に魔法妨害ジャミングの特殊な加工を行うことで魔力による硬度が失われることがなくなるらしい。たぶん、それに似たようなことを施してあるんだろう。

 そして、破られれば守護岩石騎士ガーディアン、あるいは流星騎士メテオ・ナイト。ボクの脳裏に前回の内容がリピートで再生される・・・・・・もう悪夢でしかない。


 「よって、開けられるのは汝だけ・・・ここぢゃ!」


 ルーミアさんが立ち止まり、ボク等にその扉を示す。

 そこには中心に大きな丸い装飾の施されている壁があるだけ。もしかしなくても、この不自然な壁が?


 「ソラ、そこに手を」


 ルーミアさんに言われるままに、ボクは壁に右の掌で触れる。すると、不思議なことに壁の中に閉じ込められている濃密なマナの存在を感知できるようになった。

 それと同時に、目に見えないはずの中の構造がわかる。周りに何かの鉱石のようなものがいくつかある。


 「マナを周りにある石に込めろ。それで道は開く」


 ボクは言われたとおりにマナを周りの石に込める。すると扉が輝き始める。

 ・・・これで、鍵が外れた?


 「うむ。開けろ」


 ボクは言われたとおりに扉を開けようと思った瞬間、いきなり音もなく壁の一部が焼失した。ボクは前につんのめるようにしてたたらを踏む。そして体勢を立て直して前を見れば、そこには石造りの『月の精霊殿』の通路が見えた。


 「時間がない、行くぞ!」


 ボク等はルーミアさんを先頭に神殿内部を走り始めた。




―――side奏

 『見つからない』

 『見つからない』

 『料理の子』

 『見つからない』


 途切れ途切れに精霊さん達が口々に言う。

 精霊さん達は力が弱いのか、みなさん少しずつしか話せません。


 「お願いです、何としても見つけてください!」


 『頑張る』

 『奏の為に』

 『大好きな』

 『奏の為に』


 わたしは今、誰もいない教室の中で精霊さん達と話しています。

 今日、Dクラスの皆さんは闘技場での演劇の為に朝早くから準備をしています。そのおかげでこの場にはわたししかいません。


 『探す?探す?』

 『場所あった?ない?』

 『ない』

 『ない』


 集まる情報はさっきから見つからない。

 精霊さん達はわたしの必死のお願いを適当に扱ったことなんかないので、信用はできるんですけど・・・。


 『ある』


 唐突に、精霊さんの一つがそんなことを言いました。

 そう言ってきたのは風の精霊さん。風の精霊魔法はもちろん、いつも情報収集をするときにお世話になります。


 「どこですか!?」


 『扉』

 『扉?』

 『開かない?』

 『扉?』

 『消えちゃう?』

 『探せない』


 「どういうことですか?」


 お話をまとめてみると、学園のどこかに開かない扉があって、そこは精霊さん達では通ることはおろか、触れることすらできない場所みたいです。


 「じゃぁ、どうすれば・・・」


 怪しい場所があるのに調べられない。けど、精霊さん達に無理はさせられない・・・。

 どうしよう?

 そしてまたまた唐突に精霊さん達の一団がやってきました。


 『奏、奏!』

 『命令聞いた』

 『お月さまから』


 『お月さま』というのは、ルーミアさんのことです。神霊ということで、精霊さん達もルーミアさんには様付けをしているようです。


 「どうしたの?」


 『お月さま、月の子』

 『開かない扉』

 『中入る』

 『開かない扉、開いた』

 『神殿』

 『怪しい』

 『調べろ』


 どうも、さっき話題に上った扉の中に師匠達が入ったみたいです。

 それなら精霊さん達にも調べてもらうことができます。


 「では、そこもお願いします!」


 『わかった』

 『わかった』

 『奏のため』

 『頑張る』


 そしてわたしがありがとうとお礼を言おうと思った時でした。いきなり教室の扉が開く音が聞こえました。

 精霊さん達との会話を聞かれたと思っい、思わず体が硬直します。


 「あ、四条ちゃんめっけ!」


 「ここにいたのね」


 入ってきたのは副代表さんと、アスカさん。二人はわたしの精霊魔法のことは知っているので問題はないです。ほっと安心します。

 「な、なんですか?」


 「何って、時間だよ時間!」


 何のことか分からず首をかしげていると、副代表さんが教えてくれます。


 「ミスコン。もうすぐ集まらないとダメだって」


 「・・・あ」


 すっかり忘れていました。

 けど、今はそれよりも・・・。


 「早く歌って優勝しちゃおう!」


 「あ、ああ、あの、その、こ、ことなんですけど・・・」


 その時、不測の事態が発生してしましました。

 精霊さん達が嬉しがるようにわたしの周りで踊りだします。わたしにだけ見える、光の球が縦横無尽に駆け巡ります。


 『お歌!』

 『奏のお歌!』

 『聞きたい!』


 「そ、それよりも先に・・・」


 『お歌!』

 『お歌!』

 『お歌!』


 ダメです。精霊さん達は基本的に気分屋さんです。

 自分にとって一番興味深いものを率先して行います。さっきまでは、わたしの心配ごとを助けるということが一番でしたが、最近は精霊さん達に歌を歌う機会がなかったので、精霊さん達はわたしの歌こちらを優先してしまったみたいです。

 されに師匠に歌の危険性を示唆されて、精霊さん達に歌ってあげることを控えてしまったことにも原因があるように思います。

 まさか、こんなことになるなんて・・・!


 「ほらほら、早く行くよ~!」


 「しょうがない、時間もないから強制連行ね」


 「あ、あの・・・!」


 そして、わたしはみなさんに連行されてしまいました。




―――side空志

 「四条さんに連絡できました?」


 「・・・わからん。さっきから精霊による返事が来ん」


 前回同様に『月の精霊殿』ではピアスが使えない。だから、ルーミアさんに頼んで精霊による連絡を頼んだんだけど・・・。


 「どうしたんだろう?」


 「いやな予感しかしねぇな」


 「・・・」


 ボクの疑問に、リュウとリカの二人は険しい表情を返してくる。

 本当だ。けど、今は前に進むしかない。


 「こっちぢゃ!」


 ルーミアさんのおかげで複雑な神殿内部を迷うことなく最深部へと向かう。

 しばらく走っていると、見覚えのある広間に着く。ここは隠し通路に続くあの場所だ。いつの間にか修復されているのか、前の破壊の痕跡が全くない。


 「ここまでくれば、最深部までは・・・」


 「待て」


 いきなりルーミアさんがボク等を止める。

 何で急にとまるのか不思議に思いながらも立ち止まる。ただ、リュウは焦っているからか、ルーミアさんにかみつくようにして言う。


 「何でだよ!もうすぐ最深部なんだろ!?そこにスズが!!」


 「何で、ここが修復されておる?」


 いきなり、ルーミアさんがトチ狂ったことを言い始める。

 ここはデフォルトで神殿内部の自動修復が働いていたはず。そのせいで守護岩石騎士ガーディアンと戦うはめになった。それも厄介なフィールドで。


 「わらわ達はのう、あの時あのフェイクとかいう小僧から逃げる必要があった」


 「それがどういう関係が?」


 「わからんのか?わらわは逃げるときに、ここの操作盤をいじって、自己修復が働かないようにしておいた。そうせんと、遺跡の内部を破壊し、通路を崩してもバリケードの代わりにならん。壊した先から修復されるからのう。そして、わらわはそのプログラムをアレ以降いじっておらん。・・・それに」


 ルーミアさんがいきなり何もないところに向かって魔法を放つ。すると、何もないところに銀色の光弾がぶつかり、はじける。

 目の前の理解しがたい状況にボク等は目を白黒させる。


 「≪月詠ツクヨミ≫を使え。汝なら見えるはず」


 ボクはルーミアさんに言われたとおりに≪月詠ツクヨミ≫を発動する。すると、今まで魔法の反応なんてなかったのに、周りには異常なぐらいに魔力が高まっている。


 「幻術の類か?おそらく、入口から徐々に強い魔法に変えていったんじゃろう。わらわ達はそれに気づかず、敵の懐に潜り込んでしまったようぢゃ」


 そう言うと、ルーミアさんは周囲に魔法を放つ。そうすると、周囲にあった幻術は破壊され、本当の姿を現す。


 「なんだよ、これ!?」


 「気持ち悪い・・・」


 リュウとリカの言うとおりだ。

 神殿の通路の横に培養槽のようなものが並び、そこには見たこともないような生物が浮かんでいる。


 「・・・ソラ、あれ!」


 リカが何かに気づいて、水槽の一つをさす。

 それを見て、ボクも驚きに目を見開く。そこにはグロテスクな、まるで熊のような生物。それは前にボク等が戦った、異常に強い魔獣だった。


 「こんな所に、何で・・・!?」


 「意外に遅かったな」


 まるでボク等の疑問に応えるべくタイミングで、一つの影が現れた。ボク等はその声に弾かれたように振り向く。

 そこには端正な顔立ちの、一人の青年がいた。


 「お前、何で・・・」


 「久しぶりだな、『月』の少年」


 自称『森羅の魔王』、フェイク。

 最強にして、最凶。そして災厄の魔王がそこにいた。




―――side???

 久しぶりに連絡したと思えば、あの野郎バカは無理やりに俺の行き場所を決めやがった。


 「・・・八つ裂きにするぞ」


 というか、俺もあいつもいい年なんのに、何でわざわざ人間の学び舎に行く?

 ・・・まぁ、祭りならしょうがない。行ってやるか。

 それにバカ息子からもよく聞くが、あのバカが面白いやつらを引き入れたらしい。ここで見れるとか言ってたからな。ついでに見ておこう。


 「・・・にしても、なんだこの異様な匂い?」


 魔力から、いやな匂いを感じる。

 こんなおぞましい魔力が渦巻いてるってのに、人間はよく祭りなんか開こうと思えるな。まぁ、人間は俺たちほど敏感な鼻や、感覚器官を持たないからな。なんでも道具に頼りやがって・・・情けない。


 「まぁ、そこが面白いのも事実」


 それに、あのバカがカミさんに尻敷かれてるのを見るのは面白かった。というよりも、勇者様と結婚しようとする魔王がいるかよと俺は思ったな。それは周りも同じだろうが。

 さぁて、今回あいつはどんな面白いもんを見せてくれるんだろうな?


作 「さぁ、というわけでついに話のメインディッシュ、『魔王再び』に突入!」

フェイク 「俺の出番だな」

作 「・・・あれ?あんたが来るの?」

フ 「『森羅の魔王』なる、この俺が出なくてどうする!」

作 「まぁ、この人もいつものように残念な魔王の一人なんで安心して下さい」

フ 「何を言うか、魔法、勉学、軍事、政治に経済。さらには家事、洗濯、炊事も完璧にこなすこの俺が、あの平和ボケした魔王と同じだと!?」

作 「こんなところで露見してほしくなかった!」

フ 「貴様の目は節穴だな」

作 「まぁ、こんな家政婦魔王は無視しておきましょう」

フ 「この扱いはなんだ・・・!?」

作 「まぁ、今回やりたかったのは精霊魔法の弱点、そして文化祭といえば!という話のための伏線はりです。それにぶっちゃけた話、やっとこの章の本編が始まった感じですね」

フ 「愚かさゆえの、愚鈍な行いだな!」

作 「さて、いい加減に長くなってきたので、次回!」

フ 「この俺の覇道をとくと見ろ!」

作 「・・・当たらずも、遠からずだったり。とにかく、次回もよろしく!」

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