22話・DIM
―――sideティーナ
私がカリンさんという、カレンさんの妹さんの幽霊と頑張って手合わせをしてもらっていると、唐突に膨大な魔力を感じました。
カリンさんもそれを感じ取ったのか、ちらりとその方向を見ます。すると、何故か驚愕の表情を。
私は気になってカリンさんと同じ方向を向くと、そこには雷の大槌を肩に担いで持つカレンさんの姿が。
そして、カレンさんはビシッとポーズを決めてその大槌を地面にたたきつけます。すると、いくつもの雷の柱がソラ君に向かって殺到し、ソラ君はそれにのまれてしまいました。
「・・・って、やりすぎですよ!?」
「そ、そうだよ。いくらなんでもやりすぎだよ、お姉ちゃん!」
「・・・少し、張り切りすぎてしまいました。・・・てへ」
そんな風に無表情に言う、生ける屍なメイドさん。
「ですが、手応えがありませんでしたね」
そう言うと、カレンさんは突然、自分の後ろに振り向き、雷の大槌を叩きつけます。
私はそこから飛び退く影を見つけ、一安心します。
「バレてましたか」
「・・・半信半疑でしたが。よく生きてましたね」
「殺す気満々だったんですか!?」
ソラ君でした。
どういうわけか、カレンさんの後ろに回って反撃したみたいでした。
・・・・・・あれ?
「というか、≪真月≫を使わせてくださいよ」
「無理ですね。術式≪断月≫が厄介です」
「まぁいいです。これでピースがそろいました」
「・・・何のことでしょう?」
ソラ君はにやりと笑うと、右手を突き出して、そこにいくつもの黄色の魔法陣を展開します。
「―――神鳴の太刀。
≪建御雷≫!」
その瞬間、ソラ君の魔法陣が放電し始め、雷が一つの形になっていきます。それは三メートルほどもある、巨大な両刃の雷の太刀。
「・・・パクリですか?」
「まさか。カレンさんがボクのエセ具現化を持った時のあれを参考に考えたんですよ。まぁ、最後はカレンさんの≪豪雷神之飛来槌≫を≪月詠≫したら勝手に構築されましたけど」
そう言うと、ソラ君はその雷の太刀をカレンさんに向けます。
「ティーナさん、お願いします」
「は、はい」
では、私は頑張りましょう。
―――side空志
≪建御雷≫、ボクが自力で考え出した上級魔法。
これは元々が具現化を劣化させて、雷の太刀を作り出して、攻撃しようと考えたもの。性能は≪月夜≫と大差はそれほどない。まぁ、あるとすれば・・・。
「術式≪鳴神≫!」
術式が使えること。
この術式はよくわからないけど、特定条件を満たした魔法ならそこから派生させてさらに強力な魔法を放てるというもの。
まぁ、それがわからなくて右往左往しているのが現状なんだけど。
ボクが今回使った術式は、雷の太刀で突きをすると雷が高速でレーザーのごとく放たれるというもの。貫通力に優れた魔法みたいだ。
・・・・・・でも、この魔法も普通の人相手には使えない。
「そんなもの食らえば、私の奇麗な肌が焼けてしまいます」
「人のこと殺そうとして何言ってんですか、この人は?」
「それよりも、私は三谷様がどうやってアレから逃げられたのか気になります」
「勝てたら、教えるよ!」
ボクは太刀を叩きつけ、それをカレンさんは大槌でガードする。
互いの間で激しいスパークが発生し、互いに紫電が襲いかかってくる。そしてボク等は示し合わせたかのように同時にバックステップを踏んで距離をとる。
そして再び距離を詰めて、立ち位置を変え、ボク等は踊るように戦う。
「まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す・・・といったところでしょうか?」
「カレンさんは、どっちかと言うとスズメバチでしょ?」
「・・・カッコいいですね」
「もうやだ、このプリン好きな生ける屍」
そう言いながら、ボクは再び距離をとり、術式を使うために構える。
「では、私も・・・」
カレンさんも大槌を構える。
そしてボク等は動き出す。
「ティーナ!」
「はい!・・・≪煌星≫!」
「お、およよ!?」
「ッ!?」
二人は気づいてなかったみたいだけど、今のボク等の立ち位置は一直線に並んでいて、ちょうどカレンさんとカリンさんが背中合わせになるようになっている。
ボクがこっそりとマナで文字を書いて、それをティーナに読ませる。そして、合図があれば一番強力なのをカレンさんにたたきこむように頼んだ。
そしてボクは・・・。
「術式≪鳴神≫!」
紫電の突きを背中を向けているカリンさんに放つ。
カレンさんは突然後ろから放たれた光の弾丸に当たり、その弾丸の爆発に巻き込まれて吹き飛び、カリンさんはその異常な身体能力をもってして後ろに振り向き、スコップでボクの紫電の突きをそらす。こんな芸当ができるとかふざけすぎている。
「でも、かかりましたね」
「あ、ありゃりゃ」
「勝ちです!」
カリンさんの後ろにはティーナ。カリンさんの背中にはティーナの右の掌が押し付けられている。
『なんだかよくわからないおまけ試合はー・・・三谷空志君チームの勝ちー!』
そして、観客席が歓声に包まれた。
―――side鈴音
「何にしようかな~?」
わたしは飲み物を買うために近くの模擬店の所にいるよ。
そこでわたしは自分の分だけじゃなくて、リュウ君達の分も買ってあげようと思った次第です、うん。
わたしは鼻歌交じりにリュウ君は何が好きかなーって思いながら品物に目をやっていた。
「じゃ、これ下さ~い」
「はい、どうぞ」
お金を払って、両手に缶ジュースを持って自分たちの席に戻ろうとしようとしたとき、わたしは見つけちゃった。
思わずすぐそこの柱の陰に隠れる。けど、心臓はバクバク言っている。
「な、何でいるの・・・?」
おかしいよ。だって、あの人は前に・・・。
「見ぃつけた!」
耳元で突然声が聞こえる。
そして・・・・・・。
―――side空志
「ホンマにすまん!」
「そうです。土下座してください」
「お前も、カリンも謝れ!」
闘技場の選手控室の外。ボクはカバネさんに謝りたおされていた。
「いや、もう過ぎたことですから・・・」
「・・・ご主人様、プリンの香りがするので行きます」
カレンさんはそう言うと、風のように走って逃げた。
「おまっ!?・・・カリンもカレンに憑いて行きよった」
「ま、まぁ、いつものことですし・・・」
いや、いつもあれじゃダメだと思うんだけどさ。
そんなことを思いつつもカバネさんにもういいですよと声をかけ続ける。
「あいつも悪気があるわけ違ゃうねん。魔法陣使うお前を弟みたいに思うとる部分があるだけでな・・・」
「・・・そうですか」
この二人、いや三人の故郷はすでにない。
そしてカレンさんは小さな子供達に魔法陣での魔法を教えていたみたいで、カバネさんによると、カレンさんは村でお姉さんの役割をしていたみたいだ。
「とにかく、カレンには後でよう言うとくで、勘忍な」
「だから、大丈夫ですって」
何回も謝るカバネさんに苦笑しつつも、ボクは闘技場のアリーナ席に向かう。
確か、さっきリカを見つけたところは・・・あ、いた。
「おーい」
「おう、お疲れ」
そこにいたのはリュウだけ。
ボクは姿の見えない二人の女子の行方を聞いてみる。
「それがな、スズが飲み物会に行ったんだけどな・・・帰ってこねぇんだよ」
「トイレかな?」
「それにしても遅いから、リカが近くのトイレを見に行った」
「スズって、天然の嬢ちゃんか?」
「まぁ、概ねあってます」
カバネさんがボク等にスズの情報を聞く。そして突然詠唱を始めたかと思うと、いきなり死霊術を使い始めた。
カバネさんの周囲の空気が変わる。そしてカバネさんは何もいないはずの空間に向かって話しだす。
「ええか、今回はこうゆう特徴の嬢ちゃん探して来い。んで、終わったら成仏な。・・・・・・あぁ?仕事がしょぼい?知らんわ。さっさと成仏せぇ。・・・・・・余計なお世話や!?誰がストーカーや!?むしろ、こっちのボーズのコレや」
「ちょっと待て、何で小指を立ててんだよ!?」
「わかったやろ?ツンデレや。・・・・・・見つけたら知らせてな。・・・・・・そうや、このボーズの恋路の為や。・・・・・・頼むで」
なんだか幽霊と変な会話をしていたような気がしないでもないけど、無視しよう。
「て言うか、死霊術っていい加減なんですね」
「やろ?ワイも最初はびっくりしたわ」
「違ぇ、絶対にいろいろと違ぇ!?」
「鈴音、いなかった。・・・ソラぁ~!」
もう、慣れたボクはリカが突撃しようとしてきたその時、衝撃に備えた。すると、リカがいつものようにボクの背中に突撃してきた。
・・・・・・地味に痛かった。
「リカ、スズはいた?」
「いないの。一応近くも軽く探したけど見当たらなかった」
「・・・リュウが甲斐性ないからだね。ついに愛想つかれたんだよ」
「黙れよ!?」
まぁ、そんなことも言ってられない。
確かに、スズが何の理由もなく姿を消すとかは考えづらい。いつも仕事が済めばみんなのところに戻ってくるからなぁ・・・。
「レオってどこ?」
「散歩に行っちゃった」
「こういう時にこそ、スズのにおいをレオが嗅ぎつけるとかしなきゃダメなのに」
まぁ、しょうがない。ないものねだっても意味ないし。
ボクがリュウ達にスズを探しに行こうとしたとき、校内放送が流れだす。
『最終日の花火について連絡があります。関係者は至急職員室へ』
「・・・おい、これって」
「・・・」
リュウが驚きに目を見開き、リカは厳しい表情をスピーカーに向ける。
「何で・・・」
「どないしたん?」
「いまの放送、爆破予告の関係です」
「・・・ホンマかいな?」
ボク等の名前出したらいろいろとまずいと、最初のころにこんな放送が入ったらすぐに来てねとサリナさんから言われている。
「しょうがない、オレ達は理事長室だ。スズもそこには行ってるだろうしな。・・・じゃ、行くぞ」
ボク等は理事長室に駆け足で向かった。
ボク等が理事長室に着くと、そこには他のみんながすでに集まっている。いや、一人だけ見当たらない。
「・・・スズはどこだ?」
「スズさんですぅ?」
「リュウさんと一緒では?」
双子が言うとおりなのか、みんなも困惑した表情を浮かべる。
リュウはそうかと一言だけ言うと、サリナさんに向き直る。
「で、何であの放送を流した?緊急事態か?」
「えぇ、緊急事態よ。さっき理事長室の前に爆破予告の紙が貼られたわ」
そう言って一枚の紙をボク等に見せる。
紙には、もうわけがわからないことが書いてあった。
『準備は整った。明日未定、そこを消す。観客もろとも殺す。下手に騒ぎ立てれば、すぐにそこを消す。平和の礎になることを光栄に思え。我らの無限の力が魔物に与する貴様たちを滅ぼす』
「どういうことだ?」
「て言うか、何でここが魔窟とつながっていることが?」
「わけがわからないわね」
「・・・姉さんは漢字が読めないだけじゃ?」
「こ、怖いです・・・」
みんなは口々に言う。
けど、どういうことだ?ボク等は爆発物を処理できたはず。しかも、時間が未定になった。どういうこと?
「どういうことなんだよ、わけが、わからない・・・」
ボクの口からはそんな言葉しか漏れてこない。
Dクラスのみんなで食い止めたと思えば、それが間違いだったってこと?それで、ボク等はそれに気づかず今まで遊び呆けていた?
「待ちなさい、おかしいじゃない。相手はわたし達が魔法陣を解除したのを知らないバカなのかもしれないわよ?」
冬香の言うことももっともだ。けど・・・。
「それは、たぶんない」
「何でよ?」
「サリナさん、この紙は理事長室の扉に貼られていたんですか?」
「えぇ、その通りよ」
「なら確定だ。これは、犯人の関係者、もしかすると犯人直々にわざわざ貼り付けに着た可能性が高い」
「それがどうしたのよ?」
「だったら、自分の仕掛けがちゃんとうまくいってるのか普通なら見に行かない?」
ボクは見に行く。いざって時にうまくいかないといやだから。そんな経験は誰にでもあると思う。
それに、これには『準備が整った』って書いてある。前から計画している可能性も高い。それならボクは最終チェックをしてからこの紙を張り付けていく。
「しかもここまで饒舌になってる。たぶん、ボク等がフェイクに引っ掛かったのが相当うれしいんだと思う」
「・・・」
冬香がついに押し黙る。
「・・・でも、どうしますか?」
「普通なら今すぐ文化祭を中止するわ。・・・けど」
サリナさんがそう言う。
そう、普通ならそうする。だけど・・・。
「すでに準備が整っていて、下手に騒げば今すぐ消される。要するに、犯人はボク等とゲーム感覚で戦いたいんだろうね」
ルールはいたって簡単。
ボク等が相手を止める。このゲームでかかっているのは、ボク等を含めた、文化祭にいる人間全員。
ものすごく性質の悪いゲームだ。
ふざけている。
作 「というわけで『暗転』をお送りしました!」
鈴 「わ、わたしどうなっちゃうの!?」
作 「さて、どうなるんでしょ?」
鈴 「え~、教えてよ~」
作 「じゃ、とらえずあんなことや、こんなことして・・・」
鈴 「・・・ほぇ?」
作 「エロい事やられる」
鈴 「だ、ダメだよ~!?そんなこと~!」
作 「安心して、半分嘘だから!」
鈴 「そっか、それなら安心だね~」
作 「さて、地味に鈴音ちゃんの頭が心配だけど次回予告!」
鈴 「・・・?」
作 「罠ってのは、二重に仕掛けるものだよね!次回もよろしく!」