10話・SEARCH
―――side空志
『脅迫状がまた届いた』
文化祭準備期間最終日、ボク等はサリナさんからその報告を受け、招集がかかってすぐに理事長室へと向かった。
理事長室に入ると、既にみんなとサリナさん、カルネル先生がいた。そして開口一番、サリナさんはこれが脅迫状よと言いながら、前の分もまとめてボク等に見せる。
「・・・今度は、時間の指定かよ?」
「23日の正午に爆破、ね」
ボクとリュウが声に出してそう言うとみんなは押し黙ってしまった。
サリナさんから詳しい話を聞くと、この脅迫状は今朝未明に職員が発見。封筒に理事長宛てと書いてあったらしく、そのままサリナさんのところに来たらしい。そしてサリナさんが封を開けてみれば二通目の脅迫状。
「手口が一緒ね」
「やっぱり、同一人物ですか?」
平地姉弟がそう言う。たぶん、二人の言うとおりだと思う。
こんなタイミング良く似たような内容が届くわけないし・・・。
「でも、学園内では今回の事件に関した噂が出回っているですぅ」
「それは俺も聞いたことがあります」
「私もそうですね」
そう、噂って言うのは怖いもので、やっぱり情報がどこからか漏れたらしい。まぁ、一番怪しいのがDクラスのアホ共ってオチなんだけど。なんせ、一部がボク等の事情に詳しいから話さざるを得ない。けど、いくらバカでもあのメンツなら大丈夫だと思ったんだけどなぁ・・・。
「で、でも、この期間はものすごく忙しいんですよ?せ、生徒がこんな悪戯をする暇があれば、ま、間違いなくお仕事を振り分けられると思うん、です、けど・・・?」
四条さんがものすごく自信なさそうにそう言う。
でも、確かにここ最近の学園内は異常な空気に包まれていた。たぶん、締め切り間近になった作家さんとかはあんな空気を醸し出すんだろうと思う。
「そうね、それは四条さんの言うとおりよ。この時期は生徒も先生も慌ただしくなるからあり得ないって考えてもらっても大丈夫だと思う」
「・・・なら、誰がやったの?」
リカが呟く声にみんなはまたも押し黙る。
結局は堂々巡りかな?みんなは一生懸命考え始める。でも、情報が少なすぎてどう特定すればいいのかわからない。
「・・・・・・ねぇねぇ、みんなは何を悩んでるの~?」
・・・若干一名だけ考えることを放棄していた。
「あのなぁ、スズ。オレ達はこの脅迫状を送ってきたやつが同じなのか、それとも違うのかで悩んでいるんだ」
「それがわかれば、ただ単なる悪戯の可能性が大きいか、それとも本気なのかぐらいのことが分かるかもしれないでしょ?」
ボクとリュウは簡単に状況を説明。
まず、もしも手紙を送ったのが別々な場合。まぁ、これは悪戯の可能性がぐんと上がる。少なくとも二通目に関しては、だけど。警察に届け出ると文化祭が中止になる可能性が高くなるからそれは避けたいみたいだ。ボク等としては中止にしてもらった方が安心なんだけどな・・・。
そして同一人物の場合。これは本気の可能性が、と言うか完全にこれが犯行予告だってことが確定すると思う。意味もなく手紙を二通出すなんてボクならしない。
一から説明するとスズはうんうん頷いている。どうもわかってくれたみたいだ、たぶん。
「・・・じゃあ、何でみんなは悩んでいるの~?」
ループした。
ボクとリュウだけに限らず、理事長室にため息の音が響く。
「何でみんなわたしをそんな目で見るの~!?・・・むぅ、だってこれは一緒の人が出したんでしょ~!?」
スズが頬を膨らませながらそう言う。
「いや、だからそれがわからないから困っているんだよ」
みんなはボクの言葉にうんうんと頷く。
すると、スズの顔が何故か驚きの表情になる。
「え?そうなの~?だって、このお手紙の紙と字は一緒じゃないの~?」
なんだかスズがよくわからないことを言いだし・・・・・・そうか!
・・・なるほど、地味にいいところに気づくのにスズは残念な頭をしている。
「まさか、スズが見破るとかねぇ」
そう言いながらボクはスズの頭を撫でる。
みんなはボクのそんな行動にキョトンとするか・・・。
「何で、鈴音にはそんなことを簡単にするのに、アタシにはしてくれないの?」
「・・・お願いですから鎌を引いてください」
スズの頭から手を離し、リカの鎌を押しのけて説明を始める。
「スズはこの事件の前後関係からじゃなくて、この二通の脅迫状からそう判断したんだ」
そう言ってボクは二通の手紙を見せる。
でも、スズ以外は首をひねるだけだ。
「要するに、紙の材質と字のインク。そう言うことだよね?」
「うん?・・・そだよ~?」
・・・もう、突っ込まない。疲れるから。
「これ、よく見ると紙の質と、字の濃さが全く一緒じゃない?」
「・・・確かに、言われてみるとそうね」
そう、スズはそこから判断したんだ。・・・・・・・・・・・・・・・たぶん。
まぁ、わざわざ紙の材質にまで気を使うような人はいないだろう。まぁ、学園内部の人なら同じものができてしまう可能性もある。けど、それはあり得ないとさっき結論が出ている。つまり、別々の人が同じ紙を、そしてインクを使う可能性は限りなく低い。まぁ、それでも確かにこの考えに無茶な部分があると言うのもわかる。
けど、タイミングから見てもこれが正解に見える。
「まぁ、これで23日の正午に爆破されるわけだね。この学園」
「不吉なこと言わないでくれる?」
サリナさんがボクを睨むが無視する。
「となると、この手紙が同一犯として何故急に送ってきたかってことになるね・・・」
「はいですぅ!」
「シャンちゃんどうぞ」
「私達が騒ぎ立てないからですぅ!」
要するに犯人は愉快犯で、何のリアクションも見せないボク等に苛立ち、再三警告を発してきたというわけか。
「確かにありそう。他は?」
「・・・ひょっとして、爆弾の設置が既に完了しているとか?」
ハル君の言うことが本当だとしたら、それはものすごくヤバい。
けど、相手が指定してきたのは三日後の正午。それまでに見つけられてらどうするんだと言うこともあるけど、それだけ自信があるっていうことか・・・。
「・・・何とも言えないね」
「なら爆弾は設置していないが、それ以外の準備が完了したってのはどうだ?」
「うん、リュウの言ってるヤツのがありそうだね」
でも、どっちにしても相手がゲーム感覚で仕掛けていることに変わりがない。
相手は相当ヤバそうだ。
「どっちにしても、すぐに学園内を見回っておかないと・・・」
「でも、爆弾がどんなものなのかわからないよ?」
「もしも既に設置されているなら時限式しかないでしょ?それに、設置されているとすると、外部から運び込まれてきた物品が怪しい」
「ちょっと待って、緊急で各クラスの代表に物品の仕入れ先を確認してもらうわ」
そう言うと、サリナさんは今まで何も話していないカルネル先生に一言だけ何か言うと、カルネル先生は理事長室を出ていく。
「なら、ボク等は教室以外の所を調べよう。・・・そう言えば、一人だけこう言うのが得意そうな生徒がいるんですけど、協力を頼んでもいいですよね?」
「・・・寺井さんのことね?」
一年Dクラスの副代表寺井杏奈、属性は『友好』。杏奈さんが動物達にお願いすれば格段に効率が良くなる。それに、Dクラスで仲のいい人にはバラしてあるし。
「そうです。それと、四条さんはここから精霊達にお願いして探してもらえる?」
「わ、わかりました!」
そして、ボクはフードの中で今だねているレオを叩き起す。
ボクは寝ぼけ眼なレオに言う。
「レオ、何か怪しいものがあればすぐに知らせて。・・・拾い食いはダメだよ?」
「・・・にゃぁ」
レオは眠いと言わんばかりにトテトテと当てもなく歩いて行った。
「後は学園内を隈なく探すしかない。あえてどこを探すか指定しないから、とにかく全部調べよう」
「非効率的だが、今はそれ以外にやりようがねぇからな」
見落としはなくす。一応そう言う目的はあるけど、下策としか言いようのないゴリ押しな作戦だ。
もう、本当にグダグダだとしか言いようがない。完全に相手のペースに乗せられている。もしも相手が本気を出して襲いかかってきたりなんかしたらと考えるとゾッとしない。
・・・・・・なんにしてもやらないとダメだ。今現在の時間は九時。
「じゃぁ、今から正午まで探す。念のために二人一組で行動して。昼はいつものようにご飯食べて、探したりないところがあれば午後も引き続き続行。それでいいかな?」
みんなはボクの言葉にうなずく。そしていつものようにリュウとスズ、シュウと双子、平地姉弟、最後にボクとリカといった感じで別れる。
これで準備は整った。そしてみんなは理事長室から出ていくと、思い思いの方向へと走っていった。
ボクも杏奈さんに頼んでからすぐに探さないと・・・。
「・・・あの噂、本当になりそうなの?」
「うん、そのために杏奈さんの力で動物達に怪しいモノがないか調べてほしいんだ」
とりあえず、ボクとリカは教室に戻ってカザハ達に事情を説明して、杏奈さんの力が必要だと言った。
全員、深刻な顔で黙りこんでしまう。
まぁ、そりゃそうだ。規模がわからないけど、下手したら死人が出る事態になるかもしれない大事件・・・。
「よっしゃぁ!やっぱ、こういう事態がないと祭りは面白くない!」
「まぁ、ミタニーが来た時点で遠からずこういう事態になってた気がするからなー」
こいつら、致命的なまでにバカだ・・・!
正直な話、爆破予告犯よりもこいつ等の方が怖いかもしれないと冷や汗が頬を伝う。
「ならば、Dクラスの全員で探した方が早いのではありませんか?」
リオネさんが嬉しい申し出をしてくるけど、それはできない。
いや、大騒ぎになるじゃん・・・?そうなったらサリナさんとの契約を反故にする形になってしまう。それに、ここで騒ぎ立てないように行動したとして、Dの全員が動いたことは少なからずすぐにバレる。なら、ただ事じゃないと察しのいい人に勘づかれたらそこでパーだ。
「・・・いや、俺にいい考えがある」
意外にも、カザハが何かを思いついたらしい。
カザハは立ちあがって、みんなが自分に注目するように言う。そして一言。
「ソラのヤツが、また厄介事に巻き込まれた。俺達も手伝うぞ!」
「「「おっけー」」」
「軽っ!?」
「今回はあの爆破の噂がマジになりそうらしい。そこで爆弾を探す!」
「何、あっさりバラしてるの!?」
「大丈夫大丈夫。みんな落ち着いてるから」
アスカさんがそう言う。
確かに、爆破の噂が本当だと言う割にみんなは落ち着いている。
・・・なんで?
「簡単ですわ。貴方が巻き込まれることは大抵が大事ですから、このうわさが出た時点でわたくし達は覚悟していましたわ」
「まさに信頼と安定のミタニーフラグだったなー」
「嫌な信頼のされ方だ!?」
でも、この夫婦の言うとおりなのか、既に誰がどういう風に魔法使って調べようか考え始めているらしい。
そこでざわつき始めたクラスメイトをカザハが一喝し、更に続けて話す。
「だが、一つ問題がある。これを表沙汰にするのは御法度らしい。そこで、Dの大部分が動けば変に勘ぐられて噂に拍車がかかる可能性がある。でも、明らかに時間がないのも事実だ」
「「「・・・」」」
全員が静かに話を聞くなか、カザハの声だけが教室内に響く。
カザハ一旦切った言葉を更に紡ぐ。
「そこでだ、俺に考えがある。・・・・・・・全員、演劇の準備をしろ。ゲリラ公演するぞ!」
「「「・・・は?」」」
こいつ、バカに拍車がかかった。
ボクはこの時、本気でそう思った。
―――side隆介
「・・・スズ、そっちはあったか?」
「無いよ~・・・。思ったよりも大変だね~」
スズは額にうっすらと汗をかきつつオレに笑顔を向けながら言う。
「無茶すんなよ。つか、マジでどうすんだよ・・・」
手がかりも情報もゼロ。
できることは闇雲に探すだけ。もうため息をつく以外に方法が見つからない。
そしてもう何度目になるかわからないため息をついていると、何故かやたらと騒がしい音が聞こえてきた。
・・・なんだ?
オレは疑問に思ってスズを見るが、スズも首をかしげている。すると、ここの近くも急に騒がしくなってきた。
「一年Dクラスの、『騎士物語』!只今、絶賛ゲリラ公演中!!」
「リハを兼ねているので、誰でも見に来てください!!」
・・・・・・おい、何やってんだ!?
このタイミングでゲリラのリハ公演!?意味がわかんねぇよ!?
すると、今度は誰かに肩を叩かれる。オレは何の気配もなしに後ろに立たれ、驚愕しつつもスズを背にかばって相手と対峙する。
「お?忍君だ~」
「・・・知り合いか?」
そこにいたのは中世的な顔立ちの・・・・・・どっちだ?
名前から判断しようにも、両方でありえるから判断できない。って、制服がズボンだから男子か。
「初めまして、影崎忍と言います。坂崎殿と一緒の様子からお仲間と察します」
「あ、あぁ。俺は間隆介だ」
「わかりました、間殿。代表より現状の説明を三谷殿の仲間に伝えろとの指示を受けたので、こうして来ました。現在、代表のシルファリオン殿の発案でゲリラ公演をしています」
シルファリオンってのは、確かソラのクラスの代表の名字だったはずだ。
・・・今はそうじゃない!!
「いや、何でそうなるんだよ!?」
突っ込みどころが多すぎる。
何でこうも堅苦しい言い方で、しかも忍者っぽいんだよ!?
「あのね、忍君は『あさしん』のお仕事をしてるんだよね~?」
「いえ、それは遥か昔の話です。今ではそんな物騒なことはしておりません。ただ、我が家にそれ関係の魔法が代々伝わっている程度です」
「それって、いつでも暗殺者になれるってことだよな!?つか、スズはオレの心の中を読むな!?」
なんなんだよ、このDクラスって奴等の奇人レベルは!?
「では、話を戻します。シルファリオン殿達の目的は演劇のリハも含んでいるとは思いますが、本当の狙いは魔法の使用です」
「え?魔法を使うの~?」
今現在、魔法の使用は解禁されている。それにもかかわらず魔法の使用が目的?意味がわからない・・・。
「正確には、大規模な魔法の使用です。私達のクラスの索敵系魔法が得意なものに魔法を使わせ、危険物を即座に見つけるのが目的。演劇に派手な魔法を使えば、注意がそちらに向くと考えたためです」
「・・・そ、そういうことか」
今ここで俺達が大規模な魔法を使えば、生徒の誰かに勘付かれる。そうすればここの理事長との契約がパァになる。だが、Dクラスの演劇の演出に大規模な魔法を使えば、カモフラージュができる。たぶんそういうことだろう。
「ですから、至急間殿は三谷殿達と合流してください。リハーサルに遅れます。では、そういうことですので私はもう少し怪しいところを探してから皆様と合流します」
そう言うと、影崎と言うヤツは消えた。
・・・・・・いや、マジで。魔法を使ったような感じもなく、唐突に。
俺が半ば茫然としていると、スズが俺の袖を引っ張る。
「リュウ君。Dクラスのみんなが手伝ってくれるんだって~!わたし達も早く行かなきゃ~!」
そう言うと、スズは満面の笑みをオレに向ける。
まぁ、確かに今ならどんな魔法を使って探しても大丈夫なはずだ。それに、ソラも演劇でオレと戦うフリをして≪焔鳥≫とかで探せるはずだ。
オレ達はそこから急いでソラ達の所へ走っていった。
作 「というわけで、『捜索』をお送りしました!」
カザハ 「まさにDクラス連中のターンだな!」
作 「まぁ、今回はそういう感じ。せっかくだし、こういうのもアリかと」
カ 「むしろ、どんどんいれようぜ!」
作 「んじゃ、そういうわけで次回予告、引き続きDクラスによる捜索だ!」
カ 「俺たちの雄姿が学校を救うぜ!」
作 「とか言うけど、完全なギャグ回になってたりします!」
カ 「おい!?」
作 「じゃ、次回もよろしくー」