9話・EACH DAY
―――side空志
その日は教室へはいると、既に雰囲気が慌ただしかった。
文化祭まで残り、二日。
演技の方はどうにかなって、後は演出と演出系魔法の練習らしい。
前者はスポットライトとかで、後者はよくわからない。たぶん、ワイヤーアクション的なものだと勝手に解釈しておく。
いや、どっちも魔法ですればと思うけど、その属性に合う子がいないらしい。だから、後は魔道具で魔力を光に変換するらしい。
魔道具に関しては、既にリオネさんの魔法人形の作成と整備をしているレクトが中心になって部隊の大道具を作っている。
「ミタニー。ここんとこ、ちょいちょいってして」
「・・・・・・あぁ、わかった」
『ちょいちょい』って何?と聞こうとしたら普通にわかった。どうも、魔法回路の精密作業だったみたいだ。
ボクは、魔道具の本体の作成についてはログさんから『がんばりましょう』の判定をくらっているが、中身に関しては既に何も教えることはないと評価を・・・。
「って、何でボクも手伝ってるの?」
気がつけば、いつの間にかボクはログさんより無理やり持たされた魔工具を片手にいろいろと手伝っていた。
「だって、ミタニーはあのログ・ラギスの弟子なんだろー?」
「それは全然違う。あのドワーフのおっさんはボクに借金押しつけて無理やり働かせているだけだから」
「でも、オレッチ達の作るのよりかなりできはいいんだけどなー」
ボクが魔道具を作ると、明らかに人間の方々が作る魔道具よりどうしてもドワーフよりな物を作ってしまうことが判明している。
しかも、ドワーフ作の道具はかなりいいものらしい。
簡単に言えば、ボクは既に人間から見れば一流とまでは行かなくても二流、ドワーフから見ればひよっこよりましのレベルに位置するというよくわからない現状。
「でも、なんか嫌だ・・・」
状況が状況だけに・・・。
まぁ、そう言うわけでボクは準備期間をごくごく普通に過ごしていた。
・・・そういえば、みんなはどうしてるんだろう?
―――side樹
「シューウ!どうしようですぅ!?バレたですぅ!?」
「・・・落ち着いてください。別にバレていません。それに、例えバレたとしても、獣人族なら問題は特にありません」
「でも、何でバレたですぅ!?」
「いや、ただ単に似合いそうだってだけだ」
「・・・ところでシャオ、その格好は?」
「・・・聞くな」
私の目の前には、二人の少女がいました。
言うまでもなく劉姉妹です。
「おい、俺は男だ」
「はい、男の娘ですよね?」
「・・・いや、お前が言っていることは絶対に間違っている」
目の前にいるのはどう見ても双子の少女にしか見えませんけどね。
男子の服を着ているときは辛うじて男子に見えますが、女装をしてこうまでなるのは・・・。いえ、驚きです。
「どこからどう見ても完璧な双子姉妹ですぅ」
「俺は男だ」
「まぁまぁ。それより、シャンはどうして騒いでいるのですか?」
「そうですぅ!何故か私は狐みたいと言われたですぅ!」
「・・・ただ単に狐の恰好が似合いそうってだけだろ?」
・・・・・・たぶん、こういうことでしょう。
私達のクラスは『お化け屋敷』です。
そして、誰かがシャンの配役にたまたま化け狐か、そのあたりを選んだのでしょう。まぁ、実際にシャンとシャオは妖怪の類ですし・・・。
「そして、シャンは早とちりをしたということですね」
「そういうことだ」
「ですが、シャオは何故女装を?」
「私が着せたですぅ」
シャンがそう言いながら胸を張ります。
それをシャオは横目で嫌そうに見つめ、私に救難信号を出しています。
・・・・・・・・・・・・・・・スルーしましょう。
「ですが、明らかに脅かす格好ではありませんよね?」
二人の恰好は、着物に狐の耳をつけただけのシンプルなもの。これでは、怖がる方も怖がれないようにおもえますが?
「客引きの方らしい」
「なるほど」
どうも、シャンとシャオは看板娘にさせられるようでした。
「ですが何故、皆さんはこうも殺気立って準備をしているのでしょうか?」
周りを見てみると、どうしても生徒の皆さんが死に物狂いで準備をしているようにしか見えないのが不思議です。
リュウさんの話では既にSクラスは準備を済ませており、勉強をしているらしいです。
さすがはエリート、思考回路が違います。
「どうも、景品が目当てらしいですぅ」
「景品、ですか?」
「あぁ。よく知らないけど一位は表彰されて、理事長さんがあの手この手で手に入れた景品をクラスに上げてしまうそうです」
「・・・」
説明がものすごくアバウトでした。
これでは、知りたい部分が全くわからないです。
「では、景品とは?」
「さぁ?」
「それが、文化祭で表彰されるまでわからないらしいですぅ。ついでに一位の決め方も同じですぅ。でも、先輩からの話では毎回すごいと聞いてるらしいですぅ」
ものすごく無意味な情報管制が敷かれていました。
今までの情報をまとめてみますと・・・。
一つ、何らかの方法で一位を決める。
二つ、優勝するとすごい景品が手に入る。
以上ですか・・・・・・。
「で、それを知らなかったCクラスはあまりにメジャーすぎる『お化け屋敷』にしてしまったために頑張っているらしい」
そう言うことでしたか。
Cクラスの方々は諦めの悪い方達が多いようです。それに、空気からしても、体育会系のノリが多く、魔法系のスポーツをしている方がほとんどですね。
おそらく、ここはスポーツ推薦系の方々が集まってしまったクラスなのでしょう。
Dに関してはソラさんから『変人』の集まりと聞いてます。
今にして思えば、このクラス分けはほぼ完ぺきなのでは?と思ってしまうことが多々あります。
「では、私達も手伝わなくてはいけませんね」
「お、俺はいい。ちょっとトイレ・・・」
「見つけたっ!!」
いきなり、教室の外から一人の女子生徒が飛び込んできました。
そしてシャオとシャンを見つけると、まるで獲物を見つけた狼のような目を向けます。
「しまっ!」
「捕獲ぅ!」
いつの間にいたのか、しかも私でさえ見分けることが難しい女装状態のシャオだけを確保すると、どこかに行ってしまいました。
「・・・そういえば、シャオはあの人達から逃げてる途中だったですぅ」
「・・・そうでしたか」
私とシャンは、その光景を見なかったことにして、お化け屋敷の手伝いを始めました。
―――side冬香
「・・・暇ね」
わたしは特に何もすることがなく、この学園を歩き回っていた。
喧噪のやまない学園の廊下を当てもなく歩いてく。
しかし、何故かやたらとカップルの姿が目に付く、というか多い。
これは、わたしに対する当てつけかと疑いたくなる。
・・・・・・いっそのこと脅迫状の主に爆破でも頼もうかと、本当に思った。
「・・・っ」
「・・・・・・・」
ぶらぶらと歩いていると、声が聞こえたような気がした。
でも、次の瞬間に確信に変わる。と言うか、いきなり目の前に出てきた。軽い爆発音とともに二つの人影が。
「だぁかぁらぁ、いい加減にしてって言ってんでしょうがぁ!!」
「なんだよ!むしろお前みたいなブス、こっちからお断りだ!」
「何よ、アンタからこっちに言いよってきたくせに!」
「こっちが下に出てたら調子に乗りやがって!!」
「・・・ちょっと、邪魔なんだけど?」
「「部外者は黙れ!」」
・・・こいつら、本当にムカつく。
「いいの、それは反抗とみなすわよ?」
「何、風紀委員みたいなこと言ってんだよ!?」
「あんたはAらしいけど、所詮は一年でしょ!?二年のこっちにかなうわけ・・・」
「コード≪氷地獄≫!」
一瞬にしてここら一帯が白一色の銀世界に早変わり。
ここはもう、既にわたしの領域だ。
「あ、アンタ、こんなことしたら、風紀委員が」
「残念ね。こっちはね、これでもバックにここの理事長がついてるわ。・・・・・・それにね、コード≪巨人≫」
そう言うと、周囲の氷から氷でできた人形達が次々に現れる。
それらは氷でできたハンマーや剣、近接系のさまざまな武器を所持している。
「・・・このわたしの人形達に勝てるかしら?」
「「ひぃ!?」」
「ちょ!?姉さん!?」
わたしが目の前にいる生徒と会話をしている途中、ハルがやってきた。
「ちょっと、気をつけないと転ぶわよ?」
「大丈夫だって。・・・ほら、みなさん寒くて顔が真っ青だよ?」
ハル、たぶんそれは間違っていると思うのよ。
そんな心優しいハルは目を閉じて集中する。そしてかっと目を見開いて魔法陣を展開。
「≪烈華≫」
すると、魔法陣を中心に炎が走り、私の発生させた氷を次々に溶かしていく。
もう、魔法に関してはうちの弟はさすがだ。
「ま、まま、魔法陣・・・!?」
「あ、あの、生徒・・・!?」
「うちの弟をあのバカと一緒にしないでくれない?つか、うっとうしいのよ。さっさと消えてくれない?」
「「すみませんでしたー!?」」
「・・・姉さん」
ハルが半眼で睨んでくるけど無視しよう。
だって、あの馬鹿とできのいいうちの弟が同一視されるとか、屈辱以外の何物でもない。
「・・・まぁ、いいわ。で、何か用があったんじゃないの?」
「いや、姉さんが見えたから」
「そう?」
「うん。暇だし、どっかに行こうよ!」
そう言うと、ハルはわたしの手を掴んで引っ張っていく。
最近までは逆だったのに・・・。体の弱いハルにいろいろなモノを見せてあげたくて、調子のいい日はいつもわたしが手を引っ張っていろいろな所に連れまわした。それが今じゃ立場が逆になってわたしがハルに連れまわされている。
・・・・・・本当に、わたしは幸せ者だ。
「姉さん?」
「何でもないわよ。で、どこに行くの?」
「あ、うん。ここで面白いことをしてるらしいんだ・・・」
そして、わたしとハルは学園の中を歩きだした。
・・・どうせ、後でみんなにブラコンだとか言われる気がしないでもないけど、今はこの瞬間を楽しんでおこう。
―――side杏奈
「・・・でね、今のアタシに足りないもの、それは胸だと思うの」
「ごめんね、アンジェリカさん。いきなりすぎて話について行けないの」
「うん、わかるよその気持ち。杏奈みたいにデカかったら世の男どもを魅了できるからね!」
「分かってくれるの!?」
そう言ってアンジェリカさんとアスカが、がしっと互いの手を握る。何故かアスカとアンジェリカさんの間で変な友情が結ばれた。
いろいろと純粋そうなアンジェリカさんの情操教育に汚いモノが混入しそうなので何とかしないと。わたしが後で三谷君に怒られる。
「あのね、アンジェリカさん。三谷君はそんな人じゃ―――」
「じゃ、どうする?どうやって三谷君を落とそうか?」
「・・・アタシ、いろいろとあの手この手でやってみたけどダメなの」
聞いちゃいなかった。
「・・・よし、ここは既成事じ―――」
「いい加減にしなさいっ」
とりあえず、ジョゼフィーヌ達にアスカを黙らせるように頼んだ。
「やめて!?この鳥とかネコ達にわたしを攻撃しないように言って!?」
「アンジェリカさん、こんな誰とも付き合ったことのない干物女よりもリア充な女の子に聞いた方がいいと思うの」
「干物女!?杏奈から見て、わたしって干物女だったの!?」
騒ぎ立てる親友的なポジションの友人をスルーし、目的の人物がいないか探す。
するとその人はすぐに見つかった。いつものように旦那といちゃいちゃと痴話喧嘩をしている。
「ちょっと、・・・ニルメイカ夫妻?それともマーティス夫妻?」
「すみません、誰が夫妻ですか!?誰が!?」
「いやぁ、テレるなぁー」
全くリアクションの違う二人に話を振る。
アンジェリカさんもなるほどと納得してくれたみたいだった。
「ねぇねぇ、二人はどうして付き合ったの?」
「だ・か・ら、わたくし達は付き合ってなど―――」
「うーん・・・まぁ、幼馴染だしー。自然にとしかなー・・・」
「そう・・・」
「レクト、何を勝手なことを!?」
「ごめんね、アンジェリカさん。さすがに時間のアドバンテージだけは無理だから」
「ううん、いいの・・・」
そう言うアンジェリカさんの表情は暗い。
さて、アテにしていたこの夫婦もダメだとすると・・・。
「・・・残念だけど、わたし達には無理ね」
バカの権化が集まっているようなこのクラスには残念ながらリア充はいない。
ものすごく悲しい現実だ。
「やっぱ、ミタニー相手なら直球勝負じゃないかー?」
「確かに、三谷さんは超がつくほどの鈍感ですし・・・」
「やっぱ、ここは一息に襲―――」
「まぁ、この干物女の言うことはスルーして」
アスカが泣きごとを言ってくるけど無視。だって、二言目には○○なことをしろって、貴女はお酒の席に呼ばれた近所のおっさん?
「・・・とりあえず、こういうことは男子の声を聞きませんこと?」
「なるほど。そこで自分の旦那を押すということね」
「・・・レクト」
リオネさんは反論するのに疲れてきたのか、もう投げやりな感じだった。
「うーん?・・・ちょっと考えるからなー」
そう言うとレクト君が頭をひねって考え出す。
そしてすぐに顔を上げて言う。
「・・・やっぱ、意外な可愛さを見せたらいいと思うんだー」
「意外な、可愛さ?」
アンジェリカさんはよく意味がわからずに首をかしげる。
かく言うわたしもよくわからない。
「たとえばなー・・・あるお嬢様はホラー映画を見るとどうしても怖くて一人で寝れなくなって、そんな時は幼馴染の男の子と一緒に・・・」
「いやぁぁぁぁああああああ!?言わないでぇぇぇぇええええええ!?」
ものすごくにこやかな笑みを浮かべならが言ったレクトに、真っ赤な顔をしたリオネさんが掴みかかる。
・・・・・・うん、大体わかった。
「何でリオちゃんが怒るのかなー?」
「な、ななななななななな、何でそそそそそそそっそんなことをお、おおおおお思うのですか!?」
「・・・うん、大体わかった」
アンジェリカさんもよくわかったみたいだった。
「・・・でも、具体的には何をすればいいのかな?下手したらリオネみたいに自爆しそうだし・・・・・・」
「はぅ!?」
なかなかにアンジェリカさんも傷口を抉るのがうまい。
既にリオネさんのヒットポイント的なものがゼロになりそうだった。人の顔があそこまで赤くなれるとは驚きだった。
「わ、わたくしがそ、そんなことをするわけが・・・」
「もういいよ、リオちゃん。みんなわかってるから」
「アスカさん!?いい加減にその呼び方はやめて下さりませんこと!?」
「そうそう。それが許されるのはオレッチだけだぞー」
「その通りです、それがいいのはレクトだ・・・け・・・・・・」
何かを口走ってしまったリオネさんはその次の瞬間、自分の言いかけたことの意味を理解し、せっかく元に戻りかけていた顔が再び真っ赤になる。
そして、何も言わずにどこかへと走り去っていった。正確には声にならない悲鳴を上げてたのかもしれないけど。
「・・・・・・杏奈、レンアイって大変なんだね~」
「まぁ、そうね。・・・うん」
必死に三谷君をどうやってオトそうか考えているこの吸血鬼の少女を見て本当にそう思った。
でもこうして一緒に過ごしていても、アンジェリカさんはわたし達とそう変わらないように思える。ここにいるのは一人の男の子のために一生懸命頑張る女の子そのものだ。
樹族の李君はともかく、竜の間君もごくごく普通の少年にしか見えない。なんだか、魔物だって理由で淘汰してきたわたし達、人間は・・・。
「申し訳なく思うね」
「そうだよ、こんな美人スナイパーを干物扱いにするとか、失礼だね!」
「・・・そう言うことじゃないの」
「じゃ、どうして謝ったし!?」
わたしは自分の親友を生温かい目で見ながら、必死に考えるアンジェリカさんを見守った。
作 「皆さんお久しぶりです。遅れてすみません、『それぞれの一日』です」
空 「いや、本当に遅れたね」
作 「気分がノらなかったんだ」
空 「考えうる限り最悪の返答だね」
作 「というわけで、またしばらく更新が止まるかも」
空 「舌の根も乾かないうちに!?」
作 「次は猫と犬の追いかけっこ・・・」
空 「別作品ですけど!?」
作 「まぁ、そんなわけで次回、ついに事態が動く!?よろしく!」
空 「ダメだこいつなんとかしないと」