24話・A LIE
―――side空志
あれから数日。
既に龍造さんがいつもの如くふざけた魔法で何事もなかったかのように町を修復。
平穏な日々を取り戻していた。
それで、今日は理事長室で全員集合。
目的は、カバネさんとカレンさんの尋問だ。
「で、何で死霊達を使役していた?」
「確か、カバネさん達の説明では、自分たちは死霊を使役しないと言う風にききましたが?」
リュウとシュウがスパッと物事の核心を突く。
でも、確かにそうだ。
ボク等は最初に死霊術としての力、つまりは悪霊や死霊の使役をしていないって聞いていた。でも、実際には巨人なんてオプション付きでとんでもないことをやりまくっていた。
「あぁ・・・。あんな・・・」
カバネさんはどこか話しにくそうにしている。
カレンさんに関しては当事者にも関わらずどこ吹く風とした感じで明後日の方向を向いている。
そして、突然カバネさんは前につんのめるようにして力がぬけたかと思うと、口調を激変させて説明してくれる。
「何回もいうけど私達、というかカバネはね、あちこちで悪霊とか霊を成仏させてあげてるんだー」
「それが、なんの関係があんのよ?」
「簡単にいいますと、ご主人様に恩を感じ、ついて来る幽霊がたくさんいるのです。幽霊だけに」
「で、カバネは適当に手伝いをさせて、すぐに成仏させるの」
つい最近は引越しのお手伝いをして成仏させてたなー。と何故か庶民的なことをいいながら懐かしそうに言う。
どうも、カバネさんは幽霊に好かれやすいらしい。
まぁ、幽霊からしてみれば、自分を認識してくれて、更には願い事まで聞いてくれるんだから、それなりに報いたいと言う幽霊もいるんだろう。
そこで、どんなに断っても文字通り憑いて来る幽霊に根負けして、カバネさんが自分が困ったときに手伝いをしてくれたら絶対に成仏しろと言って、一時的に自分の配下に置いたらしい。そうすれば、悪霊化もしないから安心なんだとか。
「で、例外が巨人族のヴァジュ・ネグロイア・・・なんとか」
「名前を覚えてないの?」
「だって、長いんだもん。・・・まぁ、ヴァジュさんだけカバネが最初のころに間違えて契約しちゃって、どうしても支配下から離せないんだって」
「それで、ご主人様は本当にどうしようもないときにのみ彼を呼んでいます」
どうも、そういうことらしい。
「でも、一番ワケがわかんなかったのが・・・お前だ、ソラ」
「ですよね~。・・・・・・ちなみに、言っとくけど、パクったわけじゃないよ?」
「ホントかよ」
「リュウ、ソラはそんなことしない」
「ソラ君はそんなことしないよ!いくらリュウ君の魔法がすごいからって、そんなことしないよ!」
「そ、そうです!師匠は、やろうと思えばできる子なだけです!!」
「それに、刀でやろうと思ったら、術式≪断月≫しかできなかったんだよ」
ボクはいろいろと実験してみたけど、あれ以上の技はどうしてもできなかった。
たぶん、刀のとき専用の魔法なんだろうと思う。
「単に、汝がやっと『月』の属性に慣れてきておるだけだと思うがのう」
「・・・面倒な属性じゃ。して、ルーミアさんとやら、この子に教える気は?」
「うむ。この茶菓子はうまいな」
「・・・」
ルーミアさんは完全に自由人だった。
ボク自身にも、あの時何が起きたのかよくわかっていない。
「ただ、初めて≪月夜≫使ったときに似てた気がする」
あの時も何故か頭の中に急に湧き出てきた魔法を使った。
もちろん、それが具現化だなんてまったく知らなかったのに、だ。
「まぁ、なるようにしかならんかのう」
「うむ。ところで、茶の御代わりはないのか?」
おい、神霊。何、人ん家でお茶をたかっているんだよ。
と言うか、神霊に限らず、精霊は食べモノがいらないんじゃ?
「では、そろそろこのあたりで失礼します」
「おう。いろいろと世話んなったな。まぁ、もうちょいココにおる予定やけどな」
そういうと、カバネさんとカレンさんは来客用ソファから立ち上がり、理事長室を出て行く。
「あ、そうだ」
「ソラ?どうしたの?」
「いや、ちょっと聞きたい事が一つだけ残ってた」
ボクはそう言うと、レオを連れてカレンさん達の後を追った。
「すみません!」
カレンさん達は歩くのが速いのか、ボクが理事長室を出ると既にどこにもいなかった。
後を急いで追うと、どうにか追いつく。
「どうかしましたか?」
「カレンさんに聞きたい事が」
「ワイはどうすればええ?」
「少し長くなるんですけど・・・」
それに、この話はカバネさんに聞かれてもいいのか・・・。
「構いません。ご主人様、先にお帰りになってください」
「おう。わかった」
そういうと、カバネさんはそれ以上は何も言わずに帰っていった。
さて、と・・・。
「で、御用件とは?」
「まず、ありがとうございました。あの後はいろいろとバタバタして言いそびれてしまいましたから」
「いえ、私もいい経験になりました」
「それと、単刀直入に言います。カレンさん、貴女は本当に記憶の一部を忘れているんですか?」
「・・・どういう意味でしょう?」
「ボク、疑問に思ったことがあるんです」
ボクはカレンさんの言葉を無視して続ける。
「いつも、思っていたんです。カレンさんがカバネさんのことを話すとき、いつもは無表情なポーカーフェイスなのに、そのときだけ表情に変化があるような気がしたんです」
「・・・私も、元人間です。笑ったり、泣いたりすることぐらいあります」
「でも、自分でも感情が表に出にくいことぐらい、貴女ならわかるはずだと思います」
ボクの言葉に反論しようとしたカレンさんに、ボクは言葉を更に重ねる。
「ココからは、あくまでボクの想像で、思ったことを言うだけにしておきます。でも、カレンさんが実は記憶をなくしていないって方向になりますけど」
カレンさんはボクに何を言っても無駄だと思ったのか、口を閉ざし、ボクに続きを促す。
「まず、本当に記憶をなくしてるなら、何でカバネさんについているんですか?」
「・・・言ってしまうのもなんですが、死霊術師に生ける屍が付き従うのは当然だと思いますけど?」
「ボクもそう思っていました。でも、ボクが聞いた話では、唯一失敗したのが巨人族のヴァジュ・ネグロイアさんだって聞いてます。つまり、貴女はカバネさんに縛られていないんじゃないですか?」
「・・・」
帰ってきたのは無言の返答。
更に、ボクは言葉を重ねる。
「そして、それだと腑に落ちない点があります」
「・・・私のエネルギー供給源、ですか?」
「はい」
どんな魔法であれ、魔力と言うエネルギーを使って動いている。
それは、死霊術も例外じゃないはずだ。
ボクは死霊術という者は死者との契約魔法に近いものだと思っている。契約したから魔力の譲渡とかもできるんだろうけど、カバネさんとカレンさんの間にはそれが無い。
更に、カレンさんほどの高スペックな生ける屍ならそのエネルギー量は大変なものになるんじゃないか?それがボクの予想。
でも、コレは何回も言うけどあくまでボクの予想だ。
ひょっとすると、死霊術は魔力をまったく別の方法で得ているのかもしれない。でも、更に気に掛かる点がる。
「カレンさん、よくプリン食べてましたよね?」
「はい。それが?」
「死んでるのに、食べる必要ってあるんですか?」
「・・・ただ、ご主人様をいじりたいだけですが?」
・・・うん。まぁ、その・・・そういうと思ってたよ。
でも、ボクには突拍子もない考えがある。
間違ってたら相当バカにされるであろう考えが。
「もしかして、プリンが貴女のエネルギーなんじゃないですか?」
「・・・ッ!?」
「・・・嘘っ?本当に?」
自分で出した答えだけど・・・なんか、正解しても微妙な気分だ。
というか・・・プリンで動く生ける屍って・・・。
「あの、だとすると、さっきの答えが全部あってる気がするんですけど?」
「・・・いえ、すばらしいです。おそらく、ほぼ正解です」
「・・・正解したのに、微妙な気分だ」
「事実は小説より奇なり。と言うではありませんか」
「奇をてらいすぎです。じゃぁ、カレンさんは記憶を?」
「はい。実はなくしていません」
やっぱり、と言う思いと、何故と言う思いが頭の中に浮かぶ。
いや、なんでのほうも実は見当がついていたりする。
「・・・三谷様、『白雪姫』をご存知ですか?」
「・・・うん。たぶん、それは原作のほうを言ってるんですよね?」
「慧眼ですね。話しが早くて助かります」
『白雪姫』。
原作はものすごく・・・なんというか、ロマンの欠片もない。
今回必要な部分は最後の方。毒リンゴを食べて死んでしまったところだろう。
王妃様は何回も白雪姫を殺そうとするけど、ことごとく小人達によってふせがれる。そして、王妃は毒リンゴを使うことを思いつき、白雪姫に食べさせることに成功。
どうしても、このときだけ白雪姫を助けることのできなかった小人達はガラスの棺に入れ悲しみに暮れた。
そこを通りがかった王子様が死体でもいいから白雪姫をくれと言い、白雪姫を貰い受ける。そして、家来に運ばせていると、白雪姫が毒リンゴを吐き出し、息を吹き返す。そして、結婚して幸せに暮らし、王妃は真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、永遠に踊らされた。
ココでいいたいのは、カレンさんが白雪姫で、王子様がカバネさんだというところだろう。
「それに、王子様は死体愛好家だなんて言う話もある」
「はい。私はご主人様を・・・いえ、王子様をそんな風にさせたくなかった」
「・・・好きだから、ですか?」
「・・・はい」
カレンさんは、カバネには前を向いて欲しいんですといって力なく笑った。
好きだからこそ、カレンさんはカバネさんに普通の人を好きなって欲しかったんだろう。
だから、『自分がカバネさんの恋人だった』。そういう記憶がなければ諦めるだろうと。でも、ここにいるということは・・・。
「カバネさんのこと、カレンさんは諦められませんか?」
「・・・はい。私は、どうしようもないくらいに、カバネが好きですから」
その頬を、つっと涙が伝う。
好きな人が近くにいるのに、手を出せない。いや、出しちゃいけない。それがどんなに辛いのかはボクにはわからない。
「・・・知ってますか?」
カレンさんは、ボクをまっすぐに見つめていう。
ボクは何のことかと首をひねる。
「恋というのは、命懸けでするようですよ?」
「・・・そう、なんですか?」
そんなことを言われても、ボクにはどういうことかわからない。
でも、何が言いたいんだろう?
「はい。・・・では、命が無い私はどうなんでしょう?」
「・・・」
その言葉に、ボクは何も言えなくなってしまった。
・・・確かに、恋とか恋愛は全身全霊をかけてすることなのかもしれない。でも、それがダメな時は?
どう、答えればいいのかわからなくなった。
「やはり、何でも知っていると面白くないですからね」
「?」
「・・・私は、例え命がなくなろうとも、カバネのために全てを捧げます。それこそ、私が安心して私が眠れるようになるまで」
とても強い。
ボクは、そう思った。
「ですから、私はカバネをいじり、同じ時を過ごし、旅します。そして、カバネが死んでも、来世ではきっと一緒になろうと思います」
カレンさんは微笑みながらそういうと、ボクの両手を取り、手で包み込むようにして握る。
「ですから、三谷様もどうか、後悔なさいませんように・・・」
そういうとまるで祈るように目を閉じ、願う。
「・・・・・・はい」
ボクは、本当ならそんなことをしちゃいけないと言わなきゃだめだったのかもしれない。
でも、ボクにはできなかった。
「そういえば、何故、私がプリンで動くようにしたのか、わかりますか?」
「いや、そこまでは・・・」
「簡単ですよ。私、プリンがものすごく好きなんです」
「・・・なるほど。彼女も彼女なら、彼氏も彼氏ですね」
「はい」
そういうと、どことなくうれしそうな顔でカレンさんはボクに背を向け、歩いていった。
「・・・さて、と。どうせ、聞いてたんでしょ?」
残念なことに、ボクの目をごまかすのはかなり難しい。
たぶん、全身に魔法妨害の古代魔法文字でも書き込まないとごまかせない。
「やっぱ、ごまかせねぇか」
「と言うか、アンタはどうしてそうも頭が回るのよ」
「最早、探偵か何かの領域ですね」
「ソラ君、探偵さんだったの?」
「残念ながら、推理小説読んで自分なりに推理して、あってたことなんてないよ」
「・・・」
何故か、リカからの視線が痛い。
・・・いや、今は気にしないでおこう。
「・・・ボクは、カバネさんにこのことを言うつもりはないよ」
「・・・そうか」
「うん。・・・まぁ、リュウ、恋は命懸けで、後悔してからじゃ遅いんだってさ。スズはどう思う?」
「おい!?」
「ほぇ!?わ、わたし!?そ、そそ、それは・・・!?」
顔を赤らめる二人を放置してボクは歩き出す。
そして、何故か目の前に冬香とリカが回りこむ。
・・・ボク、何かしたっけ?
「ほれ、かのソラ君もそんなこと言ってるけどどうするの、リカ?」
「と、ととと、冬香、な、ななな、何を!?」
「ほれほれ、後悔する前に!それに、どうせやることやってんだし、いいじゃない」
「・・・シュウ、この二人何言ってんの?」
「・・・まぁ、そこはさすがソラさんと言いますか」
何故かシュウがリカに同情の視線を送る。
「む、無理ぃ~!?」
ついに、リカが泣きながらどこかへ全力疾走してしまった。
・・・ちょっと、誰がなだめると思ってるの?
「はぁ・・・。じゃ、ボクはリカをなだめて理事長室に行くよ」
「わかったわ。がんばんなさいよ」
「・・・何を?」
ボクは冬香からのよくわからないエールを貰って、リカを探しに行った。
・・・まぁ、後悔しないように、生きていきますか。
作 「と言うわけで『嘘』をお送りしました」
カレン 「私の、メイド最強伝説はどうでしたか?」
作 「・・・あれ?これってそういう話だっけ?」
カレン 「はい。ですから、次回の私はどうなるのですか?」
作 「あ、うん。確か、伝説のネギを求めてカレンが・・・って、おい!?」
カレン 「・・・洗脳に失敗しました」
作 「何が洗脳!?次回はいつものように短編挟んで次の章だよ!?」
カレン 「そこで、私が伝説のネギを捜し求めるわけですね。わかります」
作 「わかってないよ!?」
カレン 「では、皆様、次回も、私の活躍をごらんになってください」
作 「ないからー!?」