19話・EXORCIST
―――side空志
『祓魔術師』、それは簡単に言うと悪魔祓い。
教会で悪魔に取り付かれ、狂気に陥った人を助ける職業。
どうも、この世界では悪霊を祓う人らしい。
ただ、ココでの悪霊を祓うって言うのは『魂の浄化』。つまりはもう一度殺すこと。
つまり、カバネ達とは相容れない真逆の存在。
「何で、お前がこんなヘンピなトコにおんねん」
「簡単ですよ。我々の目的は『救済』救われぬ魂に救いを与えること」
「・・・ほう。要するに、お前等はもっかい幽霊を殺します言うとるわけやな?」
「殺す?何を言ってるのですか?我々は救いを与えるのです。・・・貴方こそ、死者をこの世に縛り付ける。それを神が許すとでも?」
「そんな神、ワイがボッコボコにしたるわ」
どこまで行っても平行線な会話。
片方は、完全な死を与えることによって救いを与え、片方は魂を縛りつけ時間を与えることで救いを与える。
どちらも正しいのかもしれない。
どちらも間違っているのかもしれない。
だって、死者は安らぎを求めているのかもしれない。逆に、死んでも死に切れないから魂を一時的に縛って欲しいのかもしれない。
「・・・やはり、貴方とは相容れないようです」
「ハッ!ワイはいつも言うとるやろ。お前は死を肯定し、ワイは死を否定する。どっちも間違っとる。でも、どっちも正しいかもしれん」
「っふ。何を言うかと思えば・・・。死者を冒涜する貴方が正しい?・・・否、断じて否!」
そういうと、杖をぶんと振るう。
「・・・おそらく、貴方は迷える魂を一つしか救済できていないようですね」
その言葉の意味する所。
魂の救済。
たぶん、ココに悪霊がいることを知っての発言。
いや、呪法陣事態は前から発動していた。だから、そんな不自然なところはない。
「・・・それが、どうした?ワイは、自分と、競争しとるわけ、違うで?」
カバネさんは両手を爪が食い込むぐらいぎゅっと握り締めて言う。
そして、カレンさんはその横につく。ただ、心なしかいつもより無表情になっている気がする。
「せっかく、迷える魂をココに集結させる魔法陣を張ったと言うのに」
その言葉に、全員が息を呑む。
「魔法陣を張ったやと?」
「えぇ、ですから悪霊がいますでしょう?」
そういうと、ところどころから何かの絶叫が響く。
たぶん、呪力に汚染された幽霊の・・・。
「お前か・・・?」
「ですから、我々が張ったと言っているでしょう。特殊な魔法石を使いました」
そういうと、その男は懐から黒い玉を取り出す。
「『呪玉』!?」
「ジュギョク?違いますよ、コレは『浄化石』と言うそうです」
「んなもん、どうでもええわ!お前が、お前が、ここに呪力を振りまいた張本人か!!」
「ご主人様、落ち着いてください」
「落ち着いてられるか!あのアホ神官がこの事態を引き起こしたんやで!?『エデン』は、いつからこんな下衆いことしよる集団になったんや!!」
そういうと、ずんずん相手に向かって歩きだすカバネ。
怒りのあまり、周りを見ることができていない。
「何を言っているのか。『エデン』は常に気高く、優雅であり、誇りを持ち・・・最強であるのです。世界を完全に。・・・そこに、悪である魔物はいりません。むろん、生ける屍も!!」
またも杖をぶんと風をうならせながら振るう。
すると、杖の先から光が放たれる。
その光の先には・・・。
「ッ!?」
「カレン!」
おそらく、魔法を仕込んでいたのだろう。
完全な不意打ち。例え、生ける屍だろうとかわすことは不可能な距離。
その光は、幽霊を浄化するための光。たぶん、生ける屍も例外じゃない。
「普通なら、のう」
「ルーミアさん、何か言いました?」
「何も?」
「な、何故だ、何を、したッ!!」
自分の魔法に絶対の自信を持っていたのか、取り乱す神官。
「うるさい。簡単だよ、そっちが『浄化石』とか言ってるコレ」
そういうと、ボクは『呪玉』を見せびらかす。
最初に数えたときは八つ。
でも、今ココには七つしかない。
「これ、純粋な『呪力』の塊なんだよね。そして、そっちが使う魔法はおそらく、『浄化』に特化した魔法。だから、そっちの魔法を利用させてもらったよ」
簡単に言うとこうだ。
呪玉をタイミングよく投げる。
魔法と接触。呪玉浄化。呪玉消滅。魔法の要領はそれで精一杯。完璧。
つまり、カレンさんに着弾する前にボクの目で魔法を解析。そしてカレンさんの代わりに呪玉を浄化させてもらった。
「バカな、それはあのお方が・・・!」
「『あのお方』?誰?」
「我らを手助けするために・・・!」
ダメだ。聞いていない。
「・・・あのさ、できればそれもっとやってくれない?コイツの処分に手間取らないし」
ボクの十八番、挑発。
ついでに小憎たらしい生意気な笑みも忘れない。
「・・・ソラ、笑顔が黒いよ?」
「・・・いや、いつもと変わらない」
『確かに、普段から腹黒いからな』
「よし、そこのモブキャラコンビは後で潰す」
「貴様、我らの神聖なる魔法を・・・!」
「ソレが神聖か、笑わせるのう。わらわ達のほうがよほど神聖よ」
「確かにそうね」
その言葉にみんながうんうんと頷く。
・・・いや、三魔源素ってそこまでなの?
すると、向こうは堪忍袋の緒が切れたのか、魔法を放つ。
「―――万能なる神に請う!
汝に仇なす憐れな者に救済を!
≪神聖なる光≫!」
敵の周囲に光が収束。そして、それはいくつもの球体を生成する。
それを見て、敵はこちらに杖の先端を向ける。
「神の裁きを・・・!」
すると、こちらに向かって光球が向かってくる。
それをボク等はとっさに防御。
「『浄化』、ね。オレの『闇』の侵食とどっちが強ぇか、勝負すっか!?」
そういうと、リュウはボク等の周囲に闇の壁を展開する。
すると、闇はむさぼるようにして光球を浸食し、喰らい尽くす。
「≪闇の侵食≫」
そして、闇の壁が消えると、そこには今にも拳を振り下ろそうとするカバネさんの姿が。それに驚きつつも、何故か不適な笑みを浮かべる相手の神官。
「カバネさん!ダメだ、そいつ、何か隠してる!」
「もう、遅い!」
そして、それは姿を現す。
神官が杖をすっと指で触る。すると、それに反応して発行する。次の瞬間には、杖の十字架の部分がぱかりと割れ、中から鋭い刃が現れる。
「ッ!?」
「邪教徒に・・・安らかな死を」
静かにそういうと、杖から一転して槍となった得物を素早く前に突き出す。
カバネはかわそうにも、既に重心が前に行き、後は防御を一切無視した拳を突き出すほかに無い。
相手の凶刃は的確にカバネの急所、つまりは心臓の辺りを狙っている。
確実に当たる!
みんながそう思ったとき、カバネさんの体から赤く濡れた槍が出てくる。
「がはぁ・・・!?」
「・・・外しましたか」
相手は外したことに何の疑問もないようにいった。
・・・でも、どうやってあの距離で?
「ふん!カリンちゃんを忘れてもらっちゃぁダメだよ!―――お前、しゃべんな。これも、十分に致命的、や。ワイを、向こうまで運べ!―――おうさ!」
カバネさんはカリンさんと軽く話し、跳躍。
ボク等のところまで来ると、膝をつく。
そして、咳き込む。すると、その口から血が出てくる。
「肺をやられたですぅ!?シュウ!何とかならないですぅ!?」
「これは・・・私では無理です。颯太さんに来てもらわない限りには・・・」
「スズ!お前、オレを治したアレはできねぇのか!?」
「え?わかんないよ・・・」
「ソラ!前にした魔法は!?」
「やってはみる。けど、アレは軽症しか治せないんだ・・・≪春伊吹≫!」
魔法を発動する。
でも、コレはあまり効果が無いみたいだ。
シャンちゃんの気功術の方が痛みをかなり緩和しているらしく、若干表情が楽になったように見える。
「・・・許しません」
静かな声。
だけど、不思議とみんなの耳にその声が届いた。
声の方を向くと、そこには長ネギを相手の神官に向けたメイド、カレンさんがいた。
「生ける屍如きが、我々の神聖なる魔法に楯突くと言うのか?」
「カレン、あかん・・・!お前の、魂が、浄化される・・・!」
「ご主人様がこのパーフェクトメイドに意見するなど、身の程をわきまえてください」
いや、全然あってるし。
むしろ、何でパーフェクトメイドがご主人の言うことを聞けない。そう、ボク等は心の中で突っ込んだ。
すると、カレンさんの口が動く、そしてものすごく小さな声で・・・。
「・・・・・・ね」
「おい、自分、今なんて・・・」
カバネさんが問いただそうとしたとき、カレンさんは生ける屍の力で人間の限界を超えたスピードで相手に近づく。
相手はそれを呼んでいたのか、自分の周囲に光の障壁を生み出すことによって防御。
カレンさんは長ネギを障壁に叩きつけるが、障壁はびくともしない。
「やはり、無理かのう」
「どういうことですか?」
「『祓魔術』は浄化、そして防御に秀でておる魔法系統。そして、ヤツは魔法妨害加工を施した僧服、極めつけはあの絶対防御性。魔法、物理共に死角はない」
「でも、相手が防御してたら攻撃できないし・・・」
「それがのう・・・」
「基本的に、『祓魔術師』は周囲への被害が出ないように結界や防御魔法を展開しながらの援護ができるって僕は聞いてます!」
苦い顔をするルーミアさんの代わりにハル君が教えてくれる。
要するに、相手はサポートに特化しているんだろう。そして、どういう原理か不明だけど、向こうは魔法妨害の影響を受けずに魔法を行使している。
でも、完全に向こうは武装神官。たぶん普通に戦闘とかも人並み以上にできるんんだろう。
それに・・・。
「『エデン』・・・か。リュウ、一応聞くけど、強い?」
「あぁ。ジジイの頃からあの国が『最強』を誇っていたのには驚いたが・・・。おそらく、ヤツは魔物と戦うことに特化してると言ってもいいだろう」
「と言うか、魔物に勝てたらどんなヤツも勝てないと俺は思うんだけど?」
『まぁ、タロウの言う事にも一理ある。絶対とは言えねぇけどな』
「・・・ッ!」
舌打ちをしながらカレンさんがボク等のところにバックステップで戻ってくる。
「・・・私の攻撃がまったく通りませんね」
まず、問題点が三つ。
一つは魔法妨害。コレをどうにかしない限り相手に魔法は通用しない。
二つ、防御しながらの攻撃を可能とする魔法。
三つ、普通に強いこと。しかも、魔物との実戦経験もそれなりにありそう。
「最後はどうでもなる。問題が一つ目と二つ目」
「わらわも同意見かのう。『逆』で全て解除できるのならば問題はないからのう」
「すみません、どういうことですか?」
シャオ君がボクとルーミアさんに尋ねてくる。
・・・スズの属性はややこしいからね。
「まず、スズの魔法じゃ相手の防御魔法、攻撃魔法を無効化できても魔法妨害を無効化できない」
つまり、どうやってみても相手に全部ガードされ、こっちの攻撃が通らない可能性の方がはるかに高い。
どうしたものか・・・。
『何だ?そこの神霊のヤツ、知らねぇのか?・・・あぁ、解析が魔法妨害』ではじかれんだな』
意外なところから声が。
というか、ミストだった。
「ミスト、何か知ってんのか?正直、俺は話しについていけねぇんだけど?」
『おう。お前にいつか話そうと思ってたんだけどな、別にココでもいいか』
「なんじゃ、汝はわらわが知りえぬことを知っておると?」
『俺様はお前と同じくらいの時を過ごしているからな』
そうだ。
確かにコイツは姿かたちこそ小学生低学年ぐらいの子供っぽい容姿だけど、実際には魔導宝具、幻影武器『ミスト』の人工知能(AI)みたいなものだ。見た目と違い、その知識は多岐にわたっている。
『まず、俺の前の契約者に魔力無効化体質持ちがいた』
「・・・そういやお前、そんなこと言ってたな」
田中がそうつぶやく。それにミストはうなずくと話を続ける。
『あぁ。でだ、そいつは俺様をうまく使えるようにいろいろな実験をした。その中に古代魔法文字もあったんだよ。まぁ、何で調べたかは長くなるからな。省く』
確かに、少し気になる内容ではあるけど、今の状況が状況だ。必要最低限の情報だけあれば大丈夫だろう。
『ココからがお前等の知りたい情報だ。簡単に言えば、アレには限界がある』
「限界?それはどういうものかのう?」
『簡単だ。魔力無効化体質がある一定以上の魔法を軽減できねぇのと一緒。処理がおっつかなくなるんだよ、それも付与したい対象を小さく、そしてその内容を細かくすればするほどにな』
「要するに、あの服程度に魔法妨害、そしておそらくは索敵妨害も組み込んでいるかもしれない」
「そして、自分の魔法は使えるようにする内容」
『かなり強力な魔法なら突破できる可能性がかなり高い。つっても、上級中位魔法以上だけどな』
上級中位魔法、コレが使えればどこぞの軍に入って、かつ上級の職に就けるって言う噂(By智也さん)のレベル。
そして、相手にとって不運なことにボク等のほとんどはそれが使える。
ていうか、使えないのがシュウとかのガチ前衛系の方々だけだ。
「なるほど、わかりました。では、あの真っ白下衆野郎はこの私の最強魔法を持って消し炭にした後、感電死させます」
「オイ、順番がおかしくねぇか?」
「それはいい。それなら、簡単だカレンさん、一番強い魔法の準備をお願いします」
「既にやっています」
カレンさんのほうを見ると、そこにはなにやら複雑そうな魔法陣を組み立てているカレンさん。
よし、それなら安心だ。
「スズ、≪相殺結界≫の準備。合図と同時に」
「わかったよ~!」
「リュウ、ボク、田中・・・じゃなくてミストは相手に突撃。リカはスズを守って。残りは牽制!」
そういうと、ボクは≪風火車輪≫を展開。
相手に接近戦を挑む。
「わかった!」
「ちょ!?何で俺じゃ―――ハッ!そうこなくっちゃなぁ!」
そういうと、ボク等は相手に攻撃を仕掛ける。
「我々の神聖なる魔法の前に、死角などなし、まして、下賎なものに破られるものでもない!!」
「なら、すぐにその魔法を破ってあげるよ!リュウ、ミスト!時間稼いで!」
そう言うと、リュウと田中の体が先行。
「それが、ドンだけ鉄壁か教えてもらうぞ!」
「魔力無効化体質の力も試してみねぇとな!」
二人はやたらと息のあった動きで相手に攻撃を仕掛ける。
でも、向こうの神官はあらかじめ展開していた結界魔法に少しだけ魔力を込める。ただ、それだけで二人の攻撃を無効化した。
「ッチ!魔力無効化体質でもダメか!・・・タロウに教えとくんだったな・・・」
「まだだ!魔法剣≪刹那≫!」
リュウが剣を居合い切りでもするみたいに振るう。
すると、黒い斬撃が相手に向かって飛んでいく。
確か、アレは魔法剣≪斬黒≫の上位魔法だった気がする。
数を打てない代わりに、威力のみに重点をおいた魔法。
でも、それでも相手の障壁には傷一つつかない。
「・・・それで終わりかね?」
「残念なことに、ボクを忘れてる!」
そういうと、さっきから構成していた魔法を解き放つ。
生成するのは刀。
「これでも、喰らえ!」
煉さんに教えてもらった武器の扱い方のなんやかんやを全て無視して、ただ、単純に思い切り振り下ろす。
相手は、たかが刀如きで何を・・・。見たいな感じで小ばかにした表情を浮かべる。
一瞬の拮抗。
でも、ボクの刀が徐々に結界を切り裂こうとする。
それを見て慌てて魔力を込めだす。
すると、ボクの刀も徐々に切り込めなくなっていく。
そして、完全に止まった。
更に、切り裂いた部分も修復されてしまう。
「ふ、ふむ。少し、焦ったではないか。これで、万策尽きたか?」
「いや、コレで王手詰みだ、スズ!」
「おっけーだよ~!」
その言葉でボクは刀を捨て、≪風火車輪≫の推進力でバックステップ。そこをスズの≪相殺殻≫が相手の周りを囲む。
「≪相殺結界≫!」
どんな魔法も無効化する結界が張られ、相手の障壁がさっきまで会ったのが嘘のように霧散する。
「なっ!?どういうことだ!?」
相手は魔法を展開しようとするけど、何も起きないことにパニックを起こしている。
そして、ボクはスズに魔法を解除させる。
ボク等の考えが読めず、混乱の極みに陥る相手。
「ココまでお膳立てしていただき、ありがとうございます」
声は、相手の背後から。
そこを見ると、若干信じがたいモノが見えた。長ネギに魔法を展開したメイド。
その魔法、雷で構成された五メートル程の、ふざけてるとしか言いようが無い大きさの大槌を肩に担ぐようにして持っていた。
それは、まるで・・・。
「≪豪雷神ノ飛来槌≫・・・コレがこの魔法の名前です。私が冥土のお土産に教えてあげましょう。・・・冥土だけに!」
「カレン、自分、駄洒落が言いたかっただけやろ・・・」
ぼろぼろの死霊術師のつぶやきは、放たれた魔法が発生させた轟音によって誰も聞き取ることができなかった。
作 「と言うわけで『祓魔術師』をお送りしました!」
隆 「おい。最後のはなんだ?」
作 「・・・何か問題でも?・・・少なくとも法律に引っかかるようなことは何も」
隆 「オイ!少なくて法に引っかかんのかよ!?」
作 「・・・大丈夫だ、問題ない」
隆 「オレが言ってんのは、最後の冥土のくだりだ!」
作 「それがやりたくてこの話を書いたと言っても過言ではない!!」
隆 「過言であって欲しかった!!」
作 「つー訳で次回!」
隆 「あ、コラ!まだ話は・・・」
作 「まだまだ続くよ、事件はようやくクライマックスに突入だ!と言うわけでよろしく!」