18話・PURIFICATION
―――side可憐
いきなり煙の中から無傷で出てきたと思えば、未知の魔法を使い、その手にはつい先ほどまでは存在していなかった刀が。
どういうことでしょう?もう、異常な事態が続きすぎて困ってしまいますね。
「・・・あれは、何ですか?」
「まぁ、隠してもしょうがねぇか」
「そうですね。それに、いつまでも隠しおけるようなものではありませんし」
「ホント、ふざけてるわね。・・・『月』の属性は」
「な、なな、何でルーミアさんがココに!?」
「・・・誰ですか、あの、女の人?」
どうも、春樹様だけはあの女性の方は知らないようです。
・・・何ともうらやましい体の持ち主ですね、あの女性は。
「おし、あいつらの援護・・・って、言いたいが、できんのか?」
隆介様が私に聞く。
確かに、悪霊の情報など、そうそうありませんし・・・。
「・・・すみません、状況についていけないのですが?」
とりあえず、状況がわからないので聞いてみます。
それに、この方達の反応では、いつものことのようですし。
「『月』の属性とは一体なんでしょう?そして、あの魔法。それに、急に現れたあの方は?」
「簡単に言うと、そんなに気にしないほうがいいわよ。いろいろと自信なくすから」
「・・・確かに、それは僕もそう思う」
・・・本当に、何者なんでしょう?
ただの魔王の弟子ではありませんね。
・・・・・・魔王を師匠に持っている時点で普通ではありませんが。
「あ、あの、師匠達は攻撃していますが、き、効くのでしょうか?」
「いえ、悪霊には基本的に通常の攻撃、魔法は効きません。対抗できるのは死霊術ぐらいです」
一応、他にもありますが・・・アレは嫌いです。
あの方達は、浄化しかできませんから。・・・いえ、その代わり呪力の浄化は私達の数段上を行きますが・・・。
「それ、何てチートよ」
「ですが、今回に限り、呪力で暴走した結果ですので精霊魔法も効きます」
とりあえず補足説明もつけておきましょう。
「要するに、世界のほんの数パーセントしか対抗できないわけですね」
「・・・それに、カレンさんの話では魔法での防御もダメですよね?・・・それだと、ソラ先輩がどうやって防いだのか疑問が残りますけど」
はい。なので教えてください。
「な、なら、わたしと、ルーミアさんがいれば、な、何とかなります?」
「・・・意味が図りかねますが、精霊魔法でなら大丈夫です。・・・他の方は皆さんを安全な所に・・・って、あの方は何をするつもりですか!?」
私は突然高速で駆け出した三谷様を見て驚きました。
手には刀一本。その上、相手は魔法攻撃、物理攻撃がダメな上に防御魔法もダメと言うすばらしいチートぶりです。それに、相手は普通にでかいですし、あんな刀一本ではどうにかなる敵じゃないです。
三谷様は相手の足元を駆け抜ける。そして、すれ違いざまに悪霊の足と思しき部分に一閃。
すると、足首の辺りが切断される。
その程度では意味がありません・・・!
「無駄です!アレでは簡単に再生を・・・」
私がそういおうとしたとき、悪霊がいきなり苦悶の声らしきものを上げる。
悪霊を見ると、そこには頭を振り乱して暴れる姿がある。
三谷様のほうはと見てみると、そこには若干焦った様子で生成した刀を放り捨てる姿がありました。
そして次の瞬間、刀は黒く染まり、破裂。
「ダメだ。・・・ルーミアさん!少し時間を稼いで!」
「うむ、適当に牽制しておこうではないか。≪月光の衝撃≫」
そういうと、ルーミアと呼ばれた女性は悪霊に手をかざします。
そして、悪霊は苛立ちをぶつけようとでもしていたのか、右腕をを三谷様に叩きつけようとしているところを狙って魔法を放たれました。
銀灰色の魔法の衝撃がルーミアと呼ばれた女性の掌から放たれ、悪霊の右腕を消失させます。
「・・・うむ。やはりわらわでは威力が大きすぎるのう」
「わかりました!
―――≪月夜≫!バージョン大鎌『月狩』!」
そして、今度は三谷様が先ほど同じ魔法を発動。今度はその手に大きな鎌が握られている。そして、それを・・・。
「リカ!」
「わかった!」
リカ様に投げる。
それをリカ様は器用に受け取ると構える。
「吸血呪≪血濡れの大鎌≫!」
先ほどと同じ攻撃。
ですが、それでは先ほどの結果と同じ・・・そう思った瞬間、またも痛みを感じたのか絶叫を上げる悪霊。
どういうことでしょう?
何かの、手品?
「『奇術師』、な。なるほど、確かに魔法と言う名の『奇術』やな」
いつの間にいたのか、そこにはご主人様が。
更に、つい先ほどまでいなかった方々も・・・。
「あいつらが引きつけ取る間にワイが運んだ。全員呆然としとるけど大丈夫や」
「・・・アレは、一体?」
「アレがソラと、精霊ルーミアの属性だ」
私が疑問を声に出すと、隆介様が答えてくれました。
ですが、おかしいですね。
「精霊?ですが、精霊はごく普通の人には見えないはずです。それこそ、神霊でもなけれ・・・ば」
「・・・なるほど、アレは神霊ゆうわけか」
「あぁ、ソラは『月』の属性を持ってる。三魔源素っ言って、アレは『知』を司っているらしい。ちなみに、後二つあるからな」
「『月』?『三魔源素』?・・・まさか、遺跡にあったアレは、本当だったのですか?」
「ん?お前、知ってるのか?・・・まさか、こいつ等の言ってた属性盤を見たことがあるのか?」
「属性盤?・・・アレでしょうか、『属性の樹形図』のことでしょうか?・・・確か、アレは字がかすれて読みづらかったのですが、『星殿』と呼ばれるところで見たことがあります」
「それは、たぶん『星の精霊殿』ね。『月』の神霊ルーミアがいるんだから、『星』の神霊がいるところがあってもおかしくないわ」
冬香様が訂正を加えつつ私に教えてくれました。
なるほど、では、あの力は相当に強いはず。ガイドとしてついてきてくれた方によると、この三魔源素の力は絶大で、真言を使えば世界を変えられるとまで言われていたほどです。
「で、あれはソラの真言で『具現化』だ」
「・・・真言?あれがか?」
ご主人様が眉をひそめながら隆介様に尋ねます。
「あぁ。だって、普通に『具現化』だぞ?失われた魔法の。しかも相手の魔力に直接攻撃できるえげつねぇ技だ」
「・・・おかしいな。ワイが聞いたんは三魔源素の真言はヤバイらしいで?」
「すみません、私にはあれでも十二分にすばらしいと思うのですが?」
「すみません、『月』の特徴は何ですか?」
「相手の属性、魔法の解析だ」
「・・・やはり、おかしいですね」
「どういうことよ?少なくとも、アレは上級上位以上の魔法よ?」
「はい。ですが、その程度です」
「・・・何が、言いたいんだ?」
「魔導・・・そう言いたいんやろ、カリン?」
「はい。私も見たことはないので、推測ですが」
私の言葉を聞いても首をひねるだけ。
では、簡潔に言いましょう。
「魔導とは、上位属性にのみ許された上位上級以上の魔法です」
―――side空志
「大丈夫!?」
「うん!でも、どうやってやっつけるの?」
「いや、やっつけちゃダメだ。これは、元は人の幽霊なんだ・・・」
別に、この幽霊も暴れたくて暴れているわけじゃない。
ただ、呪力に当てられて一時的に自分を見失っているだけだ。
なら、助ける。
「汝、もっと効率のよい魔法はないのか!・・・むろん、『月』で」
「・・・すみません」
ないっす。だって、『月』の属性自体が謎だらけなもので、自分自身でもどんな魔法を組めばいいのかまったくわからない。それに、ボクも一応はいろいろな実験をしている。でも、何かが違う。そういう気がしていつも魔法を作ってはポイしている。
「・・・まぁ、しょうがないと言えばしょうがないからのぅ」
「ソラ!どこを狙えばいい!?」
リカが大鎌から衝撃波を飛ばしつつボクに聞いて来る。
そこには、四肢をもがれたような姿へと変貌してしまった悪霊がいた。
「・・・左胸、心臓のところ以外なら大丈夫」
「わかった!」
そういうと、リカはどんどん相手の黒い呪力を削っていく。
相手は緩慢な動きでこちらに攻撃しようとしてくるが、既に何もできない状態だ。
「ルーミアさん!どうやれば悪霊は元に戻るの!?」
「汝、前に魔獣の腕から呪力を引き剥がしたことがあったであろう?それと同じ事をすればよい」
「でも、アレをやると・・・」
「わかっておる。しかし、わらわが手を出せばあの幽霊の魂を吹き飛ばす危険性がある。汝がやるしかない」
「・・・」
「ソラ!もうすぐアタシが削りきれるところがなくなる!」
もう、時間的な猶予はない。
それに、ルーミアさんとボクの解析結果から、たぶんまた再生する危険性もある。これで再生すると、媒体になってる幽霊が本格的にヤバイかもしれない。
「リカ、今から呪力を『呪玉』にする。その間、ボクを守って」
「わかった!」
そういうと、リカは悪霊に接近し、自分に注意を向ける。
そして、ルーミアさんはボクの近くでいつでも防御魔法を展開できるようにする。
なら、後はボクが全力でやるべき事をするだけだ。
ボクは、掌を相手に向け、意識を集中させる。マナを視覚し、ボクの意思を乗せ、幽霊の魂を傷つけないように分離する。
すると、悪霊は先ほどとは比べ物にならない断末魔の悲鳴を上げる。
その悲鳴は、周りのものに恐怖を与え、体の動き、思考を停止させる。
それに、思わずボクの思考も停止し、体が、そして頭が恐怖で支配される。
「しゃんとせい!一番辛いのは、暴れたくもないのに暴れておる、あの幽霊の魂ぢゃ!」
「ッ・・・はい!」
ボクは、必死に視る、そして探す。
見つけるのは、ホントに小さな光。
悲鳴を上げるかのようにゆらゆらと揺れる、それを・・・。
「・・・『視つけた』!
―――マナを操作、呪力の加工・・・ッ!」
前にやったように、呪力だけを取り出す。
ただ、今回は深く結びついているのか、中々うまくいかない。
だけど、ここで諦めると大変なことになって、幽霊も下手したら消滅する。
それだけは、ダメだ。
意識を集中する。
・・・・・・そう、あの時のように。
ティーナのマナの塊をぶつけられそうになったときよりも、こっちの方がだいぶ楽だ。だから、絶対にできる!
すると、呪力がぐにゃりと歪んだ。かと思うと前とは比較にならない量の呪力がボクの掌に収束する。
「・・・ッ!?ダメだ、これ以上は暴走する・・・!!」
「小分けにしろ!汝が前にやったときと同じ量ならば大丈夫であると思うぞ!」
「はい!」
そして、ルーミアさんのアドバイスに従い、呪力を少しずつ加工。
すると、球状に加工された呪力から地面にぽとりと落ちていく。
十個に満たない程度の量を造ると、呪力が消えた。
「・・・でき、た?」
「うむ。おそらくはのう」
「・・・疲れた」
そう言いつつ、ボクは足元に転がった『呪玉』を回収する。
・・・どうしよう、今回はたくさんできてしまった。
そして、それは唐突に起こった。
柔らかな風が巻き起こる。
それは、ボク等をなでるようにして通り過ぎると・・・。
『ありがとう』
そんな言葉が聞こえた気がした。
「ルーミアさん、さっきのって・・・?」
「うむ、おそらくは取り込まれておった幽霊の魂であろうな。呪力から介抱され、この世から旅たつことができたのであろう」
「・・・うん、よかった」
幽霊がキライなリカでさえ、この瞬間だけは穏やかな表情を浮かべていた。
「・・・本当に、呆れます。まさか、貴方が三魔源素持ちだとは」
「ホンマや。ワイが本気でやってもあかんかったやろうな」
声のほうを向くと、そこにはみんなが。
どうも、無事だったみたいだ。
「何?ボクの属性、話しちゃったの?」
「いや、確かに教えたがな・・・。こいつら、元から知ってやがった」
「そうなんですか?」
「おう」
「はい。偶然、立ち寄った村に『星の精霊殿』と呼ばれるものがありまして」
「ふむ・・・。おそらく、ステラのところか。・・・あの青二才はどうしておるのか」
ルーミアさんはやれやれと肩をすくめながら言う。
「・・・貴女は、『月』の神霊と聞きましたが、間違いないのですか?」
「うむ。わらわが『月』の神霊であるぞ」
「・・・ふざけとる」
「そうですね。ですがコレも何かの縁です。ぜひ、私に世界を手に入れることができる魔法を・・・!」
「何を魔王的思考を発動させとんねん!?」
またも死霊術師のコンビはギャーギャー言いはじめる。
ボクはその間、きょろきょろする。
それを見てリュウが不審に思ったのか、ボクに聞いてくる。
「おい、お前挙動不審だぞ?」
「・・・いや、だって、レオがいない」
「・・・おぉ?そういえばそうだね~」
「散歩?」
ボクとスズ、そしてリカも周りを見るけど、そこには白い獅子どころか猫の姿もない。
「ルーミアさん」
「そうかのう。そうすれば世界を手ちゅ・・・何かようか?」
「・・・物騒な話はスルーしておきます。レオ、ボクがよく連れている白い猫、あるいはライオンはどこか知りませんか?」
「・・・・・・おぉ、そういえば忘れておった。ちょっと、待て」
そういうと、ルーミアさんは『ひぃ、ふぅ、みぃ』と言いながらボク等を指差しながら数えだす。
・・・何故だろう、ものすごく嫌な予感がする。
そして、数え終わると、満足して一つ頷く。そして、何故かものすごくいい笑顔で一言。
「うむ。学園のほうは無視をしておくとして、この稲葉市に不審者がおるぞ!」
「ものすごくいい笑顔で言うことじゃないじゃない!?」
「オイ!?」
すると、タイミングよくリュウのケータイから軽快な着信音が響く。
リュウはそれに素早く出る。
たぶん相手は龍造さんだったんだろう、二言三言話すとケータイを切り、ボク等に言う。
「ルーミアの言うとおりだ。侵入者だ数はどういうわけか、目視による捜索にしかみつけられなかったみたいだ」
「おう、それは簡単じゃ。『古代魔法言語』を使っておるらしいのう」
「はい!『えびせん・すぺる』って何ですか~?おいしいの~?」
「き、きっと、そうですよ。だって、『えびせん』ですよ?」
ボク等はボケまくる二人の少女をスルーして話す。
「ルーミアさん、それって?」
「誰でも知っておる。むろん、汝等ものう」
「魔法妨害等に使われる特殊な文字です」
ハル君がずばり、確信を言ってくれる。
なるほど。要するに、それの応用で『索敵妨害』的なコトをしてるんだろう。
「ひょっとすると、汝の使い魔はそれに逸早く気づいたのかも知れんのう」
すると、またもまるでタイミングを見計らっていたのように白く、大きな巨体がこっちに吹き飛ばされてくる。
そこには、その真っ白な体躯を怪我で赤く汚しているレオがいた。
「レオ!」
レオはボクの声を無視して、ある方向に咆哮覇を放つ。
その先には人影。
たぶん、ココに来た侵入者。
「レオ!下がれ!シュウ!」
「わかりました!!」
ボクはシュウにレオのことを頼むと、レオの前に出る。そして、鳥系の魔法を放って相手を牽制。
けど、不思議なことに、相手に魔法が当たったと思った瞬間、魔法が何故か霧散してしまった。
「ふむ。魔法妨害かのう」
マジですか。
たぶん、服か何かに『文字』が描かれていたりするんだろう。
それで、相手は索敵妨害や魔法妨害を・・・。
「・・・おやぁ?・・・誰かと思えば、死霊術師君ではないですか」
「・・・お前かい。そんな、男のストーカとか、ホンマありえへん」
「・・・カレンさん、知り合いですか?」
「・・・知り合いたくありませんでしたけどね」
ボクがカレンさんに聞くと、カレンさんは苦虫を噛み潰したような表情になる。
そこで、相手をよく見てみる。
相手は年上の三十代男性。来ている服は白を貴重としていて、神秘的な文字が刺繍されている。たぶん、あれが古代魔法言語だ。
そして、一番特徴的なのが、相手の持っている杖。たぶん、十字架だ。
それは、まるで・・・・・・。
「『祓魔術師』です。霊を否定し、成仏をすることを生業とする・・・」
作 「と言うわけで『浄化』をお送りしました!」
樹 「・・・どういうことでしょうか、これは?」
作 「この、作者夜猫のひねくれタイムの始まりだ!」
樹 「・・・あぁ、いつものですね」
作 「イエス!今回、死霊術師=いいやつ。祓魔術師=悪。的な感じでゴー!」
樹 「・・・確かに、王道から踏み外すどころか、加えて逆走してる感じですね」
作 「それが俺、クオリティ!」
樹 「・・・まぁ、いつものことですし・・・予告、します?」
作 「もち!と言うわけで登場、『祓魔術師』!第二ラウンドの開始だ!」
樹 「むしろ、まだ続くことに驚きです。いい加減終われと読者の方も思っていますよ?」
作 「だが、やめない。止まらない、むしろ止まれない!」
樹 「・・・」
作 「まぁ、そんなわけで次回もよろしく!」