12話・LIFE
―――side空志
「それが、わしとカオルの出会いじゃった」
「・・・なんていうか、龍造さんも昔はまともだったんだね」
「そこか!?先に言うのはそこかの!?」
ボクはむしろそこ以外にあるのかと周りを見渡してみる。
・・・よし、みんなの眼もそう言ってる。大丈夫だ。問題ない。
「・・・でも、すみません、それって、お義母様ですよね?」
「そうじゃの。いやぁ、まさか本当に勇者になってわしのところに乗り込んでくるとは思わんかったの」
龍造さんは懐かしい思い出じゃ、といいながらハッハッハと笑う。
いや、それよりも聞きたいことがあるよ?
「おい、ジジイ、ちょっと待て。今無視できない単語が出てきたぞ?」
「・・・今、勇者が魔王に嫁ぎに来たって風にわたしに聞こえた気がするけど?」
そう。ボク等の耳がおかしいのか、そういう風に聞こえた。
しかも、リュウとカレンさんの関係にいろいろと大変なインパクトが襲来しそうな気がする。
「ん?そうじゃが?」
「いえ、『そうじゃが?』ではありませんよ。どこに勇者と結ばれる魔王がいるんですか!?」
「ここじゃ!」
龍造さんはふんぞり返ってえらそうに言う。
・・・でも、ということは?
「ま、まさか、リュウ君と、カレンさんは、従姉弟?」
「弟よ、久しぶりに会えてうれしい」
「イヤだよ!?俺の従姉弟がこんな変態とか!?しかも生ける屍だし!?」
「おい!?ワイは聞いとらんで!?」
「・・・落ち着かんか。その娘とカオルに血の繋がりは無いはずじゃぞ?」
「は?・・・どういうことだ?」
ワケがわからない。
やっと出番がげふんげふん・・・とにかく、いろいろと情報が混雑してる。
「まず、カオルの名前はこうじゃ」
そういうと、龍造さんは紙とペンを取り出し、そこに漢字を書く。
そこには、『橘薫』と書かれていた。
「じゃが、そっちの娘は立花のはずじゃ」
「よくご存知ですね」
「まぁの。カオルがわし過ごしとるときに、『立花』と言う子供に教えたとか言っておったの。苗字が一緒で親近感が沸くとかでの・・・ただ、師匠があんなじゃったからミニカオルが出来上がったの」
そういうと龍造さんはどこと無く遠い目をした。
でも、それは達観したようなものではなく、どこと無く哀愁が漂うものだった。
「・・・そういえば、龍造さんの奥さんは今、どうしてるの~?」
「数十年前に死んでしまったの、寿命じゃ」
ボク等は沈黙に包まれた。
そして、何故かいきなりリカが元気に質問しだした。
「で、どうして人間と夫婦に!?しかも、そのセリフだと契約したみたいですけど!?」
「・・・なんというか、リカちゃんは欲望に忠実じゃのー」
「・・・は!?そうだよ、龍造さん、参考までにどうしてそうなったのか教えて~!」
「・・・スズ、そこで何でオレをチラ見するんだ?」
「ふ、リュウは鈍感だね。そんなの、火を見るより明らかだよ」
「お前にだけは言われたくねぇ。・・・ホレ、リカがお前を盗み見てるぞ」
リュウが示す方向には何故か頬を赤らめて龍造さんを尋問しようとしているリカの姿が。
「でで、でも、こんなことがあるんですね」
「うん。でもそんな人が魔法陣を、ね・・・」
理由はいたって簡単。ただ諦めたくなかったから。
その一心で自分が使える魔法展開方法を考え出し、そして、今現在ココに至る。
たぶん龍造さんはあの後も魔法陣を研究し続け、同時並行処理詠唱をその過程で生み出したんだろう。
「そうじゃ。だから、わしはまだ魔法陣の研究を続けておるぞ。いつか、本当に誰でも使えるようにしたいからの。・・・その時は、お主等にも手伝ってもらえるとうれしいがの」
そういうと、龍造さんはボク等を見る。
「まぁ、そういうことじゃ。・・・でじゃ、本題に入ろうかの」
「・・・本題、ですか?」
ハル君がきょとんした表情になる。
いや、みんながきょとんとしている。
「・・・お主等、忘れとるの。そこのカバネという死霊術師の村の魔獣の件じゃ」
「「「あぁ!」」」
いや、回想が長いからすっかり忘れてた。
そういえばそうでしたね。
突如として、呪力を纏った魔獣がカバネさんの村を襲撃。そしてカバネさんを残して全滅。・・・あれ?
「・・・そういえば、カレンさんは生ける屍なんですよね?」
「はい。ちなみに、メイド属性です」
「ちゃうからな!?属性の意味、絶対に間違うとるでな!?」
とりあえず、そのふざけたおしゃべりはスルーしておくことにする。
ボクはそれよりも気になったことがある。
「・・・カバネさん、貴方が死霊術を行使して、カレンさんをそうしたんですよね?」
「・・・そうや。・・・カレン、コンビニ行ってプリン買って来い」
「わかりました。ご主人様の分はココに来るまでに食しておきます」
そういうと、カレンさんは理事長室から出て行った。
そして、後には深刻な顔のカバネさんと、やや困惑気味のボク等。
「・・・まず、ワイとカレンはな・・・幼馴染で彼女やってんねん」
なんでもないように、本当にごく普通にそう言う。
ボク等は、その言葉に思わず息を呑んだ。
「まぁ、それで例の魔獣の襲撃や。そこで、何回も言うけど・・・ワイ以外の人間は全員殺された。・・・カレンも例外やない」
そういうと、カバネさんは自嘲的な笑いを顔に浮かべる。
「そっからは、たぶんベタな展開や。どんな形でもええでワイは、カレンに生きて欲しかった。・・・そこで、初めて死霊術を行使したんや」
ボク等は、その言葉に何も言えなかった。
そりゃそうだ。
大切な人が死んでしまって、自分には曲がりなりにも、それが例え外法と呼ばれる方法でも、大切な人を蘇らせる方法がある。
だから、それを使った。もしも、自分がカバネさんと同じ目に遭ったら・・・。たぶん、何が何でも、それも目の前にその方法があるのなら悪魔に魂を売ってでもやろうとしただろう。
「でもな、因果なんかな・・・。アイツ、ワイと付き合うとったことをさっぱり忘れとったんねん。・・・たぶん、魂の定着が不完全やったんやろな」
その代わり、破天荒な性格はそのままやけどな、と笑いながら言った。
そういうと、いきなりカバネさんがガクッと崩れるようにして理事長室のソファにもたれかかる。何事かとボク等が慌てだしたとき・・・。
「そうそう、ホントにお姉ちゃんって酷いよね~。わたしががんばってカバネを慰めたんだよ~」
いきなり、カバネさんが女子なしゃべり方をし始めた。
「お前、勝手にワイの体を使うなっていつも言うとるやろ!?―――えぇー。だって、憑依できるのがお姉ちゃんかカバネだけなんだもん☆」
・・・そういえばいたね、カレンさんの妹のカリンさん。カバネさんにとり憑いてるという元気な幽霊といういろいろとおかしい人(?)。目の前でカバネさんが変な薬に手を出したんじゃないかとしか思えないような行動に若干ドン引きした。
「・・・まぁ、そんなわけでワイはまず、そこの村人達の幽霊を成仏させてから唯一関わりのありそうな魔王の下に向かったわけや」
「成仏、ですぅ?」
「そや。だって、幽霊をそうせんとかわいそうやろ?―――ココにいるけどね!―――・・・。まぁ、そういうわけで、ココまで幽霊を成仏させながら来たんや」
「でも、何で成仏を?・・・俺の記憶では死霊術師の強さは幽霊、生ける屍だと聞いていますが?」
「アホか。そんなんしても意味無いやろ?別に、ワイは強くなりたくて死霊術師になろうと思ったわけと違うで?・・・ただ、村の中にたくさんおったんや。悪霊になりかけて、苦しんどる人らが」
「悪霊?」
いきなり新い単語がぽんぽん飛び出してきてボク等は若干話しに追いつけなくなってきている。それを察してくれたのかカバネさんは説明をしてくれた。
「悪霊って言うのは、簡単に言えばワイらに害をなすことのできる、ある意味では上位の幽霊や。こうなるには二つのパターンがある。一つは珍しいケースで『呪力による感染』。こうなると幽霊は凶暴化して、普段ワイらに干渉できん幽霊がこっちに攻撃できるようになる。で、もう一つよくあることで、『感情によって悪霊化』してまうことや。これらは、死霊術を使えば強制的に祓うことができんやけどな・・・」
そういうと、カバネさんは言葉を濁す。
「・・・ワイ、これはあんまり好きと違うねん」
「・・・オレの記憶が正しけりゃ悪霊化した幽霊に対抗できるのは死霊術師だけだ。それでイヤって・・・どういうことだ?」
なるほど、つまり死霊術師は日常的に悪霊を祓っている可能性があると。でも、カバネさんはそれが好きじゃない。ある意味、自分の役割を放棄してるみたいなものだ。
「・・・祓うとな、幽霊を本当に強制的に排除してしまうんや」
「・・・どういうこと~?」
「簡単だよ!要するに、もう一回殺すんだよ・・・」
いきなりカリンさんにシフトチェンジして言う。
でも、衝撃の言葉にそんなことに気が向かなかった。
「もう一回殺す?」
「・・・そうや。幽霊は簡単に言うと魂の塊。それを問答無用で消すんや。殺したも同然やろ?やで、ワイは悪霊化を解くもう一つの面倒な方法を使っとる」
「もう一つの方法?」
「それが悪霊を一時的に拘束し、更に深層領域に干渉。からのパシリを行うというご主人様のドM行動です」
「誰がドMじゃ!?そうすれば未練もなくなってばっちり解決。悪霊化の基本的な要因は『未練』やからな。それでみんなハッピーやろ!?つか、どこから聞いとった?」
「そうですね、確か・・・『俺はカレンが好きなんだよぉ!!』というあたりでしょうか?」
「言っとらへん!いっぺんも言っとらへんでな!?」
「・・・すみません、お友達からも勘弁していただけませんか?」
「告白してもないのに断られた!?しかもお友達ですらない!?」
「・・・あ、奴隷なら大丈夫です。もちろん、ご主人様がですけど」
「人権を考えろぉ!!」
「私、生ける屍ですから、人権にうとくて・・・」
「逃げた!?」
・・・なんていうか、ものすごくタイミングが・・・。
まぁ、いい。基本的に知りたいことはわかった。
まず、カバネさんはやたらめったら死人を蘇らせ、使役して自分の力にするような人ではないということ。そして、おそらくは死んだ人にも安らかになって欲しいというタイプの人であること。これなら、ボクだったら十分に信用に足る人物だと思う。
「まぁ、カレンさんも着たことだしちょうどいいや。・・・龍造さん、これは全部はなすって言う方向しかないですよね?」
「・・・そうじゃの」
「全部?お前、何言うとんのや?」
「おぬしらはどうじゃ?それにリカちゃんとかの」
みんなは特に何もいわない。
リカもカレンさんにビビッてはいるけど首を縦に振る。
そして、龍造さんはリュウを見る。
「・・・オレかよ。メンドイ」
そう言いつつ、リュウはボク達、『闇夜の奇術師団』のことを話した。
「「・・・」」
「・・・魂が抜けてるっぽいけど大丈夫かな?」
「さぁな」
簡単に言うと、リュウが『オレ達って『闇夜の奇術師団』なんだぜ?ひゃっはー』的なことを言ってから数分。唖然とした表情のカバネさんに相変わらずポーカーフェイスを保ちつつも、たぶん驚いているカレンさんが目の前にいた。
そして、逸早く自分を取り戻したのはカバネさん。
「じ、自分等、そうやったん?」
「はい。私達は紛れもなく、多くの皆さんが『闇夜の奇術師団』と呼ばれるものたちだと思っています」
「て言うか、最初に戦ったときに気付きなさいよ。アレは普通にいつも通りの戦い方だったんだし」
「た、確かにそうですね・・・。でも、あ、あたし達は違いますよ?」
「・・・こないなべっぴんな譲ちゃんまでそうやったらビックリやわ」
「あ、あの・・・だから、アンジェリカさんは・・・そ、そうなんですけど・・・」
ボク達は心の中でアンタのことだと突っ込んだ。
どうも、この子は自分の容姿が(前髪を上げたとき限定で)どれだけ目を引くのかよくわかってないらしい。
まぁ、確かに前髪を下ろしていたらただの地味子だけど。
「まぁ、ええわ。要するに、お前等が少し前に会うたフェイク言う自称・魔王が怪しいんやな?」
「そうだよ~。あの時はホントに大変だったね~」
「えぇ。・・・ところで、それを聞いてどうするおつもりで?」
それはボクも気になってた。
だって、もしも復讐するとかだったら絶対に止めないと。
だって、絶対に勝てない。
龍造さんとライネルさんの魔王が二人いても余裕の表情を崩さない、ふざけた魔物だ。普通の人間じゃなくても勝てるわけが無い。
それこそ、普通じゃない魔王でもない限り。
いや、あいつ自身が普通じゃなさそうだったからどうなんだろう・・・。
とにかく、そんなヤツにカバネさんが殺されるわけにはいかない。
「・・・いや、その話聞いてようわかったわ。ワイは何もせん」
「「「・・・は?」」」
意外な答えにボク等は素っ頓狂な声を上げた。
いや、だってそこは普通なら復讐だとか言う場面だし。ボクもとめる準備をしてた。何だか空回りした気分だ。
「自分等はカレンをボコボコにできるようなやつらやで?そんなやつ等に無理や言わせるんやで相当やろ?それに、最強と名高い『結界の魔王』も認める強さなんやろ?」
そういうと、カバネさんは龍造さんを見る。
龍造さんは何も言わず、首を縦に振る。
「そうじゃ。ヤツだけは関わるな、危険じゃ」
「ほいほい。ワイ等も進んで死にたいわけとちゃうでな。・・・・・・まぁ、相手がわかれば復讐するつもりやったけどな」
カバネさんはそういうと獰猛な笑みを浮かべる。
その執念にボク等は思わず体をぶるりと震わせた。
「ですが、ご主人様であればどこの魔王であれ、返り討ちにあっていたと思いますが?」
「それに、主戦力は女の子二人だしね~!―――自分等、ココはそういうシーンちゃうやろ!?空気読めへんのか!?」
ただ、この人達の間ではシリアス的展開は数秒で失われるようだ。
・・・もはや、ある意味で才能だと思う。
そして、微妙な空気のままでこの日は解散になった。
作 「やっと戻ってきたよ現代に!というわけで『命』でした!」
カバネ 「やっとワイの時代が来たか!?」
カレン 「いえ、むしろ私の時代です」
作 「・・・キャラ濃いのキター!?」
カバネ 「自分で作っといてよう言うわ」
カレン 「そうです。私がプリンを買いまくってる所を書くのもその解き何故だかプリンを食べたくなったが理由と聞いてますよ?」
作 「だって、食べたくなったんだ!」
カバネ 「・・・お前、アホやろ?」
カレン 「ついに、理解してくださるときが来たのですね、ご自身がばあであることに!!」
カバネ 「ちゃうわボケェ!?」
作 「というわけでこの二人はほっといて次回!やっと動き出す物語。さて、今回は『季節はずれの幽霊編』です!」
カバネ 「・・・やから、何でワイのプリンを勝手に食うねん!?」
カレン 「ご主人様のものは私の物です。もぐもぐ」
作 「・・・次回もよろしく!」
カレン 「読んでくれませんと、アナタを私色に染めます」
カバネ 「それだけはすんな!!」