12話・IDENTITY
―――side空志
とりあえず、結論だけ言おう。・・・無理でした!
「ったく、武器二つ持ってその程度かよ・・・ッケ」
キャラが違いすぎる優子さんに今日もボコられる日々だった。
リカさんとの遭遇から数日。とりあえずボク等全員が間家にお邪魔になっていた。リカさんはボク等と同じ年齢らしく、保護者がいないから一時的に預かっているらしい。
「・・・ふぅ、とりあえず今日はここまでね」
「ありがとう、ございました」
もはや色々と慣れてしまって、この程度のダメージならすぐに動けるようになってしまった。いやはや、慣れって言うのは恐ろしい。
「所で、リカちゃんはどうなの?」
「いまだに、ボク等とは距離を置いてますね~。けど、だいぶマシになりましたよ?」
とりあえず、いまだに体調が元に戻っていないリカさんをリュウが監視している。そしてそこにボク等が入って魔窟の中を遊ぶ。そんな風景が日常と化している。
「けど、あんなにすごい力を持つ魔物もいるんですね」
「そうね・・・体調が万全じゃない、あの状態でね」
そう言って、ボクと優子さんは数日前のことを思い出した。
~数日前~
「とりあえず、リカさんはどうしますか?」
颯太さんがリカさんにそう言った。
それはいつものボク等の魔力コントロールの訓練風景。暇を持て余すであろうリカさんに颯太さんが声をかけた。それに、追手がいるし、もしものことも考えているんだろうと思う。
「・・・いらない」
けど、それをリカさんは一刀両断。即座に斬り捨てた。
「いいんですか?自分で言うのもなんですが、教えるのはうまいですよ?」
いや、実際にお上手です。颯太さんは知らないけど。
確かに優子さんもただ単に暴れているようにしか見えないけど、よくよく思い出してみると、基本的なことしかしてない。それも、運動なんか平均的なボクにでもできそうな程度の。
たぶん、見て覚えろか、技術を盗めって言っているんだと思う。
「・・・必要、ない」
「では、僕と手合わせしてみましょう」
いきなり颯太さんがそんなことを言い始める。
確か、颯太さんの属性は『治癒』。見たことはないけど、明らかに戦闘向けの奴じゃない。
けどリカさんは何を思ったのか、ファイティングポーズをとる。素人の構えにしか見えなかったけど、ボクには引っ掛かることがある。
「リュウ、リカさんは今はあんな感じだけど、あの数法術の女の子から逃げることができる実力を持っているんだよ?」
そう、あの弾幕から逃げられる実力を持っている。しかも傷もほんの一か所に負った程度で。明らかに玄人だ。
「大丈夫だ。親父もそれなりに強い」
「では、レディファーストでどうぞ」
颯太さんはものすごく紳士的な態度でそういう。
いや、最初からこのつもりだったのかな?なんだか、颯太さんが女の子を殴る所が想像できないし。
それをリカさんは挑発と受け取ったのか、ほんの少しだけ腰を落とす。そして足に力が入ったと思ったその瞬間、リカさんの姿が消えた。それと同時に颯太さんがものすごい勢いで吹き飛ばされ、壁に派手な音を立ててぶつかる。代わりに、さっきまで颯太さんのいた所には拳を突き出した状態のリカさんがいた。
「・・・え?」
正直、目の前の状況が理解できなかった。
そこにいた坂崎さんも、ましてやこういう事態には慣れているであろうリュウと優子さんまでもが呆気にとられた表情だった。
「・・・だから、言ったのに」
そういうと、リカさんは構えを解く。
「いやぁ、少し驚きましたね」
そう言って今度は颯太さんが何事もなかったかのように立ち上がった。
ボクと坂崎さんはその光景もあり得ないと目を見開いて思った。
「『治癒』の属性は≪身体強化≫使うとかなり強化されるんだよ。ついでに自然治癒もな。パワーだけなら、お袋も凌ぐぞ」
リュウは『やっぱ心配はいらねぇのか』とでも言いたげな表情で颯太さんを見ていた。
・・・まさかの、優子さんまでも凌ぐパワーか。
「すごいですね。それなら確かに人間相手なら問題はないでしょう」
そう言って颯太さんは坂崎さんをひきつれていつもの訓練に戻って行った。
「けど、本当にリカさんの種族って何なんでしょうね」
「まぁ、本人が言いたくないんだからしょうがないわね」
そういうと、優子さんは刀の手入れを終了させてボクに向き直る。
「じゃぁ、また隆介にでも魔窟を案内してもらいなさい」
「あ、はい」
そして、ボク等はまたも魔窟に繰り出した。
―――sideリカ
「間君、今日はどこに行くの~?」
「・・・セイレーンのカラオケにでも行くか?」
「え?何その、ちょっとヤバそうな雰囲気のお店。歌声に魅了されて食べられそうなんだけど?」
「大丈夫だ。・・・別の意味で食われるけどな」
「よし、リュウ。帰ろう。貞操の危機を感じる」
「安心しろ。そいつは女にしか興味ない。ちなみに、セイレーンは女のみの種族だ」
「むしろ心配だ!ほら、リカさんもなんか言わないと。明らかにリュウはヤバいとこに連れてく気だよ?」
「え?うん・・・」
なんだか、この三人と行動することが当たり前になってきた。
この数日間、色々なところに連れて行かれた。なんでも、エルフの人が経営する服屋ではコスプレさせられたり、またログとかいうドワーフの所で油売ったりとか。
「みゃぁ~」
「痛い痛い!?レオ、頭引っ掻かないで!?今度は何が欲しいの!?」
猫が前足でさした方向に行き、何かを買ってくる。
「あぁ~。三谷君。レオ君ばっかずる~い」
「そうだぞ、ソラ。たまにはオレ達に甲斐性を見せろ」
「何でそうなるの?」
そういいながらも、三谷・・・ソラ?とにかく、その人間がいくつかの食べ物を買ってくる。甘い香りのする赤い果物で、アタシは見たことがない。
「ここにもリンゴってあるんだね~」
「当たり前だ。・・・つか、ソラ。オレの分は?」
「残念だね。ボクは野郎に買ってあげる甲斐性は持ち合わせていないんだ」
「てめっ」
「あ、リカさんもこれ」
そういうと、ソラと呼ばれた人間はアタシにリンゴという果物をくれた。
この赤い果物をどうやって食べればいいのか分からず、首をかしげる。
「・・・アレ?まさか、リンゴ知らないとか?」
「・・・悪い?」
何故かつっけんどんな答え方をしてしまった。
そんなことを気にもせず、人間はアタシに構ってくる。
「これは、こうやって食べればいいんだよ」
そういうと、人間はそのままリンゴにかじりついた。その口からしゃくしゃくと言う、リンゴを咀嚼する音が聞こえた。
・・・とりあえず、真似して食べてみる。
「・・・おいしい」
「よかった。ほら、レオも食べなよ」
人間はあろうことか、銃を取り出してそれに取り付けられている刃で小さくリンゴを切って、猫に上げていた。
「お前、なにしとんじゃぁー!?」
「ごふぅ!?」
いきなり、人間が水平方向に吹き飛んでいった。
さっきまで人間がいた所には見覚えのあるドワーフが。
「ログさん!?いきなり何すんの!?」
「何すんのもあるかぁ!?貴様あろうことか、リンゴ切り分けるのにそいつを使って・・・!」
長々と説教が続く。
正直、こんなしょうもない日々を過ごしていていいのかと思う。そして人間がやっと解放される。
「ごめんね」
「・・・まぁ、アレぐらいいいだろうになぁ」
「ドワーフの人って、怖い人が多いのかな~?」
「みゃ」
「・・・」
アタシが黙っていると、三人がこちらを向く。
「・・・何?」
「いや、楽しくない?」
「オイどうすんだよ、ソラのせいで・・・」
「リカちゃん、三谷君のせいでごめんね~」
「え?ボクのせいなの?」
どこか見当違いなことを言い始めた。
どう答えようかと思っていると、口が勝手に言葉を紡いでいた。
「アタシ、ここにいてもいいの・・・?」
「「「・・・」」」
しまったと思った。けど、何故かそこで三人は呆れたような表情で言う。
「何言ってるの。ボク等、友達でしょ?」
「そうだよ~。ねー、間君」
「そうだな。ここは、どんな奴も歓迎する。人間でも、魔物でもな」
「・・・けど、人間は怖い。それに、すぐ裏切る。それに、アタシとかかわるのはダメ。アタシは世界中から狙われてる。狩られる。命にかかわる危険もある」
アタシが本当のことを言うと、三人は顔を見あわせて、何故かうれしそうな表情を見せた。
「やっと、自分のことを話してくれたね」
「まぁ、内容がちょっとアレだったけどな」
「大丈夫だよ~。魔王の孫の間君と、その親友の三谷君がいるから~」
「「親友じゃない」」
「みゃ」
猫がタイミングよく鳴き声で突っ込む。たぶん、『仲いいな』程度の意味で。
けど・・・。
「意味、分かっているの?」
「要するに、お前の種族はかなりヤベぇんだろ?まぁ、それなら言いたくなくなるのもしょうがねぇ」
「そうだよ~。わたしだって、言いたくないことぐらいあるよ~」
「それに、たかがその程度で友達見捨てるほどボク等は薄情じゃないよ。・・・まぁ、もしもそんなことが起こったとしよう」
そんな風にもったいぶって言う。そしてアタシにニコリと笑みを向けて、堂々と言い放った。
「絶対に助ける。いいじゃん、女の子の為に世界を敵に回す。一回ぐらいはやってみたいシチュエーションだよ」
「お前、バカだな。それに付き合わされるオレの身にもなってくれよ・・・」
そうやって竜の少年も言うが、どこかうれしそうな表情だった。
「流石だね~!三谷君達カッコいいよ~!」
「みゃぁ~」
そうやってワイワイ騒ぐ三人。
でも、何で?だって、アタシは・・・。
「わけ、わかんないよ・・・。何で?何で、アタシなんか助けるの?アタシは・・・」
「だから、友達だからだよ。良い魔物がいれば、悪い魔物もいる。で、逆に言い人間もいれば、悪い人間もいる。ボクは、リカさんのこと、良い魔物だと思ってるよ?」
「違う。アタシは、いい魔物なんかじゃない。だって、アタシは、夜の・・・害悪で・・・敵で・・・こんな昼日中を歩くような・・・」
「あぁ~・・・。どう言えばいいんだよ。・・・お前の種族はもしかしたら、畏怖の対象なのかもしれん。けどな、お前はそうなのか?お前はオレ達の敵で、いつかオレ達を、お前が傷つけるのか?」
「だって、アタシと関わっていると・・・」
「じゃぁ、大丈夫だよ~」
そこで人間の女の子の方が満面の笑みを浮かべてアタシに言う。
「だって、それはリカちゃんのせいじゃないでしょ~?悪いのは、リカちゃんだからって襲った人なんだよ?だって、リカちゃんは何もしていないのに、リカちゃんのせいになるのはおかしいよ~?」
「そうだけど、そうだけど・・・」
「ねぇ、リカさんはボク等といるの楽しい?」
アタシの言葉を遮ってそんなことを言い始める。
「だから、アタシは・・・」
「いい加減に拉致があかないからもう一度だけ言うよ?ボクは、君自身が楽しいかどうかを聞いているだけなんだよ?」
アタシ。
アタシは・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たの、しい」
悩みに悩んで、言った言葉はそれだけだった。
けど、三人はそれを聞いて満足したような笑みを浮かべた。
「じゃ、我等が新しい友人と楽しい時を過ごすため、どっかに連れてってよ」
「・・・やっぱ、カラオケでいいじゃねぇか」
「え~!?食べられちゃうの!?」
「安心しろ。人魚のとこに行く」
「あ、カラオケもいくつかお店があるんだ」
「みゃ」
そういいながら、三人はアタシを連れてどこかに行こうとした。
けど、アタシは猫を連れた人間の袖を軽く引く。
「ん?どうしたの?」
「・・・友達の名前、なんて呼べばいいの?」
「あぁ・・・ボクは三谷空志だけど、みんなはソラって呼ぶよ?そこのヤンキードラゴンはリュウね」
「誰がヤンキードラゴンだ」
「わたしはね、鈴音だよ~・・・やっぱ、『スズちゃん♡』って呼んで~」
ソラ、リュウ、鈴音。
「わかった。ソラ、リュウ、鈴音」
「むぅ~!ずるいよ~!?何で二人だけなの~!?」
「はいはい。じゃ、ボクがスズって呼んであげるよ。ちなみにそっちはリカでいい?」
「え?本当に?約束だよ~?じゃ、わたしもソラ君とリュウ君って呼ぶね~!」
「うん。よろしく」
「あぁ。改めてよろしく頼む、リカに坂崎」
「え~!?リュウ君、そこは『スズちゃん♡』って呼ぶところだよ~!?」
「オレは、こいつみたいな天然ジゴロじゃねぇんだよ」
「・・・何でボクが天然ジゴロ?リュウの方がモテてたくせに」
「これだから、お前は鈍感だとか言われんだよ」
「いやいやいや、今まで言われたことないから。むしろかなり鋭い方だよ?」
「もう!そんなことはいいから、早く呼んでよ~」
正直、こんな人達がいるなんて思わなかった。
けど、だからこそ怖い。アタシの正体を知った時が、とても怖い。いつもそうだった。とにかく友達が欲しくて、彷徨った。アタシの生まれ故郷ではこんな関係を作ることはとても難しくて、それにアタシは落ちこぼれだ。対等の関係なんて築くことすらできなかった。
だから、できれば永遠にバレないでほしい。やっと手に入れられた関係。あんな辛い目には、遭いたくない。
だけどお願い、今この瞬間だけは・・・。
「おーい、早く来ないと置いてかれるよ~?」
「リカちゃーん!早く~!」
「ったく、大声出して恥ずかしくねぇのかよ」
こんなアタシにも、幸せをください。
「今、行く・・・!」
―――side??
「何なのでしょうか、ここは」
とりあえず、亜人種だから以外にも簡単に入り込めました。
そして数日をかけてやっと発見しました。
いやはや、まさかあの方達が魔物だとは思いませんでした。彼女にはわることをしてしまいました。・・・まぁ、そのせいでスパイまがいなことをする羽目になったんですけど。
「まさか、こんな所に魔物の国があるとは・・・」
意外でした。
ですが、こんな所に普通の人間がいたら危ないように思えるのですが?本当に、ここはどういうところなんでしょか?
「まぁ、いいです。流石に、他人のお仕事の邪魔をしたままのはいけませんしね」
私は数日の張り込みのおかげで判明した、あの魔物の少女の部屋に一枚の手紙を置いておきます。
「・・・これで、大丈夫でしょう」
そして私は誰にも気づかれることなく、そこから姿を消しました。
作 「というわけで、『自分のコト』をお送りしました!」
リカ 「・・・はじめまして」
作 「初登場のリカちゃんです、イェイ!」
リ 「・・・」
作 「もう、これは完璧にある作品の影響をもろに受けてしまいました。すみません」
リ 「・・・」
作 「・・・あの、何かしゃべっていただけると」
リ 「・・・」
作 「・・・次回、またまた事態は急展開!?」
リ 「・・・」
作 「次回もよろしく!」