7話・LITTLE DEMON
―――side空志
「ほ、ほろ、ぼ、された?」
四条さんが普段以上にどもりながらたずねた。
「はい。数ヶ月ほど前、魔物達に滅ぼされました。そして、どこの魔王が襲ったのかを聞ければいいかとも思ったので」
「ありえない・・・。だって、魔王達はしばらくの間、侵略行為を行わないって・・・」
「いや、本当や向こうは魔獣やなかった。・・・いや、魔獣と魔物の混成軍やった」
「でも、アンタぐらいの人が村にはいたんでしょ?」
冬香はそういうと花梨さんをさす。
「はい。もちろん、普通ならば私の魔法で大抵の敵は粉砕できます」
「やけどな、その魔獣はやたらと強力やったんや。見た目の感じから確実に俺等でも片手でひょいのレベルやった。にもかかわらず村人全員がワイを残して殺された」
見た目以上に強い魔獣。
その言葉にボクの脳裏にある出来事が浮かんだ。
エレオール魔法学院での魔獣及び呪力の発生。
偶然・・・にしてはできすぎていると思う。
たぶん、その魔獣は呪力で強化されてた魔獣だと思う。
そして、その答えが行き着く先は・・・。
「魔王、フェイク・・・」
~翌日~
「と、言うことらしいです」
「・・・そうじゃったか」
今現在、既に午後の授業中、というかボク等はいつもの通り魔法の訓練前。
今は龍造さんに昨日の夜のことを話していた。
「で、お前が言ってた死霊術師はどこにいんだ?」
リュウはそう聞く。
昨日のあの後、あの二人は近くに借りていたビジネスホテルかどっかに行ったらしい。
そして、この時間に理事長室にくるように行ってたんだけど・・・。
「さぁ?・・・どこにいるんだろう?」
「・・・おかしいの。わしの面会許可は既に出しとるはずじゃ。例えどんな変人が来ても通せとな」
「ソレで片付けちゃうのもどうかと思うね~」
「実際見るとホントにあの二人は変よ」
「・・・確かに、あのキャラは・・・すごいですね」
その時、理事長室の大きな扉を叩く鈍い音が聞こえた。
そして入りますと言う声で優子さんと二人の人影が入ってきた。
ごく普通の大学生っぽい雰囲気のカバネさんに、相変わらずメイド服の花梨さんだった。
「・・・お主が、タチバナの子孫か?」
「はい。魔王龍造様、お初にお目にかかります。いきなりですが世界の半分ください」
「おい!お前は何をいきなり言うとんのや!?どこかのRPGで最後の選択間違っとるぞ!?」
「では、全部ください」
「程度ちゃうわ!むしろ酷いわ!何を魔王の横から世界盗っとんねん!?」
「いえ、チャンスじゃないですか。世界を私色に染める・・・!」
「絶対、お前の世界の住人だけにはなりたないわ!」
「・・・確かにあの薫の血じゃな」
「・・・どういうこと?」
「タチバナカオル。人間の初めて友じゃ」
「お義父様は当時おいくつで?」
「そうじゃな・・・軽く八百年ぐらい前じゃからの。たぶん・・・十歳ぐらいかの」
「アバウトね」
「いや、竜は長命だ。だから正直言うと年齢を正確に答えられるようなヤツが珍しいんだよ」
「へぇ~。そうなんだ」
「でも、僕と先輩が使ってる魔法陣を考えた人ですよね?どんな人だったんですか?」
「・・・まぁ、ちょうどよい今日はわしの昔の話でもするかの」
「あぁ。それはいいんだけどよ、リカはどうした?さっきから何も言ってねぇけど?」
「あぁ~・・・リカさんは、カバネさんと花梨さんが来た途端にそっちに・・・」
ハル君が示した方向を見る。
というかボクの腕にすがりつくようにして気絶している吸血鬼の少女がいたりいなかったり・・・。
「・・・リ、リカさんって、ホントに吸血鬼なんですか?」
「・・・たぶん」
「・・・まぁ、リカちゃんには後でソラが教えておきなさい」
そういうと龍造さんはボク等に適当に座らせ、語りだした。
―――side龍造
~八百年前~
手に魔力を込める。
すると、そこには光があふれる。
・・・・・・ただ、それだけ。他には何の反応もない。
「・・・おいおい。またやってるぞ」
「あ、ホントだ」
「やっても無駄なのにな」
「・・・やってみなけりゃわからないだろ!!」
というわけでキレた。
いや、人生・・・じゃなくて竜生諦めたらそこで試合終了だよ!?
「・・・さすがに、一週間経っても何も成果が無いのはどうだろう?」
「うっ・・・」
事実だから言い返せなかった。
俺自身、これは『光』なんじゃね!?と思って光系の魔法を使ってみたけど何の効果もなし。そのほかにも該当しそうな『熱』だとか『火』だとかを試してみたけどまったくダメだった。
「・・・才能、無いのかな」
「今になって気付くのか・・・」
「ふん!」
思い切り殴った。
でも、帰ってきたのはゴンと言う音。
「・・・俺さ、一応人造人間だからさ」
人造人間の鋼鉄の体はものすごく痛かった・・・。
でも、魔法の練習をしてから本当に何の成果もない。
自分の属性魔法は魔物なら簡単に初級上位ぐらいは簡単にできる。
でも、自分はソレすらも成功していない。
できたのは自分の魔力で身体能力を上昇させる≪身体強化≫ぐらいだ。でも、これは全身に魔力を行き渡らせるだけだから、特殊な属性でもない限り正直誰でもすぐにできる。
「・・・いいんだ、俺は最強の戦士になる!!」
「いや、魔王の息子が魔法使えないってどう?」
「・・・」
そう。俺の父親は魔窟の現魔王、間龍司。通り名は『黄昏の魔王』として近隣の人間に恐れられている。
ぶっちゃけるとかなり強い。
それこそ、どっかの国から派遣されてきた「俺は勇者だ!!」と、明らかに何か変なものを食べたとしか思えないような変態・・・でも、かなり強かったけどそいつを瞬殺してた。
「要するに、このままいくとお前は落ちこぼれるわけだ」
「・・・いいんだ。この剣で父さんに勝てれば・・・!!」
「・・・それ、槍だぞ?」
「・・・知ってたさ」
「嘘付けぇ!?お前、ものすごく自信満々に答えてたぞ!?つか、槍と剣の違いがわからないって、どう!?既にいろいろと終わってる気がするんだけど!?」
「チェストー!!」
俺の渾身の一撃は鋼鉄の体に傷一つつけることができなかった。
「・・・ただいま」
「おう。帰ったか・・・どうした?」
家に帰ると、居間で父さんが新聞を読んでいた。
たぶん、仕事が早く終わったんだろう。
「・・・うん。魔法がうまく使えなくて」
「そうか、まぁ、俺も最初は全然うまくできなかった。今でこそ誰が言ったのか『黄昏の魔王』なんて呼ばれているがな。ガハハハハ!!!」
「あなた!そこはもう少しいいアドバイスをあげるとかじゃないの?」
「あぁ・・・・・・・・・・・・・・・気合だ!!」
「うん。ものすごく勉強になったよ・・・。で、母さんは?」
「・・・俺のアドバイスは?」
「そうね~・・・」
「無視か!?・・・ッハ!?これが家庭崩壊の危機!?」
何か父さんが変になり始めたけど無視しよう。
母さんにも聞いてみたけど、それは既に先生に教えてもらったりしたものだったりであまり参考にはならなかった。
「自分の属性がすぐにわかる魔法があればいいのにね」
「うん。本当にそう思う」
「俺を捨てていかないでくれー!!」
・・・うん、幻聴だ聞こえない。
俺は部屋に戻って魔法の練習をすることにした。
~翌日~
「だぁー!!できない!!」
結局、昨日の夜もがんばったけど何もできなかった。
いや、どの魔法も効果があらわれなかったって言うのが正しい。
「龍造!早く学校に行かないと遅刻するわよ~!」
「わかってる!!」
俺は母さんの声でリビングにいく。
そこには既に父さんの姿はない。
「ほら、早く食べて学校に行きなさい」
「わかってるよ・・・」
俺は若干ふてくされながらも朝ごはんを腹に収めると学校に向かって駆け足で登校した。
すると、目の前に見知った顔を見つける。
同じクラスの魔物達だ。
「おは・・・」
「おい。あの龍造のヤツ、どう思う?」
「魔法のことか?」
挨拶をしようとしたらどうもむこうは会話の途中だったらしい。
しかも自分のこと。
俺は何故か挨拶を途中で止めてクラスメイトの話に聞き耳を立てた。
「あぁ。アイツ、魔王の子供の癖に全っ然魔法ができないよな?」
「まぁ、そうだね」
「ということはさ、俺達は将来的にアイツの統治するこの魔窟で過ごすことになるじゃんかよ?」
「・・・あぁ。何となくわかってきたかも」
「確かに、魔王はわたし達を人間から守ってくれるもんね」
「でも、次期魔王があれじゃ・・・」
「でも、竜って千年生きるらしいじゃん?」
「時間がどうにかしてくれるってか?」
「でもさ、その前に龍司様が人間に殺されちゃったら?」
「・・・そうか、そういうこともないとも言えないよな」
「あぁ、人間ってのは狡賢いからな。龍司様を背後からブスリってことも平気でやるに決まってる」
「で、その時に・・・」
「あぁ。魔法もろくに使えないあいつじゃな・・・」
周りのみんなもそれに同意するようにしてうんうんとうなずいていた。
そして、俺はその場を逃げ出した・・・。
どれくらい走っただろう・・・。周りは木々で囲まれて方向感覚を狂わされる。
簡単に言うと、俺は迷子の状態だった。たぶん、ここは魔窟の外に広がる『迷いの森』だろう。
いや、両親は何かのときのために魔力を込めるだけで使える転移の魔術符を渡してくれていたからすぐに帰れることは帰れるんだけど・・・。
「・・・学校、サボっちゃったな」
誰が聞いてるわけでもないのに一人で愚痴を言う。
更に出てくる言葉もどうでもいい言葉。
でも、こんなことを言ったからと言って学校に戻る気になれない。
・・・正直、何でこんな出来損ないの俺が魔王の息子なんだろうと思った。
だって、周りにはもっとスゴイヤツがたくさんいる。
基本的に魔物は人間よりもレアな属性が出にくい。でも、俺の友達には比較的発現しにくい属性の『光』とか空間系の属性を使えるやつだっている。そんなやつ等が魔王をしたほうがいいに決まってる。
こんな、魔法もろくに使えない魔王なんかより・・・。
その時だった。誰かの声が聞こえたような気がした。
「・・・気のせい、かな?」
「・・・て・・・」
いや、聞こえる。
誰かの声、と何かがものすごい勢いで走ってくる音。
・・・何故だろう?すごく嫌な予感がする。
しかも、方向はわからないけど、どうもこっちに近づいてきてるみたいだ。
「助けて!」
「無理!!」
後から聞こえた声に即答した。
そして力の限り走り出した。
「ちょっと!!アンタ!!こんなか弱い女の子が助けを求めてるんだからかっこよく助けなさいよ!!」
「無茶言うなよ!つか、君誰!?それに後から聞こえるのは何!?」
「私は通りすがりの勇者!このごろ村の畑の野菜をパクる魔王をやっつけようとやってきたカッコイイ女の子よ!!」
「おい、どこがか弱い!?しかも勇者が魔王に負けるってどうよ!?」
「え、えっとぉ・・・それは・・・ほら!!勇者の剣がなかったから!」
「寝言は寝て言え!」
チラッと後を向いてみる。
そこには、活発そうな・・・と言うよりお転婆さが全身からにじみ出ている自分と同じぐらいの少女。その後には魔獣じゃないかと思うほどの大きさの化け物イノシシがいた。
「見るんじゃなかった!!」
「ちょっと、ソレどういう意味!?」
「寝たら悪夢を見る!!」
「なにそれ!?わたし、そんなにダメ!?」
「違うわ!イノシシ!」
「わたしはイノシシじゃない!」
「何この子!?」
会話がいろいろとかみ合ってない。
「っく、こうなったら仕方が無い」
俺はその言葉が気になって後ろを向いた。
そこには、掌をイノシシに向けている少女。
「―――魔力収束、魔法陣展開」
すると、その少女の掌の前に光る、紋様が現れる。
それは、明らかに魔法陣。でも、ありえない。
本来、魔法陣は複数の人間で大規模戦術魔法を私用するために考え出されたもの。
ソレを個人で私用するなんて聞いたことが無い。
「≪発≫!」
そして、ものすごい音と共にイノシシは盛大に吹き飛ばされた。
俺達と一緒に。
「「ぎゃぁぁぁぁああああああ!!??」」
俺達の甲高い悲鳴が上がる。
そして、俺は地面に体を強く打ちつけ、何かが上から激突したような痛みに気絶した。
「・・・う、うん・・・?」
「あ、気がついた」
目を開けると、そこは知らない場所。そして目の前にはさっきの少女。
「あ、まだ起きちゃダメ」
そういうと、少女は起き上がろうとした俺の肩を押さえて起き上がらないようにした。
そうか、たぶんどこかに怪我をして傷口とかが広がらないようにしてくれているのか?
「この魔法の実験台にするから」
「誰が実験台になるか!!」
その言葉で飛び起きた。
現実はいろいろと厳しいんだ・・・。覗き込もうとしていたのはどうも掌に展開していた魔法を俺に使おうとしていたらしい。
「何を言ってるの」
すると、少女の後ろのほうから大人の女性の声が聞こえた。
そして俺と少女の近くに来る。
「さっき帰ってきたと思ったら男の子を背負ってきてるじゃない?そしたらあのイノシシの魔獣をやっつけようとして魔法を使ったら何か失敗してその時に岩にぶつかったって言うじゃない」
「って、やっぱ魔獣だったのか!?」
「し、知らなかったんだもん!」
「でも、岩もずいぶん軽いのね。何せ、か弱い女の子の力でどかせるぐらいだもの」
「そ、それは!わたしが考えた浮遊の個人用魔法陣で!」
「あら?それは開発中だから使えないって言ってなかったかしら?」
「・・・」
押し黙る少女。
・・・おい、まさかとは思うが。
「最後、アレはお前が俺にのしかかってきたのか?」
「ち、違うもん!」
「そうか・・・。でも、あの岩やたらと重かったな。それに柔らかかったし」
「誰が重いですって!?それに柔らかいって何!?このスケベ!」
「「・・・」」
この少女はよくも悪くも嘘がつけない性格らしい。
この少女の母親らしき女性ははぁとため息をつくと俺に向き直った。
「ごめんなさいね。こんなことに巻き込んじゃって」
「いや・・・まぁ」
どう答えていいのかわからずに俺の返答はあいまいなものになってしまった。
そして、それを見てふっと微笑むと今度は少女に言った。
「ほら。助けてもらったんだからありがとうって言いなさい」
「・・・むしろ、わたしが助けたんだもん」
「はいはい。でも、この子が来なかったら魔法を使う気にはなれなかったでしょ?」
「・・・うん」
そういうと、少女は俺のほうを向いて若干不機嫌そうな顔で言った。
「ありがとう」
「あ、いや・・・その、お前の言うとおり俺が助けてもらったようなものだし・・・こっちこそありがとう」
「そう?わかってればいいのよ!」
俺がお礼を言った途端にいきなり態度がでかくなった。
俺はそんな少女のコロコロかわる態度に若干呆れた。
「そういえば、貴方の名前は?」
「間龍造」
「・・・へぇ、さえない顔のわりにカッコイイ名前ね」
「うるさい」
すると、少女は俺に手を差し出した。
・・・なんだろう?
たぶん、この少女のことだから握手じゃないはずだ。だとすると・・・。
「・・・ゴメン、今は持ち合わせが無いんだ」
「ちょっと、アンタわたしをどんな女の子だと思っているの!?」
「破天荒、お転婆、じゃじゃ馬」
「ムキー!!握手よ!あ・く・しゅ!!わたしはタチバナカオル。カオルでいいわ」
「じゃぁ、俺も龍造でいい」
そして、俺達は握手をした。
これが、後に『結界の魔王』となる間龍造と、魔法陣による詠唱を完成させたカオルとの初めての出会いだった。
作 「ども、お久しぶりです。というわけで『小さな魔王』をお送りしました」
空 「ホントに久しぶり」
作 「おう。まぁ、そんななわけで今回は龍造さんの過去の話を二、三話かけてやっていきます」
空 「へぇ~。でも、まさかの展開」
作 「自分でもこうなるとは思わなかった」
空 「・・・無計画だったんだね」
作 「つい最近、VRMMORPG系小説のネタが思い浮かんだんだよね~」
空 「話をそらすな」
作 「まぁ、安心しろ。今回出てくる話ではかなり重要なものが地味に出る」
空 「へ~」
作 「・・・信用してないな」
空 「だって、作者だし」
作 「・・・次回!チビりゅーぞーはカオルとこういう日々を過ごしていました」
空 「うわぁ~・・・。シリアス展開のはずがほのぼの展開になってる」
作 「次回を乞うご期待!」
空 「・・・いや、こんなむちゃくちゃ展開に期待って」