6話・CIRCLE OF MAGIC
―――side空志
死霊術。
よく、RPGなんかで出てくる悪役形の魔法使い。
数々の死霊や怨霊、マミーに生ける屍などの不死を使役する魔法使い。
簡単に言うと、死霊術と聞くと、大抵の人は誰かおかしな人が墓場でつるはし持って穴を掘りながらケタケタ笑っているイメージを持っているだろうと思う。
「つかな、お前は何でお使いも満足にできへんのや!?」
「ご主人様のものは私のものですから」
「何そのジャイアニズム!?明らかにメイドと主人の主従関係あらへんやないか!?」
「いいじゃないですか。たかがプリンで・・・もぐもぐ」
「・・・おい。お前何食っとる?」
「余分に買ってきたプリンですが?」
「なら、それよこせや!!」
残念ながら、目の前にいるのはそんなイメージとはかけ離れた・・・それも死霊術師と生ける屍がプリンの取り合いをするという不毛な争いを繰り広げていた。
・・・というか、生ける屍がメイド服着てる時点でいろいろとおかしい。
「・・・あのさ、ボクは全然魔法関係の素人だけどさ、まさか、死霊術師がこんなに愉快な人だとは思わなかった」
「いえ、私達も死霊術師に会うのは初めてです」
「え?そうなの?」
「は、はい。元々、死霊術を使えるという素質を持つ人が限りなく少ないんです」
「まぁ、別に属性が『死』とか『幽霊』とかそういんじゃないし。それに、死霊術と属性はそれほど関係が無いってわたしは聞いてるわ」
「僕も姉さんの言うとおりだと思います。本で読んだ事があります。確か・・・死霊術を行使するのに必要な技能は、『幽霊との対話』と『幽霊への干渉』だったように思います」
「ほぉ。そこの僕はよう知っとんなぁ」
プリンの争奪戦が終わったのか、カバネがボク等のほうに意識を向けた。
・・・ボクよりも年上に見えるのに奪い取ったプリン片手に相方のメイドにどや顔で大人気ない。
「ちなみに、ご主人様は『雷』の属性です」
「おい!?人の属性を勝手にバラすなや!」
「ちなみに、私も『雷』です」
「自分もかい!?」
「で、そこの貴方」
「スルーかい!?」
メイドさん、カレンさんはカバネを完全にスルーしてボクのほうをびしっと指差す。
・・・なんだろう?
「あの・・・カレン、さん?」
「はい。・・・ご主人様は呼び捨てで構いません。おそらく、貴方より年上ですが」
「・・・まぁ、そんぐらいはええけどな」
絶対にいろいろと主従関係がおかしい。
少なくとも、ボクが想像するような使用人とその主人の関係じゃない。
「じゃぁ、そんな死霊術師さんが一体ここに何のよう?」
「・・・あぁ。ワイが何でここにおるか?それはやな「それより、先の私は上級上位魔法を放ったつもりですが。何故、貴方は回避できたのですか?」・・・おい」
「た、確かに師匠がどうやってあの魔法を防いだのかは気になります」
「僕もです」
今はまだまだごく普通の感覚を持っている四条さんとハル君の疑問の声。
そしてそれを大体の予想はついてるのか死霊術師のほうに興味津々の冬香、シュウ、田中の三人。
・・・まぁ、ここはボクがさっさと説明して向こうに話させよう。
「簡単です。アレは要するに横方向への雷を放つ魔法。だから、ボクは自分の銃にそれを誘導させて、さらに銃を魔力充填モードに切り替えて置いたんです」
「・・・なるほど。それでその武器に全ての魔力が吸収されたんですね」
後はごく普通に引き金を引くだけ。
てか、こんなのはよい子はまねしちゃダメだと思う。武器を手放すって言うのは簡単に言うと自分の命を投げ出すも同じだからね。
「まぁ、できるかどうかログさんところで面白半分に実験しといたのが役に立ちました」
「・・・なるほど。参考になりました」
カレンさんはいつの間にか取り出したメモ帳に何かをさらさらと書いてスカートのポケットに仕舞った。
「では、私達の番ですね」
「せやな。ワイらは少し人を探しとる」
「人、ですか?」
「でも、それが何でこんな時間に?それも学校の敷地で」
「それはワイは死霊術師やし?行くトコ行ったら地域によっては『邪教の使徒め!』とか言われんでな。まぁ、他にもいろいろ理由はあんねんけど今回はどうしてもここに来なあかんかった」
「何でよ?」
「カリン、つまりは俺に憑いとる幽霊が『呪力』を感知したでな」
その言葉にボク等は驚いた。
呪力。簡単に言うと魔力がよどんで回りに悪影響を及ぼす放射能的なマナのこと。
「四条さん?」
「・・・せ、精霊さん達は何も」
ボクもだ。
・・・遠すぎて気付かなかったのかな?
「・・・なんや?いきなりお前等怖い顔なんぞしよって」
「・・・理由は言えませんが、このソラさんと四条さんは呪力を感知できる魔力感知能力に長けています」
「で、この二人は特に何も感じてない。しかも、こっちのソラに関しては呪力を感知するといろいろと面倒なことになるのよね」
「・・・要するに、私達が嘘をついていると?」
「そうだね。かなり怪しい。しかも、ボク等はひょっとすると『邪法』を使っているかもしれない人を敵に回してる」
「「「ハァ!?」」」
「・・・あれ?何でみんな驚いてるの?」
何故かみんなが驚きの表情。
・・・言ってなかったっけ?
「言ってませんよ!?」
「というより、わたし達の敵って誰よ!?」
「姉さんがさりげなく最強発言してる!?」
「ななな、何で師匠はそんなに敵をぽんぽん作るのですか!?」
なんかみんながギャーギャーとうるさい。
てか、完全にカバネさん達が置いてけぼりだ。
「・・・いや、いたじゃん。フェイクって人が」
「あの黒いの?何かやたらとたくさんの属性の魔法をぶっ放してた」
「・・・それに、体術もかなりできましたね」
「・・・あ、あの男の方ですか?た、たしか自称・魔王さん」
「そうそう。あの時、ボク等が地面に飲み込まれてすぐにボクが魔獣の腕に纏わりついてた呪力をなんか加工できたじゃない?」
「・・・あ、そういえばそうでした。黒い玉ですよね?」
「そうそう。ボクはとりあえず『呪玉』って言ってるけど。で、いろいろあってルーミアさんに出会って更にはフェイクから逃げて、ボコボコにされたときにどうもそれを落としたんだよね」
「・・・黒い玉?」
『・・・何かどっかで聞いた気がすんな』
「そういえば、あの時はフェイクが何かを見つけてそれで自分から退いてったわね」
「そう。ボクもリュウからその話を聞いてすぐに荷物を調べたけどそれがどうしても見つからなかった。だから、ボクはフェイクは邪法を使ってたんじゃないのかなって思った。あれは高密度の呪力の塊だから媒介にはうってつけだし」
「・・・でも、何でソラ先輩の持ってた呪玉を持っていくだけに?」
「さぁ?そこまではわかんない」
そしてボクはカバネさんと花梨さんに向き直った。
「そんなわけで、ボク等はかなりまずい人と知り合いです。それにここの理由が理由なんで」
なんといっても、ここは一応曲がりなりにも魔王の領地。
それに平和をうたう間龍造のところだから魔物からも人間からも狙われるというかなりの数の敵もいる。不安要素は一つでも消すに越したことは無い。
「まぁ、呪力言うてもたいしたこと無かったけどな」
「はい。呪力の浄化自体は一週間ほど前に終わっています」
なら、ますますワケがわからない。
一週間前、つまりはボク等が夏休み中で呪力を感知できなかったのはわかる。でも、何で一週間もとどまり続ける必要が?
確かにマナの特徴としては周りの環境の影響を受けやすい。だから呪力が発生した場合はすぐに対処しないとどんどん呪力の影響を受けて回りに悪影響を及ぼすとは一応聞いている。そうなると大規模な浄化魔法を施さないとダメなのも知ってる。
「確かに、呪力を放置したら感染病みたいにどんどん回りに悪影響を与えるのは知ってる。でも、様子を見るにも長すぎない?」
「・・・ワイは察しのよすぎる子はあんまり好きやないんやけどなぁ?」
「ご自分が鈍感ですから。ないモノねだってもしょうがありません」
「・・・あの、貴方の主が泣いてますけど?」
「大丈夫ですいつものことです」
いつもこんなコトしてるのか・・・。
この鉄仮面でも被ってるかのような表情のメイドさんは主従関係という言葉を知っているのだろうか?
「では、隠しても仕方が無いので話します」
「・・・アンタのご主人はいいの?」
「ご主人様?それはなんでしょう?」
「ま、真っ向から自分の立場を放棄しました!?」
「いえ、別にこれは可愛いと思ったので着ているだけです」
「なぁ、魔法使いってこんなのばっかか?」
『いや、タロウが見てるやつが特殊なだけだ』
「カミングアウトはいいからそろそろ話を戻さない?」
「そうやぞ。ワイらはただ人探しをしとるだけやしな」
何故かいつの間にか復活したカバネさんに突っ込まずにボク等は聞いた。
「人探し?」
「せや。ワイの探しとるのに似通った特徴の爺さんがおんでな」
「ご老人、ですか?」
「・・・まさか、アンタの探し人って勇者とか言わないわよね?」
冬香がそういった途端。ボクの脳裏には拳一つで最強の魔王を殴ろうとしていた一人のおじいさんが浮かんだ。
・・・まぁ、探される理由はどうせ魔物がどうとか言う話なんだろうな。
「違います。私達が探してるのは魔王です。通り名は『結界の魔お「全員構え!!」」
まさかの名前の登場にボク等は全員が構えた。
ボク等に武器を突きつけられて驚く二人。そして、恐る恐るといった感じでカバネさんが口を開く。
「あ、あんな。ちょっとええか?」
「三十文字以内で」
「無理じゃボケ!お前は何が楽しくてこんなピンチでボケんねん!」
「私、生ける屍ですから」
「ちょ、おま!?自分だけ逃げるつもりか!?」
「はい。ご主人様、貴方のことは忘れません。・・・十秒ぐらい」
「何その数字!?てか、自分の主人の事ぐらい一生覚えんかい!!」
「アンタ達は漫才するしか脳が無いの!?てか、面白くないわよ!」
冬香がブチギレた。
いや、正直ボク等もそろそろいろいろと限界だったし。
「で、何で『結界の魔王』に?」
「何で自分等に言わなあかへんねん」
「簡単ですよ。私達はその魔王の関係者。言ってしまえば直属の部下のようなものです」
「な、なん「なるほど。納得しました」・・・ワイのセリフを盗んな!しかも何で納得できたんや!?」
カバネさんは驚きを表したが、花梨さんのほうはそうでもないようだ。
でも、納得?どういうことだろう?
「疑問に思っていました。そこの貴方と貴方の魔法展開方式が魔法陣であることに。ですが、それも龍造様の部下、あるいはそれなりに親しい間柄であるならば不思議ではありません」
ボクとハル君をさして花梨さんがいった。
「龍造さんが、魔法陣を使うことを知ってるんですか?」
「はい。魔法陣の詠唱を考え出したのは私の家系です。元々、大規模魔導術式専用の展開方法でしたが、龍造様ははるか昔に私のご先祖様が太古の魔導師達が好んで使われていた展開方式に改良を加えて作り出した『魔法陣』を学んだようです」
「ま、じで?」
「まじです」
まさかの事実。
みんなも驚きを隠せないようだ。
魔法陣での詠唱。大昔の魔法使い達が主に使っていたと言われる古代魔法術式展開法。これを、龍造さんじゃなくて、目の前にいるふざけたメイド服の生ける屍のご先祖様が作った?
そこでボクは一冊の本を取り出した。
「でも、ボクが持ってる『サルでもわかる魔導書』って、龍造さんがくれたんだけど?」
「・・・見せていただけますでしょうか?」
ボクはカレンさんに魔導書を渡した。
そこで、カレンさんはぱらぱらと魔導書をめくり、ざっと斜め読みをするとボクに本を返した。
「はい。これは私の知るものより更に研究が重ねられているようです。おそらく、魔王である龍造様自らが考え出したもの。というか人間でこれは無理だと思います。貴方、本当に人間ですか?」
軽くボクの人間性を否定された。
てか、みんながやっぱりお前は人間じゃないのか的な感じで見てるんですけど?
「い、いや、普通にできるよ。それに、ハル君だって・・・」
「まず一つ目です。これには膨大な魔力が必要です。最低でそちらのハル様と呼ばれる方並みの魔力です。ハル様はあまりの大きさのために魔力があふれています」
「なるほど。逆に魔力がかなり低い詠唱がカスでダメなソラができるようなものじゃないわけね」
「・・・何で罵倒するの?」
「そして、それを、周りのマナを使うことによって解消しているソラさんは確かに普通ではありませんね」
ボクのつぶやきはスルーされた。
「二つ、この魔導書を読めるという時点でおかしいです」
「え?・・・で、でも、普通は魔導書って誰でも読めますよね?」
「はい。波長が合えばですけど。僕はこの魔導書との波長が合わないらしくて読めませんでした」
『だが、これは魔王の著書だ。少しぐらい特殊でもおかしかねぇと思うけどな』
「・・・おい。話についていけない」
「とりあえず、話が進まないのでおいておきましょう。そして、今回はとある理由により龍造様にお会いしに来たというわけです」
「でも、何で急に?・・・いや、ボク等が知らないだけで龍造さんとの交流があったの?」
「いえ、ありません。少なくとも私は龍造様に会ったことはありません」
「では、何故急にこちらに?」
「た、確かに、少し不自然だとお、思います」
シュウと四条さんが疑問の声を上げる。
確かにそうだ。
「はい。まずは私が死んだことの説明です」
「・・・あ、そっか、そういえばアンタは死んでんのよね。あまりにも生き生きとしてるから忘れてたわ」
「でも、何で死んだことを伝えに?確かに、そんな若さで死んだんだから何か理由があるんだろうけど・・・」
そして、彼女は感情のはいってない顔のままで答えた。
「・・・私とご主人様の住んでいた村は、一体の魔物に蹂躙され、滅びました。ご主人様は村、唯一の生き残りです」
作 「というわけでとてもお久しぶりです!やっと書けるようになった夜猫です。今回は『魔法陣』をお送りしました」
空 「ホントにひさしぶりだね」
隆 「あぁ。てっきり更新を放棄したのかと思ったな」
作 「今回のスランプは長かった」
空 「いや、普段はスランプって言っても一週間ぐらいだったよね?」
隆 「・・・短いな、オイ」
作 「まぁ、今日から再会していくってコトで許してください」
空 「いつもより作者が丁寧だ・・・」
隆 「明日は槍が降るぞ」
作 「どんな異常気象!?・・・そんなわけで次回予告です」
隆 「お前も切り替え早いな・・・」
空 「次は・・・なんかボク等ほとんど出てない気が・・・」
作 「次回はまさかのあのお方の回だと!?そんなわけで次回もよろしく」