5話・NECROMANCER
―――side空志
「おかしいですね。ここには人払いの結界があったはずです。・・・ということは、貴方達は少なくとも魔法使いですね?」
「だったらどうする?」
「・・・俺は違うんだけどな」
うるさい。
てか、いつの間に田中に戻ったの?
ミストのほうがはるかに役立った気がする。
「・・・残念ながら、消えてもらいます!」
すると、メイドさんの姿がいきなり消失した。
その動きに対応できたのはやっぱりと言うかシュウだけだった。
そして、肉同士がぶつかる鈍い音共に何かが折れる音が聞こえる。
「・・・!?」
「・・・はっ!」
シュウの驚く気配。
そして、メイドさんがその隙を逃さずにパンチを繰り出す。
シュウみたいな突きではなく、ただ力いっぱい殴っただけのようにボクは見えた。
でもそのパンチでシュウが吹き飛ばされ、近くの木に激突した。
「シュウ!?」
冬香が驚きの声を上げる。
そりゃそうだ。ボクも驚いている。
シュウはボク等の中でもかなり強い。でも、そのシュウが一撃でやられたんだ。
「大丈夫です。骨は折れていません」
「で、でも、ささ、さっきスゴイ音が・・・」
「違います。折れたのは、向こうの骨です」
「はぁ!?」
田中が素っ頓狂な声を上げた。
ボクもその言葉で向こうをよく観察する。
いや、しなくても両腕が変な方向に捻じ曲がっているのがわかった。
「・・・以外です。わたしの動きについてこれる人がいるとは」
そして、相手には痛がっている様子も無い。
「どういう、こと?」
「・・・仕方が無いです」
向こうは何かをポケットから取り出した。
それは、一見するとただのペンか何かに見えた。
『なんだと!?ヤツの持ってるのは魔導宝具だ!』
「ミストか?知ってるのか?つか、お前、もう大丈夫なのか?」
『ンなこと言ってられねぇよ!アレに決まった名前は無いがな、俗にこういわれてる!変幻武器『ミラージュ』ってな!』
「なにそれ?」
「僕も本を読みますが、聞いたことが無いです」
『アレはな、持ち主の特性に合わせて変化する武器だ!!』
そして、その言葉を受けたかのようにメイドさんのペン、もとい、変幻武器『ミラージュ』が光る。そこから現れたのは、先端が緑色で二つに分かれ、全体的に白い、スーパーでよく目にする・・・。
「「「ネギ!?」」」
長ネギだった。
「何を言いますか。メイドさんの最強武器といえばネギでしょう」
メイドさんがさも当たり前のように言う。
「いろいろとおかしすぎる!」
「ちょっと、ミスト!あれが本当に魔導宝具なの!?わたしにはただのネギにしか見えないわ!」
『・・・俺様も自信が無くなってきた。それに、あの魔導宝具は噂が正しけりゃどっかの遺跡奥深くに封印されてるらしいからな』
暗い林の中。
そこには数人の少年少女。
そしてそれに対峙するネギを構えたメイドさん。
・・・シュールすぎる。
「・・・どうでもいいですけど、この、最強の武器を持ったメイドの私に叶うものはいない!」
「ものすごい自信!?」
ネギ構えて最強な気分になれるのはこの世界を探しても貴女だけだと思う。
「というわけで参ります!」
そして、再びこっちに突撃してきた。
・・・って、おかしくない?
「何でネギをもてるの!?」
そして、そこには両腕でネギを振り下ろそうとするメイドさんがいた。
ボクはありえない事態にパニックになりながらも回避。
「≪雷燕≫!」
雷の鳥が至近距離で直撃。
これなら、大抵の人は気絶する。
それにもかかわらず、相手はそのままネギを力任せに地面に叩きつけ、地面を陥没させた。
「あり、得ない!」
ボクは地面から飛んできた土やなんかと一緒に吹き飛ばされる。
「コード≪槍衾≫!」
冬香がとっさにボクへの追撃が来ないようにけん制をしてくれる。
しかし、相手はそれすら無視した。
氷の槍が自分の体を貫くのも無視した。
「な!?」
「―――神々の怒りに触れし愚か者に罰を!
≪雷神の裁き≫!」
≪月詠≫!
・・・解析。上級上位『雷』系の魔法。それがネギに収束されている。
それをこんな詠唱で・・・!!
「でもラッキー!!??『ナハト』!≪紫電≫!装填!!」
ボクは自分の銃を呼び寄せて、銃に≪紫電≫を纏わせ、魔力を装填させる状態にして上に思い切り放り投げる。
すると、メイドさんはネギをボク等に向かって振り下ろし、そこから雷の奔流が放たれ、銃に直撃した。
「・・・あら?」
「次はこっちの番だ!」
ボクは宙に放り投げ、落ちてきた銃を掴み、その銃口を相手に向ける。
ボクの手には雷の上位上級魔法の魔力が装填された銃がある。そして、引き金を引いた。
雷の奔流が相手に向かって殺到し、メイドさんはその威力に盛大に吹き飛ばされた。
そして、湿った音共に木に叩きつけられ、動かなくなった。
「・・・やったわね!」
「ソラさん、さすがです!」
冬香とシュウがボクの肩を叩いて褒めちぎる。
そこで、ボクは思い切り吐いた。
「し、師匠!?だ、大丈夫ですか!?」
「・・・む、無理。だって、初めて・・・相手を、殺しかけた。少なくとも、自分の、意思で」
吐き気がまたこみ上げてくる。
もう、胃の中には何も無いのに。
そして、近くを見ると田中も吐きそうな表情だった。
「で、でも・・・ソラ先輩のあれは正当防衛です」
「し、師匠は前に魔獣を倒したときは何もでしたよね?」
「アレは、結果的にボクはトドメをさしてなかったから、ね・・・」
最後はリカにやってもらったの同然。
それはスズも同じ。
「それでこの仕打ちは無いです」
そして、またもありえないことが発生。
メイドさんがまたも普通に立ち上がった。
「な、んで?」
「あらら。服がボロボロです。これではいつ悪漢に襲われても文句を言えません」
メイドさんはネギをトンと服に当てた。
すると、服が見る見るうちに再生した。
「・・・これで問題ないです。・・・むしろ、さっきの方がご主人様は喜ぶでしょうか?」
「アンタ、何者?」
「そうです。先ほどの腕の再生に、さっきの上級の魔力を持った弾丸を受けても何事も無かったかのように立ち上がる。・・・人間ですか?」
「いいえ、私は人間ではありません」
あっさりと、向こうはなんでもないように言い切った。
なら、不死系の魔物?
「でも、おかしい。君は、明らかに魔物じゃない」
「貴方、何者ですか?さっきの私の魔法を防いだことといい・・・」
相手の言葉の意味を考える。
人間であって、人間でないモノ。
そういうことだろうか?
「なんにしても、私では相性が悪いです」
そういうと、いきなりメイドさんがガクッと膝から崩れ落ちた。
ボク等は何事かと再び構える。
「・・・ふっふっふ」
向こうが唐突に笑い出し、ガバッと勢いよく立ち上がる。
「ここからはこのリンちゃんが貴方達を成敗するのだ~!」
「「「・・・誰?」」」
つか、何この人。かわいそうな人?
ボク等の間では疑問符しか思い浮かばない。
「そんなわけで変るのだ~!」
全力でふざけてるとしか思えないポーズでネギを構えた。
すると、またも武器が光りだした。
底から現れたのは全長三メートル、横幅一メートル弱ほどの、メイドさんが振るうにはあまりにも似つかわしくないほど大きな大剣。
『ンなバカな!?』
「ミスト?どうした?」
田中がミストの慌てた様子に気付いてそのお内容を尋ねる。
『あの、魔導宝具は一人につき一つの形しかないはずだ!!』
「なら、やっぱりあの人はいろいろな意味で異常だね」
「・・・確かに、メイド服でネギ構えて人が代わったとしか思えないような言動を行い、かつ、腕が折れても瞬時に回復してしまうような人はいろいろと異常ですね」
・・・うん。みんなそう思ってると思うよ。シュウ。
「じゃ、行くのだ~!リンちゃ~ん、あた~っく!!」
ふざけた突撃の声と共にメイドさんがこっちに攻撃を仕掛けてきた。
さっきの攻撃でボク等の間に油断は無い。
来るだろうと予見していたため、簡単に回避した。
「甘いのだ!」
そして、それはどうも向こうのフェイントだったようだ。
さっきのパンチと違い、明らかに急所を狙った突きがシュウに放たれた。
「シュウ!?」
「問題ありません!」
シュウは相手の突きを受けずに、自分の横に流す。そしてシュウは接近戦は不利だと感じたのか相手を思い切り吹き飛ばした。
「≪風の刃≫!」
「コード≪槍衾≫!!」
「≪氷華≫!」
三つの魔法が追撃を行う。
でも、メイドさんはその大きすぎる大剣を紙切れのように扱って全ての魔法を切り裂いた。
「な、なんですか!?」
「ありえない!」
「わたし達の周りだとアレは日常茶飯事よ!」
「きゃははははははは!まるでゴミクズみたいなのだぁ!!」
狂ったように嗤うメイド。
・・・バックに何かよくないモノが見える気がする。
「・・・さっきとまるで違いすぎます!」
「三谷!アレは何だよ!?」
「知るか!ボクが知りたい!」
最初は、ただ何の意味も無いケンカのときに使うようながむしゃらなパンチ。
そしてかなりの腕前のように見える魔法。
その次には確実に殺すという意味がちゃんと乗った殺人拳のような拳。
そして体全部を使って戦う格闘センス。
何もかもが違う。
「ハーハッハッハ~!まずは強そうなお前からなのだ!」
「私ですか!?」
そして、この人が変わったとしか思えないほどの人格の変貌。
マジで何が起きてるの!?
しかも、それだけならまだいい。
こっちは攻撃をしてるのにまったく相手には効いてないことの方が辛い。
こんなの、向こうの勝ちが決まったゲームだ。
なら、そんなゲームからは逃げればいい。
でも、向こうはかなりの腕の剣術を使う。
背を向けた途端に背中をバッサリっていうのもありえる。
「・・・打つ手が無い!」
「いくら私でも限界があります!逃げてください!」
「無理よバカ!コード≪氷地獄≫!」
冬香がその数法術をもって相手のみを氷漬けにする。
しかし、向こうはその体格にありえないほどの強力を発揮して自分を閉じ込めた氷の牢獄を破壊する。
「ホントに打つ手が無いじゃない!!」
「ミスト!お前は何かできないのか!?」
『無理だ。力を使いすぎてこれ以上やれば俺が死ぬ』
「精霊さん達!何か無いの!?」
「僕にも、力があれば・・・!」
「びゅーん!」
「ぐっ!?」
ふざけた擬音付きのフルスイングと共にシュウが吹き飛ばされる。
ボクはシュウに追撃が行かないように魔法を飛ばすけど相手はそれを大剣の一振りで薙ぎ払う。
「まずはひとぉぉぉぉおおおおおおり!!」
「「「シュウ!」」」
ボク等がもはやここまでかと思ったときだった。
シュウとメイドさんの間に一つの影が入り込む。
そして、その影はメイドさんのバカみたいに大きい大剣を蹴り上げた。
「うぉお!?」
「お前は・・・」
そして、その人物は・・・。
「何しとんねん!!」
「ぷぎゃぁ!?」
メイドさんにハリセンを突っ込み共に叩きつけた。
そして、周りにはスパーンという爽快な音が響く。
地味に痛かったのか、武器を手放し、両手で頭を抱えている。
そして、その影はボク等のほうを向いて・・・。
「すまん!」
土下座した。
ボク等はただただ呆然とするしかなかった。
「いやぁ、ホンマに悪かったな。このバカが勝手に暴走しよって。お前も謝れ」
「バカなご主人様を許してください」
ものすごく真面目な顔でそういった。
その瞬間、またもその後頭部にハリセンが炸裂した。
「誰がワイの不始末を謝れ言うた!?お前のしでかしたことや!」
「・・・あ、ご主人様。これが頼まれていたものです」
「完全にスルーかいな!?」
「ちなみに全て私が食べました」
「お前いい加減にせぇへんとシバくで!?」
「あの・・・夫婦漫才中にすみませんが、どちら様で?」
「夫婦ちゃうわ!」
「・・・え?あの日のことは嘘だったのですか?」
「どの日や」
「さぁ?」
「もうええわ。お前、ちょっとそこらへんで黙っとれ」
「な、なんと!これは放置プレイ!?・・・ご主人様、いつの間にそんな高等技術をっ!?」
「・・・ちょっと、アンタ達。いい加減にしないと氷漬けにするわよ?」
「「ごめんなさい」」
二人同時に土下座した。
・・・なんだこの二人?
「・・・で、君達誰?」
「俺はカバネ・ラジェ」
「私はこのアホなご主人様のメイドです」
「このすっとこどっこいのアホメイドは立花可憐」
ボクはこのキャラの濃い二人を観察した。
方や、関西弁でくすんだ赤い髪を持つボク等より少し年上っぽい人。見た感じは普通の人。・・・スコップを背負ってなければ。
そして、さっきから主従関係がいろいろとおかしい、そして無表情なメイドさん。たぶん、このカバネって人と年齢は同じぐらいだろう。
「じゃ、ボク等のほうも・・・」
「おい。まだワイ等の紹介は終わってへんで」
「「「は?」」」
ボク等は素っ頓狂な声を出した。
紹介が終わってない?
いや、あんた等二人だけじゃ・・・。
「で、コイツが幽霊でカレンの妹、花梨や」
すると、いきなりカレンさんがガクッと肩を落とした。
そしてはねるようにして立ち上がる。
「ハロハロ~!リンちゃんなのだぁ!!」
「・・・おい。やからいきなりそれはやめとけ言うとるやろ。見てみぃ、ドン引きやで」
まるで、百八十度性格が・・・いや、人が変わったとしか思えないほどの変化。
「まぁ、そんなわけでワイは死霊術師で、今カリンが借りとるこのカレンの体は屍。まぁ、つまりは生ける屍や」
「・・・いやぁ~。このすけべ~。やらしい目で私の体を見たのね~」
「・・・おい。元に戻って遊ぶなや。しかも棒読みやし」
ボク等は目の前の事態に追いつけずにフリーズしてた。
作 「ついに来たよ!『死霊術師』をお送りします!」
カバネ 「いやほぅ!ワイがイケメン死霊術師や!」
花梨 「冗談は顔だけにしておいてください」
カ 「おい。それはどういう意味や?」
花 「ブサイクです」
カ 「仮にもお前メイドの癖に何を言うか!?」
作 「まぁ、そんなわけでかなり濃いキャラができてしまいました。自分の才能にビックリ」
花 「そうですね」
カ 「何を言うとる。お前のことや」
作 「あんた等二人共だよ」
カ 「嘘やろ?」
花 「そ、んな。ご主人様と、同レベル・・・」
作 「まぁ、そんなわけで次回はキャラの濃い二人が何でここに?と言う話です。次回もよろしく!」