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DARK・MAGIC ~闇夜の奇術師達~  作者: 夜猫
5章 ≪サマー・バケーション編≫
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夏の特別編・奇術師たちの休日①

―――side冬香

 わたしの朝は基本的に遅い。

 それで寮のほうにいてもわたしが大抵一番最後に起きる。

 そしてそれは今日も例外じゃなかった。

 まず、目覚めてみると朝の四時。

 ・・・これは早すぎるわ。

 わたしにはまったく関係のない時間ね。

 二度寝しよう。それがいい。

 そして睡魔に誘われるがままに眠りにつく。

 次に目が覚めたのは九時。

 ・・・眠いから寝る。


 「「「とーねぇ!!」」」


 「「「起きろー!!!」」」


 グギッ


 「ぎゃぁぁぁぁああああああ!!??」


 決してこれは年頃の女の子が上げる悲鳴じゃない。

 でもしょうがないでしょ!?

 さすがにチビガキとはいえ、それが何人も一斉にのしかかってきたらかなりの脅威になる。それに、さっき変な音が聞こえたわよ?わたしの体から。


 「おーきーろー!」


 「お、起きてるわ」


 危うく永遠に寝たままになってた気もするけど・・・。


 「よし!ハルにーにホウコクだー!」


 「「「お~!」」」


 チビ達は編隊を組んで颯爽とわたしの部屋から出て行った。

 ・・・後で覚えておきなさい、ハル。

 わたしは適当な部屋着に着替えると孤児院のリビングに向かった。

 そこにはハルと院長先生がいた。


 「あ、姉さんおはよう。よく眠れた?」


 「えぇ、危うく永眠につくトコだったわ」


 「安心しな。ちゃんと祓ってやるから安心して主の下に逝きな」


 「それが聖職者としての言葉!?」


 「おや?じゃぁ、適当に地獄にでも送っとくよ」


 相変わらず無茶苦茶だ!

 何でこんな人が教会のシスターなんてやってるんだろう?

 言葉遣いも結構荒っぽいし。


 「そんなに褒めるなよ」


 「頭の中を除いたことには突っ込まないけどこっちは突っ込むわ。一ピコたりとも褒めてないわ」


 そういうと院長先生はケタケタ笑う。

 ・・・絶対にこの人がシスターなんておかしい。

 わたしなら本当に教祖に慣れそうな気がする。

 でも、何故か近所の人には慣れ親しまれているのよね・・・。

 世の中不思議だわ。


 「あ、そうだ。忘れてたよ」


 院長先生はどっこいしょと掛け声つきで立ち上がる。


 「あ~・・・年はとりたくないねぇ」


 「いや、アンタほど元気がありゃ十分でしょ」


 わたしの言葉にまたもけらけら笑うとのんびりと裏に行った。

 たぶん、教会の掃除とかそんなところだろう。


 「よし、わたしも手伝いますか」


 「姉さん、院長先生の邪魔しちゃダメだよ?」


 ・・・善処するわ。






 サンクトス教会。

 ここは孤児院の隣にある教会。

 院長先生・・・サーシャ・クロイツがシスターをして両方を管理してる。

 ちなみにここは『大地の王国』ガースにある小さな村。

 この国の特徴としては緑が多く、四国の中で一番農業が盛んってところか。

 そういえば、樹族の集落はガースにあるって聞いたことが・・・。


 「冬香さん?」


 ・・・後から声ね。これは幻聴だわ。こんなタイミングよく樹族の知り合いがピンポイントで来るわけが無い。


 「・・・違います。そして聞こえない!」


 「やっぱり冬香さんですぅ!」


 「知らないわ。わたしの名前はトーカ・ヒラーチ。国籍不明の女の子DEATH!わたしの知り合いに双子で獣人族なんていないわ」


 「・・・そろそろあきらめません?」


 「わかったわよ」


 後を向くとやっぱりと言うか・・・。

 シュウにいつもの双子だった。


 「・・・ハァ」


 「何で落ち込んでるですぅ?」


 「さぁ?」


 「・・・ひょっとして、それですか?」


 「・・・できれば記憶から消して欲しいわ」


 わたしの今の装備。

 修道服。

 箒。

 以上。・・・完全に教会の手伝い用の格好なわけよ。

 知り合いには死んでも見られたくなかったのに。


 「でも、似合ってますよ?」


 「はいはい。どーもどーも。・・・で、アンタ達は何しに来たの?」


 「はい。わたしの師匠が酒を買って来いと」


 「・・・それっていいの?」


 確か、格闘家みたいな人はアルコールがダメとか聞いた気がする。


 「たぶん、ウチの師匠だから大丈夫ですぅ」


 「・・・何、その理論?」


 何故か男子達もうなずいてるし。


 「・・・まぁ、わかったわ。じゃ、さっさと行きなさい。わたしは忙しいの、そしてこのことはしゃべらないで。もし、しゃべったら氷漬けにするわ」


 「わかりました」


 シュウは、そう爽やかに言うと双子を引き連れて酒屋に行った。

 ・・・てか、未成年が買えるの?

 関係ないしいいか。

 わたしは修道服姿で教会の表を掃除すると中に戻っていった。

 そして次の仕事の準備をしに行く。






 「何でわたしが修道服このカッコで買い物しなきゃいけないのよ!」


 院長先生曰く、大人の言うこと聞かなかった罰だとか神の思し召しだとか言ってたけど。

 こんなカッコなんかしたこと無かったから、行く先々で知り合いの人達に驚きの表情で『帰ってきた途端にコスプレに目覚めたのか?』とか聞かれた。

 断じて違うと数宝珠片手に説得してきたわ。


 「にしても、重いわね・・・」


 食材とかをいろいろと買ったけど、中身が何故かパーティに使うようなものばっかだ。

 ・・・何かあったっけ?


 「お~い!!そっちだ!!」


 帰り道の橋の上、いきなり大きな声が聞こえた。

 いや、よく聞いてみると何だか騒がしい。考え事に夢中になってて気付かなかったようだ。回りにも野次馬がたくさんいる。

 声は橋の下から聞こえてくる何事かと思って人垣の中に体をねじ込んで騒ぎを見てみる。

 どうも、川に子供が・・・。


 「って、夏輝!?」


 ウチの孤児院にいるチビの一人。

 活発な五歳の少年で孤児院のムードメーカだ。・・・周りにもチビ達がいるみたいね。

 ちなみに名前は院長先生が付けてて、いつも春にここに来たから『春樹』とか夏に来たから『夏美』とかいい加減に名前を決めていく。

 って、そんな場合じゃない!!

 わたしは数宝珠を出現させて川に飛び込もうとした。

 でも、周りの人に止められてしまった。


 「離して!!アレは、ウチの孤児院のチビガキの一人なのよ!!」


 「ダメだ!危険すぎる!!つい最近、雨が降って川の水量が増している!!」


 「わたしの数法術で何とかなるわ!!」


 もう、いっそのことこいつを氷漬けに使用と思ったとき、下の川岸から声が響いた。


 「あ!?君!!」


 「≪氷華ヒョウカ≫!!」


 その声が響くといくつもの魔法陣が展開した。

 そして、魔法陣のあった辺りが急速に凍っていく。

 ・・・でも魔法陣で、あの魔法名ってソラ!?

 そして、氷りの上を一人の少年が走っていった。


 「ハル!?」


 何で?あの子は魔法が使えないはず・・・。

 ハルは氷の道を川の上に作ると夏輝の近くに行き、ふちにしゃがむと手を伸ばす。

 夏輝はハルの手に必死になって掴む。ハルはそのまま引き上げた。


 「ふぅ・・・大丈夫だった?」


 夏輝はその言葉にしゃくりあげ、わんわんと泣き始めてしまった。

 ハルはよしよしとなで続けていた。

 その光景を見た周りからは拍手がおき、ハルの健闘をたたえた。


 「・・・よし、じゃぁ、姉さんが来ると確実に絞られるからさっさと」


 「誰が絞るって?」


 わたしはこっそりとハルの後に移動。

 それに気づいてなかったハルはまるで油の切れたロボットのように首だけを回してこっちを見る。


 「あ、あははは・・・。どう?すごいでしょ?魔法使えたよ?」


 「その前に、言うことは?」


 「・・・総員撤退!!」


 「逃がすか!!コード≪氷地獄コキュートス≫!!」


 わたしは逃げようとしたチビ達を全員氷の檻の中に閉じ込める。


 「さ、さすが姉さん・・・」


 「・・・で、何でここに?」


 「いやぁ、これには深いわけが・・・」


 「じゃ、帰ってからゆっくりと聞くことにするわ」


 「え?ちょ!?いやぁぁぁぁああああああ!!??」


 こうして、わたしは容疑者らしきチビ達と氷の置物オブジェと化したハルを引っ張って孤児院に帰っていった。






 「帰ったわよ」


 「お帰り。・・・って、春樹は何で氷漬けなんだい?それにチビ達も元気が無いね」


 「雨で増水した川に溺れかかったからでしょ。はい、これが頼まれてたのもの」


 わたしは買った物を孤児院の大きなテーブルの上にドンとおくと院長先生に言う。


 「川に?なんでそりゃ?」


 「だって、きょうは「しー!いっちゃだめ!!」・・・」


 「・・・何を隠してるの?」


 「「「隠してないよ!!」」」


 ・・・怪しいわね。

 何故か院長先生は合点のいった表情だし。


 「そうかい、そうかい。でも、危ないからね。今度からはすんじゃないよ」


 「「「ハーイ!」」」


 「・・・まったく、元気ね」


 わたしはハルの氷を解除。


 「し、死ぬかと思った」


 「アンタもね、元がそんなに体強くないんだからあんな事やったらダメよ」


 「・・・なるべく気をつけます」


 ・・・あの馬鹿ソラの影響を受けてるわ。

 たぶん、魔法もあいつから教えてもらったのね・・・。


 「まぁ、いいわ。で、もうすぐ夕飯だけど何するの?」


 「あぁ。あんた達の『お帰りパーティ』するから適当に待ってな」


 「ふ~ん。わかったわ・・・って、ちょっと待ちなさい」


 「なんだい?」


 「今なんて?」


 「適当に待ってな」


 「もうちょい前ね」


 「あぁ」


 「・・・わかっててやってるでしょ?」


 「さぁてねぇ?」


 院長先生はいつものようにけらけら笑うと台所にいった。

 そしてチビ達もそれについていく。

 残されたのはわたしとハル。


 「・・・朝から何かを隠してた感じはしてた。で、念のために後をついていって川で花を摘んでるのを見たんだ」


 「・・・まさか、プレゼントに?」


 「たぶんね」


 台所のほうからはにぎやかな声が響いてくる。

 その声を聞いてると何だか穏やかな気分になってくる。


 「・・・姉さん」


 「何?」


 「ただいま」


 「・・・そうね、おかえり。わたしもただいま」


 「おかえり」


 わたしとハルは殺風景な孤児院のリビングでにぎやかな声を聞きながら過ごした。






________________________________________


 From リュウ

 件名 なし

 本文 お前、コスプレに目覚めたのか?



 From ソラ

 件名 なし

 本文 まさか、冬香にそんな趣味が・・・。

    リカもビックリしてるよ。


 From スズ

 件名 なし

 本文 冬香ちゃん、似合ってるよ~(^_^)b


 From シュウ

 件名 なし

 本文 すみません。うっかり漏らしてしまいました(笑)


________________________________________


 わたしはケータイをパタンと閉じる。


 「・・・シュウ、覚えておきなさい」


 早く夏休みが終わらないかしら?

 みんなに会うのがものすごく待ち遠しいわ。



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