18話・FINAL
―――side空志
『ついに始まりました!!マリネシア祭闘技大会、決勝戦!!』
司会の声で観客席からものすごい歓声が響く。
てか、うるさい。
「・・・ホントに大丈夫なの?」
「みゃ~」
「うん。たぶん」
「まぁ、適当にやれば勝てるだろう」
「今回は平地さんの救出が最優先だよ?」
「何だか緊張してきたですぅ」
まぁ、ボク等はおおむねいつもと同じ。
ボクは自分の武器に手を触れようとして、右手に何の抵抗も感じないことに気づいた。
見下ろしてみると、そこには『ナイト』があるはずなのにあったのはホルスターだけだった。
「・・・そうか、昨日壊れちゃったんだっけ」
「あ、ソラこれ!」
リカがボクに布で包まれたものを渡す。
そこにはばらばらになった『ナイト』の残骸があった。
「あ!?回収してくれたんだ」
「うん。一応ね」
「ありがとう。ま、今回は『ナハト』だけでもいいでしょ」
ボクは『ナハト』を左の腰から引き抜いて右に変える。
これでよし。
でも、魔法銃で回転式とか意味が無い。
それに、どういう原理かわからないけど地味にセミオートだし。
・・・あれが三点バーストの銃だとすると、こっちは?
解析したけど特に何の効果もないんだよね。
「・・・気合で何とかしよう」
『では、両者お入りください!!』
その言葉にボク等はフィールドの中に入って行った。
向こうにはボクがぶつかったチンピラな人、そして後ろのほうに冬香。
そして、中央にはリーダー格らしき・・・あれ?
「・・・リュウ、何でだろう?ものすごく見覚えのある人がいる」
「・・・奇遇だな。オレもだ」
「・・・お前は・・・そうか、あの時の!!」
向こうも気づいたようだ。
なら、こっちもやることは決まった。
ケータイを取り出す。
番号はもちろん、1・1・0☆
「あ、警察ですか?変質者です」
「うぉい!?」
「そうだぞ。お前はアホか?ここの警備員に突き出せよ」
「あのときのクソガキが!!」
そう、ラズ・フィーレは四ヶ月前、ボク等をあの公園で襲った人物だった。
・・・なるほど。
「これで心置きなく、潰せる」
「あぁ、そうだな」
「な、何故ですぅ?ソラさん達の魔力があがってるですぅ!?」
「は、間君?三谷君?どうしたの?」
「そ、ソラ、落ち着いて・・・」
「簡単に説明するとさ、あの人、ボクとスズを襲った人。そん時はリュウが助けてくれた」
そして、今度はリカの魔力が上がった。
「そう、わかった。八つ裂きにする」
うん。いつもなら止めるけど今回は許す。
八つだろうが九つだろうが三枚だろうがオッケーだから。
「何かいろいろと危ないですぅ!?」
「みんな落ち着いて!?作戦は!?平地さんは!?」
まぁ、インチョーの言うとおりだ。
とりあえずやろう。
「そこの変質者!!」
「違う!俺はラズ・フィーレだ!クソガキ!!」
「黙れ、変質者の分際で。この何で『災禍の焔』がロリコン多いのかわかった。あんたがリーダーだからだ!!」
「誰がロリコンか!?」
「あんただよ!!まだ高校にあがりたての少女を攫おうとしたくせに!!」
「な!?違う!!」
「黙れロリコンギルドのロリーダー」
「何でそこで変な造語を作る!?」
会場からはロリコン?とかいろいろと噂されてる。
途中でサイテーとか変態とか言う声も聞こえる。
「よし。相手がよく知ってる(?)相手でよかった!」
「おい、うまく事が運びすぎだろ?」
「もう一押しだよ・・・」
相手のラズ、じゃなくて変質者は怒りに震えている。
まぁ、ボクもあらぬ噂をあんな風に目の前で立てられたらキレる。
・・・でも、何故か相手の中に気まずそうに数人がしてるのは何でだろう?
冬香を見るとものすごい顔でボクを睨んでた。
・・・無視しよう。
「・・・お前等、全員ぶっ潰す」
待ってたよ。
その言葉!!
「ふ~ん。ロリコンが?無理無理。そっちが全員で掛かってきても無理じゃない?」
「言ったな?」
「あぁ、言ったよ。あんた等じゃボク等に勝てない。なんなら、ボク等全員とそっち全員でやろうか?そっちのほうが手っ取り早く済む」
「上等だ!ぶっ殺す!!」
「・・・ソラさん、相手の挑発がうますぎですぅ」
いや、そんなホメられても。
「ソラ、ホメられて無いよ」
「・・・ま、これで舞台は整った。まず、冬香意外を潰す」
その言葉に全員がうなずく。
よし、準備はオッケーだ。
『あぁ~・・・何だかよくわかりませんがいきなりの総力戦となりました。ですが、例の如く運営からゴーサインが出たのでこのまま続行!!・・・では、決勝戦、始め!!』
その言葉で、ボク等の戦いが始まった。
まぁ、ボクはその言葉と同時に銃の引き金を引いてたりするけど。
「遠隔展開・・・≪雨雷≫!!」
・・・よし、これで大多数はやれた。
「・・・えげつねぇな」
―――side樹
「・・・シャオ、もっと堂々としてください。目立ちます」
「・・・無理言うな。何で俺が女装なんだよ」
私はメイド服を完璧に着こなすシャオを見てため息をつきました。
まぁ、シャオは元から中性的な顔立ちですし・・・感覚的にはシャンがもう一人増えたような感じになります。
「・・・いえ、ですから本当にお願いします。目立ってます」
「だ、だが、しょうがないじゃないか」
「ですから、その恥ずかしがるそぶりだけはしないでください」
そんなことをするので周囲の男性からの注目を浴びっぱなしです。
おそらく、保護欲とかそんなものを奮い立たせるんでしょうね、今のシャオは。
おっと、目的の部屋につきました。
「では、手はずどおりに」
シャオはこくりとうなずくと機械じみた動きで目的の部屋の前に立つ人に近づいていく。
・・・大丈夫でしょうか?
「ん?何だ?」
「あ、あの・・・お部屋のお掃除に・・・」
「ここはいい。帰れ」
「・・・今です」
私がピアスにそうつぶやくと、中で咳をする音が聞こえます。
まぁ、春樹さんに頼んで合図があればするように頼んだのですが。
「部屋が埃だらけだからです。お掃除しないと・・・」
「・・・ッチ。これだから面倒だってリーダーにも言ったのによ。・・・十分だけださっさとやれ」
たぶん、冬香さんを縛り付けるために春樹さんのことは丁重に扱うように指示されていると言うソラさんの見立ては当たったようです。
では、失礼しますか。
私はシャオと一緒に中に入ります。
そこには、ベッドから上半身だけを起こした少年が一人だけいました。
中に人がいません。・・・不用心ですね。
「・・・ソラさんの?」
「はい。私が李樹、こちらのメイドが劉小狼です」
「・・・不本意ながら女装をしていますが男です」
ホントに不本意そうな顔で言いました。
まぁ、それを聞いて春樹さんが驚いてますね。
「・・・女の子にしか見えない」
「・・・シュウ、泣いていいか?」
「その前に解呪です」
私はポケットの魔術符から小さな小瓶を取り出します。
これが、解呪薬です。
・・・ですが、問題が一つ。
「・・・すみません、一つ先に謝る必要があります」
「?」
「実はこれ、急造したものでして・・・。ちゃんとした実験は済んでいません」
その言葉に春樹君の顔が少しだけおびえた表情になります。
・・・でしょうね、要するに貴方で人体実験をしますといってるのと同じことです。ですが、私の力が及ばないために・・・。
「・・・正直に言うと、これはお勧めできません。・・・ですが、冬香さんを助けるにも貴方の力が必要です。・・・お願いします」
「・・・大丈夫です。・・・僕も、皆さんの力になりたいです」
そういうと、春樹さんは恐る恐るではありますがビンを手に取り、じっと見つめます。
そして、意を決した表情になり・・・。
「ん!」
「!?」
「・・・」
一気に飲み干しました。
そして、一息つくと・・・。
「・・・ッ!あぁぁ!?」
「シュウ!」
「わかりません」
いきなり苦しみ始めました・
―――side空志
敵は・・・・・・冬香を入れて四人。
さすがにいきなり中級上位の戦術系魔法を受けるとは思わなかったのか奇襲に成功した。
でも、アレで全員しとめるとまでは行かなくても大ダメージを与えるつもりだったんだけど・・・。
意外にも四人にはダメージらしい傷は特にない。
・・・つまり、あれが向こうの主戦力か。
「ボクは変質者を叩く!リュウは冬香を足止め。リカ、インチョー、シャンちゃんは残り二人を戦闘不能にしたらおって指示する!」
「ハッ!お前、狙ったのか?まぁ、いい。リベンジと行くか!!」
リュウはよくわからないけどやたらと好戦的なセリフを吐いて冬香を足止めしに行った。
・・・大丈夫かな?
「茜、シャン・・・行くよ!!」
「わかったですぅ!」
「何で?あたし達はあの人達やっつけること前提なの!?」
インチョーがぶーたれてるけどリカが無理矢理引っ張っていった。
よし、こっちも行きますか。
・・・主に復讐に。
「と、言うわけで変質者さん。お願いします」
「・・・俺はラズだ。だが、前とはかなり違うな?・・・何者だ?」
ボクは『ナハト』を右手に構えて言う。
「ただの・・・魔法使いだよ!!」
ボクは銃を撃つ。
相手は長剣をどこからともなく出現させて、ボクの魔法弾をはじく。
・・・この人は魔装系じゃない。それは前の公園のことでわかってる。
でも、前衛系の炎と風の魔法使い。
結構手ごわそうだ。
「≪火炎の弾丸≫!」
向こうから炎の弾丸が飛来。
「わざわざ懐かしい魔法をどうも、≪月守≫!!」
ボクは公園で初めて目の当たりにした魔法を魔法陣の盾で防御する。
相手はそれを見て魔法を更に展開。
あれは・・・。
「なら、これもどうだ!!≪炎の監獄≫!!」
ボクの周囲から何本もの火柱が上がる。
・・・前と比べて本数がかなり増えているトコを見ると、やっぱあれは全然本気じゃなかったのか。
なら、こっちはこうだ。
「≪水霊亀≫!!」
ボクの足元に水で構成された大きな亀が出現。
「頼むよ!」
ボクがそういうと亀は甲羅に篭る。
すると、いきなり甲羅がバラバラになってボクを守るように水の六角形の盾が展開。
スズの魔法を見て考えた魔法です。その代わり、スズみたいに魔法を消せないけど全自動で動く優れもの。
炎の柱を食い止める。
「≪水鴎≫!!」
ボクは水系統の魔法で攻める。
・・・でも、正直あまり得意な属性じゃないから不安だ。
「そんなものはな、焼け石に水って言うんだよ!」
炎だけに?
別にうまくない。
「レオ、手伝って!」
「みゃ!」
ボクはレオにそういう。
レオはすぐにフードから出てひらりと地面に降り立つ。
そして、ライオンの姿へと変化する。
「・・・そういえば、そいつもいたのか」
「そうそう、完全復活したレオにぶっ飛ばされろ!!」
レオはその言葉で咆哮覇を放つ。
極太の光線が相手に向かう。
それを難なく相手はかわしボクにこんなことを言った。
「・・・それはいいことを聞いた。感謝する」
「ん?何を言ってるの?」
「こういうことだ。
―――仮契約を行使!」
そう相手が言った瞬間、いきなりレオが苦しみだした。
「レオ!?どうしたの!?」
レオは首を振り乱して大暴れする。
ダメだ。ボクの言葉が届いてない。
「何をした!!」
「さすがは聖獣、『飛翔獅子』だ。まだ自我を持つか・・・・・・大抵、こういうのを捕まえる場合、逃げないように契約を結ぶことが多い。そうすればさっきのように契約を行使して無理矢理言うことを聞かせられる。つまり、俺は仮だがそいつの主人なんだよ」
そういうと悪魔じみた笑みを浮かべ、その呪いのような言葉を発する。
「そいつを・・・・・・殺れ」
その言葉にレオは目をかっと見開き、ボクに咆哮覇を放った
―――side隆介
「よう、元気にしてたか?」
オレは目の前の冬香に話し掛ける。
だが、向こうはオレを視線で殺そうとでもするみたいに睨み付ける。
「・・・まぁまぁね。どこかのお節介が来なきゃね」
そう言ってため息をつく。
「そんな褒めんなって。あいつが調子に乗る」
「そうね。たぶん、知ってるだろからいうけど、わたしはあんた達を殺す気でやるわよ?」
冬香がその言葉と同時にケータイ型の魔術機械を取り出す。
・・・なるほど、完全に前の再現だな。ここにスズがいりゃ完璧だったのにな。
「・・・お前、覚えてるか?」
「何がよ?」
「オレとスズ、最初に会って戦ったとき、お前が設置型の数法術を遠隔展開してオレ達をやったよな?」
そう、あの時、リカを守るために戦ったとき、あの時は罠として仕掛けられていた数法術にかかり、オレ達は気絶した。
「そうね」
「だがな、今回は負けねぇぞ?」
「・・・今回もわたしが勝つ!!」
オレはその言葉で冬香の背後に現れる。
魔法剣≪影討ち≫影から影に移動し、相手の不意をつく奇襲攻撃。
だが、これはオレがよく使う手だ。向こうもそれぐらいはわかってるだろう。
冬香は後を向いたまま数法術を発動。
冬香の周囲の空気が凍り、背後に氷の分厚い壁が出現。
「ッ!」
「そんなの、お見通しよ!!」
だろうな。
オレはバックステップを踏み、双剣を構える。
「・・・魔法剣≪刹那≫!」
≪斬黒≫のようにこれは攻撃を追尾させたり大量の闇の刃を出せない。
だが、この二閃は≪斬黒≫の速さをはるかに凌駕し、攻撃力も高い。
冬香はこれをはじめてみるはずにも関わらず、防御ではなく回避を選択した。
勘のいいヤツだな。
氷の盾で防いでいたら盾諸共冬香を切り刻んでいたな。
そして冬香は回避行動をとりつつも数法術を起動させ、数法術特有の数法陣を大量に展開する。
≪槍衾≫か!
「≪発射≫!」
その言葉で冬香お得意の氷の槍の弾幕が放たれる。
オレはそれを≪影抜け≫で回避したいが、手ごろな影が無い。
しょうがねぇ。
「≪闇の侵食≫!!」
変わりに得意の侵食魔法で退行する。
闇がオレの前に壁のように展開し、氷の槍を喰らい尽くす。
そして、弾幕が途切れたのを感じ、オレは魔法を解除する。
そして、目の前には巨大な土の巨人が何体もいた。
「なんだと!?」
「あんたのその魔法は一時的にだけど視界が限定される。だから、こっちの方が効果的よ」
「なんてな。んなこと、オレがよく知ってるっつーの」
オレは既に構えていた。
こんなの、基本中の基本だ。
『闇』系統の魔法は範囲系を使うとどうしても視界を黒一色にして相手が遅延魔法、つまりは伏兵的な魔法をカウンターでくらいやすい。
「だから、対策ぐらいはしてある!!魔法剣≪闇矢≫!!」
オレは闇の魔力をその身に纏い、剣を目の前で交差させてそのまま突撃する。
それはまるで黒い闇の矢のように駆け抜ける。
そして土の巨人に風穴を開け、冬香の横を通り過ぎる。
「どうだ!オレもそれなりにやるんだぞ!」
「・・・何?情けのつもり!?ただ、わたしの横を通り過ぎるだけ?わたしも舐められたもんね!!」
たいそうご立腹のようだ。
だが、オレは別にわざとやったわけじゃない。
「この魔法展開の特徴はな、構えてりゃ魔法ができるんだよ。こういう使い方もあんだよ!!」
オレは十字に構えたままの剣を冬香に向かって斬るモーションを行う。
すると、十字の黒い≪斬黒≫が放たれる。
「魔法剣≪闇十字≫」
「派生魔法!?この速さで!?」
そう、簡単に言っちまえばこいつはものすごく簡単に派生させる、つまりはコンボを組むことができる。今までは単発でしか使ってなかったからな。
冬香はとっさに起動言語を唱えて魔法を相殺させる。
砕け散った氷がまるで宙にキラキラと舞った。
「・・・確かに、少し油断してたわね」
「そうか・・・。だが、本来の目的は一応お前の救出なんだよな」
「・・・無理よ」
「さぁ?お前、誰が作戦を考えてると思ってるんだ?」
「・・・それでも無理。確かに、ソラは突拍子もない作戦で相手の裏をかくかもしれない。でも、今回は・・・ラズはソラと同じタイプ、つまりは頭使って戦う人間よ」
そして、レオの咆哮が響く。
だが、それは悲鳴のような咆哮だった。
オレがちらりとそっちを見ると、そこにはソラに向かって咆哮覇を放つレオの姿があった。
「な!?」
「・・・たかが数ヶ月戦闘をしてきた子供が、歴戦の猛者を相手に無理よ」
そういう冬香の目は、どこか悲しそうだった。
作 「と言うわけで『決勝戦』でした」
隆 「まさかだな」
作 「ふはははは!」
隆 「だが、ここでまさかの因縁の対決だがいろいろとどうするつもりだ?」
作 「それは考えてある。ちゃんとフラグも全て回収する!」
隆 「へ~。ま、やりゃいいんじゃね?」
作 「・・・適当だな~。とにかく次回予告!」
隆 「そうだよな。いきなりやべぇ事が起こってるもんな」
作 「春樹は苦しみレオは縛られ、冬香もありゃりゃ・・・」
隆 「ありゃりゃてなんだよ」
作 「策謀渦巻く次回もよろしく」
隆 「何か綺麗にまとめた!?」