17話・BEFORE NIGHT
―――side空志
「ま、そう言うわけ」
ボクは宿につくと、シュウと話したことを全員に話した。
みんなの顔は正直、暗い。
「・・・何かいい方法は?まずは・・・田中で」
「・・・俺、競技場に忘れ去られた」
「・・・よし、次!」
「おい!?無視か!?何で俺はいつもそんな役回りなんだよ!?」
「田中君だからしょうがないよ~」
スズの一言に田中は撃沈した。
よし、うるさいのが消えたところで再開。
「でも、解呪薬はちゃんとできるですぅ?」
「・・・シャンがシュウを疑うのは珍しい」
「べ、別に疑ってるわけじゃないですぅ!!ただ・・・」
「ちゃんと間に合うか、そういうことですよね」
その言葉と共に別に部屋を取ったシュウが入ってきた。
シャンちゃんはシュウの登場で赤面してる。
「初々しいね」
「いや、お前が言うか?」
「?」
よくわかんないけど、まぁいいや。
「シュウ、薬は?」
「はい、おそらく、明日の朝までにできます。・・・ですが、春樹さんでしたか?その方はどちらに?」
「ピアスを渡して、話を聞いたら、どうもここで一番の宿に泊まってるらしい。・・・確か、名前は・・・」
「『グランドマリンホテル』だよ~☆」
宇佐野さんがどこからともなく現れた。
・・・窓から。
何でそこから?
「いやぁ~。ワタシ、ルパンになってみたかったんだよね!」
「・・・いや、ワケわかんないから」
「へいへい。三谷っちはノリが悪いな~。じゃ、本題ね」
そういうと宇佐野さんは一枚の紙を取り出した。
そこには、ホテルの内部構造が書かれていた。
・・・どうやって手に入れたのかは聞かないでおこう。
「もち。色仕掛けで」
「・・・で?」
「いや、これはホントだよ?こう・・・特殊な性癖の持ち主を」
「舞さんだな!?舞さんしかいないよね!?」
まさかのロリコン狙うか!?
自分の容姿を百パー利用とか・・・。
「ま、とにかくそーゆーワケで見取り図ゲッツ!!」
「・・・いいや、宇佐野さんがいろいろとおかしいのは今に始まったことじゃないし。他に情報は?」
そこで宇佐野さんは愛用してるウサギのシールが貼られたシステム手帳を取り出す。
「えっと・・・。敵の総数、推定二十。セキュリティレベルはそれほど高くはない。・・・しかし、ターゲットに会えるのはリーダーと思わしき『ラズ・フィーレ』のみ。冬香はリーダーが許したときのみ付き添いつきで面会を許されるそうです」
宇佐野さんは唐突にいつものふざけた態度から淡々とした態度に変わる。
裏・宇佐野さんだ。機械を使うと何でこうなるんだろう?
「何で急にそんなわかったの?」
「・・・『災禍の焔』のメンバーに色仕掛けをしました」
ドンだけロリコンが多いんだ!?
いろいろとダメでしょ!?
中身は高校生だけど・・・。
「・・・続きをよろしいでしょうか?」
「あ、はいどうぞ」
「・・・ホテルには常に『災禍の焔』の構成員がいます。それが最低で二十人ほど。十五人が闘技大会に出ているようです」
「でも、強い人は闘技大会に出てるから大丈夫じゃないの~?」
「・・・いえ、冬香さんが弟さんを連れて逃げないよう、守護にもそれなりの人をまわしているようです。更に、私達のことがバレつつあるようです」
そりゃそうか。『魔氷狼』を聞いて回ってるなんて人はそんなにいないだろう。
たぶん、向こうは冬香がこっそりとどこかに依頼でもしたんだろうとか考えているんだろうと思おう。つまり、見つかれば袋にされる危険がある。
そして、潜入できるのがシュウだけ。
ここで下手に人数を減らせば相手にいろいろと怪しまれる。
「まず、ボクが考えているのは冬香を『災禍の焔』の目の前で奪い返す。いや、むしろ奪う。そして冬香自身の意思でこっちに来てもらう。これができれば相手もあきらめるだろうと思う。でも、そのためにはハル君を何とかしなくちゃいけない」
そうしないと、冬香はボク等でさえ殺す気で掛かってくるのが目に見えてる。
・・・問題はどうやって救出するか、か。
「・・・そこもぬかりはありません」
そこで宇佐野さんはどこかの制服のような服を取り出した。
「・・・ちょっと拝借しました。これで李さんを変装、および潜入させます」
「・・・でも、ばれない?」
「大丈夫です。ホテル側に協力してもらいました」
・・・何故だろう?
脅迫したようにしか聞こえない。
深く追求するのはやめておこう。
「では、私がこれを着ていけば問題ありませんね」
「でも、シュウ君一人は大変じゃない~?」
「そう思ってもう一つ持ってきています」
そして、今度はメイド服・・・って、おい!?
何でメイド服!?
つーか、あんた好きだね!?
「・・・これを誰かに着てもらいます」
「これって、私達のサイズですぅ?」
シャンちゃんがメイド服のサイズを見て宇佐野さんに聞いた。
「はい」
そうか。・・・何で知ってたの?
「じゃ、私が行くですぅ!」
「それは無理です。一人ぐらいは回復職がいないと」
おい。じゃぁ何でもって来た。
そこで、宇佐野さんは何故かシャオ君をじ~っと見つめだした。
「・・・嫌ですよ?」
「却下です」
宇佐野さんはシャオ君にぴらっと一枚の写真を見せる。
シャオ君は吐血して倒れた。
「シャオ~!?」
「・・・わ、わかりました。俺が引き受けます」
・・・君も苦労してるんだね。
ちらっと見えたけど、何故か間学園の高等部の教室を背景にシャオ君がやたらとひらひらで短い袴をはいて、更に女子に取り押さえられていた気がするけどボクは見なかったことにしておくよ。
うん、あれは袴だよね?断じてスカートとか言うものじゃないよね?
「・・・これでオッケ~☆」
宇佐野さんは手帳を片付けるといつもの調子に戻った。
・・・でも、何故かあんまり大差ないように思える。
「じゃ、決勝のほうはどうする?」
「・・・やっぱ、ある程度こっちの戦力を見せて相手に絶対届かないって言うのを見せ付けるべきだと思う。そうすれば向こうも下手に手をださないし、出してもボク等じゃなくて龍造さん達が黙っていないと思う」
・・・あの人達、地味に過保護だからね。
むしろ、今回なら頼めば闇討ちとかで敵を全員瞬殺してくれそうな気がする。
でも、今回は冬香をこっちにつけて向こうにその恐ろしさを植え付けるってのも考えてるからな。
「まぁ、だから決勝のルールを少しいじろうと思う」
「んなことできんのか?」
「うん、この大会さ、結構融通が利くんだ。ま、それには双方の了承が必要だけど」
だから、これまでいろいろと例外的なことも進めれてきた。
「だが、それには向こうの了承も必要だぞ?」
「いや、それは大丈夫。ボクに考えがある。でも、これぐらいしか話せないな」
ボクは部屋の床にごろんと仰向けになる。
「やっぱ、ボクは作戦担当って言っても、その場で考えた行き当たりばったりが多いからさ、こういうの苦手なんだよね」
「・・・そういえば三谷君っていつも戦闘の途中で指示飛ばしてたね」
うん。
だって、ボクの属性も相手の分析だし。
実はとっさの判断がそれなりにいいだけだったりする。
・・・今回のティーナさんではしくじったけど。
「ま、そういうわけだから今日は適当に休んで明日に備えよう。・・・ボクはハル君に連絡しておくよ」
そういうとボク等は思い思いに明日の準備やなんかをし始めた。
時間は・・・ちょうどいいくらいかな?
―――side春樹
ソラさんから貰ったピアスを手の中で弄っていると、かすかに音が聞こえてきた。
急いでそれを耳につけて通話を開始した。
『こんばんわ。どう?』
「あ、はい。・・・まぁまぁです」
『まぁ、病人にする質問じゃないしね』
「まぁ・・・」
『君に伝えることがある』
ソラさんは唐突に真剣な声で話しかけてきた。
思わずごくりと喉を鳴らし、ソラさんの言葉を聞き漏らすまいとする。
『明日の決勝戦中、そっちにシャオ君ともう一人、君は知らないけどボクの仲間が迎えに行く』
ついに来た。
つまり、ソラさんは全ての準備を完了させたんだろう。
『でも、危険かもしれないとだけいって置くよ。たぶん、そっちに送る二人はかなり強いから大丈夫だとは思うけど・・・』
「・・・大丈夫です。でも、姉さんは?」
『それは聞くことじゃないね。冬香は取り戻す。それだけだよ』
その言葉が、僕には何故かとても心にしみた。
何でだろう?
・・・。
「・・・ソラさん。聞いてくれます?」
『うん?いいよ』
「僕と姉さん、実は孤児なんです」
そのことを話したことはない。
姉さんもたぶんそうだ。知っているのはこのギルドの人たちだけ。
『ホント?でも、それなら確かに冬香や君が親に頼れないって言うのがわかるけど・・・』
やっぱり、疑問に思ってたんだろう。
だって、普通ならこんな仕打ちを受ければ親が黙っていないと思う。
聞いただけの話でもたぶんそうだと思う。
でも、僕や姉さんにはいない。
「それで、僕と姉さんは孤児院に捨てられたんです。当時、二歳の姉さんと生後生まれて間もない僕達が教会の前にいたって院長先生に言われました」
『院長先生?』
「あ、はい。サンクトス教会は孤児院もかねていたんです。そこで身寄りのない子供達を育ててくれて・・・」
『うん。それで?』
「で、僕と姉さんはそこで育ちました。院長先生は僕達にいろいろなことを教えてくれました。・・・魔法とか。そこで、姉さんは数法術を使ったんです」
『中々に博識な院長先生だったんだね』
「はい。ですが、突然なんですけど教会への寄付が激減したんです」
『・・・』
「それで、姉さんは自分の力でギルドに入って、お金を稼ごうとしたんです」
『それが『災禍の焔』だった。ってこと?』
「はい。そこで元から僕は体が強いほうではなかったので姉さんと一緒に孤児院を出て、ギルドに仮加入しました」
『うんうん』
「・・・ですが、僕等がギルドに入るとき、院長先生はものすごく反対したんですよ。でも、どうしても力になりたくて・・・院長先生に『なら、何で関係のない僕等を助けてくれたんですか?』って聞いたんですよ」
『・・・』
「で、院長先生は笑って『お前達は私にとって大切な子だからね』って言ってくれたんです。だからお前達が無理をする必要ないって」
『なるほど』
「でも、笑っちゃいますよね。助けようと思ったらこんなことになってしまって」
『・・・いや、人を助けるってものすごく大変なんだよ?だから、その程度の失敗で落胆してたらボク等のところ来ても長続きしないよ~?』
「・・・その程度、ですか?」
『うん。だから、今回はボク等が助ける。でも、次は君もボク等を助けて』
「・・・僕は、姉さんの力になれますか?」
『君がいなかったら冬香はあんなにがんばれないよ。・・・それとゴメン。急だけど用を思い出した。じゃ、また明日』
「・・・はい」
そして、通信が切れた。
暗い部屋の中、空を見上げる。
そこには綺麗な三日月が浮かんでいた。
―――side空志
「・・・」
ボクは考えていた。
まさか、冬香が孤児だとは思わなかった。
でも、それならいろいろとギルドであんな目に遭っても要る理由にはなる。
「たった一人の肉親を助けるため、ね」
ボクは宿の中庭から部屋に向かう。
・・・これから大変だ。
そして、部屋にはまだみんないた。
「終わったのか?」
「うん。でも、計画に一部変更だ。考えすぎならいいんだけど・・・スズ、田中、宇佐野さん」
「ほぇ?わたし~?」
「俺か?」
「なんだい☆」
「今から『エレオール魔法学園』に向かって」
「「どこ?」」
「え~?何で~?」
「いいから」
ボクは部屋にあるメモ帳の紙を引きちぎり、そこにいろいろと書いていく。
「これをサリナさんに。・・・後はこっちで準備しておく」
「おいおい、何しようとしてんだ?」
「う~ん。・・・策士はさ、罠を仕掛けるなら二重にしておくんだよ。まぁ、念のための予防線って所かな?」
そして、今度はケータイを取り出して連絡。
・・・まぁ、これでよし。
「まぁ、これで明日の戦力がボクにリュウ、リカ、インチョー、シャンちゃんだね」
「・・・少なくねぇか?」
「一人当たり三人ですぅ」
「何であたしが戦闘要員なの!?」
「まぁ・・・適材適所か?」
「ソラが言うならがんばる」
「まぁ、そんなわけだから。それと、スズ達の指示はその紙に書いておいたから。その通りにね。あ、移動にはこれで」
ボクは移動術式の書かれた魔術符を渡した。
これで転移が使えないスズでも魔力だけを込めれば転移できる。
それをスズに説明した後、スズは転移した。
そして、部屋が静寂に包まれる。
「・・・これで何もいいんだけどね」
見上げた空には、綺麗な三日月が昇っていた。
作 「と言うわけで『前夜』をお送りします」
春樹 「ついに始まるんですね」
作 「そうそう。ちなみにキーワードは何故か『メイド服』になってます」
春 「・・・美未さんってどういう人?」
作 「あーいう人です」
美 「リカちー!三谷っちが、また・・・」
リ 「ソラー!!」
空 「ん?何・・・ぎゃぁぁぁぁああああああ!!??」
春 「・・・見なかったことにします」
作 「そんなわけで次回!ついに決勝が始まる・・・そして相手が!!」
春 「相手が?」
作 「まぁ、ここまで。次回をお楽しみに」
春 「それもそうです」
作 「まぁ、何故か敵がロリコン扱いになってしまってたりするんだけど」
春 「何で!?」
作 「次回もよろしく!」
春 「スルーッ!?」