15話・CONTROL
―――side隆介
「あいつ、自棄になってやがる!!」
「ちょっと!?ソラ君はもうボロボロだよ!?」
「さすがに助けに行かないとまずいよ!?」
そんなの、当たり前だろ!?
さっきからのあいつの戦いは変だ。
誰の目から見ても。
「ですが、何で誰も気づかなかったんですか!?」
「確かにそうだな。何で、俺達の足元に変なもんが置いてあるのに誰も気づかなかったんだろうな?」
「・・・田中っち、自分が一番近くにいといてそれは無いよ」
「・・・この、ふざけた絵がむかつくですぅ」
シャンが言う絵っつーのはこれの事だろう。
いつの間にか、ソラがオレ達の足元においていきやがったヤツ。
それはスプレー缶のような形状で、『ログ製・イタズラ用トリモチ』とか書かれていた。
すぐそばにドワーフのおっさんがしてやったりな笑みを浮かべてるのがそこはかとなくむかつく。
「あの魔道具馬鹿がぁぁぁぁああああああ!!??」
ソラに変なもん渡すなよ!?
しかもこれのどこがイタズラだ!?
魔法で相手の足に確実に当てて身動きを取れなくするとかドンだけ悪質なんだよ!?しかも時限式じゃねぇか!?
レオなんかマジ泣きしてるぞ!?
オレ達がああだこうだ言ってるとき、変化が起きた。
ソラから光があふれた。
「ついに相手が仕留めに掛かったか!?」
「ソラッ!!」
「ソラ君!?」
だが、光は一瞬で収まった。
そして、見た感じソラには何も無い。
・・・どういうことだ?
「・・・あれ、わたしと同じ~?」
「あ?スズと同じ?」
「・・・進化」
あれか!
何かソラが言ってたやつ。確か、オレ達の武器には進化の魔術構成がかけてあって、時たま急激な変化を遂げる。それをソラやログのおっさんは進化とか呼んでいた。
「じゃぁ、ソラがか!?」
「た、たぶん~?」
オレ達三人の話についていけない残りのヤツには後で教えとこう。
「・・・ソラ」
だが、リカの表情はさえなかった。
・・・まぁ、オレも心配だ。結局、無茶しやがった。
―――side空志
いきなり光があふれ出した。それに驚いてボクは思わず目を見開いて視線を敵から銃に移してしまった。
でも、相手も驚いているのか固まったままだ。
「・・・進化、か」
ボクは光が収まると、自分の銃を確かめた。
片方、右手の『ナイト』は前の自動式拳銃のまま。剣もついている。
そして、大変化したのが左の『ナハト』。回転弾倉式に変化していた。
・・・いや、変化しすげでしょ。何故か刃はついたまんまだし。
「・・・まぁ、いい。こっちもやられっぱなしじゃ嫌だし・・・全力で行く!!」
魔法陣を、『ナイト』に展開した。
そこに映し出されたのは紋様なんかほとんど無い魔法陣。
「―――其は魔に属す法則!!」
「・・・いいでしょう。受けて立ちます」
そういうと、向こうも構える。
そうしてくれれば、ボクも魔法のほうに集中できるからありがたい。
「―――≪月夜≫!!」
今回、ボクは真言の魔法陣を銃に展開した。そして、銃からは光があふれる。
正直、どうなるかはわからない。
それに、これも所詮は小細工だ・・・。
「でも、ボクに出せる全力はこれだけなんだ」
ボクは銃を持った手を一振りして光を払う。
そこから現れたのは、弩だった。
ボク左手の『ナハト』を一旦仕舞って両手で構え、魔力を込める。
弩の矢を収めるところに銀の光が集まり、矢の形になる。
そして、引き金を引いた。
放たれたのは、三条の光。
つまり、魔法弩の三点バースト。しかも、具現化と言う防御が限りなく不可能に近い魔法。
魔力の収束率によって変化するが、これは元からそういう魔術構成だ。つまり、これを受ければほぼ間違いなく勝てる。
「・・・まだ、ダメです」
普通の相手なら。
ティーナはそういうとどうやったのかはわからないけどボクの魔法の矢の三点バーストは防がれてしまった。
そこで、ボクはまた思い切り魔力を装填した。
そして引き金を引く。
それを何回も繰り返した。
「・・・何回しようと同じです」
「・・・ッ」
なら、もっと、魔力を!
そう思ったとき、弩が内側から弾けるように壊れた。
「なっ!?」
「・・・魔力の収束が甘いからですね」
ボクの全力のマナの装填に耐え切れなかった?
こんなコト、今までなかったのに・・・。
「・・・ダメだ。これじゃ、勝てない・・・できない・・・」
ボクの脳裏に一瞬だけフェイクの顔がよぎる。
凶悪な笑みを浮かべ、何故かボク等を付けねらう、自称魔王。
そして、冬香の顔。
助けるって言った。
ハル君の顔。
姉さんを頼みますって言われた。
でも、自分がどうしようもなく無力に思えた。
・・・知らなかった。自分が、ここまで自分の力を使いこなせていなかったなんて。
「・・・もういいです。ハンデをあげます」
そういうと、向こうは掌を上に向けた。
そこに魔力やマナがものすごい勢いで収束されていく。
そして、ティーナの掌の上にはマナのみで構成された巨大な十メートルほどの塊が出現した。
≪月詠≫を使うまでもなく、可視可能なまでに凝縮された魔力塊だってことがわかる。あれがボクに放たれればただではすまない。
「・・・マナを使うのは大変ですね。自分の魔力じゃないからか全然言うことを聞いてくれません。・・・逆に、これを操れるであろう貴方がどうしてこんなに弱いんですか!?」
まるで、ボクをなじるように言う。
・・・そんなこと、ボクが一番よく知ってる。
「これを貴方にぶつけます。貴方ならマナのコントロールを奪い、攻撃を無力化することができるでしょう。ですが、それには貴方が本気を出せればの話です」
「・・・何を言って」
「貴方は!!無意識に力をセーブしてます!!理由は何ですか?化け物とでも呼ばれましたか?あるいは、暴走でもしましたか?」
ボクは思わず暴走と言う言葉に反応する。
相手はそれで全てを理解したみたいだった。
「・・・それが何ですか?たかが、暴走で!!私は、暴走した上、化け物と罵られ、故郷で孤立しました!!ですが、貴方のようにそこでふぬけたりなどしませんでした!!力の暴走が怖い?なら、モノにしなさい!!そして、貴方には仲間がいるんですよ!?あの、貴方を慕ってくれている少女が!他にもいるんでしょう!?私には、残念ながらいませんでした!!暴走したとき、みんなは私を恐れ・・・。この『十二星座』でやっと手に入れられたんです!!私は後で恵まれました。貴方は最初から恵まれていたのに!!」
そうか。
だから、さっきから怒っていたのか。
ボクが、同じ三魔源素でありながら、力を恐れ。挫折したボクが許せなかったんだろう。
力と、立ち向かえず、ただ、リカとのケンカを理由に適当に逃げたボクを。
・・・力以前の問題だった。
いや、たぶんボクはどこかで知っていた。
でも、認めたくなかっただけだ。
「でも、ボクには無理だ・・・」
「なら、一回、死んで考えなさい!!」
死んだら考えれないよ。
そんな軽口を叩こうとした。
それが最後のボクの抵抗になると思って。
魔力の塊が放たれ、ボクに向かってくる。
そして、ボクと魔力の塊の間に誰かが割って入ってきた。
「ダメ!!」
その人物は、自分の背丈ほどもある大鎌を振り下ろし、魔力の塊を押しとどめた。
「おい!!何で出てきた!!」
「だって、ソラが!!」
「おい!!この魔法を止めろ!!この子は関係ない!!」
「・・・貴方が止めればいいです」
何だよ!ボクは、目の前の人物を見た。
リカだった。
半泣きになりつつ、ボクにまくし立てるように言った。
「だって・・・。アタシは吸血鬼だよ?ソラと、あのティーナって人の会話・・・全部聞こえちゃった」
「だから何!!」
「ゴメンね。アタシがソラしか見てないから・・・。だから、ソラはアタシのために・・・」
「わかったから!!でも、あれはボクが悪い!!だから、逃げて!!」
「でも!!アタシは・・・まだ、人間が怖い。・・・今回も、ソラがどっか遠くに行っちゃうんじゃないかって思った。・・・アタシ、いやっ・・・!!」
「・・・リカ!?」
突然、リカが膝をついた。
吸血鬼の力をもってしても無理だったらしい。
もう、リカは限界だ。
「もう、いいから!!早く逃げて!!」
「ソラ、お願いだから、自分も・・・。自分のことも幸せになれるように作戦を立ててよ!!ソラは、それができるでしょ!!」
リカはそういうと、ボクに目をむけた。
決意の篭った目で。
「アタシ、絶対に、逃げない!!」
でも、リカの足がどんどん地面を滑っている。
本当に限界なんだ。
向こうはただ、手を組んでこっちを見てるだけだ。
いや、そこで口を開いた。
「・・・貴方は、それでいいんですか?」
「・・・そんなの・・・っ!」
「きゃぁ!?」
ついに、リカが足を滑らせた。
ここまでよく持ったと思う。
こんなの、簡単に言えば世界の力をその細腕一本で支えようとしてるんだから。
そして、その世界の力がリカを押しつぶそうとする。
「そんなコト・・・させるかぁぁぁぁああああああ!!!」
ボクはとっさにリカを抱きとめ、右掌を前に突き出す。
そして、自分でも無意識に、全力でマナをコントロールした。
ボクはその時に気がついた。相手の魔力が解析できると言うことに。
ボクは掌にどんどん魔力を収束させ、直径五センチほどにまで小さくした。
「そ、ら?」
「・・・どうよ。やってやったよ」
相手はあのタイミングでやるとは思ってなかったのか驚きの表情だ。
こっそりと展開してある防御魔法からもそれが伺える。
ボクは右手で銃の形を作ると、相手に照準を合わせる。
「でも、やっぱり、最後に一発くらいいいよね!!」
ボクがバ~ンというと、収束させたマナが高速で相手の右耳のあたりすれすれを通っていく。そして、壁に着弾した途端。会場を大地震が襲った。
ボクが狙ったところにはもはや修復不可能なんじゃないかと思うほどの大穴が穿たれていた。
「ボクの負け・・・です。・・・でも、ざま――」
そこで、ボクは地面に倒れた。
とっさに自分が後に倒れてリカを地面に叩きつけなかったことは褒めて欲しい。
「ソラ!!」
リカはボクから降りると、膝枕をしてとても心配そうに覗き込む。
・・・はぁ。
体が動かない。また、このパターンか。
「せっかく・・・。嫌われたに・・・。これじゃ意味、無いじゃん・・・」
「・・・ゴメンね。アタシ、ソラの優しさに甘えてて・・・」
「まぁ、ぶっちゃけ・・・ボクも、甘やかしてたし・・・」
それはそれは激甘で。
近所の甘味屋が驚くぐらい甘く。
「アタシ、ちゃんとがんばるから・・・」
「・・・そっか」
「うん。でも、アタシにはまだ、ソラが必要なの・・・」
「・・・そっか」
「・・・うん。だから、もう少しだけ・・・ほんの少しでいいから・・・甘やかさせて」
『一人にしないで』・・・。ボクには前の言葉とダブって聞こえた。
・・・そういえば、ボクはリカを一人にしないって約束したんだっけ。
そんなことを頭の中で思い出しつつリカを見た。
「リカの目ってさ、よく見ると、紅玉みたいに綺麗だよね」
「・・・ふぇ?」
リカがものすごく赤くなった。
言葉の選択をミスったか。・・・・・・ものすごく怒ってる。
「・・・リカ?」
「は、ひゃい!?」
「・・・例え、リカがボクを嫌ったって大丈夫だよ。絶対、見捨てない。それだけはいえる」
「・・・うん」
そこで、ボクは意識を手放した。
―――sideリカ
ソラが目を閉じた。
さっきまでのダメージが相当堪えたんだと思う。
「あ、あの~」
そこで、さっきのティーナとか言う子がアタシとソラのすぐそばに来た。
どうしたんだろう?
「・・・ついさっき、気づいたのですが・・・その・・・ソラ君、でしたっけ?・・・そのこの目は何段階ですか?」
目?段階?
・・・そういえば、ルーミアがそういうのを言ってた気がする。
「え~っと・・・確か第二段階?」
「・・・ホントですか?・・・でも、さっきのは・・・第三段階・・・勘違い?」
ティーナがいろいろとぶつぶつつぶやく。
アタシが確かにソラは第二段階だって言うことを教えると、ティーナの顔がサーッと青ざめていった。
「・・・いえ、まさかとは思ったんですよ?・・・でも、普通、マナの操作は第三段階からだって・・・テセラに聞いてて・・・」
・・・?
何が言いたいんだろう?
「リュウさん!!≪影抜け≫はどうですか!?」
「その手があったぁぁぁぁああああああ!!!」
後からリュウ達の声が聞こえたかと思うと、アタシの影からみんなが出てきた。
「よし、リカ。お前はよくやった。さすがはソラが関わると性能がお袋を凌駕するだけの事はある!!」
「リカちゃんすごいね~!こう、床をべりべり~って」
・・・何故だろう?
褒められた気がしない。
「でも、貴女も少しこれはやりすぎじゃ・・・」
「す、すみません。て、てっきり、第三段階以上だと思って・・・」
「あ?どういうことだ?」
「あの・・・マナの操作が第三段階以上のスキルなのはご存知ですよね?」
・・・あ、そういえばリュウ達に説明するの忘れてた。
鈴音は・・・まぁ、鈴音だし。
「・・・ご存知、ない?」
「あぁ。オレ達は・・・つか、こいつとこいつ」
そう言いつつリュウは鈴音を前にだした。
「こいつらは四月から訓練したばっかだ」
「え!?・・・ほ、本当ですか?」
「あぁ」
「・・・あ、あはははは・・・」
乾いた笑みをティーナが漏らす。
そして、いきなり土下座を敢行しだした。
「ごめんなさい!!そうとは知らず!!てっきり、ただのへタレなのかと!!」
「・・・あながち間違ってない気はするね☆」
・・・何だか話が読めてきた気がする。
要するに。
「・・・勘違いでソラを殺しかけた?」
「す、すみません!!」
「てか、ソラさんが回復しませんですぅ!」
「・・・シャン、ソラさんのは力の代償みたいなものだから無理だ。傷の治癒に専念しよう」
「・・・三谷の野郎・・・アンジェリカさんに膝枕・・・」
「ここでソラの仇をとる!」
「落ち着け!?ソラは死んでねぇ!?」
「そ、そうだよ~!」
「そ、それに、むしろ仲直りできたじゃん!」
むぅ・・・そうか。
アタシはしぶしぶ鎌を消した。
「・・・まぁ、何だ。こっちもいろいろとあってな。それがこうなっただけだ。気にするな」
「でも・・・」
「まぁ、とにかくだ。こいつはもう連れて行く。幸い、うちの薬剤師から連絡が来てな。もうすぐ到着らしい」
「シュウが来るですぅ!?」
「おぉ~。じゃ、シュウ君にソラ君を任せておけば大丈夫だね!」
そして、リュウは不適な笑みを見せて言った。
「ま、こいつはお前に負けた。だが、次はこうはいかねぇ。それだけは覚えてろ。そしてな・・・・・・オレ達は、結構強いぞ?」
そういうとリュウはみんなに下がるようにいった。
みんなはそれにしたがってベンチに戻る。
「次はオレが相手だ。何人で掛かってこようがぶっ飛ばす!」
「・・・わかりました」
そして、ティーナは自分のベンチに戻っていった。
フィールドには、意識のないソラと、アタシ、リュウが残される。
「おし。お前等も下がれ」
「・・・うん。ソラは?」
「んなもん、お前が救護室にでも連れてけ」
「え、でも・・・」
ついさっき、ソラと約束したばっかだし・・・。
今回は、ちゃんとみんなの迷惑にならないようにちゃんと試合に出たいと思う。
「誰かがソラを運ぶ必要があるだろ?別にそれがお前なだけだ。だが、運んで、シュウと合流したらすぐに戻って来い」
リュウがぶっきらぼうに。
だけど、優しさの篭った声で言った。
「わかった!」
そういうと、アタシはソラを背負った。
今はこのぬくもりがものすごくうれしい。
・・・錯覚かもしれないけど、前よりもずっと近くにソラを感じてる気がした。
作 「と言うわけで『操作』をお送りしました」
ティーナ 「す、すみません!本当に・・・」
作 「まぁ、ぶっちゃけ、この物語は主人公最強モノじゃないから特に問題なし」
ティ 「で、ですが、第三段階でもないのに何故?」
作 「いや、人は窮地にたたされると限界以上の力を出すんだよ」
ティ 「・・・貴方はいったい何をさせたのですか?」
作 「ちょっとした修羅場をプレゼンツッ!!」
ティ 「・・・」
作 「まぁ、そんなわけで仲直りもさせて適度に距離をたらせる算段もついたってことで次回予告!」
ティ 「薬剤師さんが来るんでしたっけ?」
作 「イエス!我らが格闘薬剤師が来るよ!」
ティ 「・・・どういう方ですか?」
作 「唯一の常識人」
ティ 「・・・格闘士で薬剤師なのにですか?」
作 「そこは気にしちゃいけない!」
ティ 「いえ、お医者様が相手に怪我をさせるのはどうかと・・・」
作 「次回もよろしく!」
ティ 「・・・逃げられました」