1-7:「お隣さん」
SIDE:蒼井若葉
ゴールデンウィーク前になってようやく引っ越し先が決まるとは合格発表のときには全く予想していなかった。
大学の近くのアパートやマンションを探してみたけれど軒並み満員、もしくは手が出せないほど高い。
今までの貯金を考えれば手が出せないというのは言い過ぎかもしれないけど、学生の一人暮らしにはいささか高すぎる。
大学生活が始まってからも引っ越し先は決まらず、実家から片道三時間かけて通っていた。そのくせ一限から必修が入っているものだから睡眠時間など存在しないようなものだった。
早急に何とかしないとダメな問題だ。とは思っていたけれど大学の近くや主要な駅チカの学生向けアパートは全滅。高級タワマンくらいしか選択肢がないか……と思っていたところにそれを見つけた。
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今から考えるとどう考えても怪しさ満点のその張り紙がその時の私には救世主のように見えていた。
事故物件でも何でもいい、通学に三時間かかるこの状況が変わればいい。そう思って張り紙にあった連絡先に連絡を取った。
それから審査や手続きを経て正式に入居が決まるとそこの大家さんから衝撃の事実が知らされる。
いわく、入居者は私の他に一人しかいないらしい。どうやら大学を通してしか受け付けていないようで、張り紙の怪しさも相まって入居者は全く増えなかったようだ。
どうしてこんな物件を見つけられなかったのかと思ったが、大学を通して探すことはしていなかったので検索に引っかかることすらなかった。仕方ないことである。
世間はゴールデンウィークに突入しようかという時期に、私は引っ越し作業に追われていた。
朝早くに父に別れを告げて家を出ると電車を乗り継いで三時間かけて例のアパートへ。今は三階建ての建物の一階に大家さんが住み、入居者は二階の端の部屋のみ。私はその隣の部屋に住むことになる。
お隣さんはどんな人だろうか。男の人かな。女の人かな。大家さんに聞いておけばよかったかな。優しい人だといいな。
引っ越し業者さんに手伝ってもらいながら父が買ってくれた要最低限の家具を運ぶ。お隣さんに事前に挨拶しておいた方がよかったかな。うるさくなってごめんね。
幸いなことにお隣さんから苦情が来ることはなく、無事に全ての家具の搬入が終わって引っ越し業者さんにお礼を言う。
これが仕事ですから、と笑う業者さんを見送って自室を見回す。
狭い玄関。布団を五枚くらいは敷けそうな広さの部屋。こぢんまりとしたキッチン。乾燥機能付き洗濯機。