3-2:「え? チョベリグって死語?」
SIDE:蒼井若葉
ついにこの日がやってきた──と言うとすこし言い過ぎと思われるかもしれない。
でも、私にとってはそう言えるくらい大事な日。
ついに連休が明けて、この国は日常を取り戻す。この期間ずっと食べては寝る生活をしていた想い人である佐藤くんも、日常へと引き戻される。
それはもちろん、私だって同じこと。
だけど、私にとっては今までと違う点がある。ひとつはこのアパートに引っ越してきたこと。今までの何時間もかかる通学時間が大幅に短縮されて、朝の時間に余裕ができた。
そしてもうひとつが、好きな人ができたこと。もちろん佐藤くんのこと。
だから私は今日はいつもより早く起きたし、メイクもバッチリ決めてきたし、服だっていつもよりオシャレにした。あさイチで結ちゃんに自撮りを送ってみたら『さいっこうに可愛いからお隣さんもイチコロだよ!』って返ってきたし、今の私はチョベリグって感じ。え? チョベリグって死語?
……ちょっとこの話はやめにしようか。
それはそうとして、せっかくとっても可愛くキメてきたのに肝心の佐藤くんはさっきからずぅ~っとため息ばっかり。楽しみって言ってくれたのは嘘だったのかな? 私はこんなに楽しみにしていたのに。
なんてことを考えていたら、私の携帯電話からいつものアラーム音が鳴り響く。
アルトサックスが奏でる美しい音色は、『祈りの歌』と呼ばれるフレーズを完璧に歌い上げる。
私の大好きで、大嫌いな曲。
画面を見ると、結ちゃんからの着信だった。
「もしもし、結ちゃん? 珍しいね、こんな時間に」
『もしもし、わーちゃん聞いてよ~。 うちのたろーくんが仕事行きたくないーってゴネちゃってさ~』
「え、そこはバシッと言ってごらんよ~」
たろーくん、というのは結ちゃんの旦那さんのことで、漢字で書くと太郎。 そして苗字は田中。平凡すぎて逆に珍しい名前だと本人は言っていた。
『言ってみたんだけどさ、やっぱり動いてくれなくてぇ~。 それより、わーちゃんはどうなの? 彼の様子は?』
「まあこっちも似たような感じだけどね」
『そっちにも五月病患者が……。 ってそうじゃなくて、何もしなかったの?』
あなた正気? とでも言いたげな声色で私に問いかける結ちゃん。何のことか分からず黙っていると、彼女はため息をひとつついてから口を開いた。
『せっかく鍵貰ったんだから、寝起きを襲うとかしたのかなって』
「……い、いやそんなことはしてないからね!?」
あの、襲ってはないです。
襲ってはいない(寝顔の観察はした)




