3-1:「五月病」
沢山お話をしてはいるけどまだ自覚した気持ちやら測りかねている距離感やらで敬語とタメ語が混ざっている……そんな距離感です。
五月病、という言葉がある。
新しい環境への適応だったり仕事などへのプレッシャー、人間関係の構築などで心身に不調をきたす症状。人によってはゴールデンウィークのような大型連休で生活習慣が乱れることによって発症することもあるらしい。
何を隠そう、この佐藤一輝という男もまた五月病の罹患者である。
「僕は思うんですよ。たくさんお休みをさせておいていきなり朝から夕方まで外出しろってのは無理な話じゃないか?」
「でもそのお休みする期間に外出するチャンスはたくさんあったずじゃないかな?」
「うっ」
さすがにそろそろ慣れてきたお隣さんの蒼井若葉さんとの朝食もいつもは僕も笑って過ごしていたのだが、今日はどうしてもそんな気分になれない。
「でも佐藤さん、今日から一緒に大学に行きますから。一緒に頑張りましょう?」
「そう言われるとちょっと元気出てきますね……」
「私、今日が楽しみだったのに」
「僕も楽しみだよ。だけどさ……。憂鬱なのは仕方ないじゃん」
まだ日付が変わって7時間も経たないというのにもかかわらず既に本日10回目のため息が出た。
でも確かに、今まではひとり寂しく受けていた大学の講義もふたりならばすこしは楽しい時間になるかもしれない。
軽く自分の顔を叩いて気合を入れたその時、スマートフォンから電話を知らせるアラームが鳴った。僕のものではない。
毎朝隣の部屋から聞こえてくるものと同じその曲は、蒼井さんの好きな曲なのだろうか。
以前聞いてみようと思って自分の部活の話をしようとしたのだが、どうやら触れてほしくない領域だったのかあまり明るい顔ではなかった。それ以来音楽の話をしていないし、自分の部活の話をしていなければ彼女の話も聞いたことがない。
「もしもしー、結ちゃん? 珍しいね、こんな時間に。 ……えっ、そこはバシッと言ってごらんよ~。 ……まあこっちも似たような感じだけどね。……い、いやそんなことはしてないからね!?」
結ちゃん、というのは彼女の口から何度か出たことのある言葉で、地元の親友らしい。高校時代では『学年一の美少女』とか言われていたとか。
……蒼井さん以上にかわいい女の人なんて実在するのだろうか。という疑問が僕の中に浮かんだがそれは一度置いておく。
そんな評判だった結さんは何故かクラスの冴えない男子と同棲を始め、そして付き合い始め(順序逆じゃない?)、そして卒業とほぼ同時に入籍したとかなんとか。
……どうして僕は会ったことも見たこともない人の情報をこんなに知っているんだろう。そういえば苗字は知らないや。やっぱり知らないことばっかりだ。
旧友との会話に花を咲かせる蒼井さんにを横目に、僕は何度目かのため息を漏らした。




