1-1:「かわいらしい声の主」
『初めまして、隣に越してきました蒼井若葉と申します。よろしくお願いしますね』
蒼井と名乗ったかわいらしい声の主はお隣さんらしい。
久しぶりに女性と会話することもあり、僕は少し緊張していた。
『こちらこそ初めまして。玄関のほう、行きますね』
そう言って僕は玄関のドアを開ける。そこに立っていたのは、声からイメージされる通りのかわいらしい女性だった。
おっとり系と言うんだろうか、落ち着いた雰囲気の彼女の顔立ちは可愛い系。女性の顔立ちは大きく「美しい」と「可愛い」に分類されると僕は思っているが、彼女は可愛い系だ。
「こんにちは、蒼井です。今後ともよろしくお願いいたします」
それからしばらくお話をしたが、蒼井さんはどうやら僕と似たような境遇らしい。
彼女も僕と同じく大学一年生で、今日ここに地方から越してきたようだ。さらに言うと大学も同じで、さらにさらに学部学科まで同じらしい。僕が通う学科は一年生だけで千人以上いるので、別にめちゃめちゃ珍しい話というわけではないが、何か運命的なものを感じてしまう。
……そういえば入試の会場で見かけたような気がする。気のせいな気がしないでもない。
彼女は手芸が得意なようで、お近づきの印にとフェルト細工のネコをいただいてしまった。僕は手先が器用ではないのでこういうものを作れる人は素直に尊敬する。そのことを伝えると「そんなことないですよ~!」って謙遜してたけど。
とはいえ入居一か月にしてすでにゴミ屋敷の片鱗を見せつつある我が部屋に貰い物を置いておくのも忍びないので、かろうじて綺麗が保たれている玄関の棚に飾っておくことにした。
それに女の人から物をもらうという経験が今まで一度もなかったので、引っ越しのあいさつとはいえ物をもらったという事実が僕を有頂天にさせていた。
そうして僕とお隣の蒼井さんとの生活が始まることになる。
私は一人暮らしをしたことがないので、大学の友人のお話を聞きながらのイメージで一人暮らしするお話を書いています(笑)。