2-8:「恋愛相談」
SIDE:蒼井若葉
「それでは、喜んで。 キミの信頼、受け取りました」
佐藤くんの鍵を受け取ってから、部屋に戻ってお風呂に入った。お風呂を上がって、メッセージアプリを起動する。
相手は、幼いころからの付き合いである緑川結ちゃん。大学進学を機に直接会うことはできなくなったけれど、今でもこうして夜に連絡を取り合うのが私の日課になっている。
結ちゃんは高校の頃にクラスメイトの男の子と付き合い始めて、卒業と同時にゴールイン。あの頃は私が結ちゃんの恋愛相談に乗ったりしていた。
『それでさ、佐藤くんが家の鍵をくれてね』
『え、それもう結婚じゃん』
今日報告するのはもちろん、合鍵のこと。
『ってことはさ、帰ったふりをして寝込みを襲うこともできるってこと?』
『そんなことしないもん!!』
まったく、結ちゃんは私のことを何だと思っているのか……。
寝込みを襲うなんて、そんなことするわけがない。するなら堂々と……って違うちがう、まず襲わないから!
『でもさ、そういうこと期待して鍵渡したんじゃないの?』
『そうなの……かな? そんなことないと思うんだけど……。良い人だし』
もしそれを期待されているとしたら……応えてあげるべきなのかな? いやでもそんなことする勇気は……。
なんてことを思っていると、急にスマホが震えた。相手はもちろん結ちゃんだ。
結ちゃんはたまに電話をかけてくる。そのときはいつも私が言葉に迷っている、というか悩んでいる時で、わざわざ言葉にせずとも察してかけてくれるのだ。良い友達だなぁ。
「もしもし、結ちゃん? 急にどうしたのさ」
『わーちゃんさ、その佐藤くん?のこと好きなの?』
「えっ、」
言葉に詰まった。え? 私が? 佐藤くんのことを? 好き?
そんなこと考えたこともなかった。
『だってさ、最近ずぅ~っとその佐藤くんの話してるじゃん。よっぽどカッコいい人なのかな~って』
「カッコいい人なのは……そうかな。イケメンだと、思う」
『それでさ、料理まで作ってもらってるんでしょ?』
「それは、私がお願いして作ってもらってて」
『そしておうちの鍵までもらったと』
「いちいち呼び出すのは面倒だから……と」
『それでさ、』
結ちゃんは一呼吸おいてから私に言った。
『わーちゃんは嬉しかった?』
「それはもう、とっても嬉しいよ。認めてもらえたみたいで、とっても嬉しい」
『じゃあさ、一緒に居たいな~とか思わなかった?』
「もちろん、一緒に居ると心地よいですしずっと一緒に居たいというか……」
『それだよ』
「えっ?」
『わーちゃん、もうその彼にゾッコンじゃん』