2-7:「不健康生活まっしぐら」
蒼井さんが隣に引っ越してきてから数日経って。
世間はゴールデンウィークも終盤に突入し、高速道路の大渋滞の様子がニュースで報道されていた。
そんな中僕は何をしていたかというと……
寝る。起きる。ご飯を作る。ふたりでご飯を食べる。寝る。
以上である。
……うん、言いたいことはわかる。僕もやばいってことはわかる。不健康生活まっしぐらだもんね。
一方の蒼井さんはというと。
寝る。起きる。僕と一緒にご飯を食べる。アルバイトへ行く。帰ってくる。僕と一緒にご飯を食べる。寝る。
うん。健康的だね。どっかの誰かさんと違って。
そんな僕たちは現在何をしていたかというと、一緒に晩御飯を食べている。
「もう連休も終わっちゃうねぇ」
蒼井さんは味噌汁をひとくち飲んでから言った。
「そうだね、大学始まるのが憂鬱だよ」
もう明後日には休日は終わり、朝早くに起きて眠い中大学の授業を受けに行く生活が始まる。憂鬱だと言葉では言うが、実のところは少し楽しみでもあった。
「講義、一緒に受ける約束、覚えてる?」
「もちろん、覚えてるよ。そこだけは楽しみかな」
今まではひとりで受けていた退屈な講義も、彼女と一緒なら楽しくなりそうな気がしていた。
……蒼井さんも、そうだといいな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「そうだ、渡しておきたいものがあって」
食事も終わり、蒼井さんが帰ろうとしたその時、僕は彼女を引き留めていた。
「渡したいもの?」
「そう、これ。 渡しておいた方がいいかなって」
そう言って僕が手渡したのはこの部屋の合鍵。
「ほら、いちいちインターホン鳴らして僕に開けてもらうのも面倒かなって思って。 自由に入ってきてもらって大丈夫だからさ」
「え……本当にいいの? ほら、キミがいない間にものを盗っちゃうかもよ?」
「蒼井さんはそういうことする人じゃないでしょ?」
蒼井さんが心配するのもわかるが、僕はこの数日で彼女は信用するに値する人物だと判断した。……というか信用していなければこうやってご飯を提供することはしていないし、お金を受け取ることもない。
それに、僕が盗られて困るものは常に身に着けているからそこまで問題はない。
あ、料理道具は盗られたら困るけど。
「僕はいつでも蒼井さんを歓迎するからさ。 だから受け取ってもらえると嬉しいな」
「本当にいいの? 夜、寂しくなってお話し相手になってもらっても?」
「構わないよ。 蒼井さんとお話しするのは楽しいからね」
そう言って僕は微笑む。その顔を見た彼女も笑った。
「それでは、喜んで。 キミの信頼、受け取りました」
蒼井さんの笑顔を見て、僕の心臓はドクンと大きく跳ねる。この笑顔を見るためなら、僕はなんだってやれる。
──ああ、好きだな。