2-6:「……普段なら」
だいたいの料理はそつなくこなす僕だが、避けている料理がある。
魚である。
これは別に僕が魚を食べるのが苦手というわけではない。むしろ好きだ。だがしかし骨の処理が面倒なのだ。
だから既に骨が処理されている状態であれば喜んで使う。
骨が残っているものは普段ならば避ける。……普段なら。
「まあ、骨は食べるときに取り除けばいいか」
今日の晩御飯は蒼井さんの希望で焼き魚である。骨の処理を考えなければやることは難しくないので自炊初心者にもおすすめのメニューだ。
魚に火を通している間に空いているコンロで味噌汁を作る。二人分の水とお味噌と……あ、味噌入れすぎた。
まぁいいか。
そんな料理に集中している僕のことを真後ろでじっと見ているのが蒼井さん。僕のこと……というより僕の肩越しに料理の様子を、の方が正しいか。
決して広くはないこのキッチンで真後ろに人が入るとどうしても密着する形になる。
つまりですね、その、背中に密着されると、胸が当たってましてね、これって言った方がいいのかな、意外と大きい? もうちょっと堪能……いやいやしないしない。ってか顔がすぐ横に……なんかすごくいい匂いする。ほんとに同じ種族の生き物なのかな。というかめちゃめちゃ顔が綺麗だな。そしてロングの髪が僕の首筋にちょっと触れてくすぐったい。そして蒼井さん、僕を抱きしめてるの気付いてます? スキンシップ激しいよ急に。僕はいつの間に後ろからハグされるほどの好感度を稼いでいたんだろう。
「あの、蒼井さん、火を使ってるので、密着されると、ちょっと」
「えっ、あっ、ごめんね!!!!」
そう言うと彼女は僕から離れてリビングへと戻っていった。
──もうすこし堪能してからでも良かったかもしれない。そう思ったのは秘密にしておきたい。
何だこいつら羨まけしからん