2-5:「私は知らない」
SIDE:蒼井若葉
私は、幼いころから父と二人暮らしをしていた。母は物心ついたころから自宅にはおらず、父に訊いてもはぐらかされていた。
離婚したのか、死別したのか、それすらも私は知らない。
父は、私が望めばなんでも買ってくれる人だった。
ゲーム機が欲しいと言えば自らお店に行って買ってきてくれたし、ケータイが欲しいと言ったら常識的な範囲でのフィルタリングはあったけれど買ってくれた。小説も漫画も、今住んでいるこの部屋だって。なんでも。おこずかいだって沢山くれた。
それゆえに私の金銭感覚は少々、いやだいぶおかしいらしい。
高校生の頃には自分がこのまま社会に出たらお金を使いすぎて破産してしまうのではないか──そう思ってアルバイトを始めた。
三年間続けたアルバイトで沢山のお金が貯まったけど、そのお金を使うことは今まで一度もなかった。
何か欲しいものがあった時は父に言えばすべて手に入ったから。
父が買ってくれた──というより私のお金を使わせなかった、と言う方が正しいかもしれない。
そんな父親の過剰とも言える愛を受けて育った蒼井若葉は、食事にどの程度のお金が必要なのかあまり知らない。
それゆえにこれくらいならば満足してくれるかな……と思った額を佐藤くんに提示したのだけれど、どうやら過剰だったのかもしれない。
さすがに福沢諭吉を50人連れて行くのはやりすぎだったと自分でも思う。
……どうやら怪しいお金だと勘違いされちゃったし。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「それはその、あんまり相場がわからなくて、とりあえずこれくらいなら満足してもらえるかなって……あっ別に借金とか、怪しいお金じゃないからね!?」
「いろいろとツッコみたいところはあるけど安心できる情報をありがとう」
いろいろある。ツッコみたいところはいろいろとあるけれど、ひとまず怪しいお金ではないらしい。いままでアルバイトをやっていて、さらに親からの仕送りもたくさんもらっている──ということだけど、そんなお金を僕に使ってしまってもいいのだろうか……。
そう思ったが蒼井さん曰く、
「佐藤くんの料理がないと私は生きていけないから!」
ということだった。
「いや、さすがに言いすぎじゃ……?」
「そんなことないよ! きっと自分で料理しようとしてたらキッチンが爆発してキミに迷惑かけちゃうし」
「普通にやってたら爆発なんて起こらなくない……?」
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