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シュトゥルム・ウント・ドラング

◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



 そして、あの合格発表の場でクロワッサン系女子、加藤陽菜さんの姿を見つけてしまったというわけだった。————なんて、不運なのかしら!あの場にいたということは、つまり同じ高校だということだ。私の心が嵐のように荒れる。


 何より、私自身すごく疑問なのが、


「俺、川崎龍也っていいます!サッカーめっちゃ得意っす!良かったら、俺と付き合ってくださいっ!!」


 そう言って、いきなり人通りの多い放課後の廊下で告白してきてくれた、川崎くん。その勇気たるや、である。けれど無邪気とは恐ろしいもので、あの加藤陽菜さんの想い人だというのが問題なのだ。


 こればかりは困る。告白を受け入れたとしても、断ったとしても、タダで済むはずもない。まず、断ったとする。そうなると、「何、あの生意気な女」となる。これはいけない。では、受け入れたとする。するとどうだろう。やっぱり、「誰、あの女。生意気な子!」となる、それもいけない。


 あれ以降、加藤さんはやたら私を睨みつけてくる。ただ見ているだけなのかは分からない。けれど、眉間のシワだけは見間違えじゃない。いずれにせよ私が今いるのはどん詰まりの袋小路だ。手足はぶるぶると震え始め、目の端には一滴の雫がこぼれ落ちんばかりに満ちていた。


 そんな心配を他所に、パーマのかかったロン毛をジェルで後ろにまとめた彼は、どこ吹く風という様子で屈託のない笑顔を浮かべていた。「ん?」じゃないよ。嬉し涙じゃなくて私はこわいんだから!彼は爽やかで、見た感じだと万人受けするタイプだ。だけど、必死に記憶のなかを探してみるも、おそらく同じ学年らしい彼に見覚えすらなく、また告白されるような心あたりも全くなかった。無数のクエスチョンマークがぎゅうぎゅうに詰まった私は、さながらオーバーヒート。大混乱のゆえにド垂直の壁ですら駆け抜けてしまう猫のごとく、であった。


 まさか、教室と図書室を往復するだけの、安全なはずの毎日がこんな形で裏目に出ることになるなんてこの時まで予想すらしていなかった。ともあれ、私は人見知りの激しい性格だったから——、


「お気持ちは嬉しいです、でも、ごめんなさい!!」


 反射的にそうピシャリと言い放つと、とっさに尻尾を巻いて脱兎の如く逃げ帰ってしまっていた。私ながら、随分と取りつく島もない冷淡な態度だったんじゃないかと今更ながら反省だ。


「……私、これからどうして生きていけば良いの?」


 ただでさえ学校に居場所なんてないようなものなのに、さらに悪目立ちなんてしてしまったら。彼女がいれば私はきっと無視されたり馬鹿にされたりして、新しい高校でもいじめられちゃうわ!そんなの針の(むしろ)


「制服だって。すごく楽しみにしてたのに……!」


 これじゃあ、恥ずかしくてとても2人に顔向けなんてできない!さっきまでは必死で顔を繕っていただけだ。中学校だってまだ2ヶ月ほど残っている。学校、何かの間違いでなくなっちゃったりしないかな。


 頭は、もう真っ白だった。こんがらがって、ぐちゃぐちゃで、どうにかなってしまいそうだった。頬がひんやりとして、唇がほんのりと塩の味がするまでは、自分が涙を溢していることを失念していたくらいだった。河川敷の美しい景色も涙にゆがんで見えなくなって、川の音も誰かの啜り声に掻き消されてしまっていた。


———–ぺろり。


 ベンチで物思いに耽っていた私の白い首筋を、突如、ざらざらとして生暖かい何かが伝う。


「ひゃあっっ!」


 何!?いいえ、これはお化けだわ!きっと、そうよ!どうりで、さっきから草の軋む音がしていたもの!


 あまりにも唐突な衝撃に袖で頬を拭うと、


「ごろごろごろごろ……」


 どこからともなく心地の良い音が耳に入ってくる。


「は、はやく逃げな……、きゃ?……、——へ?」


「ごろごろごろごろ、ごろごろ……」


「ね……、こ?」


「……んにゃ?」


それはまめ大福、もとい黒ぶち模様のあしらわれたずんぐりむっくりの白猫、後に彼の名前を知ることになるのだけれど、にゃん吉に他ならなかったのである。


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