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月夜に踊りしは、傷心の迷い猫なり

◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


 あれは3年前、まだ私が中学3年生だった頃。私はママと妹の彩葉(いろは)といっしょに、高校受験のお祝いをしていた。パパはお仕事で疲れて、2階で眠りこけていたけれど。


 その日も今日と同じくらいには相当冷え込んでいた。それなのにもかかわらず、将来への憂慮と恐怖とに耐えかねた私は気がつけばひとりで町へと繰り出していた。とにかく、あの生温かく穏やかすぎる喧騒から抜け出してひとりになりたかった。別にママが悪いわけでも、ましてや妹の彩葉を恨んでいるわけでもなかった。でも、そうしないと後ろめたさのあまり私の心がもたない気がした。


 あの楽しげな空間でただひとり、紛れもなく私だけが孤独な異物だった。元々、賑やかな場所は私の孤独が深く独立して感じられて好きではなかったけれど今回ばかりは私自身も「あの瞬間」までは浮かれた気持ちでいた。ママも妹も、とっても優しくて温かかった。でも、だからこそ私は、彼女たちになにひとつ打ち明けられなかった。こんな時に、折り悪しくどうしてあんな!でも、こうしてひとりになると、ああ!なんて気が晴れて自由になれるんだろう!


 ——ふと、後ろ髪を引かれたような気がして来た道を振り返ると、遠くで明々と光るわが家からは朗らかに談笑する声が聞こえてくるのだった。私は、その明るい光から遠ざかるように「いつもの場所」へ向けて歩き始めた。


 通りは、雪の混じった乾燥した風がびゅうびゅうと吹きつけていた。それは、興奮して何も考えられない私のあたまを、冬にほおばるアツアツのねこ鍋よろしく、かえって冷静にさせてくれるような気がした。私は、首に巻いていた朱色のマフラーをぎゅっと両手で抱きしめる。この瞬間だけは、冬は、紛れもなく私のかけがえのない友だちに他ならなかった。


 辺りを見渡すと、まだ雪が降り初めて間もないのか、道路には中途半端に溶けた雪がアスファルトのうえにその身を横たえている。音の失われた静寂にはただ私の吐息と雪を踏み締める音だけが鳴り響いていた。この深い夜の町だけは、まるで母猫のような慈愛と優しさでもって私の傷ついた心を愛情深く穏やかに包み込んでくれる。


 私はと言えば、ポケットのなかで混線してしまったイヤホンのように、将来への不安と恐怖とではちきれそうなくらい追い詰められていた。それは何も、将来きちんと働けているか分からないことだとか自分の外見にコンプレックスがあるだとか、そういう子どもらしくて可愛げのある悩みではなくて、もう少し複雑でどうしようもなく、避けることのできないものだった。


 第一志望の高校に受かった瞬間、私の世界は輝いて見えたし、これまでの努力が報われてとっても嬉しかった。あそこの高校を選んだのは、制服が県内でも3本の指に入るくらい可愛いからなんて理由だったけれど、そうじゃなくても自由な校風とボランティアに力を入れているのは魅力的だった。私の受験期間中、ママはよく夜食を作って応援してくれたし、彩葉のくれたメッセージつきのチョコレート菓子だって涙がこぼれちゃうくらい嬉しかった。何より、私はひとりじゃないんだって思えたんだ。


 だからこそ、いっしょになって喜んでくれている2人には今更こんなことを打ち明けるわけにはいかない。どんなに不安でならなくても、私がめいっぱい笑顔をつくってさえいれば、とても2人にとってはお礼にもならないかもしれないけれど、それでも悲しい顔を見せるよりかはきっと良いことなんだ。ああ、もし無責任にもあのことを2人に打ち明けることができたなら、どんなにこの気持ちが晴れることだろうか。


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