桜吹雪と、僕らの青写真
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辺りを見渡すとそこでは、咲き乱れる桜が花びらの絨毯を織りなしていた。人の心地よい波が「この子らの将来に幸あれ」と祝いの声をあげながらめいっぱいに揺れている。今日は、人生にたった一度きりしか訪れない特別なお祝いの日なのだ。
悲喜交々あれど、誰しもが入学式というこの日のために着々と準備をする。勉強の予習や、場所の確認、それに心の準備をする。まれに、体ひとつで臨む強者もいるけれど。
(友だちはできるだろうか?)
(うまくやれるだろうか?)
(勉強でつまづかないだろうか?)
(夢に向けて全力を尽くそう!)
など、めいめいが期待と希望と、ほんの少しの野心とで胸をいっぱいにふくらませる。それは、ここにいる僕と理玖にだっておなじことが言える。
冬が去り、花吹雪を散らせる春の穏やかな風が、特別な日だからと、はりきって厚着させられた僕らの大きな制服を汗でしっとりとしめらせる。その胸に飾られたリボンの徽章が、誇らしげに桜色の笑顔を咲かせていた。
「「————高校入学、おめでとう!!」」
理玖と僕の母親がそう黄色い合図を送るのに合わせて、僕たちは花束を抱えてポーズを取る。両手を高く掲げてピースする理玖と、理玖に寄ってピースする僕。
その瞬間、カシャリ!と音を立てて、立派なカメラが閃光を放った。ポーズを変えて、2回、3回、……5回、そろそろ体が疲れてくる、…………8回、9回、ってアホか。親バカか。そんなに撮ってどうするつもりだよ。その時、
「もう、2人とも充分撮れたから良いでしょ!」
そう言って理玖が手をバタつかせて、僕たちの母親に抗議する。ちなみに、幼稚園の頃から家族ぐるみの仲だ。
理玖の母親は年の流れを感じさせない美しさを備えた女性で、女手ひとつで彼を育てている立派な人だった。花街のお茶屋さんで芸妓さんをしている。オフホワイトのワンピースに、グレージュのカーディガン、真珠を身につけて、年相応の色気をまとっている。心なしか、渡辺さんに似ている気がした。こう言ってはなんだが、擦れたような所がなく、京の美人といった趣のある人だ。
「まだよ、ママと理玖の写真が撮れていないわ」
そう可愛らしく言う理玖ママに無慈悲にもその訴えを跳ね除けられ、ガクリとうなだれる理玖がこちらに助けを求めるような眼差しを向けている。
——だが、すまない。いくら写真にトラウマのある元・人気子役のリクくんのお願いとはいえ、熱意に溢れたこの2人を止めることは僕にもできないんだ……!
ぷいと顔を背けると、理玖の目からわずかに残っていた虹彩が失われ、河原に転がる石ころのような目に変わるのが視界の端に見えた。すまない、許せ……、リク!!と、その目の先、道路脇に植えられた珍しい色の桜が目に映った。
京の桜はおもしろい、と思った。その桜は、赤・桃・薄桃・白と4色の花びらを1つの木に咲かせていた。源平しだれ桜という種類の桜だ。いつ見ても綺麗だ。
また多いものでは5色の花びらをもつ桜もある。それは、まるで僕ら5人の運命のようでもあると、そう感じさせられる。見た所、彼女の姿はないのが心残りだった。
——それにしても、この年でママは聞いてるこっちまで恥ずかしくなってくる。僕も「俺」に変えようか。…くく、
「……、ぷ」
おっと、笑いが漏れてしまった。少しだけためらったが、やはり言わずにはおけない。理玖の背中に向けて、
「おい、理玖ママはもう良いのかよ」
そう声をかける。
「ああ、ママはもう満足して帰っ————」
その瞬間、何かに気づいたように顔を赤面させ、「ぎぎぎ…………」と人形の首がそうするように水平にこちらを向いた。
「『母さん』、だよ」
不気味な、能面のような笑顔を浮かべる理玖。その額には心なしか青筋がマンガのような怒りのマークの形をとって浮かび上がっている、ように見えた。おっと、怒らせちまったみたいだ。俺は、申し訳なさそうに理玖の目を見つめる。と、
「マ・マ・ー・ン・ッ・ヌ・ッ・!・!」
「ははぁぁぁああああああああんん!!!!」
ぽかぽかと殴られるが全然痛くも痒くもない。はは、いくらでも殴りたまへ。ははははは。
————と、
——バチコン、と軽快な音を立てて、軽くて重い衝撃が頭上から降りかかる。危ねえ……、辺りどころが悪ければ、首がぽっきり逝っているところだぜ……。
位置的に背後になる。と、振り返るとそこには、




