ウェルカム、サニーデイ!
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週が明け、気がつけばすでに金曜日になっていた。子どもの頃に比べると、瞬く間に1日が過ぎていく。空には、沈みかけのサッカーボールのような夕陽がその日最後の輝きを放っていた。
オレンジ色に染まる屋敷の庭を「綺麗だね」と眺めながら、理玖と2人、コタツに足を突っ込んで雑談に花を咲かせていた。
にゃん吉は庭の向こうに見える漆喰の壁を登って、そこの瓦のうえで気持ち良さそうに居眠りしている。後ろ脚を折りたたみ前脚を伸ばして腰を下ろすその姿はさながらエジプトの守り神・スフィンクスのようですらある。日本なので、狛犬ならぬ狛猫と言った方がしっくりくるような気もするが。
そうしたことを考えていると、
「おーい、晴翔いるかーー?」
「晴翔、遊びに来たわよーー!」
おそらく龍也と陽菜らしい声が聞こえてきた。彼らは、こうして時々遊びに来ることがあるのだ。俺と理玖は冬の初め頃にサッカーチームを卒業したので、学校の違う2人と会うのは週に数えるほどだった。とは言っても、高校にあがればそうした機会もさらに減るかもしれないが、その時は俺たちが大阪まで遊びにいけばいいのだ。
「よ、久しぶりだな龍也。あれからどうなったんだよ?」
見るからに、先週までのことは水に流してきたかのようにやけに晴れ晴れとした顔をしている。そうして龍也は「おう」と肯定すると、畳に降ろしたカバンを柱に立てかけながら「元気だぞ〜!」と応えた。
「龍也、先週末に試合があってね。そこで色々と発散してきたのよ」
コタツで足を伸ばす陽菜がのんびりとそう返事すると、龍也がその隣に潜り込む。陽菜が身じろぎする。聞きたいことはそこじゃないのだが。でも、龍也が機嫌を直したのは良いことだ。彼は、もうすでに高校生向けのサッカークラブで活躍しているのだった。また、休みの日にでも観に行ってやろう。聞くと、今回の試合でも彼が活躍を見せたそうだ。
「ところで、あれからあの子はどうなんだ?」
と僕が訊ねると、「あの子?」と短く陽菜。龍也が「あ、」と短く漏らしたかと思うと
「そう言えば、あの後全然見てないな」
そう言った。陽菜が「渡辺さんのことね」とピンときた様子で口にすると、龍也を向いてやや遠慮がちに
「彼女、最近保健室に登校しているらしいわよ」
「具合でも悪いのかしらね」と、あくまでも伝聞であるという風に付け加えた。それを見ていた理玖が口を開いて、
「そっか、2人とも接触禁止令中だもんね。そりゃ知らないか。一応、学校には来ているみたいでそこは良かった……、のかな?」
というと、「僕らとは学校が違うから詳しくは分からないどね」と申し訳なさそうに呟いた。
「ほんとはひと言くらい謝りたかったんだけどな」
と龍也が漏らすと、隣の陽菜もうなずいた。ところで、
「さっきから気になっていたんだけど、」
「ん?」
「どうしたのよ?」
少し間をおいて、
「2人とも、なんかいつもより距離が近くないか?」
陽菜がハッとした顔をしたかと思うと、
「ああ、俺たち、付き合うことになったからな」
あっけらかんと、そう言って龍也が笑う。ガラにもなく陽菜はしおらしく見える。いつもの調子がどこへやらだ。理玖が「ふふ」と笑うと、
「ふたりともご成婚おめでとう!」
と茶化す。
「まだしてねえよ!」
とツッコむ龍也に、何やら顔を隠してぷるぷると震える陽菜のコントラストが面白かった。僕が、
「じゃあ、今夜はお祝いしないといけないな」
と言うと、
「マジか!ありがてえ」
「そんなつもりじゃなかったんだけど……、ありがとね、みんな」
と照れ臭そうに髪を触りながら陽菜がお礼を言う。禍福はあざなえる縄の如く、僕たちの所に訪れるものなのだ。




