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僕たちの将来に何が待ち受けていようとも



 陽菜が地団駄を踏む姿を見て、僕は思わず吹き出しそうになるのを堪えた。いや、堪えきれなかった。口元がプルプル震えて、結局「プッ」と小さく笑いが漏れてしまう。すると、陽菜が「何よ」とますますムキになる。


「いや、なんでもないよ。陽菜を見ていると、こっちまで楽しくなってくるなって」


「晴翔、ほんとに良い性格してるよね」


「でしょ、よく言われる」


「ふてぶてしいやつー!べー、だ!」


 陽菜は「ふん」と鼻を鳴らして子どものようにそっぽを向く。それを見て、龍也と理玖がケラケラと笑っていた。


 よく見ると、陽菜の頬がちょっと赤い。名前をイジられて、ちょっとだけ照れてるのだろうか。意外と可愛いところあるじゃん、と思ったらその瞬間、


「何!? 今、『可愛い』とか思ったでしょ!」


 と、陽菜が急に振り向いてきて、指をビシッと僕に突きつける。


「えっ、メンタリスト(読心術師)!?」


「顔に書いてあるわよ、バーカ!」


 隣で理玖が「ふふっ」と笑いをこらえてるし、龍也に至っては「晴翔、お前顔に出すぎ」とか言いながら肩を震わせている。もう、完全に僕が標的だった。誰か助けてくれ。もう、この際猫の手でも借りたいくらいだ。


「まあまあ、陽菜も晴翔も落ち着いてさ」


 理玖が仲裁に入るように手を振って、場の空気を和らげる。


「それよりさ、陽菜の引っ越しって話、どうなるの? 自炊って結構大変だよ?うちの姉ちゃんが一人暮らし始めた時、最初は毎日コンビニ弁当だったって言ってたし」


 陽菜は少し考え込むように顎に手を当てて、


「そうねえ……。最初はテキトーでいいかなって思ってるけど、お米炊くくらいはできるわ。実家でもたまにやってたし。あとは、カレーとか? 簡単そうだし」


 「カレーか。お前、辛いの得意だったっけ?」と龍也が興味津々で聞く。


「まあね。インドカレー屋でバイトしてた知り合いにレシピ教わったから、そこそこ本格的なの作れるよ。試しに、作ってあげよっか?」


 ニヤリと、サディスティックな笑みを浮かべる小悪魔が、意味ありげに提案する。


「マジか!? 俺、辛いの大好きだから楽しみだわ!」


 龍也の目がキラキラしてる。……ほんとに大丈夫だろうか?それにしても単純すぎるだろ、コイツ。


「じゃあさ、引っ越しの時にみんなで陽菜の新居に集まって、カレーパーティでもやろうよ」


 と僕が提案すると、


「いいな、それ!」と理玖がすぐに乗っかる。続けて


「俺、お菓子持ってくよ。陽菜のつくる本格カレーは辛そうだから、甘いものでバランス取ろうかな」


「あなたたち、完全に私の家で騒ぐつもりでしょ……」


 と陽菜は呆れたように言うけれど、口元が緩んでるあたりどうやらまんざらでもないらしい。


 「じゃあ、俺は飲み物持ってくよ。炭酸系でいいか?」と龍也。


「僕はお米持ってくね。陽菜、一人暮らしだとお米を買う余裕がないかもしれないし」と理玖が補足する。


「ちょっと待って! 私、引っ越し先、まだ決まってないんだけど!?」


 陽菜が慌ててツッコむと、みんなで一斉に笑い出した。確かにその通りだ。陽菜によればまだ引っ越しの準備すらできてないというのに、気が早すぎる。


 笑い声が収まったところで、龍也がいきなり真面目な顔になって口を開く。


「でもさ、陽菜が府南高校行くなら、俺と同じ寮か引っ越し先近い方がいいよな。サッカー部とバスケ部で練習時間被るだろうし、帰りとか、ほら、……一緒に帰れるだろ」


 「へえ、龍也にしては気が利くじゃん」と僕がからかうと、「うるせえ! 俺だって友だち思いだよ!」とムキになって反論してくる。


 陽菜は少し考えてから、


「たしかに悪くないかもね。私、夜道をひとりで歩くのはあんまり好きじゃないし。龍也となら、まあ、心強いっちゃ心強いか」


「おお! 陽菜から珍しく褒められた!」


 と龍也が大げさに喜ぶ。


「いや、『まあ』ってついてたから半分じゃない?」


 と理玖が冷静に指摘して、また笑いが起きる。


 そこから話は、自然と将来のことに移っていった。陽菜が府南高校でバスケを続けるなら、龍也と一緒に部活帰りに寄り道する機会も増える。僕と理玖は京商大附属に行くからちょっと離れるけど、週末に電車で会いに行ける距離だ。渡辺凛花さんと龍也のたちとのわだかまりも、時間が解決してくれるかもしれない。


「成人式で会ったらさ、陽菜がカレー作って持っていって、渡辺さんに『これ食べて仲直りしよう』って渡すのはどう?」


 と理玖が冗談っぽく言うと、


「それ、意外といいアイデアかもね」


 と陽菜が拳の人差し指を立てて肯定する。


「でも、その前に僕が渡辺さんと話してみようかな。陽菜がそんなに気になるなら、誤解解けるようにちょっと探り入れてみるよ」と理玖が提案してくれた。

「マジで!? 理玖、頼りにしてるわ!」と陽菜が目を輝かせる。


そんな感じで、夜がずっと深くなるまで僕らは月を見ながら話を続けた。僕らの将来に何が待っているかはまだ何もわからないけれど、こうやって仲間と笑い合える時間があれば、きっと何とかなるはずだ。


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