度しがたメな女夫コンビ
……って、まさかのお馬鹿路線ですか、そうですか。お兄さんは、とても良いと思います。何が良いのか、まったく分かりませんが。そう言えば、陽菜はいったいどの高校を受けたんだろうか。
「ちなみに、どの?」
「え、京都商業大の附属高だけど」
「……ちょっと、偏差値高くないか?それに、私立だ」
僕も、本命でそこは受けている。けれど、僕と違って彼女は中学ではバスケ生活に全フリしていたのだ、偏差値自体は真ん中よりやや高いくらいでも、秋冬に詰め込んだくらいだと受かる見込みはあまりない。
「私の姉が京商大附属に通っていたの。それで、併願したってわけ。結構頑張った方なんだけどね」
部活に打ち込んできた生徒が冬に勉学に打ち込んで偏差値を一気に上げるケースはたまにある。そういう生徒は要領が良いのだ。周りに頼るのも得意で、可愛がってもらえるから何事も伸びるのが早いことがある。
「結局、もうひとつはどこ受けたんだ?」
すると、龍也が口を開いて
「俺と同じ所だよ、大阪の府立南高校だ。サッカーの強豪校だから受けたんだけど、たまたま女バスの強豪でもあったからな、2人で話して決めたんだ」
そうだったのか、でも
「府南高校っていうとかなり遠くない?」
「ああ、だから俺は寮に入ろうと思ってる」
「私は引っ越すつもりよ、たぶん高校の間だけだろうけどね」
続けて陽菜が、
「自炊の練習にもなるし、プライベートな時間だって欲しいからね」
女王然とした、どこか尊大さを拭いきれない様子でそう吐き出した。想像にはなるが、きっと家はあまり居心地が良くないのだろう。昔から陽菜は一匹狼タイプだった。
彼女は少し間を空けて、「って、そんなこともよりも!」と言うと、
「京商大附属の合格発表の会場で、渡辺凛花さんに会ったのよ。彼女、私を見るなり逃げ帰っちゃって」
「虎か何かと見間違えたんだろ」
吐き捨てるような口ぶりで龍也が軽口を叩く。意地になったのか、「違、うわよ!」と両の拳をハの字に握り締めた陽菜がガンを飛ばす。おいおい、そういうとこだぞ。
「ッ……!そ、れ、で!」
こらえた、もちなおしたぞ!凄いぞ!……って、お前はアフリカの猛獣か何かかよ。やけに黄色がサマになっている、とは前から思っていたが。
「彼女、妙に勘違いしているんじゃないかしら、って思うの。龍也、あなたもそうだからね」
「俺、も……、なのか?」
両手で顔を押さえて、目を大きく開いている龍也は、とても衝撃を受けているご様子だ。おいおい、そういうとこだぞ。——もしかしてコイツ、馬鹿じゃないだろうか、猪突猛進だけにな、はは、全然笑えない展開なんだけど。何、この夫婦コンビ、もう嫌なんだけど!!?
「もし2人が嫌じゃなければ、だけどさ」
そう言って、理玖が割り入ってくると
「『龍也と陽菜、渡辺さん接触禁止令!!』ってのはどうかな?」
「————ち、ちなみに?」
下から様子を窺うように、理玖を見つめる陽菜。
「ちなみません!見つめるのも禁止だからね!」
「「えぇぇぇぇぇ…、、」」
なんで、そこで2人とも落ち込むんだよ……。龍也と陽菜はぐったりと地面に首を垂れて膝を折った姿勢で、なにやらぶつぶつ恨み節を述べていた。このままだと話が進まなさそうだったので、僕は水を向けることにした。
「あのさ、2人とも」
俺の声に反応した龍也と陽菜が、ゾンビのように力の抜けた頭をだらりとこちらに向けて下から睨め付けてくる。それほど、彼女と友だちになりたかったのだろうか。だとしたら陽菜が渡辺さんを見つめていたのは。そう思えば少しだけ申し訳なくはあるが、彼女のためだ。
「理玖は接触禁止令なんて言っているけど、実際あと1〜2ヶ月しかないんだし、それにまた、成人式や同窓会で会った時に話をすれば良いじゃない」
その時はそれとなく彼らの間を取り持つことにしよう。きっと、また彼女と会える。そんな気がしている。
しばしの、沈黙。龍也と陽菜は「ふっ」と笑い混じりにため息を漏らす。どうやら心が決まったらしい龍也が、それまで強張っていた体を弛緩させて静寂を破る。
「お前が言うなら、わかったよ、晴翔」
雲間に半分その姿を隠す月、それを見つめる龍也が
「どっちみち、あの様子じゃ話しかけても余計に嫌われるだけだからな」
「はぁ」と短いため息を陽菜が吐いた。あまり気乗りしない様子で、
「私が仲を取り持とうと思ってたけど、ガラじゃないのかしらねえ。髪、ためしに染めてみようかしら」
と呟いた。……ん?ためしに?その金髪は何なの?
「それ、もしかしてカラーリングじゃなくて……」
「地毛よ、言ってなかったっけ?私、ハーフなの」
……知らねえ、隣を見ると理玖はうんうんと頷いている。もしかして、俺だけか。ああ悲しい、なんで知らされてないんだよ……。涙目で龍也に視線を向けると、彼も同様に同様に頷いて……、はいなかった。目を見張って口元を手を当てる彼は、なんだかワナワナと震えていた。なんだ、外国産の猛獣と知って嬉しいのだろうか。
「それってつまり、」
「加藤・キャロライン・陽菜よ、面倒だから学校では使わないけどね」
「うちの学校の校則がユルいってことなんじゃないの!?」
「そんなわけないでしょ?」
なんだろう、この馬鹿を見るような目つきは。刺さる人には刺さらなくはない気がしないでもないぞ。
「って、なんでアンタが驚いてんのよ」
「てへへ」
アタマをかいて笑っている龍也の頭に、陽菜が「ぺし」と軽めのデコピンをお見舞いする。
は……、腹芸……、だ、と……?たしかに、さっきのはわざとらしくはあったが……。どうやら、知らなかったのは俺だけらしい。
「アンタも、知らないはずでしょ」
びしっ!と陽菜が理玖を指差す。理玖、お前もなのか!?おい、「ブルータス、お前もか」じゃないんだからよ。走れメロス!いや、走れ龍也!あの月に向かって!!
どうやら全員陽菜の名前イジりににノっただけだったらしい、イジり、とはかくあらねばならない。
「そっか。意外だったよ、地毛が金髪だなんて。僕はキャロラインが金髪ハーフでも気にしないよ」
「ありがとね、晴翔」
キャロラインが、満面の笑みでそう口にする。と、その笑顔が、気まぐれな季節雨をもたらす暗雲の如き早さでたちまち般若の顔に様変わりしていく。凄まじい迫力だ。飛竜の1匹くらいは倒せそうな強者感がある。
「——陽菜、よ、いい?陽菜。あなたのは、Caroline……」
「すまん、そうだな」
俺はいたって真面目な顔で、
「悪かった、Hina・Caroline・Kato」
キャロラインは目を鳥の足みたいにして、
「ん〜〜〜〜!!」
と漏らしながら地団駄を踏んでいた。どうやら、つい飛び跳ねてしまうほど嬉しかったらしい。照れるなあ。ともかく、どうやら陽菜にも素直な所はあるらしい。それだけでも収穫だった。




