痴話喧嘩
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「つまり……、」
理玖が説明している間も、やんややんやと龍也と陽菜が騒がしくも水を差してきたのでずいぶんと話が長くなってしまったのだが、2人の言い分を要約すれば、
「痴話喧嘩、だな」
ということになる。
「「ちがうわ!」」
と、2人の声が広い客間に綺麗にハモる。障子を閉めておいて正解だった。その姿に、「うんうん」と首を傾げながら感心していると、やや涙目になった陽菜が僕の服の襟を両手でつかんで、
「違、うからね!なんで、私がこんなのと!そもそもね、龍也があの子に突然告白なんてしなければこんなことにはならなかったのよ!」
こんなこと、とはどんなことだろうか。とても面白いことに違いない、それだけは分かる。龍也が反論する。
「こんなのって何だよ?それを言うなら加藤もだぞ」
「違ッ……、私はね、ただあの子のことが心配で……。そう見えたのは、元々の目つきが悪かったからよ」
思ったよりも可愛らしい事情だったようで、それを聞いてどこか安心した自分がいた。どんなことでもそうだけれど、自覚があるのとないのとでは大違いだ。別に、彼らに悪意があったわけではないのだ。とはいえ、
「まあ、2人とも誤解されやすい方だからな」
そう言うと、押し黙る龍也を一瞥した陽菜が
「……まあ、否定はしないわ」
自身の非を認める。なんて、プライドの高さだ。金髪を巻いているだけのことはある。髪に負けない強気な性格、初対面では臆してしまうのもうなずける。本人は気づいていないが、絶対に、悪いのはそういうところだ。
「まあまあ、2人ともいい加減に落ち着きなよ。相談したいことがあって、晴翔の家に来たんでしょ?」
それを見ていた理玖が、タイミングを見計らったように助け舟を出す。そう言って、たしなめられた龍也と陽菜。気まずいためなのか、少し離れた所で互いに背中を向け合って時々チラチラと相手を見ていた。龍也が話を切り出す。
「実はよ、晴翔。こうして3人で話しててもこんな調子なもんで、お前に聞いてもらおうと思ってよ。」
「大体、話はわかったよ」
あの少女と偶然顔見知りになったこと、さっきまで会っていたことは、話がややこしくなるのでこの場では伏せておくことにした。問題は、フラれた龍也の心境である。猪突猛進したワリには割と傷ついていそうにも見える。ちょっと、探りを入れてみよう。話は、それからだ。
「——龍也はさ、どうしていきなり告白なんかしたんだよ?その渡辺さんだって、怖がるんじゃないか?」
「いやー、ほんとにそうなんだよな。自分でもアタマでは分かってたんだけど、カラダが言うこと聞かなくてよ。自分でもなんでなのか分かんねえんだわ」
龍也らしいと言えば、らしい。龍也はフォワードを担当しているのだが、その無鉄砲な攻撃性はそこから来ているのだろうと感じる。陽菜は中学ではバスケ部に入っている。ちなみに、後輩女子のファンクラブまであるそうな。
「真っ直ぐなのは、龍也の良いところだよ」
そう言うと、彼は「あんがとよ」と小さく呟く。続けて、
「それで、龍也はこれからどうしたいんだよ。えと、まだ彼女に未練、……とかあったりするのか?」
「未練か」と、龍也は吐き捨てるようにこぼすと
「未練って言うほどのモンじゃねえよ。だって、言うほど長く付き合ってきた訳じゃねえし、少なくとも向こうからすれば初対面みたいなモンだからな」
「俺からすれば、そうじゃねえけどよ」と口ごもる彼のその声は、彼らしくもなく、聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで不思議と照れているようにも見えた。
「そっか、でも断られたんだもんな」
「そうなんだよなー!しょうがないけどな!」
無理くり笑顔を繕って、龍也がおどけてみせる。
「ちょっと、私からも良いかしら?」
それまで、僕たちのやり取りを見守っていた陽菜が、利き手を挙げてようやく口を挟む。彼女も渦中のひとりなのである。黙っている方が不自然な感じがする。
「直接、渡辺さんに聞きたかったんだけど。彼女、あれから龍也と私のことを避けているみたいよ」
3人で「う〜ん」と難しい顔をしていると、彼女が「話しかけようとしても逃げられちゃうのよね」と付け加えた。「それに、」と言って、神妙な面持ちをしたかと思うと、彼女は「衝撃の」事実を告げる。
「実は、渡辺さんと同じ高校を受験していたのよね」
その事実に驚いた理玖が視線を送ってくる。とは言っても、僕はそこまでは知っていた。けれど、続く言葉には僕自身も、あたりまえといえばそうだが、その事実を見逃していた自分に対して驚きを禁じ得なかった。
「まあ、」
間髪入れずそう続けた龍也が、
「落ちちゃったんだけどな」
二の句を告げないでいる彼女に代わって暴露した。陽菜は話を濁しておきたかったらしく、
「ちょっとぉぉぉぉぉお!!」
と、涙目になって龍也の胸ぐらを掴んでなにやら抗議していた。白目を剥いた龍也が、全身を脱力させながら、前へ後ろへとぐらんぐらん揺らされている。いや、そこは別に隠さなくても良いだろ。




