吹かれゆく雲がそうであるように
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可愛らしい男の子に、とっても人懐っこい猫ちゃんだったな。家への帰り道、そんなことを考えながら私は河川敷の一本道を歩いていた。道の脇には、まだ真っ白な雪が残っていて、純白のカーペットが私の行く末を祝福するように賀茂川一帯をきらきらと幻想的に染めあげていた。
あの子は、にゃん吉くんというらしい。少しだけ単純なネーミングだと思ったけれど、わかりやすいくらいがちょうど良いのかもしれない。ネコはタマで、イヌはポチと相場が決まっている。にゃん吉、私の太陽。また、会えるかな。お日様の良い匂いがして、温かい毛布みたいにふわふわだった。おじいちゃんが昔飼っていたミケを思い出す。ミケは私が小学校の高学年の頃に天国に旅立ったので、とても懐かしく感じた。私が落ち込んでいる時はいつも「にゃ〜ん」と体をすり寄せて慰めてくれた。なんと、猫は人の気持ちが読み取れるのだ。
それに、あの男の子。同じ中学3年だけれど、私は1年の頃にちょっとした訳があって1年間入院していたから1つだけ歳が違うのだ。男の子は歳下の子の方が弟みたいで可愛いから、彼みたいな男の子のことはなんだか好きだ。歳上だと熱量が凄くて苦手なのだ。私には妹しかいないから、小さい頃は男兄弟が欲しくて母に懇願したのを覚えている。結局、弟はできなかったけれど。彼は中島晴翔くん、と言うらしい。あの猫ちゃんとそっくりな男の子だった。良い飼い主に恵まれたあの子はきっと幸せだ。
「ふふ、私も猫、飼ってみようかしら」
手からはにゃん吉の香りがうっすらと漂って来る。服には、換毛期だからだろう、彼のやや長い体毛が少しだけくっついていた。悩みも無事に晴れてくれ、すっかり私は上機嫌になっていた。それでも、今だに学校が怖いという気持ちはあまり変わらない。
けれど、にゃん吉の毛を撫でているうちにトキソプラズマにでもあてられたのだろうか、私のうちには不思議と自信と安心感がみなぎっていて、ひたひたの浴槽を思わせる漠然とした万能感に満たされていた。
そうして歩くうちに、気づけば自宅の玄関の扉の前に差し掛かっていた。私は、すでに心を決めていた。この扉を開けて、あの話をママにきちんと打ち明けよう。もちろん、全て話すわけにはいかないけれど。そう決心した私は、体に力を溜めて、しっかりとドアノブを握って扉を開いた。すると、そこには仁王立ちをするママと、その後ろでちょこんと心配そうに顔を覗かせる妹の彩葉が立っているのだった。




