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第七話 ホストクラブでのあなた

 このままでは駄目だと感じた僕は、兄の所属するホストクラブを検索して、会いに行くことにした。

 客として会いに行けばさすがに避けられてるといっても、会ってくれるだろう。


 兄の才能を捨てさせてまで大学を選びたいわけじゃない。

 兄さんにはきちんと美大で学んで欲しい気持ちもある。

 そこの話もしたいのに、兄さんは今も避けたままだ。


 店を調べて、ネオン街の中、深夜に訪れればムードある音楽に包まれた暖色系の照明で照らされる店内。

 店内は高級感あって、皮のソファーが惜しげもなくそこら中においてある。

 客を大事にしてちゃんと話を聞いてあげてる雰囲気だった。


「あれ!? アデルどうした!?」

「あ、僕は狩屋アデルの弟で……」

「ああ、お兄ちゃんに会いに来たのか」

「お客でも良いです、時間作れませんかアデルの」

「分かりました、お客様ということならこちらでお待ちください。お飲み物はこちらからお選びくださいね。お兄さんがくるまで、誰かつけておきますね」

「はい、お願いします!」


 ボーイのお兄さんは愛想良くにこっとわらってくれて、席に案内してくれた。

 席に着くとアデル――兄さんと仲いいというホストがついてきてくれて、店内での人間関係を少しだけ話してくれた。


「これから阿佐ヶ谷さんくるから、時間とれるのかなあ」

「阿佐ヶ谷さん?」

「うちの店で三番目くらいに一番金使ってくれる人で、アデルが本指名なんだ」

「そう、なんですか」


 こういうところだって分かっていたけれど、兄さんはやっぱり色恋営業してるんだろうかと不安になる。

 戸惑っている間に、店内が少しだけ照明を落とされ、音楽の雰囲気が静かめに変わる。


「どうしたんですか」

「ああ、コマンドタイムだ。うちの店、コマンド使って発散するのも売りだからさあ」

「兄さんもコマンド使われるんですか!?」

「そうだよ、あれ、お前の兄さんSubだって知らない?」


 まずったかもしれない。

 店内で他の人に命令される兄さんを見たくない。

 検索してきたけれど、コマンドの説明をしっかりみていなかった僕のミスだ。


「お客さんも使ってみる? お客さんDomでしょ、俺Subだから使って良いよ」

「あ、いや、結構です僕は」

「遠慮しないでほら、いいこだよ、俺結構」


 とろんとした眼差しで見られるとどうしていいか戸惑う。

 どうしようか悩んでいるうちに、ホストは僕の太ももを摩ってきて、体を寄せてくる。

 コマンド一つしないと落ち着かないのかな。

 この店のやり方ならしかたないかと、意を決めた瞬間。


「……章吾? 何をやってる」


 兄さんが真っ赤な髪の毛のお客さんと同伴で店内に入ってきて、僕と目が合うなりにらみつけてきた。

 グレア一歩手前で、皆が驚いてる。皆にはSubだってみせてきたんだろうね。

 隣のお客さんまで驚いていて、真っ赤な髪のお客さんは僕を興味深そうに見つめた。


「兄さんに話が合って」

「仕事中だぞ、何考えてるんだ」

「だから! お客としてきたよ!」

「……そういう問題じゃないだろ。阿佐ヶ谷さん、その、少し……」

「コマンドタイムを逃すのは残念だけれど、いいよ。話しておいで」

「すみません、五分で戻ります」


 兄さんはきっちり頭を下げて、真っ赤な髪のお客さんはささっと席に案内されていった。

 さっきまで僕についていたホストは兄さんがくるまでの間、そちらのお客さんの相手をするようでばいばい、と最後に頬へキスして去って行った。

 さあて、兄さんの方を見るのが怖いぞ。異様なオーラを出しているから。


「話ってなんだ」

「今まで僕の生活費やらなにやら、全部兄さんが出してたんだって?」

「……しゃべったか、母さんめ」

「なんで! そこまでのことをするんだよ、兄さんは美大だって行けただろう!?」

「……いいんだよ、俺は」

「駄目だよ、兄さんの美しい世界を壊してまで、僕は大学目指したくない!」

「……その、美しいものが、分からなくなったんだ」

「え……何かあったのか兄さん」

「とにかくお前は気にしなくていいから。おうちに帰りなさい。ここを支払うために働いてるんじゃないぞ俺は」

「……同い年なのに子供扱いする!」

「子供だ、ここが何をする場所かわかってんのか」


 兄さんは僕の顎を捉え、じっと間近に見つめ、小さくつぶやく。


「Lock」

「あ……」

「Strip……」


 兄さんのコマンドだ、頭がくらくらする。

 いつもと違ってぶわりと膨らんだ色気に、下腹部が熱くなっていく。

 顔中が真っ赤になりながら、兄さんのコマンドにこんなときでも従いたくなる。

 頭がぽーっとしながら、ゆっくりシャツのボタンを外して、胸元をはだけると兄さんはそこに吸い付いた。

 きつく、痕を。噛み痕と一緒に残して、兄さんが間近で瞳を見つめる。

 ああ、怒っている。

 怒っているのにどきどきする。たまらなく、体が全身粟立つ。

 ぞくぞくとした怒気を兄さんは放ちながら、僕の頭を撫でていいこいいことする。

 兄さんにすりすりと甘えれば、兄さんは時間だ、と告げた。


「帰れ」

「でも……」

「お前に、見られたくない」

「……兄さんッ。じゃあ、あとでうちきてくれる?」

「章吾、やっぱり子供だな。このあとは、アフターがあるんだよ」


 兄さんはそっと耳元で「体込みの」と告げてくる。

 ああ、さっきのひととえっちなことするんだ。

 兄さんのことで頭がいっぱいになって泣きそうになる。

 どうしよう、どうしよう、と悔しさでいっぱいになってしまう。


「章吾」

「兄さんは、僕のことが好きだと思ったんだ。でも、勘違いだったかな」

「……帰りな。すみません、お会計を」


 兄さんは勝手にお会計の段取りをしていく。

 僕はボーイさんに連れて行かれて、そのまま外へ。兄さんはさっきの真っ赤な髪の人と話し込んでいて……ああ、僕と目つきが違う。


 なんだ、そうか。


 そうだったのか。


 兄さん確かに僕は子供だったのかもしれない。

 僕は、ずっと初恋(あなた)を追いかけていたから。



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