第五話 サブスペース
そのまま兄さんは席に僕の酒代と飲食代を多く支払うように須崎の机に押しつけると、僕を俵抱きで抱えてレジでお会計。器用だ。
離して欲しいのに、僕にしかきかないグレアが僕の身動きを封じる。
兄さんの名を呼ぼうとしても、兄さんはのらりくらり。
タクシーに僕を押し込み、一緒に乗り込んで、車を走らせるなり僕の両頬を挟んで。キスしそうなくらい顔を近づける。
やめてほしい、心臓に悪い!
「このビッチが」
「な!? ち、違うよ」
「カラーをつけながら、他のやつにコマンドを出そうとするとはどういうことだ」
「あれは、須崎がさあ」
「Shush」
兄さんからのコマンドに僕はびくっと身を震わせる。
暗闇で光る青の瞳はぎらぎらとしていて、今にもかみついてきそうだ。
こんな兄さん知らなくて、一気に怖くなる。
黙り込むと、兄さんはまぶたにキスをしながら、グッボーイとケアをした。
「章吾がそんなにコマンドしたい欲がたまっているなんて知らなかったなあ。
そんな欲もなくなるくらい、おうちで仲良くしような?」
兄さんは指定場所に着くと、高そうなマンションの一室に僕を押し込んで、寝室へ寝転がした。兄さんはウイッグをとって、上着を脱いでいく。
そんな仕草だけでもセクシーでたまらない。
ホストになってからの兄さんは色気がまずくて、これでほんとにナンバー7なの? とも思う。
「Crawl、だ。章吾」
ベッドの上で四つん這いになれと言われ、僕は酒のこともあり頭があまり働かず、素直に言うことを聞く。
今の兄さんの威圧感に逆らえるやつがいたら教えて欲しい。
兄さんのびりびりとした空気は消えず、目はぎらついたまま腕を組んでいる。
「Down」
「え……」
「Down」
四つん這いから伏せる、ってまるで狗みたいだ。
飼われてるみたいで恥ずかしいけれど、従わなきゃという欲も疼く。
兄さんを満足させなければいけないと、一生懸命僕は体を伏せて、腰だけ四つん這いの状態で突き上げておく。
恥ずかしい、こんな格好!
僕の格好にやっとびりびりした空気が少し和らいだ。
兄さんは僕の頭を撫でながら、指先をそっと僕の頬に這わせて撫でてから、口元にもっていく。
「Lick」
兄さんが許すまで一生懸命指先を、舐めあげる。
下から上へ伝うように舐めていき、よだれでべとべとになっても、兄さんはコマンドを解かなかった。
僕がちゅうちゅう吸って、舌が疲れてくる頃に、どこか変な気分になっていく。
あれ、なんだか。
下腹部が熱い。
こんな、奉仕だけでなんで。
性的なことをしているわけじゃないのに、下腹部がじんじんしていく。
「にい、さん。許して」
「駄目だ」
「……兄さん。僕が、命令をきくのは、貴方だけだから」
「……じゃあ他のやつに、命令を出さない? もう、コマンドださない?」
「うん。僕には、貴方だけだから」
兄さんはその言葉を聞くと、にこりと薔薇が開花するような色香で笑いかけてくる。
「いいこだ、グッボーイ、グッボーイ。とてもいいこだ」
やっと許されたかとほっとする。
それと同時に今までの怖さからのギャップで、体中が喜びで打ち震え、頭がふわふわしていく。
とろんと、体から力が抜けていく。
ああ、まずい。こんなところで。
「章吾?」
「んう……」
「どうした、章吾。もしかして……」
「にいさあん……ふふ」
僕はサブスペースに入って、とろんとする頭で兄さんに抱きついた。
「だあいすき」