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異世界コロッケ専門店 ~グーワ・マッシュ~  作者: 梨詩修史
第二部 開業準備
8/23

第7話 朝が来た

気づけば、セミの鳴き声が聞こえなくなっています。

秋が近づいて来ているのを感じています。

第7話  朝が来た


 鳥のさえずりとともにホダカは目が覚めた。ホダカには窓から差す陽光が眩しかった。ジャスティナの寝息が、ホダカの胸に心地よく胸に響いた。


 昨夜のことは、ホダカの心の中でも”ジャスティナ”を”ティナ”と呼べるように


なった瞬間でもあった。しかし、


 「このことはティナの両親には言わずに、しばらく胸に締まっておこう」


とホダカは思った。どこか恥ずかしさがあったこともあるが、純粋にどう説明していいか分からなかったからだった。


 ホダカはゆっくりと体を起こし、ティナを起こさないように布団から出た。




 ホダカの部屋は二階にあった。一階に下りるとカロリーナが朝食の用意していた。


マーカスはパンの仕込みで既に店の方にいるようだ。今まで血壊病の件で店を休業していたが、「今日から、パン屋も再開」ということで、昨晩のマーカスは


気合が入っていたのをホダカは思い出した。


 「あら、ホダカ君。おはよっ」


そう言ってカロリーナは髪をかき上げながら、気の抜けた挨拶をした。


 「おはようございます」


 ホダカは、昨夜のことが頭をよぎり、ティナの母であるカロリーナに他所他所しく、返事をしてしまった。


 「ティナはまだかしら?今日はティナの好物のダイ・ロックチョウのエッグマフィンなんだけど」


 焼きたてのマフィンのいい匂いと甘い卵の香りが、ホダカの鼻をかすめた。お腹がグーっとなった。


 「あら、ホダカ君。お腹すいているのね。早くこっちに座って。先に食べちゃいましょ」


 にっこり笑って、カロリーナはホダカの席の椅子を引いてくれた。


 「ああ、ありがとうございます」


 そういいながら、ホダカは席についた。


 「いただきまっ」


 美味しそうな朝ごはんを目の前に、手を合わせようとしたところだった。二階からドタドタと足音が聞こえてきた。


 「この匂い、今日はエッグマフィンでしょー」


 そう言いながら、ティナが下りてきた。急いで着たであろうティナの服が乱れていた。


 「あら、男の子の前なんだから、きちんと着なさい」


 カロリーナがティナをたしなめた。


 「いいのよ。ねっ」


 そう言って、ホダカにティナはウインクをした。


 ホダカにとって、心臓を血流で破裂させる様な、破壊力抜群のウインクであった。


 「う、うん。おはよう、ティナ」


 ホダカは、会話になっているのか、いないのか、良く分からない言葉を絞り出した。ホダカの心臓はドクドクと鳴っていた。


 「ねぇ、ホダカ。今日は、私と一緒にコロッケの食材を探しに、


色んなお店をまわろうよ」


 ティナは、昨夜のことは何も気にかけていないというような様子で言った。弾けるような、聞き心地のよい誘い文句だった。


 ティナの魅力に立ち眩みを感じながらも、ホダカは何とか平静を保った。ティナに動揺を悟られたくはなかったホダカは、思考を過去に巡らせて、通常のホダカのままでいようとした。


 「思えば、ロロンの町に着いてから、看病やらなんやらで、ティナの家を出ることはなかったな」


 ホダカはそう思った。




 ホダカは、この世界に来たばかりで、一人で出歩くには、知らないことがあり過ぎた。時折、この家の外の様子が気になることもあったが、それは外を出歩きたいという感情ではなかった。異世界に来てから、自分でも気づかない未知への恐怖心に支配されていたホダカは、そういった感情を塞いでしまっていた。


 ホダカの心の中での優先事項は、「身の安全を確保したい」ということだった。


 しかし、ティナがホダカの恐怖心を溶かし、ホダカに心境の変化が生まれた。


 「ティナと共に異世界を探索するのも悪くないな。こんなに可憐で可愛い王国最強の火炎魔導士がついているんだ」


ホダカはそういう前向きな考えに辿り着くことが出来た。


 ホダカは自分自身を塞いでいた栓がどこかに行ってしまったように感じた。


 「ティナが、一緒ならば、食材探しをしてもいいかな」


 ホダカは満面の笑顔でティナに返事した。

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