最終話 飛び立て、グーワ・マッシュ
最終話 飛び立て、グーワ・マッシュ
ジール達が引き起こした吹雪の騒動があってから半年が過ぎた。
あの時、話の流れで皆でコロッケ作りを行い、それを食べることになった。しかし、ジール達が起こしたことはチーノ王国という国家に危機をもたらす犯罪だった。仲良くコロッケを作って、同じ食卓を囲んだからと言ってうやむやに出来ることではない。
コロッケを食べた後、サイ王子はジール達を城へ連行した。ジール達は無抵抗でサイ王子に捕まり、ホダカ達は連行される彼らの後ろ姿を眺めた。それは、寂しさや悔しさといったものよりも、美味しい食べ物を食べた満足感と余韻に満たされた、どこか達成感のある背中だった。
「ホダカ、ジールさん達、元気かな? 」
ティナが朝食を食べながら、ティナが言う。
「きっとサイ王子が丁重に扱ってくれているさ」
ホダカはティナに答えた。噂ではジール達の身分は捕虜ではあるが、サイ王子は城の中では氷魔導の講師として扱っており、自身も氷魔導の鍛錬に日々を費やしているようだ。
「それはそうと、いよいよ今日が来たね」
「ああ、ティナ。いよいよだな」
この日、ホダカのコロッケ屋はマーカスのパン屋から独立して、コロッケ専門店となる予定だ。今まではマーカスのパン屋の売り場の一部を借りて、コロッケを売っていたが、マーカスの店の数軒隣に場所を借りて、異世界コロッケ専門店の看板を掲げることになっている。ホダカの店の本格始動だ。
「おっはみゃー」
バタバタという音とともにノックもせずにミリカが家に入ってきた。
「ホダカ、ティナ、見ろみゃー。何とか開店前のお披露目に間にあったみゃ」
といって、ミリカはドアの向こうのリヤカーを指差した。
「うおー。すごーい」
ティナとホダカが目を輝かせて言った。リヤカーにはのぼりが取り付けられており、”グーワ・マッシュ コロッケ専門店”と書かれた暖簾がなびいており、側面にはコロッケの絵が彫刻で刻まれている。そして、リヤカーには大きな窯のようなものが載せられていた。それを、ガタイがよい犬型の獣人族が引いている。よく見るとホダカの店の常連であった獣人族だ。
「これで、夜中でもコロッケを売れるみゃ」
ホダカの店であるグーワ・マッシュとミリカの店であるフール・トールは業務提携をすることになっていた。コロッケに魅せられたミリカが提案したことであるが、夜行性の多い獣人族に中で夜でもコロッケを食べたいという声が多かったことから、ミリカが夜間に移動販売することでその需要を取り込もうという案であった。
ホダカはその提案に乗ることにしたため、コロッケの揚げ方をフール・トールに伝授した。その後、ミリカは何人かリヤカーを引くためのスタッフを雇入れ、リヤカーの上でも揚げられる窯のような調理器具を開発したようだった。
ホダカは、
「流石、商才のあるミリカだ」
と思った。何よりもミリカは思いついたことに対する行動とそれを形にする能力が凄かった。
「楽しみねー、ホダカ」
そういったティナは心底嬉しそうである。
――っとそこに豪華な馬車がやってきた。そこから、サイ王子が下りて来た。
「やあ、皆さま。おはようございます。本日は記念すべきグーワ・マッシュの独立開店日とお聞きし、祝いの花をお持ちしました」
バラのような赤い花でいっぱいの花束をサイ王子はティナへと渡した。
「まあ、サイ王子。ありがとー」
ティナは嬉しそうにしながら、その香りをかいでいた。
「他にも、何人かお連れしましたよ」
そう言ってサイ王子は後ろを指差した。
――ジール達だ。
「おーい、ホダカ君。サイ王子が私たちの外出許可も国王から取って下さり、君たちの独立開店日に来ることが出来たんだ」
「サイ王子、流石ですね」
ホダカがサイ王子に言うとサイ王子は、
「いえ。ホダカさん達のコロッケの力ですよ。先日、使いの者に言って、こっそりホダカさん達の店のコロッケを数個持ち帰らせて頂きました。それを父上に献上したところ、父上は大いに感動されまして。そのあとにわたしが一言、このコロッケ屋の店主はジールさん達にコロッケを食べてもらうことを切望している旨を伝えると即刻外出許可が出ましたよ」
といって外出許可が出たネタ晴らしをしてくれた。まだ少年だというのに、根回しのようなことも出来る手腕にホダカは内心驚愕した。
「ティナ、もうお客さんがチラホラ待っているわよ」
店の前の様子を見に行っていたカロリーナが帰ってきた。ここ半年でコロッケの評判も良くなり、城下町の町人はハートリーフを食べるということにも抵抗がなくなった者が多くなった。
むしろ、ハートリーフがここまで美味しいものだとは知らなかったため、調理方法をホダカ達に聞いてハートリーフを使った創作料理まで編み出す者も生まれたという。
また、もう一つの良いこととしては、ここ半年、壊血病で死ぬ者が急激に減ったとのことで、殊更、獣人族の間では、壊血病がなくなったとのことだ。町人の中でも獣人族の間において、最も評判が良いコロッケとその事が何か関係があることは間違いないことだった。
「こりゃ、僕たちのパン屋も負けていられないな」
そう言いながら、マーカスがキッチンからやってきた。
「ええ。マーカスさんのお店と同じように皆に長く愛される店にします」
ホダカはマーカスにそう答えた。
「さて、開店の準備をしますか」
ホダカが皆にいった。
ホダカは、ティナと二人でグーワ・マッシュに移動し、昨日仕込んでおいたタネの数を数えたり、油の準備をしたりした。店の前のお客さんの声が先程よりも大きくなって、より多くの人が集まってきたことをホダカは感じた。
「よし、ここからが俺の夢の始まりだ」
ホダカは、両手でパンっと頬を叩いて気合をいれた。
「ティナ、頼む」
「ええ、ホダカ」
ホダカの合図とともにティナがいつものように元気よくドアを開けた。
「異世界コロッケ専門店、グーワ・マッシュの開店でーす」
ここからホダカとティナの夢が始まった。
コロッケという一つの異世界の食べ物に魅せられて……。
あとがき
皆さまのおかげで、
『異世界コロッケ専門店 ~グーワ・マッシュ~ こんな俺にも愛される店が持てました』
を完結させることが出来ました。
少しでも読んでくださる皆さまが私のモチベーションでした。
私がコロッケに関する物語を書こうと思ったのは、子供の頃の思い出からです。子供の頃は私の母がコロッケを何十個も大皿に盛ってくれ、それを父と母、それに兄と私の四人で小皿にとって食べるということが私の家の贅沢でした。
皆でソースやケチャップ、マヨネーズを混ぜたりしながら特製のソースをそれぞれが作って、コロッケを大皿から取って食べるのです。
これが本当に美味しくって。
母が作るコロッケはジャガイモが多めで、ミンチ肉は敢えて少なめにしてありました。しかし、ミンチ肉には、こしょうをしっかりまぶしてあったので、口の中でジャガイモのまったりした味の中からこしょうが効いたミンチ肉を探す楽しみがあったものです。
父の大好物がコロッケでして、父の誕生日の度に母はコロッケを揚げてくれました。母のコロッケは二度揚げを行っており、私は母がコロッケを揚げるときに様子を見に行って、一度揚げの段階で一つコロッケをもらって、その日の新聞を破いて、そのコロッケを包んで食べるといったつまみ食いが好きでした。母はそんな私をみて
「頭の黒いネズミ小僧がやってきた」
と笑いながら、コロッケを分けてくれたものです。
母は私が二十歳の時に他界しましたが、そんな母との大事な思い出がコロッケという食べ物に詰まっています。
小説を書くことを始めようと思ったときに、自分の思い出が根底にある方が物語を書く気力にも繋がると思い、コロッケを題材にした物語を書かせて頂きました。
小説を書き始めて、一人称や三人称といったことや、段落分けといったことから、細かい誤字など色々な失敗が見られる作品だったことは間違いなく、恥ずかしい限りです。
普段、仕事の文書ばかりを書いていると、どうしても淡泊な表現だけしか出来なくなってしまっているということにも気づかされました。
日々のサラリーマンとしての仕事が忙しく、近況ノートでも少し、愚痴のようになっていたかもしれないと振り返っています。
「いやー、小説を書くのは気力と根性がいることですね」
そんなことに気づかさせてくれた作品でしたが、それでも読んでくださる心温かい皆さまがいたおかげで何とか書き上げることが出来ました。
皆さま、ありがとうございました。
次回作以降、この作品で得た経験を活かしていこうと思います。
梨詩修史




