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異世界コロッケ専門店 ~グーワ・マッシュ~  作者: 梨詩修史
第二部 開業準備
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第13話 異世界コロッケ完成

第13話 異世界コロッケ完成


  ホダカは気合いを入れていた。朝五時に目が覚め、顔を叩いた。

 「今日は待ちに待ったコロッケを完成させる日だ」

 心で何度も呟きながら、ホダカは自分の部屋を行ったり来たりした。気がつけば、朝七時になっていた。

 階段を下りるとカロリーナがパンを食卓に並べて、椅子に座ろうとしていた。

 「あら、ホダカ君。おはよう」

 ホダカに気づいたカロリーナが声をかけた。

 「おはようございます。カロリーナさん」

 「もう、お婿さんなんだから、ママって呼んで欲しいなー。なーんてね」

 カロリーナはそう言いながらティナによく似たウインクをしつつ、席についた。

 ホダカはティナを思い出し、少し照れた。

 「今日は、ホダカ君のコロッケ作りね」

 「はい、楽しみで朝早く目が覚めちゃいました」

 「うふふ、私も楽しみよ。ホダカ君。お寝坊さんのティナとパパが起きてこなかったら先に食べちゃいましょ」

 「はははっ。ええ。二人で食べちゃいましょうよ」

 カロリーナとの会話を楽しむホダカの前に温かいローエのお茶が出された。ローエは紅茶に似た味で、パンによく合う。

 「それにしても、カロリーナさんの入れるローエは美味しいな」

 「あら、やだ。ホダカ君ったら上手なんだから。ティナが私に嫉妬しちゃうわ」

 「いえ。このアロマのような良い香りにまろやかなカドのない透き通った味が乾いた心を潤してくれます」

 「もう。なに言ってるのよー。ホダカ君ったら。照れるわ」

 コロッケ作りのことを思うと陽気にならずにいられないホダカは、調子良くカロリーナのことを褒めちぎった。カロリーナは本気で照れていたように見えた。

 そこへ、マーカスがやってきた。

 「おはよう、ホダカ君。今日は早いね。僕の妻を口説かないでくれよ。ティナもカロリーナも取られてしまえば、僕の余生が寂しくなるじゃないか。カロリーナ、まだ僕のそばにいてくれよ。ずっとだ」

 そう言って、笑いながらカロリーナの腰に軽く手を添えるマーカスは大人の余裕に溢れていたように見えた。

 「ずっとパパと一緒よ」

 カロリーナは朝からホダカとマーカスに口説かれて、顔を赤くしていた。

トットン。トットン。トットン。ティナの足音が聞こえてきた。

 「ふやー。おはよー。みんなー」

 ティナは左手であくびを隠し階段を下りてきた。

 「みんなでなんか楽しそうにお話ししてたけど、なんの話?」

 ティナが目を軽くこすりながら尋ねた。

 「ママが可愛いって話さ」

 マーカスがティナにそう答えた。

 「もー、パパったら」

カロリーナはマーカスの背中を軽く叩いた。

 「ねー、ホダカ。私も可愛い? 」ティナがホダカに尋ねた。

 「ああ、うーんとね。とっても可愛いよ。ティナ」

ティナを見つめてホダカはにっこり笑った。

 「えへへ。嬉しいな」

ティナは眠たげな顔でホダカ笑い返した。

 「ティナ、早く朝ごはんを食べて。一緒にコロッケを作ろう」

 「うん、ちょっと待っててね」

ティナはてくてくと歩いて席につき、パンを食べ始めた。ホダカはティナが食べ終えるのを同じテーブルで待っていた。その横ではマーカスが食事をしていたり

マーカスはそんなホダカが手持ち無沙汰なのを見透かし話題をふった。

 「そういえばホダカ君。お店を出す場所はもう決まっているのかい? コロッケが今日完成したら、売る所が必要になるだろう? 」

 マーカスはホダカがとりあえず保留にしていた話題を持ち出した。

 「実はまだ決まってないです」

 ホダカは足元に視線を落として答えた。ホダカはそのことを忘れていた訳ではない。ホダカ自身には金も力もなく、文字も読めなかったため、どうすることも出来なかっただけなのだ。ホダカはティナにも相談したくなかった。

 結婚したばかりのパートナーがこんなに頼りない人間であるということを気づかれたくなかったからだ。

 ホダカはさらに視線を下げた。

 「はは。若者がそんな下を向くもんじゃないよ。だけど、そんなことだと思ったよ。どうだホダカ君。しばらくは、私のパン屋で売らないかい?ホダカ君のためにパンの陳列棚をひとつ空けるよ」

 「本当にいいんですか? マーカスさん」

 「大事な婿殿のためだよ。それに君はもう家族だ。構わないよ」

 「ありがとうございます」

 『家族』という言葉がホダカの胸に響いた。この世界に来て不安なこともあったが、大切な家族を持てた。その実感が急にホダカの全身を駆け巡った。

 ホダカは思わず涙した。

 「ううっ」

 「どうしたの? ホダカ」

 そばでそのやり取りを見ていたティナが尋ねた。

 「いや。嬉しくて。俺にも家族が持てた。不安だったこともあったけど。ティナ、マーカスさん、カロリーナさん。こんな良い家族が持てたんだ。そう思うと何故か泣けてきて……」

 「ふふっ。ホダカ、私達家族はずっと一緒だよ」

 そう言ってティナがそっとホダカを抱き寄せた。ホダカはティナの胸に顔を埋めて泣いた。

 「もう、パパ。私のホダカを泣かさないでよね」

 「ははっ。すまん。すまん」

 マーカスは朝食の片付けを始めた。それをカロリーナが手伝った。


 「さて、気を取り直してコロッケの準備をしようか」

 ひと通り泣き尽くしたホダカは、涙を拭い食材を取りにパントリーに行った。そして、少しずつ食材を机の上に並べ、それらを確かめた。


 ハートリーフの根(ジャガイモ)

 ライチオン(玉ねぎ)

 モールとオークの肉(牛と豚の合いびき肉)

 小麦粉

 パン粉

 モールのバター

 テーネの油(サラダ油)

 ロックチョウの卵(コロッケの卵)

 シンサイの木の粉(砂糖)

 パッラの粉(こしょう)

 塩


 よし。用意出来た完璧だ。合いびき肉は昨晩のうちに潰してミンチにしておいて良かった。まだ、ほんの少し心に何か引っかかっている気がしたが、ホダカはコロッケの材料が揃ったことを確認した。

 「よーし、作るぞ。いよいよだ。ティナ、助手を頼む」

 「あい」

 そう言ってホダカとティナはキッチンにたった。

 まずはハートリーフ(ジャガイモ)の下ごしらえだ。ハートリーフ(ジャガイモ)の皮をむいて四等分くらいに切る。皮剥きをホダカが行い、ティナがそれを切っていった。ホダカはそれを鍋に入れて、塩をスプーンひと匙程入れ、それらが浸かる程度に水を入れた。

 「ティナ、『カエナルン』だ」

 「あい、『カエナルン』」

 ボウっという音と共に薪に勢いよく火がついた。その上に鍋を載せて、ハートリーフ(ジャガイモ)を塩茹でする。

 「ティナ、時折、この木の枝で中まで柔らかくなっているか確認してくれ」

ホダカは細い木の枝をティナに渡し、ティナは

 「あい」

 と言いながら受け取ってハートリーフ(ジャガイモ)の番をした。その間、ホダカはライチオン(玉ねぎ)の皮を剥いてみじん切りにする。

 「ティナ、ここにも『カエナルン』だ」

 「あい」

 先程と同様に王国最強の火炎魔導士ティナが魔導を唱えて薪に火をつけた。フライパンにテーネの油(サラダ油)を入れ、ティナの火でそれを混ぜ込合わせた。

 「ティナ、そろそろハートリーフ(ジャガイモ)は頃合いじゃないか? 」

 「うん、中まで柔らかいよ」

 「よし、じゃ、鍋を火から避けてくれ。そして、ざるに入れてハートリーフ(ジャガイモ)の水をしっかり切るんだ」

 「あい」

 「よし、俺の方はライチオン(玉ねぎ)がきつね色になってきたな」

 「ティナ、今度はこちらの火を弱めてくれ」

 「あい、『カエナ』」

 フライパンの火が弱まった。

 ホダカは、モールのバター(コロッケのバター)モールとオークの肉(牛と豚の合いびき肉)をフライパンに入れて、ライチオン(玉ねぎ)とともに炒めた。そこに、ホダカはシンサイの木の粉(砂糖)パッラの粉(こしょう)と塩を適量ずつ混ぜた調味料を投入した。

 「うーん。うん。うん。良い香りがしてきたわ」

 鼻をクンカ、クンカさせてティナがフライパンを覗き込んだ。

肉に赤いところがなくなって、火が通った段階でホダカはフライパンを火から避けた。

 「ティナ、先程のハートリーフ(ジャガイモ)を水気が切れていたら、鍋に戻してスプーンで潰してくれ」

 「あい」

 軽快な返事と共にティナはハートリーフ(ジャガイモ)を潰した。

しっかり潰れた段階でホダカはフライパンの上のものを、ハートリーフ(ジャガイモ)と混ぜ合わせた。

 「よし。二人で丸い玉を作ろう」

ティナとホダカは二人でコネコネして、コロッケのタネを作って並べた。

 「三十個くらい出来たかな」

 「なんか可愛いね。ホダカ」

 「これにまぶしていくぞ」

 二人は、タネを小麦とロックチョウの卵(コロッケの卵)とパン粉の順につけてまぶしていった。

 「ティナ、火を強めてくれ」

 「あい、『カエナルン』」

 強まった火の上にテーネの油(サラダ油)をたっぷり入れた鍋を載せた。

 「ティナ、油が飛ぶかもしれないから、下がってて」

 油の温度が上がった段階で、ホダカはティナを避難させ、静かにタネを四個投入した。

 「まずは四個だな。人数分を揚げて、残りは随時揚げよう」

 ホダカはそう呟き、油の中でゆっくりと上下を何度かひっくり返した。

 「良い香りね。ホダカ」

 ティナが鼻をクンクンさせた。ホダカは頷きながら、それらが黄金色になったため、そっと油から取り出して、お皿に載せた。

 「よし、出来たぞ。コロッケの完成だ。遂に出来たぞ。これが『異世界コロッケ』だ」

 ガッツポーズと共にホダカが汗を拭った。

 「うわー、美味しそう」

 ティナが目を輝かせて、皿の上からコロッケを覗き込んでいる。小さな子供のようにキラキラした眼差しだ。

 「やったね。ホダカ」

 天真爛漫な笑みを浮かべたティナにホダカは賛辞を送られた。

 「ああ、俺だけではコロッケは作れなかった。これは『俺たちのコロッケ』だ。ありがとう、ティナ」

 ホダカはティナに礼を言った。

 「うん、二人の力作だね。ホダカ」

 ティナは満面の笑みだ。そのティナを見てホダカも最高に嬉しくなった。

 「早く食べたいなー」

 「そうだな。マーカスさんとカロリーナさんを呼ぼう」

 ティナは二人を呼びに行き、すぐにマーカス達を連れてきた。

 「まあ、こんな色をしているのね。丸々して可愛いわね。美味しそう」

 「ああ、美味そうだ。僕のお腹が鳴りそうだよ」

 「あっ。だめだよ。パパ。一口目は私ね」

 ティナとマーカス達はそう言いながら席についた。

 「さあ、早く食べましょう。熱いからやけどしないように」

 ホダカは小皿を四枚用意した。

 「うん。いただきまーす」

 ティナがコロッケを一つトングで掴み、小皿に載せた。それをフォークで半分に割と、片方にプスりっとフォークを突き立て、口に運んだ。

 「うーん。美味しい。このパン粉がパリッとしてて、中身は熱いんだけど、とろけるようでお肉の味もして、この組み合わせが超美味しー。幸せー」

 「それがホクホク、サクサク、トロトロっていうやつだよ」

 ホダカはティナにコロッケの代名詞とも言えるホクホク、サクサク、トロトロの概念を教えてあげた。ティナの後に続き、ホダカ、マーカス、カロリーナもコロッケを掴み小皿に載せて食べた。

 「おー。なんだこれはこの薄づきの衣がサクサクで、それに包まれたハートリーフ(ジャガイモ)はホクホクで、味の奥にはほんのり甘味がある。その甘みと対比でしっかり味がついた肉がパッラの粉(こしょう)とともに舌の上に春を告げるようだ。うますぎるぞ」

 ホダカは評論家のようなことを言った。

 「ええ。ホダカ君。こんなに美味しいのは食べたことがないわ」

 カロリーナは美味しさに衝撃を受けたようだ。

 「これは間違いなく美味いぞ。何個でも食べられるな」

 マーカスは、コロッケを割らずに齧りつき、やけどしそうになりながらそう言った。

 「どうですか? 皆さん」

 ホダカが問いかけると、

 「美味い」

 一同が同時に返事した。

 ホダカはコロッケを一つ食べ終えると次のコロッケを揚げ始めた。

 そんなホダカを見て、マーカスが声をかけた。

 「ホダカ君。これは美味しいよ。お店ですぐに出せる味だ。そういえば、店の名前は何にするんだ? 」

 ホダカはマーカスの店の一角でコロッケを売ることが出来ると決まってから、ずっと考えていた店名を言った。

 「店名は”グーワ・マッシュ”にします。マーカスさんのパン屋の名前のグーワは、お腹が空いたらという意味があります。そこから店名の”グーワ”という部分はもらっています。あと、店名の”マッシュ”って言うのは初めてこの家族で食べた思い出のハートリーフ(ジャガイモ)で作ったマッシュポテトから来ています。

コロッケの中身はマッシュポテトに良く似ていますしね。具はマッシュって意味でもありますね」

 「お腹が空いたらグーワ・マッシュ。良い名前だわ。ホダカ」

ティナがにっこりしてホダカに答えた。

 「ははっ気に入ってくれて良かったよ」

 ホダカはティナに返事を返した。


 そして四人はその日、作ったコロッケをぺろりと全部、平らげたのであった。


 ホダカはまだ何か忘れている気がしていたが。

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