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■天才の定義とは ◎エリオス、スム

 格納庫内にて、スムはグリオンの前にいた。グリオンはいま岩の塊のような姿でいるのだが、彼が融合することで意志を持つ巨人になる。


「やあ、スムくん。あまり機嫌はよくなさそうだね」

 軽い態度でエリオスが声をかけてくる。スムはこの男がどことなく苦手である。


「私が苦手なのは結構だけど、そんな態度をして何か君に得があるのかい?」

 驚いたような悲痛なような表情をスムはエリオスに向けてくる。


「ああ、失礼失礼。少しトゲのある物言いだったね。ついやってしまうんだ。私の悪いクセだ」

 エリオスは白々しく笑う。言葉の割に気にも留めていない様子だ。上辺だけの謝罪であることを隠そうともしない。


「あなたこそ僕たちと連携する気があるんですか?」

 スムとしては言葉をそっくりそのまま返した形である。するとエリオスは一本取られたとばかり大笑いをはじめる。


「たしかに。だけどね。謝罪なんて上辺だけで十分じゃないか。君は力を手に入れて調子が上向いているようだね。いい傾向だよ」

 完全に見下した物言いだった。


「僕はこの力でまわりを認めさせます。今度こそ」

「へえ。次こそはって考えてたらうまくいくんだ。便利だねぇ。 ――おっと失礼。また余計なことを言ってしまった」


 またスムは顔を引きつらせる。エリオスは相変わらずである。

「あなたは人の神経を逆撫でするのがお好きなんですね」


 皮肉のつもりらしい。だが、エリオスは慣れた表情でへらへら受け流している。


「僕は昔のままじゃない。力があります」


 スムはかつて神童とまで呼ばれたそうだ。よくある話でしかない。だからこそとエリオスは軽薄な笑みをやめて、スムに向き直る。


「君には言っておこう。天才呼ばわりとは凡人の仲間入りを認めるということなのさ」


 スムは「何を?」と言いそうになる。


「天才が認められて安心するのは凡愚どもの方さ。天才のやってきたことを理解することで自分たちのものとして取りこむ。それが天才と呼ばれる所以だ」


「他人に認められることは間違いだと?」


「そんなことはない。我々は連帯を求める群集生物だ。なので、理解されないモノは総じて化け物扱いさ。化け物とは理解不能でまわりから孤立した状態を指す」

 エリオスは自嘲気味に笑う。


「それは哀しい存在ではないですか?」

 その質問にエリオスは目を見開かせる。


「君はどう在りたいと考える? 天才と呼ばれ群衆の中へ溶けこんでいくのか、それとも内に怪物を飼って畏れられるか」


 スムは答えない。


「ちなみに私は後者を選ぶね。誰かにすべてを理解してもらいたいとは思わないし、エゴの存在は否定したくない」


 それは強烈な自我への肯定であった。それからもエリオスは饒舌に語る。


「もちろん人間は孤独を嫌うし、私にも存在する感情だ。あのソウジ・ガレイを見ていればわかりやすいじゃないか。群生の習性で首長は生まれるが、彼らはいつも孤独だ。首長は群れの中で優遇されるかもしれないが、その代わり問題があれば一番初めに切られる。――生贄としてね。それが嫌だから彼らは権力を集中させて強権でそれを弾圧する」

 エリオスの話をスムはただ聞いている。


「大半の人間は誰かの下でありたいがために愚かであろうと振る舞っている。だから、首長の横暴であっても多少は受け入れるのさ。首長にならないという選択は生存本能としても適切だよ。誰かを崇め奉るのはその代表が犠牲になるとどこかでは理解しているからね」


「あなたの言い方だと僕は凡人であることを目指していることになりますね」


「それを否定はしないよ。ただし自らを天才と称することはおすすめしない。私としては自らを馬鹿であると自白してくれていてありがたいがね」

 

「あなたに聞きたいことがあります。あなたは自分が正しいと思っていますか?」


「それはもっとも愚かな問いだよスムくん。神という存在があるとしてだが、彼らは我々に間違いこそ求めることはあれ、正しくあれなどとは微塵も望んじゃいない」

 ニヤリとエリオスは虚空を見あげながら笑う。


「だからさ。私はね。私にこの言葉を言わせている奴らを許したくないのさ。だから必ず悲惨な目にあわせてやるとね」


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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